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火山列島で原発動かす罪 予知不可能な破局噴火

 口永良部(くちのえらぶ)島の新岳が爆発的噴火を起こし、住民137人全員が島から避難し、いつ島に戻れるかわからない困難に直面している。その矢先、今度は小笠原の地下深くを震源とするマグニチュード8・1の地震が発生した。桜島や阿蘇山の活動が活性化し、御嶽山の噴火が戦後最大の火山災害をひき起こし、箱根・大涌谷の地震活動も来るべき富士山の噴火と連動して危惧(ぐ)されている。最近の火山噴火や地震をめぐるあいつぐ災害は人人に、日本列島が地震帯に覆われた世界でもまれな火山大国であることを、あらためて突きつけている。また、そのような国にアメリカの要求に従って原発を五四基も林立させ、福島原発事故の収束も見込めぬうちに原発再稼働を強行する政府・財界の犯罪的な無謀さを万人の目に焼き付けている。

 国民の生命や安全考えぬ政府

 口永良部島の噴火について、気象庁はマグマが地下水と接触して水蒸気と一緒に噴き出す「マグマ水蒸気噴火」であり、今後の火山活動の初期的段階だと発表した。その後、噴火とともに高熱の火砕流が時速140㌔の早さで集落周辺に迫っていたことも明らかとなった。多くの人人はこの爆発を、東日本大震災以後活発になった日本周辺の火山活動、さらには頻発する地震活動とひとつながりのものとしてとらえ、日本周辺の地下深くでどのような異変が生じているのか、そのなりゆきに強い関心を寄せている。
 2013年から噴火を続ける西之島新島は、今も島自体が広がり続けている。昨年9月、長野・岐阜の県境にある御嶽山の噴火で57人が死亡するという戦後最大の火山災害が発生した。鹿児島の桜島はこの数年、年に1000回を数える噴火をくり返しているが、今年になってすでに600回を数えている。
 御嶽山の噴火は火山の専門家の間でも想定外のことで、多数の犠牲者を出したことで大きな衝撃を与えた。だが、その噴火の規模は、日本の通常の火山活動からみれば、きわめて小規模のものである。火山学(地球物理学)者の間では、19世紀までの日本ではその500倍にあたる規模の「大噴火」が100年間で4回以上はくり返されてきたことが確認されている。「大噴火」とは、3億立方メートル(東京ドームの250杯分)以上の噴石や火山灰、溶岩が飛び出す噴火である。
 しかし前の20世紀では、この規模の噴火は1914(大正3)年の桜島「大正噴火」と1929(昭和4)年の北海道・駒ヶ岳の噴火の2回だけであった。そして、その後現在まで100年近くの間こうした「大噴火」は起こらずにきた。火山学者はむしろ、このような「異常な静穏期」が続いてきたことに注目している。そして、その多くが「地球物理学的には、この静かな状況がいつまでも続くことはありえない」「21世紀には、“大噴火”が少なくとも5~6回は起きても不思議ではない」と考えている。
 同時に、火山学会は地震の予知ができないのと同様、そのような噴火がいつどこで、どのように起こるのかを予測することは、今の科学の水準ではできないことを強調している。早い話が、御嶽山は「噴火する可能性が低い」として噴火警戒レベルがもっとも低い1とされていたが、突然噴火した。また、口永良部島では昨年8月の噴火以来、厳重な警戒体制をとって観測していたが、地震活動の前ぶれもないまま爆発的な噴火に至り、爆発した後で噴火警戒レベルを3から一気に5に引き上げる事態となった。さらに、この噴火がいつ収束するか、わからない状況にある。
 火山は地震発生につながる地球の表面を覆う殻(プレート)の衝突によって形成されたものである。プレートが衝突する地下150~200㌔㍍のところでは、その熱によってマグマが生み出され、それが地表に上がってきて火山を噴火させる。しかし、現段階においては、そのマグマ溜まりがどのような規模でどのような位置にあるのかを見ることはできないのである。
 日本列島は四つのプレートーー太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートーー が集まり衝突するという、世界でもまれに見る地点にある。そこから、この狭い列島に110もの活火山が点在している。面積でいえば世界で0・25%にすぎない日本に、世界の陸上の火山の7分の1(マグニチュード6をこえる大地震では22%)が集中しているのである。日本列島はまさに火山列島であり、北海道から九州・沖縄まで日本列島の地形の多くは火山によって形成されてきた。
 火山の恐怖ばかりを強調することは間違っており、こうした自然条件と関わって風光明媚な地形や河川、伏流水や火山灰、温泉や地熱を利用した産業、さらには気候までもが存在してきた。日本人は先祖代代、火山による危険、幾多の犠牲と向きあいつつ、同時にそこから多大な恩恵を受けてきた。地震学者の島村英紀氏は、地震や火山活動についての地球物理学の研究の到達と限界性も踏まえて、「地震や火山とともに生きていくという知恵も覚悟も持っていなければならない」(『火山入門』)と強調している。

 火山学者が危険性指摘

 東日本大震災と福島第一原発事故は、このような日本列島に54基もの原発を林立させてきたことが無謀きわまりない国家的な犯罪であったことを、白日の下にさらけ出した。しかしその後、野田政府から安倍政府に至るまで、アメリカと財界の指図に従い国民の声に聞く耳を持たず、原発再稼働の強行突破をはかってきた。安倍首相は福島原発の汚染水処理すらままならないのに、「福島はコントロールされている」といいはり、川内原発(鹿児島県)の再稼働に力を入れ、上関原発(山口県)の新規立地すら策動している。
 川内原発の再稼働をめぐっては、多くの火山学者から、「周辺に数万年に1度、カルデラ噴火と呼ばれる巨大な破局的大噴火を起こす地帯が複数存在する。この規模の噴火が起きれば、川内原発も壊滅的な被害を免れない」と、その危険性が指摘されてきた。
 日本人が日本列島に住み着いたのは約1万年前だが、それ以前からこの火山列島では大地震や大噴火がくり返し発生してきた。そのもっとも巨大な規模での噴火が、「カルデラ噴火」(破局噴火)と呼ばれるもので、日本においては過去10万年の間に12回、発生したことが判明している。科学者はカルデラ噴火が起きると、周辺部の数百万人は火砕流のために即死し、日本列島に住む数千万人以上が分厚くたまった火山灰のなかで交通機関も食料もなく路頭に迷うことになると想定している。
 たとえば九州南方に起きた7300年前の鬼界カルデラ噴火では、九州を中心に西日本で栄えた先史時代から縄文初期の文明が途絶えてしまった。九州でこの時期の遺跡が発掘されないのはそのためだといわれる。
 火山学者は、このように日本を破局に追いこむようなとてつもなく巨大な噴火が将来、必ず起こると見ているが、この次にいつ起きるかについて予測できないことで一致している。それは一つの火山ですら噴火の間隔はまちまちであり、周期性があるとはいいがたいからだ。逆にいえば、いつ起きても不思議ではないのである。数千年に一度といえば純数学的な確率や通常の生活感覚では遠い世界の話だが、原子力発電所の設置やその廃棄物の処理となれば直接的な話になってくる。
 しかし、原子力規制委員会は昨年九月、カルデラ噴火の可能性を「十分低い」とし、「火山活動のモニタリングで前兆があれば、核燃料を運び出すなどの対応をとる」という九州電力の評価を「妥当である」といって、再稼働を容認する道を開いた。さらに、先月二七日には九州電力が示した川内原発の「保安規定」の内容も「妥当」だとして認可したことで、「最終的なゴーサインを出した」と、マスメディアによって報じられた。姶良カルデラに隣接する口永良部島で予測できない爆発的噴火が発生したのは、その2日後のことであった。
 火山学会は九州電力や規制委の判断には「科学的根拠がない」と批判している。なによりも、「現在の研究レベルでは巨大噴火の予知は不可能」で、「可能性が大きい」とか「小さい」とかを論じること自体がばかげているからだ。よしんばカルデラ噴火が予測されたとしても、原発の核燃料を取り出し運び出すという対処の方法すらないことは、福島原発の事故処理で右往左往している状況からも明らかである。
 藤井敏嗣東京大学名誉教授(気象庁・火山噴火予知連絡会会長)は、次のように発言している。
 「モニタリングで巨大噴火を予知する手法は確立していない。事前に原子炉の停止、核燃料の搬出をおこなうとしているが、間に合わない可能性が高い。それどころか、カルデラ噴火が起きると、周辺部の数百万人は火砕流のために即死し、日本列島に住む数千万人以上が分厚くたまった火山灰の中で、交通機関も食料もなく路頭に迷うことになる」
 「降下した軽石がびっしりと海岸線を覆うことになると、原子炉の冷却に必要な海水の取水ができなくなる可能性がある。海からの救援もできなくなる。また、火山灰が付着して送電線が切断することで、外部電源の喪失も起こりうる。大雨が降れば土石流も発生する。そうしたなかで原発だけが安全を保ち続けられる保証はない」と。
 川内原発以外にも、泊原発(北海道)、伊方原発(愛媛)、玄海原発(佐賀)がカルデラ噴火によって、火砕流に呑み込まれたと見られる地点に存在している。
 カルデラ噴火をめぐる論議は、最悪の事態を想定したものだが、問題は日本列島にひしめくように建てられた原子力発電所が、それよりもひん繁に起こる大噴火や小規模の噴火による災害にすら耐えられないことに端的に示されている。泊原発一つとっても、有珠山が大規模な噴火をした場合、風向きによっては大きな影響を受ける。また周辺には、江戸時代に活発に活動し、近い将来噴火の可能性が指摘される樽前山などの火山も存在している。
 富士山も、江戸時代の宝永大噴火(1707年)から300年以上経っており、いつ大噴火が起きてもおかしくないと見られる。それによって、浜岡原発が致命的な影響を受けることが指摘されている。専門家の間では浜岡原発は富士山の噴火だけでなく、南海トラフを震源とする巨大地震や津波の可能性とともに、「世界でもっとも危険な原発」であることは一致している。
 政府・電力会社、原子力規制委員会は、専門的研究者の科学的な批判を受け入れぬばかりか、「いまさらいっても遅い」とばかり、憎悪の感情をむき出しにして原発再稼働を至上命令とばかりに、戦争と同じように国民を破滅に導く再稼働の道を突っ走ろうとしている。自然科学の真理など足手まといになるといった調子である。
 それは、日本列島には今わかっているだけで活断層が2000カ所もあることや、これまで原発設計で想定されてきた地震加速度(ガル)の最大値をはるかに上回る激しい揺れが発生したことが判明しても、そのような真実に立ち戻って考えることを拒んできたのと同じである。子どもに「自然への畏敬の念」を強要する者が、巨大な自然への恐れを知らずにドンキホーテのように立ち向かうさまは、「滑稽」と見なすだけでは済まされない。国民の生命と安全よりも、営利追求を第一とする対米従属の支配機構と正面から立ち向かう陣形を築くうえでの知恵と覚悟が求められている。

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