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罰則規定は感染症法の理念に反する 感染者の社会的不利への補償充実を 日本医学会連合等が緊急声明

 菅政府が新型コロナ感染症対策として感染症法やコロナ特措法に罰則規定をもうけることを検討していることについて、日本医学会連合などの関係学会は14日、緊急声明を発した。感染防止のために国としておこなうべき具体的諸課題に向きあわず、個人に責任を背負わせる罰則規定に対して強く警鐘を鳴らしており、防疫や治療体制を維持する観点からも受け入れられないとの認識を示している。
 日本医学会連合(門田守人会長)による「感染症法等の改正に関する緊急声明」(1月14日付)は以下の通り。

 

 ○………○

 

 現在、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)等の改正が検討されています。報道や政府与野党連絡協議会資料によれば、「新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否したりした場合などには刑事罰や罰則を科す」とされています。


 日本医学会連合は、感染症法等の改正に際して、感染者とその関係者の人権と個人情報が守られ、感染者が最適な医療を受けられることを保証するため、次のことが反映されるよう、ここに声明を発します。


 1、感染症の制御は国民の理解と協力によるべきであり、法のもとで患者・感染者の入院強制や検査・情報提供の義務に、刑事罰や罰則を伴わせる条項を設けないこと。


 2、患者・感染者を受け入れる医療施設や宿泊施設が十分に確保されたうえで、入院入所の要否に関する基準を統一し、入院入所の受け入れに施設間格差や地域間格差がないようにすること。


 3、感染拡大の阻止のために入院勧告、もしくは宿泊療養・自宅療養の要請の措置を行うさいには、措置に伴って発生する社会的不利益に対して、本人の就労機会の保障、所得保障や医療介護サービス、その家族への育児介護サービスの無償提供などの十分な補償をおこなうこと。


 4、患者・感染者とその関係者に対する偏見・差別行為を防止するために、適切かつ有効な法的規制をおこなうこと。

 

 

感染の抑止も困難に
 
 さらに同学会は、声明発出に至った理由として、現行の感染症法は「新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進される」(第二条)ことを基本理念とし、それは過去にハンセン病や後天性免疫不全症候群などの感染症患者に対するいわれのない差別や偏見が存在したことへの深い反省と教訓から、「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている」(同法・前文)との認識に基づいていることを指摘。


 「かつて結核・ハンセン病では患者・感染者の強制収容が法的になされ、蔓延防止の名目のもと、科学的根拠が乏しいにもかかわらず、著しい人権侵害」がおこなわれ、性感染症対策や後天性免疫不全症候群(AIDS)対策においても「強制的な措置を実施した多くの国がすでに経験したことであり、公衆衛生の実践上もデメリットが大きい」との教訓を強調した。


 入院措置を拒否する感染者には、措置により阻害される社会的役割(就労や家庭役割の喪失)、周囲からの偏見・差別などの理由が考えられ、「これらの状況を抑止する対策を伴わずに、感染者個人に責任を負わせることは、倫理的に受け入れがたいと言わざるをえない」としたうえで、「罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を惹起することにもつながり、感染症対策をはじめとするすべての公衆衛生施策において不可欠な、国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがある。刑事罰・罰則が科されることになると、それを恐れるあまり、検査を受けない、あるいは検査結果を隠蔽する可能性がある。結果、感染の抑止が困難になることが想定される」と危惧を示した。


 日本公衆衛生学会、日本疫学会も声明で、「感染者の人権が守られ、感染者が最適に医療を安心して受けられる社会環境を提供することに最大限配慮する」「患者・感染者の入院強制や検査・情報提供の強要に刑事罰・罰則を伴わせることは不適切」などの考えを示し、「国民の参加協力を得て感染拡大を阻止するうえで、入院勧告、宿泊療養・自宅療養の要請などの措置を行うにあたり、措置に伴い発生する社会的不利に対する補償(就労機会の保障、所得保障や医療介護サービスの無償提供など)を十分図ること、そして感染に伴う偏見・差別行為に対し毅然とした規制をおこなうこと」を併せて求めている。

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