東日本大震災のなかでの東京電力福島原発の爆発事故は、アメリカの原子力政策のもとで一握りの独占企業の利益のために進める地震列島日本での原発建設が、いかに無謀で民族の絶滅にもつながりかねない空前の被害をもたらすものであるかを、甚大な痛恨の犠牲をともなって教えた。福島県民は震災に加えての原発事故からの農漁業の復興に全力をあげ、全国各地ではこの犠牲を無にしないため、原発の運転停止、計画の白紙撤回を求めて広範な人人が立ち上がっている。ところが民主党政府は、原発事故の反省は微塵もなく、国民の大多数の意志を踏みにじって7月に大飯原発の再稼働を強行したのをはじめ、原発推進に舵を切っている。自民党も総選挙のなかで「原発再稼働容認」を表明し、山口県の上関原発建設計画についても石破幹事長が推進発言をおこなうなど、原発推進へ踏み出すことを宣言し、全国民、山口県民との敵対的な関係を浮き立たせている。
再稼働や電気料金値上げで暴走
民主党政府は7月の大飯原発再稼働の強行に続き、10月1日には、大震災で工事を中断していた新規立地となる電源開発(Jパワー)の大間原発の工事を再開した。
さらに、福島原発事故の除染で発生し、放射性物質で汚染された土などを保管する中間貯蔵施設を福島県に建設するための現地調査を福島県に受け入れさせた。福島県は11月28日、施設の建設に向けた現地調査を受け入れると表明した。町内に九カ所の候補地がある大熊町の渡辺利綱町長は「建設と調査は別。調査の箇所数も多すぎるので説明を求めていく」と話し、町民の反対の強さを反映した。
中間貯蔵施設は福島原発事故で拡散した放射性物質を除染する過程で発生した汚染土や廃棄物を集中的に保管する施設。環境省は貯蔵が必要な汚染廃棄物量を1500万~2800万立方㍍と推計。今年8月、大熊町に9カ所、双葉町に2カ所、楢葉町に1カ所の計12カ所に整備する案を提示し、現地調査に入りたいと申し入れていた。
候補地に挙がった自治体からは「最大の迷惑施設」(楢葉町の松本幸英町長)などと受け入れに難色を示す声が上がっていた。県の現地調査受け入れ表明に住民は「最終処分場の場所が決まっておらず、中間貯蔵施設がずるずると最終処分場のようになるのではないか」と危惧しているが、専門家も「この中間貯蔵施設は、最終処分場にならざるをえない」と指摘している。
日本では、54基の原発を建設したが、いまだに使用済み核燃料の処分場は建設されておらず、原発敷地内に貯蔵され、それも満杯状態にある。政府は、福島原発事故の被害者への補償や復興には力を入れず、かえって住民を現地から追い出すことを画策してきたが、今回の中間貯蔵施設を福島原発周辺市町村に建設する決定は、住民に放射能汚染による被害だけではなくて、中間貯蔵施設建設の口実でゆくゆくは最終処分場にし、故郷をとりあげ人の住めない廃虚にしてしまうものである。
東電も国も原発事故の責任をとり、被害住民に誠心誠意償うのではなく、これを機会に行き詰まっていた使用済み核燃料処分場を建設し、さらに原発推進に乗りだそうという冷酷無比な対応をとっている。
また、東京電力をはじめ、関西電力、九州電力、四国電力とあいついで電気料の値上げを国に申請し「原発を稼働させないなら電気料金を上げる」と脅しをかけている。これは夏場に「原発を再稼働させないなら電気が足りなくなる」といって各電力会社が一斉に計画停電の脅しをかけてきたのと同じ手口である。結局原発が稼働しなくても電気が足りなくなることはどこもなかった。
全国では東京電力が企業向けを今年4月から平均12・7%、家庭向けを9月から平均8・46%値上げした。11月下旬には関西電力が家庭向けで平均11・88%、九州電力が同じく平均8・51%の引き上げを政府に申請。四国電力も値上げを表明している。東北電力も家庭向け電気料金の値上げについて「来年度の早い時期に実施することが必要と考えている」と、年明け以降、経済産業省に値上げ申請する方針を明らかにした。電気料金の値上げは、第二次石油危機時の1980年以来33年ぶりである。
福島事故の賠償もせず 国民犠牲にする東電
原発事故を起こした張本人である東電は、「原発事故被災者への賠償や除染、中間貯蔵費用だけで10兆円程度になる。それに巨額の廃炉費用を加えると一企業のみの努力では到底対応しきれない規模となる可能性が高い」として、「国による新たな支援の枠組みを早急に検討することを要請」し、賠償や除染、廃炉の費用は国民の税金から出させ、そのうえ電気料金を値上げするもので、事故への反省などまったくないことを行動で示している。
東電の無責任を保証しているのは政府であり、賠償支援機構法で東電の株主や融資した銀行の責任を一切問わず、電気料金値上げと交付国債を使った公的資金で東電を救済する仕組みにしている。シンクタンクの試算などで賠償と除染、廃炉費用だけで少なくとも数十兆円、最大250兆円にものぼりそうな見通しは分かっており、負債規模からみて、とても東電が存続できない状態であるのは明らかだが、政府は東電の株主や重役の全財産を没収するどころか公的資金投入で救済してやり、東電を存続させようというのである。
さらに、10月24日に開かれた政府の需給検証委員会で資源エネルギー庁の電力ガス事業部長が、「電力会社を黒字にするには、原子力発電所の稼働か、料金値上げのいずれかしかない」と発表。それを受けて関西電力や九州電力などが相次いで料金引き上げの方針を発表した。一足早くこの9月分から値上げした東京電力管内にあるコンビニ経営者は、「コンビニは冷凍・冷蔵庫で電気を多く使う。うちは値上げで電気代が月に5万円も増えた。東電の説明では12・7%の値上げだったはずなのに、残暑もあって前年同月比で3割以上のアップだ」と悲鳴を上げている。事故を起こした東電が、国からの巨額の公的資金を使い込んだうえに電気料金を値上げして、国民を苦しめている。
背後に米国の強い圧力 核燃サイクル確立も
日本の政府や財界が前代未聞の爆発事故から2年もたたないうちに、反省の色もなく早くも原発推進に乗り出している背後にはアメリカの圧力がある。
日本の原子力政策はアメリカの厳重な規制のもとで推進されてきており、アメリカの承諾なしに中止することはできない。そのことを改めて示したのが3・11後の事態である。民主党・野田政府は「2030年代に原発稼働ゼロをめざす」という方針を出したが、8月15日にはアーミテージ元国務副長官とナイ・ハーバード大学教授が報告書を発表し、「日本は原発放棄により三流国に転落してしまってもいいのか」と恫喝する警告を発した。野田首相が世論の強い反対を押し切って大飯原発2基を再稼働させたことを「正しい、責任ある一歩だ」と評価。日本が国際公約をはたすためには、「原発再稼働は唯一の道だ」といい切り、「原子力は日本の包括的安全保障の絶対に必要な要素」と強調している。野田政府が原発推進に慌てて方針をねじ曲げていくというお粗末な顛末の根拠である。
なぜ米国は日本の原発にこだわるのかについて、報告が重視するのは、海外への商業用原子炉の売り込みであり、開発途上国が原子炉の建設を続けるなかで日本の原発が永久停止することになれば、「責任ある国際的な原子力開発が頓挫する」と指摘。中国が将来的に国際市場の売り手に台頭するとの見方を示した上で、日米は商業用原子炉推進に「政治的、経済的に共通の利益をもっている」としている。これにならうように民主党政府はヨルダン、ロシア、韓国、ベトナムへの原発輸出を進めるため、4カ国との原子力協定を昨年12月に国会で承認した。
また野田首相は5月1日には、米国のオバマ大統領と会談し、国内では「脱原発依存」といいながら、原発の再稼働や、「原子力エネルギー利用」の推進方向に舵を切る共同声明を発表した。共同声明関連文書の日米協力イニシアチブでは「日本の原子力事故の後の緊密な協力を基盤として、民生用原子力協力に関するハイレベルの二国間委員会を設置し、この分野での協力を更に強化する」と明記し、日米間で原子力協力を強化し、継続的な協議を進めることを確認した。
7月には、この合意に基づいて設置された、「民生用原子力協力に関する日米二国間委員会」の第1回会合を開催。この会合には、米国のエネルギー省、国務省、国防総省、原子力規制委員会の代表らが参加。日本側からは外務省、内閣官房、文部科学省、経済産業省(資源エネルギー庁および原子力安全委員会・保安院)、環境省の代表らが参加した。
日本は1950年代から、米国から濃縮ウランと原子炉の提供を受け、原発増設に突き進んできたが、福島原発事故後も、米国のエネルギー政策に従属する形で、原子力利用を進めていくことを表明したのである。
日本の原子力政策は、日米原子力協定に基づいて推進されてきた。日本は米国から核燃料を輸入し、原子力資機材を調達してきたが、そのことは、特に核燃料の再処理に対して、米国からの厳しい規制を受けるということであった。
とくに核燃料サイクルの確立による日本のプルトニウム保有については、核拡散問題とも関連してアメリカからの強力な規制がかけられている。民主党政府は、9月14日に、2030年代に原発稼働ゼロを目指すとする「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめ、これを閣議決定する予定だったが、これにアメリカは強い難色を示した。
核兵器の製造とも直結 原発計画撤回が国益
日本にはすでに、茨城県東海村にある旧動燃事業団の小型再処理施設で分離された少量のプルトニウムと、英仏に委託再処理してできたプルトニウムを併せて約45㌧が溜まっている(ただし、そのうちの35㌧はまだ英仏にあり、日本に実際にあるのは約九㌧)。これは数千発の核兵器をつくるのに十分の量である。使用目的のない「余剰プルトニウム」を大量に抱え込めば、日本が核武装の疑惑をもたれるのは避けられない。過去30年間日本政府は、「日本は余剰プルトニウムは一切持たない。核燃料サイクルで手持ちのプルトニウムをすべて使いきる方針だ」と繰り返し宣言してきた。アメリカに対しても「余剰プルトニウムは一切持たないし、プルトニウムの保管・管理はIAEAの規則に従って最大限厳格におこなう」ことを表明し、1988年に新日米原子力協力協定発効にこぎつけた。これによって日本は、米国産ウラン燃料の再処理についてのフリーハンドを協定の有効期間の30年間(2018年まで)与えられた。
アメリカのいいぶんは、日本が核燃料サイクル計画を放棄し、六ヶ所再処理工場を廃止すれば、日本国内の使用済み燃料は行き場を失い、また、プルサーマルや高速増殖炉「もんじゅ」を廃止すれば、現在すでに溜まっているプルトニウムも使途がなくなり、その結果「余剰プルトニウム」が無為に蓄積され続ければ、核武装の疑惑を招く恐れがある、ということである。
その脅しのうえに、さらにプルトニウムをどこで使用するのかについて、一つはプルサーマルと称される通常の軽水炉でのMOX燃料としての使用。大間に建設中のフル・MOX炉はフル稼働すると通常炉の約三倍のプルトニウムを使用するものであり、なにがなんでも建設を強行したのである。さらにプルトニウム利用の本命ともいうべき高速増殖炉「もんじゅ」である。「もんじゅ」についても日本政府は廃炉から現状維持の方向に転換している。
米国は「日本のプルトニウム・バランスに対する信頼がなくなると、日米協定の満期の2018年に、包括的事前同意方式をやめる」と脅している。
こうしたアメリカの意向を受けて日本政府は、原発ゼロを目指すが、使用済み燃料の再処理も継続するという「革新的エネルギー・環境戦略」をうち出した。これに対し、米政府は、「核兵器に使用できるプルトニウムの消費のめどが立たないまま再処理路線を続ければ、核拡散上の懸念が生じる」とし、再処理を認めた日米原子力協定の「前提が崩れる」とも表明して脅しをかけている。日本の核燃料サイクル政策を指揮している米国が、あくまで原発推進を強行するよう圧力をかけている。
アメリカは日本が原発推進を放棄することで、核燃料の再処理によるプルトニウムの抽出をも放棄することに強力に反対している。プルトニウムは原子爆弾の原料であり、日本の技術水準をもってすればいつでも核兵器を製造することができる。アメリカはアジア重視の軍事戦略をうち出し、米軍の下請としての日本の軍事力増強を要求しており、その一環として核兵器製造を企んでいる。アメリカのアジア重視の戦略とは、北朝鮮や中国を相手に日本を核戦争の最前線に立たせ、日本を核戦争の戦場にし、ふたたび原子爆弾の火の海にたたきこもうという戦略である。
山口県では中国電力の原発建設を一基も許していない。原発が独占大企業のもうけの手段であり、核兵器製造という軍事目的に直結するものであるとして、直接的な被害を受ける漁業者や農業者をはじめ、労働者、商店主、教師、青年学生など広範な各界各層が現地だけでなく全県、全国の人人と団結してたたかって勝利した。上関原発は計画浮上から30年たち、ついに中止に追い込んだ。福島原発事故は全国の原発反対の運動を激発させ、首相官邸前では20万人をこえるデモがとりかこむなど、全国民的な支持を集めて高揚している。アメリカと一握りの独占企業の利益のための原発推進に対し、全県、全国の団結した運動をさらに大きくし、原発計画を白紙撤回させることこそ日本民族全体の利益を守る国益となる。