国主導で米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)基地計画が動く馬毛島(鹿児島県)の地元・西之表市で1月24日、任期満了にともなう市長選と市議会議員選(定数14)が告示(31日投開票)される。市長選は現職の八板俊輔氏(67)と市商工会長の福井清信氏(71、自民推薦)が立候補の意向を表明しており、計画反対の立場を明確にしている現職と、自民党政府が総掛かりで支援する基地建設推進候補の一騎打ちとなる。
現職の八板市長は前回選挙でFCLP反対を訴えて初当選した。その後は「市民が賛否を決める情報を積み重ねる時期」と位置づけて、防衛省に質問状を提出するなどして情報を集め、その回答を受けて昨年11月、「地元市長として同意できない」という「所見」を岸防衛相に提出している。
「市長所見」は馬毛島への米軍訓練施設計画について「地元の住民、自治体だけでなく、周辺自治体、県民、国民にも大きな影響を及ぼす。安全保障の課題であるとともに、日本の独立の在り方も問われる重大事だ」と懸念を示している。
馬毛島への基地整備計画については「米軍は希望すれば、国内のどこでも施設(領土)の提供を受ける最初の事例となる。国は自衛隊施設と説明しているが、米軍訓練のための施設だ」「米軍、自衛隊の補給、集積地として馬毛島が重要な施設となれば、軍事上の標的となり、地域住民の安全が脅かされることになる」と指摘。さらに「最も大きな問題は、米軍の訓練や基地に対して日本は制限がかけられないことだ。一度、基地を容認すると米軍は自由に行動でき、国内法で歯止めがかけられない状態が沖縄をはじめ日本各地で起きている。これは“日米地位協定”という、終戦後に交わされたアメリカとの約束事が、占領時代の米軍の特権を温存したまま残されているからだ」とのべている。
「未来への責任」の項では「種子島は、昔から移住者を受け入れ、その活躍で成り立ってきた。豊かな自然環境は農作に適し、海の幸に恵まれている。農林水産業を軸に、商工業、観光などを絡めた産業振興で自立する道がある。馬毛島は西之表、種子島、屋久島、さらに周辺地域と一体となって歴史と文化をつむいできた」「基地経済に頼った地域の発展は、基地機能の強化の度合いに比例し、同時に他の資源利用を妨げることから、一度踏み入れば引き返せなくなる恐れがある」「先人の知恵を歴史に学び、祖先から受け継ぐ故郷を次代にしっかり伝えなければならない。静かで豊かな環境を守り、地域本来の力を信じて進む道が、常に私たちの目の前に開かれている。基地経済に依存しない町づくりを推進することにこそ、持続可能な社会への希望がある。将来にわたって島の子どもたちが安心して生活できる島を築くことが、今を生きる者の責任」と強調している。
対する福井氏は「衰退する一途の市の現状を打破したい」と主張し、約150~200人規模の自衛隊基地建設や米軍訓練受け入れにともなう基地交付金など、「基地特需」に依存した「市の活性化」を目指している。福井氏は昨年12月に防衛省を訪問し、訓練移転にともなう米軍再編交付金の増額や追加支援の検討を求める要望書も提出している。前回の市長選は業界団体の多くが自主投票だったが、今回は商工、建設、漁業などの主要団体、自民党県連が福井氏推薦で動いている。そのなかで「基地誘致」を訴えて立候補する予定だった元市議が直前で出馬断念を表明し、一騎打ちの構図になっている。
ちなみに現在、防衛省が整備手続きを強行している馬毛島整備計画は、馬毛島に自衛隊馬毛島基地(仮称)を建設し、滑走路2本(2450㍍と1830㍍)、火薬庫、駐機場、燃料施設、訓練場などもつくる大がかりな内容だ。防衛省は自衛隊員を150~200人常勤させ、その官舎を約12㌔離れた種子島に設置する計画も示している。しかもこの米空母艦載機のFCLP専用基地は「主に自衛隊の訓練で使用する。年間通じて自衛隊が管理」(防衛省説明資料より)と規定し、基地の維持費はみな日本側負担になる。
西之表市が防衛省に手続き中止求め抗議文
こうした米軍基地建設のために地元を無視し、関連手続きを強行する国に対し西之表市は今月8日に抗議文を提出している。八板市長が岸防衛相に提出した抗議文は次のように訴えている。
「今回の詳細検討及び外周道路の整備に係る入札公告の実施は、地元軽視と言わざるを得ず、形式的事実を積み上げ、強引に計画を進めていく姿勢は到底容認できるものではない。馬毛島への施設整備については、昨年11月9日、貴職に対して、地元の理解が得られていない状況下において、これ以上計画を進めて欲しくない旨、伝えている。また、昨年12月16日、西之表市議会は“馬毛島への米軍空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転及び自衛隊施設整備に反対し、計画の撤回と計画に係る手続きや調査等の全ての中止を求める意見書”を採択し、貴職に送付している。貴省が実施した本市住民説明会においても、住民から不安の声が多数上がったと認識している。あらためて、今回の貴省の対応について遺憾の意を伝え、強く抗議するとともに、入札行為を撤回するよう求める」