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日本看護管理学会が声明 「ナースはコロナウイルス感染患者の最後の砦」 別府千恵理事長に聞く

 日本看護管理学会は10日、「日本看護管理学会より国民の皆さまへ――ナースはコロナウイルス感染患者の最後の砦です」と題する別府千恵・同学会理事長の声明を発表した。声明は、新型コロナ感染拡大のもとで危機的な状況にある医療現場の最前線で身を粉にして奮闘するナース(看護職)の現状とともに、ナース自身が本来の仕事に集中できるようその役割の軽視や社会的偏見をとり払うよう訴えている。以下、声明全文。

 

声明「日本看護管理学会より国民の皆さまへ――ナースはコロナウイルス感染患者の最後の砦です」


 国民の皆さま、ナースが危機を迎えています。コロナウイルスに感染した患者さんの最も近くにいるのはナースです。この長期戦の中、ナースは身も心も疲弊してきています。


 コロナウイルス感染患者が増加すると、看護管理者は、一般の病棟を一旦閉じてコロナ対応病床にナースを移動させるしかありません。ナースたちは、今まで自分が看護してきた患者を同僚に預け、コロナ病棟に向かいます。ナースは防護服を着ているとはいえ、患者の頬に付くくらいに顔を寄せ患者の声を聞き、孤独に苦しむ患者の手を握り、時には尊厳ある死を迎えられるように寄り添います。ナースは、家族も面会できない患者の一番身近で、患者の生命と生活を守るのです。


 私たちは、看護の専門職としての使命感で、コロナウイルス感染患者の看護にもう何ヶ月も携わっています。自分自身の感染の危険性と私生活、自分のキャリアに目を瞑り、時には自分の家族にも仕事の内容を隠し、コロナウイルスに感染した患者さんを看てきました。


 私たちは自分の仕事を全うするだけですので、感謝の言葉は要りません。ただ看護に専念させて欲しいのです。差別や偏見はナースに対してフェアな態度でしょうか?なぜナースたちは、看護していることを社会の中で隠し、テレビに出るときにはモザイクをかけなければならないのでしょう。これでは、潜在しているナースも復帰をためらいます。


 報道等では、ナースが足りないと言われています。防護服を着て、コロナ感染患者の病室に入る仕事の多くをナースが担っています。しかし、医療現場を守るのはナースだけではありません。チーム医療を構成する多くの職種の人々との協同体制を、取り戻す必要があると考えます。看護の仕事に専念させていただくためにも、関連職種の皆さまに、ぜひご協力をお願いいたします。


 私たちナースは、皆さまにこの長い戦いを、コロナウイルス感染患者とともに歩き続けられるように助けていただきたいのです。


 国民の皆さまにお願いいたします。


 皆さまには、ご自分の健康と医療現場を守るため、なお一層の慎重な活動をしていただきたい。


 医療専門職として、感染予防には留意しております。私たちを偏見の目で見ることはやめていただきたい。


 また、もしも一旦仕事から離れている私たちの仲間が、看護の仕事に戻ってこようと思うときには、周囲の方にはぜひご理解いただき、この窮状を救う意志のあるナースを温かく送り出していただきたい。


 ナースはコロナウイルス感染患者の最後の砦です。ご協力をお願いいたします。


 2020年12月10日          

 一般社団法人 日本看護管理学会  
   理事長 別府千恵  

 

◇       ◇

 

 同学会は、看護職の働き方や環境について探求し人々の健康と生活の質の向上に寄与することを目的とする学術団体である。医療機関、介護保険施設などで看護サービスのマネジメントを担う看護管理者ら5000人をこえる会員が所属している。別府理事長(北里大学病院副院長・看護部長)に、その思いを聞いた。


 別府氏は、「マスコミがコロナ感染拡大のもとでナースが置かれている状況をとりあげない。医師たちはナースが足りない、スタッフが足りないと概念的な発言をしている。しかし、ナースがどのような気持ちでいるのかについては、どこのメディアからもとりあげられない。そうしたなかで、ナースの立場で発言すべきだと思った」と語り、要旨次のように続けた。


 冬に入って、ナースがコロナ病棟に移るなかで循環器科や呼吸器科などでスタッフが薄くなり、危機的状況にあります。コロナ病棟に入るのはナースだけで、医師は立ち入りません。理学療法士も入らないので、必要なリハビリもできないまま退院する状況もあります。


 また、ナースは集中治療室に入っても、エクモ(人工心肺装置)は集中治療室での3~5年の経験がなければ使って看ることができません。


 ナースはこれまでチーム医療の一員として、多くの専門職とともに協働で患者とかかわってきました。コロナ病棟でも医療の専門家としての役割を発揮したいと歯を食いしばって行くのですが、自分はなにをしているのかと思わざるをえないような状況にあります。


 ナースは苦しんでいる患者に、家族でさえ死に際にも会えないなかで尊厳ある死が迎えられるよう最後まで寄り添っています。亡くなった患者を納体袋に入れて葬儀社に引き渡すさいも、コロナ病棟では完全予防の措置がとられているのに、理解が得られず納棺までナースがせざるをえないのです。


 そのうえ、掃除もナースの仕事に加わり、弁当を買いに行くことなどにも使われることもあるのです。こうしたなかで、ナースは疲れ切ってバーンアウト(燃え尽き症候群)する状況にあります。そこには、「ナースは、呼べばやって来る」というような、安易な使い捨て人材として扱われていることがあります。


 新型コロナ感染の第三波は二波のときとは違って、高齢者が重症になり、亡くなるケースが増えています。現場の視点からも、お年寄りのことを考えて感染を防ぐためにも、今は人の広がりを抑えることが必要だと思います。


 そして、私はなによりも、ナースの子どもたちが差別を受けることに心を痛めます。子どもがいじめられたことを気に病んで、仕事をやめようかというナースも出ています。このように社会的な負の部分を受けて、仕事に集中できない状況を一刻も早くとり除いていけるようお願いしたいと思っています。

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この記事へのコメント

  1. コロナ禍で病院で働くナースの方々の献身的な使命感意志を差別や偏見ではなく尊厳を守り温かく見守ってすべての人間が平等に生きていける社会を求めています

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