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誰も責任とらぬ東電  安倍晋三は再稼働を動かす

 2011年3月に起きた福島第1原発の爆発事故から2年半が経過しようとしている。このなかで、事態はまったく収束などしておらず、汚染水漏れや深刻な海洋汚染の問題が次から次へと明るみに出ている。この間、国内報道は不思議なまでにおとなしくなり、まるでなにも起こっていないかのような扱いに終始。安倍晋三が性懲りもなく再稼働、原発国外輸出を推進するまでになった。ところが福島現地では、メルトダウンした1~3号機は原子炉内の核燃料が防御壁を突き破って地下に溶け出している可能性(近づくことができず、だれにも確認のしようがない状態)がとり沙汰され、そこに阿武隈山系からの地下水が押し寄せて大量の汚染水が海洋に流出していること、さらに倒壊寸前で使用済み核燃料を山ほど蓄えた四号機が危険な状態に置かれていることなど、すべてがなにも解決していないことが露呈している。住民たちは故郷に戻れず、棄民状態に置かれたままだ。これほどの事故を引き起こしておきながら、東電幹部や推進してきた政治家・官僚は一人として逮捕されず、責任をとるものがいないこと、郷土を廃虚にする原発をなおも開き直って推進していく政治の異様さを問題にしないわけにはいかない。
 

 この間、海外メディアが海洋汚染の事実を発信するなかで、国内報道も少しだけ問題をとり上げ始めた。原子力の専門家たちが分析しているところでは、事故後にメルトダウンした1~3号機の原子炉内で核燃料が溶け出していることは疑いないが、2年半経過した段階で、それが外界との接触を遮り最後の砦となってきた原子炉防御壁をも貫通して、地下に溶け出す「メルトスルー」といわれる事態に至っている危険性が上げられている。地下に流出しているであろう高濃度の放射性物質が、阿武隈山系から毎日1000㌧近く押し寄せている地下水と接触して海洋に流れ出すことが問題になっている。
 事故直後から、福島第1原発では原子炉や使用済み核燃料をひたすら冷やし続ける作業に追われてきた。冷却が止まれば震災直後の水素爆発どころでは済まない核爆発が起き、前代未聞の原子力災害につながりかねないからだ。建屋地下の汚染水を汲み上げては地上の貯蔵タンクに仮置きし原発周辺はタンクだらけになってきた。それらの処理もメドは立っていない。8月初旬時点の地上タンクの総容量は39万㌧。そのうちすでに汚染水を33万㌧蓄えている状態となっている。
 既存の冷却水の処理だけで毎日400㌧ずつ増え、東電は2016年までに80万㌧に増設する計画を発表していたが、さらに阿武隈山系から海側に向かって、1日約1000㌧の地下水が流れ込み、そのうち300㌧が原発建屋に流れ込んで地下の土壌を浸透するなどして汚染水となり、海に流れ出していることが明るみに出た。これに対して、8月初旬には護岸近くに掘った井戸から汚染水のくみ上げ作業が始まったものの、1日100㌧にもならず、能力が追いついていない。貯蓄タンクも容量が限界を迎えることが予想されている。
 政府と東電は、この春に放射性汚染水から62種類の放射性物質をとり除く汚染水処理装置「アルプス」(日量500㌧の処理能力)を試験的に導入していたものの、今年6月にタンクが腐食して水漏れトラブルが起き、わずか3カ月で壊れた。これも再開のめどは立っていない。貯蔵タンクは増えるばかりで、応急的に貯蔵していく以外になす術がない状態となっている。専門家のなかには震災直後から、汚染水を巨大タンカーに貯蔵して、汚染水処理施設を完備している柏崎刈羽原発に持って行くことを提案する意見も上がっていたが、現状では福島にとどめておく措置がとられている。
 ところが8月中旬になって、今度はその陸上の貯蔵タンクからも汚染水漏れが発覚。300㌧もの汚染水(放射性ストロンチウム8000万ベクレル)が漏れたとしている。総量で24兆ベクレルという、とてつもない高濃度の放射性物質を含んだ汚染水で、それが再び土地に浸透していく悪循環となった。
 原発建屋への地下水の浸入を食い止めるために、周囲の土地を凍らせて固める凍土壁工事も開始したが、完成は2年後の2015年度。冷却に使用している汚染水と、地下水を永遠に汲み上げ続けなければならず、凍土壁が完成したからといって完全に地下水の流入を防げるかもわからない。原発事故後に起こってくるさまざまな事態に対して、管理すべき側の能力がついていけず、現象に翻弄されてなす術がない。それ以上に、このような状態に置かれていることをわかっていながら、東電や経産省に危機感がまるでないのも特徴となっている。
 汚染水だけでなく、福島第一原発で大量に抱えていた使用済み核燃料の扱いについても、今後どのように処理していくのかはっきりしていない。1~6号機まで福島第一原発に存在している核燃料棒の総数は1万4225本ともいわれている。これらを冷やしている燃料プールから水がなくなればジルコニウム火災が起こるといわれ、危険極まりないことが指摘されている。倒壊の危険性がとり沙汰されているのが4号機で、蓄えている使用済み核燃料は1535本。4号機の核燃料プールには3・11の地震とその後の水素爆発によって亀裂が入り、それを補修するためにプール底からコンクリートを上塗りし、鉄骨が入れられないために、下からスチールのポールをあてがって支えている状態。原子炉そのものも地盤沈下によって傾いているとされている。
 原発から出る使用済み核燃料は、震災前から受け入れ場所がなく、処理方法についても技術が追いつかず、「地下に保管する」以外にない。福島だけでなく全国の原発が共用プールに大量に貯蔵していることも、震災後に明らかになった。この使用済み核燃料は安定するまでの中間貯蔵(冷却し続ける)だけでも30年かかり、移動させて保管するにしても何万年という単位で安全性を保たなければならない。原子炉内でつくられるプルトニウムの半減期だけでも2万4000年という途方もない年数がかかるもので、最終処分の方法は確立されていない。原発が「トイレなきマンション」といわれる由縁だ。
 放射線量の高い福島第1原発において、崩れかかった原子炉建屋に埋もれた核燃料を冷やし続け、その汚染水を汲み上げ続けなければならず、処理すらままならない。さらに廃炉作業となると、放射線量が高すぎて人が近づけないなど、核燃料の回収にはまったくメドが立たない状況にある。制御できないまま、後手後手の対応をよぎなくされていることを示している。
 今になって汚染水問題を立て続けに発表し始めたのが東電で、21日には事故直後からトレンチと呼ばれる地下坑道に溜まっていた30兆ベクレルという高濃度の汚染水が、海に漏れ続けていた可能性があると発表し、22日には敷地内にある汚染水貯蔵タンクの点検で、さらに2基の底部に最大毎時100ミリシーベルトの高線量の箇所があるのを確認したと発表。約300㌧が漏えいしたのと同型のタンクで、これらが今後も次次と汚染水漏れを起こしかねないことをあらわした。東電の能力ではもはや対応できないことは歴然としているが、賠償、事故対策、凍土壁工事などの費用にいたるまですべて国に依存し、それでいて株式上場企業としての立場は担保され、経営陣は何ら責任を問われないまま今日に至っている。

 処理方法ないまま推進 売国政治の行着く先

 福島では20万人近い人人が暮らしを破壊され、3・11を機に故郷を追われた。立地町の双葉町、大熊町などはとりわけ棄民状態を強いられ、それ以外の周辺自治体も人口流出や地域コミュニティの崩壊でゴーストタウンと化してしまったところが少なくない。農作物は放射性物質の汚染や風評被害に見舞われ、水産業でも隣接の宮城県海域に至るまでが出荷規制に直面し、復興に向けて生業を成り立たせることすらできない状態に置かれている。人人は震災後、荒れた故郷を以前の状態にとり戻すべく、立ち上がって一歩一歩前に進み始めたが、その前に大きな壁となって立ちはだかってきたのが原発事故と放射能汚染だった。「原発事故さえなければ…」が被災地の共通した思いで、歯ぎしりするような悔しさや怒りの感情が渦巻いている。
 国政は被災地を忘れ去って首相はゴルフ三昧。福島の教訓どころか、事故がいまだ収束していない状況のもとで再稼働が打ち出され、首相のトップセールスで原発の海外輸出が決まるまでになった。それだけでなく、首相のお膝元である山口県では、首相のブレーンである山本繁太郎知事とつながって、新規立地の上関原発計画で手続きを前に進める動きがあらわれている。
 原子力協定を結ぶ米国に隷属して、どこまでもそのいいなりとなり、原子力ビジネスに群がる独占資本の利害のためには、同じような事故が2度、3度と起きても構わないという為政者の意志をあらわしている。福島の被災者を冷酷な棄民状態に置いている者が、日本列島の津津浦浦を廃虚にしてかまわないとして、開き直って原発推進をやり始めている。しかも、今度は米国の盾になってアジア近隣諸国を相手に核ミサイル戦争の標的に立候補する右傾化政治であり、自然災害以外の要因で爆発事故が起きないとも限らない。売国政治も行き着くところまで行き着いた姿を暴露している。
 福島第1原発は、だれの目から見ても制御不能な状態に陥っている。事故に対応する能力も意思もない無責任極まりない連中が原子力という科学技術に手を染め、処理方法すら確立されないまま推進してきた事実を改めて浮き彫りにしている。日本社会を崩壊に導く政治との全面的な対決が迫られている。

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