種苗法改定案が12月2日の参議院本会議で可決され成立した。日本の農業の根幹を揺るがす、世界に例のない「自家増殖一律禁止」というとんでもない法律が、地方公聴会などを開いて農家の声を聴くことなく、わずか15時間足らずの審議で決まってしまった。断じて許せないことだ。しかし、諦めるところではない。闘いはいよいよこれからだ。種子法の廃止後、地方で種子条例を制定していったように、私たちには闘う術がある。今後の闘いについて提案したい。
農水省は種苗法を改定するにあたって「対象となる登録品種は1割程度であり、それ以外の9割が自家増殖できる一般品種だ」と説明してきた。しかし、11月12日の衆議院農林水産委員会の参考人招致で印鑰智哉氏(日本の種子を守る会アドバイザー・NPO法人民間稲作研究所アドバイザー)が明らかにしたように、各都道府県が設定している産地品種銘柄に指定される銘柄を調べると、52%が登録品種だった。コシヒカリも一般品種としてひとくくりにしているが、「コシヒカリ新潟BL」「コシヒカリ富山BL」など各都道府県が改良した登録品種が相当数あり、新潟県ではコシヒカリのうち97%がBL品種をつくっているという。このようにコメだけ見ても各都道府県でかなりの割合で登録品種が作付けされている。栃木のイチゴも県の開発品種であり、ウドも栃木県や茨城県の育種知見だ。小麦や大豆はほとんどが都道府県の育種知見で、登録品種を自家採種している場合もかなりある。政府はこれらをごまかして、法案の説明をしてきたのだ。
改定種苗法のもとでも、育種知見が都道府県にあるあいだは、許諾料が高騰したり、自家増殖を禁止される可能性は低いと思われるが、農業競争力強化支援法8条4項で、モンサントなど民間種子企業に都道府県の育種知見の提供を求められた場合、法律がそうなっている限り現状では都道府県は断ることができない。育種知見が民間企業に渡れば、安い許諾料で自家増殖ができるとは考えられず、自家増殖は禁止になる可能性の方が高いと考えた方がよい。
そこで、まず一つ目の提案として、民間企業に育種知見の譲渡を求められた場合、県民の税金で県民のために開発された品種なので「農業者や消費者も含めた審議会での承認が必要」という規定や、「県議会の全会一致もしくは3分の2以上の同意が必要」、もしくは「県民の住民投票によって過半数以上の同意がなければ譲渡することはできない」などの条例をつくることが急がれる。名称は「種苗条例」でもいいし、「伝統的な都道府県の品種及び優良な育種知見を保全する条例」でもいいと思っている。
第二の提案は、現在各都道府県が持っている育種知見の扱いについてだ。長野県のリンゴや栃木県のイチゴといった各都道府県の重点作物は多くが都道府県の育種知見だ。今回の種苗法改定では育種権利者の権利が一段と強化されたので、どのような内容にすることも自由である。これらについて「県が持っている育種知見については、従来の種苗法通り、種苗として譲渡することは禁止するが、自由に自家増殖することができる」と条例で定めることだ。現在は育種知見は県のものなのだから、県の判断で「うちの育種知見は自由に自家増殖していいですよ」という権利を持っている。
これらの条例で地方は対抗することができる。
三つ目に、都道府県が持つ原種農場など農業試験場を守る方策だ。今、農業試験場の予算が削減されていっている。総務省は「官民連携推進法」で、地方の公共財産を民間に譲渡させようとしており、このままで行くと、農業試験場も郵政がオリックスに買われたように、民間企業に二束三文で買われる可能性もある。種苗条例が22道県でできているが、この条例のためにも農業試験場を守らなければならない。そこで、広島県のジーンバンクのように、現在ある農業試験場を活用して、伝統的な在来種を収集・保全し、現物を保存・管理する機関をつくることだ。改定種苗法では、育種権侵害の訴えがあったとき、特性表のみで比較するよう簡素化されたため、在来種を栽培している農家が裁判で圧倒的に不利になる。在来種の現物を保存・管理し、データ管理しておけば、訴訟にも対抗することができる。
四つ目に、ゲノム編集・遺伝子組み換え作物に対する厳しい規制を条例化することだ。今治市では「食と農のまちづくり条例」で、遺伝子組み換え作物について、栽培しようとする者は、説明会を開催したうえで市長に栽培の申請をしなければならない。市長は申請を受けると「今治市食と農のまちづくり委員会」に意見を聞かなければならず、混入交雑防止の措置や自然界への飛散防止の措置が適切でなかったり、申請通りの措置を的確に実施する人員や財務基盤などの能力がないと判断した場合は「許可を行ってはならない」と規定している。さらに、栽培や流通のうえでも厳しい条件を定め、違反した場合は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。北海道なども同様の条例を定めている。このように各都道府県、市町村でゲノム編集も含めて規制を条例化することが必要だ。
この四つを中心に、条例を定める運動を広げること、それに加えて今後、コメの奨励品種の産地表示がなくなるので、各県の産地表示制度を残す条例も検討課題だ。
2018年に種子法が廃止されたが、それから2年あまりのあいだに22道県で種子条例が制定された。現在準備をしている自治体もあるため、来年中には32道県で制定される可能性があると考えている。
改定種苗法の施行は来年(2021年)4月1日の予定だ。種子条例のように、これから在来種を保全する条例を全国でつくっていく運動を呼びかけたい。地方の農業は地方から守っていくことができる。