いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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次の大惨事招く原発再稼働

 民主党野田政府は、福島原発事故がなんの解決のめども立たないなかで、現在停止中の原発の再稼働を急いでいる。東京電力は電気料金の17%値上げを強行して再稼働の圧力をかけている。崩壊した福島原発は一年たっても打つ手のないメルトダウンが進行中であり、事故原因の検証すらできていない。垂れ流された放射能汚染は、福島全県だけでなく東北全域や海洋にも拡大中で、多くの人人から故郷と生活を奪いながら、その賠償責任のあり方や有効な除染方法すらも見出せず地域を崩壊に導いている。財界の要求による再稼働は、次の原発大災害の準備にほかならず、あとは野となれの統治能力崩壊をあらわしている。
 
 机上のストレステスト口実に

 福島原発事故を機にした反原発世論の高まりのなかで、全国の商業用原発54基は次次に定期点検を迎えて運転が停止され、現在動いているのは北海道電力・泊原発3号機のみとなっている。泊原発も5月5日には定期点検に入り全国すべての原発が止まることになる。だが、昨年5月に早くも耐性評価(ストレステスト)を条件とする原発再稼働の準備に着手してきた政府は、原発復権が遠のく「原発ゼロ」状態を回避すべく再稼働の手続きを急いでいる。
 3月23日、原子力安全委員会は、関西電力・大飯原発3、4号機(福井県)のストレステストの一字評価について「妥当」と判断。すでに地元福井県で報告会を開いており、野田政府は近く「安全性」を宣言して、4月中にも再稼働させる勢いで手続きを進めている。
 続いて26日、四国電力・伊方原発3号機(愛媛県)の評価結果も原子力安全・保安院が「妥当」と報告するなど矢継ぎ早にことを急いでいる。さらに政府はあれほどの事故を起こしながら、原発の法定対応年数を当初の40年から60年へと延長した。減価償却を終えた老朽原発の稼働率を上げ、運転すればするほど電力会社の利益が拡大するからであり、事故によって苦しむ国民をよそに東電をはじめ各電力会社の利益確保だけには早早と手を打っている。
 そもそもストレステストとは、福島原発の事故後に欧州でおこなわれた耐性試験で、安全基準に照らして合否判定するというものではなく、地震や津波など設計上の想定を超える事態に対して原発の脆弱性を電力会社が調べ、それを国の原子力安全・保安院、原子力安全委員会(班目春樹委員長)が審査するというもの。福島原発事故を引き起こした従来通りの枠組みのなかで、事故の教訓を生かした新たな基準もなく、電力会社が独自調査した内容を政府や専門委員が「追認」するものでしかないことを多くの専門家が指摘している。
 保安院の意見聴取会のメンバーである学者からも、欧州各国ではストレステストは原発の改善点を見つけるためのもので再稼働の条件には使っていないことや、原発が設計上の想定を超えてどの程度の地震や津波まで耐えられるかを調べる一次評価と、電源喪失や炉心溶融などのシビアアクシデント(過酷事故)に至った場合の影響やその対策も含めて総合的に調べる二次評価のうち、一次評価だけを再稼働の判断に使うという中途半端でアリバイ的な審査でしかないことが指摘されている。
 また、テスト審査書には「福島第一原発を襲ったような地震・津波が来襲しても同原発のような状況にならないことを技術的に確認する」と記しながら、福島原発をのみ込んだ14㍍よりも低い「11・4㍍の津波に耐えうる」というだけで大飯原発を「妥当」としており、それもすべてコンピューターによる机上計算でしかなく、現実の結果である福島原発事故の検証に基づいて安全基準を明確にするべきだと指摘が相次いでいる。

 嘘ばかりの原子力行政 事故前も事故後も

 昨年の3月11日、地震と津波で福島第一原発は、1~4号機までが全電源喪失と炉心溶融という過酷事故に陥って次次に爆発。政府も原子力安全委員会も「全電源喪失による事故シナリオ」を知りながら事態を隠し続け、安全基準や被害想定だけでなく、原子力行政そのものが住民無視のデタラメ極まるものであったことが暴露された。
 さらに、現地対策本部であるオフサイトセンターは機能せず、放射能の拡散を予測するSPEEDIも公表せず、避難住民を混乱させて、みすみす多くの住民を放射能にさらした。そして半径20㌔圏内の警戒区域(1市5町2村)や、飯舘村など計画的避難区域に暮らす10万人を強制的に退去させて仮設住宅に押し込み、現在でも16万人もの県民にいつ終わるとも知れない避難生活を強いている。
 また放射能漏れによる土地、山林、海の汚染は拡大し、農林漁業をはじめ各種産業に大打撃を与えている。福島県内では全県にわたって農作物が売れず農家は赤字を抱え、政府がまともな除染方法を示せないことから作付けも見送らざるを得ない状況が広がっている。海洋汚染によって漁業は再開のメドも立たず、茨城県や宮城県も含めて漁業の復興を阻害して地域経済をマヒさせている。「30年」といわれる廃炉作業までの行程、全県域の除染によって出る廃棄物の処理、そして、汚染地域の復旧と自治体や住民への賠償や生活補償など未解決の問題は山積みとなっている。
 これらは原発がなければ起こりえなかった事態であり、地震、津波とは区別されるべき明らかな人災である。東電やそれを推進した歴代政府、御用専門家などは国民の生命、財産を奪い、生活権を奪った刑事罰ものでありながら、「想定外」といい逃れて誰一人責任をとらない。賠償と廃炉費用も、事故当事者の東京電力や株主、その恩恵を受けてきた銀行などに責任を求めず、電気料金を17%値上げし、政府が税金をすでに3兆4000億円も注入するなど国民に肩代わりさせる方向。被害を受けた側が被害をもたらした側を救済するという本末転倒が平然とまかり通っている。
 そして、当の福島原発事故もいまだ収束をみない。昨年12月、野田首相は福島原発事故の「収束宣言」をしたが、いまだに原子炉内部の現状すらまったく把握できていないことが暴露されている。先月26日には、2号機では格納容器内を満たしているはずだった冷却水は底からわずか60㌢しか溜まっておらず、下部に空いた穴から漏れ出していたことが判明。溶融した核燃料がどこにあるのかさえわからず、格納容器内は内視鏡すら故障する毎時72・9シーベルト(致死量の20倍)もの高線量で誰も手が付けられない状態となっている。
 さらに、一平方㌢あたり14万ベクレルもの高濃度汚染水が、破損した配管から海に漏れ出していたことも明らかになり、もはやなにをもって「事故収束」なのか説明もつかない事態。政府事故調査委員会や国会事故調査委員会など立ち上げても「調べますよ!」のポーズだけで、原因解明どころか事故の現状把握すらまともにできないという無能ぶりを露わにしている。
 福島事故で明らかになった事実は、電力会社や日立、東芝、三菱などの原発メーカー、原子力学者、監督官庁である経済産業省、原子力安全保安院というものが、原子力発電所を管理、運営する能力がまるでないということである。原発はアメリカの技術であり、その下でそれぞれは部分部分しかかかわっていない。アメリカのいいなりで、地震列島に五四基もの原発を建設したことがはじめから日本の自然条件を無視した主権放棄であり、事故の収束対応の準備も、事故後の住民避難対策もなかった。事故前も事故後もウソばかりついてきた。そのような事故を引き起こした連中がなんの責任もとらないまま、再稼働をしようというのである。それが次の大事故をやることは明らかなことである。

 100㌔圏内の同意もなし 大飯、上関、伊方も

 政府は大飯原発の再稼働にあたって同意が必要な「地元」の範囲を従来通り立地自治体の福井県とおおい町に限定し、京都や滋賀など周辺自治体から総反発を受けている。福島原発事故では福島全県に留まらず、宮城、山形、栃木、埼玉に至る周辺100㌔以上の地域に深刻な被害をもたらし、300㌔以上離れた静岡県のお茶さえ出荷停止に追い込まれた。大飯原発を動かすためには、少なくとも100㌔圏内に含まれる京都府、兵庫県、滋賀県、大阪府、岐阜県の各自治体の同意が不可欠にならざるを得ない。
 山口県で埋立工事がストップしている上関原発建設計画は、中国電力が「未定」とし、二井県知事が祝島の漁業権が生きたまま出したインチキの埋立許可も10月末で切れ、延長は不可能のため事実上のとん挫となっている。山口県内の瀬戸内海沿岸の自治体では、下関市議会をのぞいて軒並み凍結や中止を求める決議をあげ、大分県国東市議会も中止を要請。建設を進めるためには瀬戸内海全域、大分県に至るまで同意をとり付けなければならないのは、住民の生活を保障する行政として最低限度の責任となっている。
 それは目と鼻の先にある伊方原発も同様である。伊方原発が定期点検で停止して1年が経つなか、瀬戸内海ではそれまで減少していたエビ類が増加傾向にあることが沿岸漁師から指摘されている。閉鎖海域であるだけに原発から放出される毎秒141㌧もの温排水が海洋生物に与える影響は計り知れず、科学的な調査による因果関係の解明が求められている。
 また伊方原発は、近畿地方の金剛山地から四国を東西に横断する中央構造線断層帯(360㌔㍍)と呼ばれる地震帯の真上に建っており、さらに、四国全域を含む「南海トラフ」では今後数年のうちに巨大地震(最大でマグニチュード9・0)の発生が確実視されており、震度六強、最大13㍍の津波を被ることが予測されている。再稼働どころか早晩廃炉し、撤去させる以外に選択肢はないしろものである。
 一方で、政府は4月から食品に含まれる放射性物質の基準を従来の500ベクレルから100ベクレルへと厳格化を進めている。福島県内の農家は、相次ぐ出荷制限や作付け禁止に加えて、マスコミが煽る「放射能騒ぎ」に苦しめられ、微量の放射能も許されない事態へと追い詰められながらも、復活に向けた血のにじむ努力を進めている。
 政府は「除染なしには復興なし」などといって除染ビジネスを独占するゼネコンに巨額の税金をつかみどりさせ、住民を離散させた広大な土地を買い叩いて核廃棄物処分場にする方向を強め、農地を集約してメガソーラー基地や工業団地の市場にする事態が「放射能汚染」を名目にして進められている。そして、その原因をつくり出した原発だけは、なんの検証もないまま再稼働させるという非常識は、さらに日本を破局に導く亡国政治として全国的な怒りをかうと同時に、政府の統治能力の崩壊ぶりをまざまざと実感させるものとなっている。

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