中国電力の島根原発1、2号機で、機器の点検不備・超過使用が506カ所にのぼることが発覚している。放置していたら点検漏れになっていた“点検不備予備軍”や記載漏れも1159カ所存在し、今後さらに増える可能性も指摘されている。原子力という国土を壊滅させかねない危険施設を管理・運転するのに、まるでその意志も緊張感もない。山下社長は「組織風土、体制の問題に行き着く」といっているが、電力自由化のもと「外資に乗っ取られるのは中電が一番」などといわれるなかで、もうけ一本槍の安全切り捨てに及んでおり、原子力という物騒なものを安全に管理する意志や能力は未来永劫ないことを暴露している。島根原発は廃止し、上関原発の新設など見切りをつけなければならない。二井知事は安全を口うるさく叫んで合意し、許認可を出してきたが、自分がいったことに忠実ならば、それらの許認可を取り消さなければならない。
中電は3月末に「123カ所の点検不備があった」と公表し、その後、緊急対策本部で原因調査にあたっていた電源事業本部の担当部長が松江市内のホテル駐車場で死亡しているのが発見されるなど、奇怪な動きに発展していた。
今回発表された506カ所のなかには、冷却水漏れ事故の際に作動する2号機の弁など、安全上最重要クラスに位置付けられている設備が57カ所も含まれていた。点検漏れや部品の未交換などさまざまで、原因としては担当部署間で情報が伝わっていなかったなどの人為的ミスをあげている。東京電力のトラブル隠しが問題になって以後、中電はより厳しい品質管理システムを導入していたという。ウソばかりである。運転中の1号機は手動停止し、定期点検で停止中の2号機とともにストップした。
山下社長は原因について「組織風土、体制の問題に行き着く」とし、この組織風土に踏み込んで再発防止策をとるのだといっている。経済産業省原子力安全・保安院も、「中国電力の組織の特異的な問題」といって、他社に影響が波及し、自らに責任が及ぶことを心配している。
いずれにしても、社長自らが「組織風土」や「体制」において、管理能力のなさを主張するような企業が、36年にもわたって原発を運転し、しかも島根3号機を建設しており、点検不備の2号機でプルサーマル計画を実施するとか、上関に国内最大の135万㌔㍗原発を2基つくるなどと鳥肌が立つようなことを進めているのである。
中電の今度の一件は、中電だけの特異な組織体質ではない。電力自由化のなかで、慣れない殿様商売であれこれ新規事業に手を出しては失敗したり、恥も外聞もないもうけ一本槍経営を突っ走って、安全管理どころではないことのあらわれである。中電の経営力そのものが、原発が稼働して50年あまり先まで会社として存続する保障があると、今の経営陣も断言できない状態にある。いつまで会社があるかわからない中電などに、とても原子力のようなとてつもないものを管理できるわけがないのである。
点検の規制緩和は国が奨励
さらに今度の問題は、点検は下請けで、中電そのものは現場で確認していないといわれたりしているが、点検の規制緩和は国の側が奨励してきたいきさつがある。国の方は09年には、電力会社が自主的に検査を実施し、国は抜き打ちで審査するだけの仕組みに変更した。原発1基にかかる検査項目は数万カ所に及び、これを国の検査官がすべて見るのは非効率だから手間暇かけるのはやめて簡素化し、放って置いても事故隠しやデータ改ざんする電力会社を「信頼」する方式へ変えたのである。
さらに定期検査の間隔を最大24カ月まで延長できるように法律を変えた。トラブルを見つけにくくなる仕組みへと変えたのである。営利目的の私企業に対して実質的に点検を丸投げしている構造にせよ、いかに安全を軽視した反社会的な原子力行政になっているかを露呈している。
それは民主党政府になっても引き継がれ、さっそく「地球温暖化対策基本法案」をまとめ、原発推進を打ち出した。CO2を悪者にして、「二酸化炭素より放射能がクリーン」などというのが、目下、世界的なECO利権の流行と合わさって奨励されているからである。国が策定したエネルギー基本計画骨子案のなかでは、20年までに8基の原発を増設することを目標にしている。
そして既存の施設では定期検査の間隔を延ばすことによって、設備稼働率を上げ、利益を拡大しようとしているほか、「世界最高の技術」を理由にして耐用年数を延長するなどの動きが進行してきた。
中電のいい加減な原発管理にたいして、島根では県民の怒りが高まり、地元自治体の首長らもさすがに怒った素振りをしはじめた。
山口県では中電が28年前から上関原発計画を進めるのに対して、地元や全県の粘り強い反対世論によっておしとどめている。2000年に二井関成知事は「安全が確保されること」を前提に知事同意をし、その後は公有水面埋め立て許可や森林伐採などの許認可を乱発してきた。
知事合意のさい二井知事は、原発はいかに危険きわまりないものであり、安全が一番大事といって、反対するようなことをいって合意した。が、島根において、社長自らが「組織風土」においても「体制」においても問題があること、すなわち原子力を管理・運転する能力がないと公言しており、自分が出した知事同意やもろもろの許認可は条件を満たしていなかったことが明らかとなった。自分が県民の前でいったことに忠実ならば、自分が出した上関原発に関わる許認可を取り消さなければならない。
いわんや自分が出した埋め立て許可が祝島の漁業権変更がないために無効となるというので、農林水産部の行政権力を使って、ウソと脅しで祝島に漁業補償を受け取らせようなどという姑息な策動は止めさせなければならない。
島根原発では近年、島根半島を走る宍道断層(全長約18㌔で島根原発の南約2㌔地点を通過)の存在も研究者によって明らかにされ、中電がこれまで「耐震設計上考慮すべき活断層」の全長を約10㌔とし、東側には「活動の跡はない」としていたウソが露呈した。全長は20㌔を超え、「全域が活断層でマグニチュード七クラスの地震を起こす可能性がある」「その規模は阪神大震災を上回るものとなる」と指摘されるような断層を、1、2号機や建設中の3号機の環境調査でも「ない」として、あとは野となれで推進してきた中電の姿勢、背後で尻を叩いてきた国の無責任さを物語るに十分な一件であった。
原発のトラブル隠しやデータ改ざんは、人人から「またか…」と思われるほど、珍しいことではなくなった。核持ち込み密約の問題もあったが、原子力はウソだらけというのが常識になっている。
記憶に新しいところだけでも、事故隠しの代名詞にもなった東京電力は、福島第2原発3号機において、97年の定期検査でシュラウド4カ所にひび割れが発見されたにもかかわらず、「異常なし」として隠蔽し、その後の定期検査もくぐり抜け、2001年になって「原子炉内の清掃状況を確認していたら、偶然シュラウドのひび割れを発見した」などと発表して問題になった。同機は稼働4年目にして早くも大事故を起こして1年停止したのち、90年に再稼働。稼働率を上げてもうけるために安全が犠牲になった関係といえる。検査記録が改ざんされて、まかり通っていた。
その他、04年には関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)で、運転開始以来28年間にわたって1度も検査を受けていなかった配管が破断し、高温高圧の水蒸気が噴出し、現場にいた11人が死傷する事故も起きた。
北陸電力は2007年になって、実は8年前の1999年に志賀原発1号機で、制御棒5本が抜け落ち、臨界事故が発生していたと公表した。その後、制御棒抜けがオンパレードで発覚し、中部電力の浜岡原発3号機でも1991年に制御棒3本、東北電力の女川原発1号機でも1988年に2本の制御棒が抜けていたことが明らかになった。東京電力の福島第1原発では、3号機で1978年に5本の制御棒が抜け、「7時間以上にわたって臨界状態が続いていたと推定される」といった事例が起きていたほか、1号機は1979年に1本、2号機で1980年に1本、1993年には3号機で2本、2000年には柏崎刈羽原発1号機で2本の制御棒が抜けていたなど、つぎつぎと明らかになった。制御棒は原子炉の核分裂を抑えるもので、国土崩壊につながる重大な事故につながる可能性をはらんでいるが、どこの会社も隠していた。
さらに福島第1原発4号機では、1998年の定期検査の際、制御棒34本がいっせいに15㌢ほど抜ける事故が発生していたことも明らかになった。臨界事故どころか、原子炉の暴走すら引き起こす可能性があったと指摘されている。これらがすべて、ほとぼり冷めた頃になって明るみに出るのである。
原発というのは、チェルノブイリ事故やスリーマイル事故を見ても明らかなように、すさまじい国土破壊となる。核分裂のエネルギーによって、その3分の1の熱エネルギーを電力に転換し、残りの3分の2を海に捨てる施設である。100万㌔㍗の原子炉なら、広島型原爆3発分に匹敵する量のウランを1日で核分裂させているといわれ、このとてつもなく破壊的なエネルギーを炉心や制御棒、圧力容器やタービンなど様様な機器で電力に変えている。中性子にあたった機器の材質や強度が落ちることは当然で、ヒビや腐食、「制御棒が抜けた」「シュラウドにヒビが入っていたけど隠した」など話にならないことはいうまでもない。
原子炉の寿命も勝手に延長
国内最古の商業用原子炉は、40年稼働している敦賀原発1号機(福井県敦賀市、1970年稼働)で、同い年の美浜原発1号機(福井県美浜町、70年稼働)とあわせて老朽化が懸念されている。ほかにも39年の福島第1原発1号機(福島県大熊町)、38年の美浜原発2号機、36年の島根原発1号機(島根県松江市)、福島第1原発2号機、高浜原発1号機(福井県高浜町)35年の玄海原発1号機(佐賀県玄海町)、高浜原発2号機など、「高齢化」が著しいなかで、通常なら原発の寿命は30~40年とされるのを60年に延長することになった。
敦賀原発は2009年末に廃炉になる予定だったのが、国も延長を認め、2016年まで引き延ばしている。美浜原発1号機(福井県美浜町)も99年には「20年延長し、50年とする」方針を関西電力は打ち出しており、その際、10年に一度の大規模な定期検査を実施したうえで、2010年以後の10年間の運転を継続するとした。経済産業省も「高度」な自主点検や検査を前提に、「60年間は運転継続が可能」「プラントの健全性は保たれる見通し」などとした。
日本をつぶす後は野となれの政治が横行している。