大阪市議会は9日、市立高等学校など21校を2022(令和4)年4月に大阪府に移管する条例案を賛成多数で可決した。政令市が所有する公立高校の都道府県への移管は全国初。1500億円相当の土地や学校施設も府に無償譲渡する方針で、一律に府が進める学校統廃合のレールに乗せられることになる。府内では新型コロナ感染が過去最多ペースで拡大し、自衛隊に救援要請をしている渦中に、住民投票で否定された「都構想」の一部である市財産の放棄をやみくもに進める行政運営に市民の憤りは強い。
「なぜコロナ禍のいま?」 まともな説明もなく採択
市立高校の府への移管は、「大阪市廃止(都構想)」を政治課題とする「大阪維新の会」が首長ポストを握る大阪市と大阪府の間でとりまとめたもので、「都構想」が否決された住民投票後の11月27日に条例改正案を市議会に上程。まともな審議も保護者や生徒への説明もないまま、9日の本会議(全83議席)で、維新(40)、公明(18)の賛成によってスピード可決された。
大阪市の市立高校の数は全国最多で、商工業都市という特色から商業系や工業系の職業科を持つ高校が全体の約半数を占めている。近年では、橋下徹知事時代に「公立と私立の切磋琢磨を」と称して私立高校を含む授業料無償化(所得制限あり)を進めたこともあり、府内全域で進学を意識した普通科志向が高まり、就職の多い職業科高校の多くが定員割れを起こしていた。市立高校も徐々に普通科へ移行し、スポーツ・理数教育・英語教育に特化する方向にシフトさせてきた経緯がある。
一方、府立高校(135校)では、「府立学校条例」によって進学実績が学校評価の基準とされ、より高い実績がある一部の進学校に予算が重点配分されるようになった。実績が乏しく、3年連続で定員割れを起こした高校は、自動的に「廃校リスト」入りとなる。大阪市立の工業系高校は、明治40年創立の都島工業高、大正10年創立の泉尾工業高など歴史が古い5校があるが、いずれも定員割れが続いているため、市はこのうち3校を募集停止し、将来的に統合する計画案を8月にまとめている。
2016年に先行して府に移管された市立特別支援学校(全12校)の例を見ると、府市の教育委員会は移管前は「なにも変わらない」と説明していたが、移管後の5年間で一校あたりの教材費は半減から4分の1に削減、図書購入費も大阪市立の時代には年間50万円あったものが9万円程度に減額された。給食業務も移管後3年で完全民間委託され、調理員が全員退職して供給不能の危機に追い込まれた事例などが報告されている。移管の目的は、公立学校を「二重行政のムダ」と見なし、一括に整理統合することでしかない。
大阪市立は工業高校、府立は工科高校でカリキュラムが違い、市立は1年目から電気、機械、建築など専門性が分かれているのに対し、府立の1年目は総合的な専門学習で、2年目から専門科に分かれる。関係者からは「それだけ大阪市は即戦力となる専門性を重視した運営をしてきたからだ。まして商業系学校は府立高校にはなく、福祉学科も府にノウハウはない。何千人もの生徒や卒業生、保護者への説明もなく、基本的な教育内容を後回しにして、府への移管だけを決めること自体が大問題だ」「いまは定員割れしている技術系高校も、歴史的に大阪の産業を支える多くの人材を送り出してきた。ものづくり産業はたとえ数は少なくても途絶えさせてはいけないものであり、人材育成を欠かすわけにはいかない。目先の経済効率で拙速に切り捨てるのではなく、長期的な視野に立って社会に必要な人材育成をしていくことが公立高校の存在意義ではないか」との批判が渦巻いている。
また、無償譲渡される土地代は、路線価ベースで1500億円程度であるものの、不動産鑑定評価額では倍以上になったケースもあり、市民は3000億円相当の公共財産を失うことになると指摘されている。移管後、年間20億円の学校運営費を府が負担しても、その75倍に及ぶ時価1500億円もの学校不動産は府財政に組み込まれ、市民はその土地や施設利用の権限すら失うことになる。市民に信を問うこともなく、適正な対価もないまま公共財産を譲与することは、特定の利益のために財政運営を歪めることになりかねない。
対策怠った結果の感染爆発 政治目標優先した「維新」
目下、大阪府は新型コロナ新規陽性者が一日あたり300~400人規模で推移し、看護師などの医療スタッフ不足によって病床が確保できない状態に陥っており、府は自衛隊に看護官の派遣を要請する非常事態にある。行政トップを握る「維新の会」が、橋下徹元府知事時代から「看護師、保育士、給食調理員、警備員の給料が民間と比べて高すぎる」(橋下徹)との考えのもとで、公立病院や保健所を削減し、医師・看護師などの病院職員や公衆衛生にかかわる職員を削減してきたことも一因として指摘されている。市立病院と府立病院を「二重行政のムダ」として統合したうえで独法化し、コロナ禍にあった4月には住吉市民病院を解体。保健所とともに感染症対策を担ってきた大阪府立衛生研究所と大阪市立環境科学研究所も統合・独法化したことによって職員数が急減し、「地域住民の命と健康を危機から守る」使命が果たせないことに絶望した専門職員の精神疾患や離職が増え、現場では限られた職員による命懸けのコロナ対応が続いている。
10万人あたりの感染者数(1週間平均、12月1日時点)は大阪府が4人(大阪市6人)、PCR陽性率(同)は大阪府が8・8%(大阪市12・5%)で、東京都の3・2人、6・3%、北海道の4人、6・9%と比べても抜きんでている。大阪の陽性率は、世界最多の感染大国となった米カリフォルニア州での最盛期の2倍近くに相当すると指摘されている。
予測される「第三波」の到来に備えて対策を講じるべきであった10~11月にかけて、大阪市を廃止して府に統合する「大阪都構想」の住民投票実施を強行したことも、感染拡大と対応の遅れを招く一因をつくり出したことは明らかで、大阪府は10月8日から11月11日までの1ヶ月間、大阪市では5月22日から12月4日までの半年以上の間、新型コロナ対策本部会議が一度も開かれていなかった。
重症者病床の使用率は86%をこえ、コロナ重症患者用に新設した「大阪コロナ重症センタ―」(30床)では80人の看護師不足に陥り、コロナ専門病院に指定した十三市民病院でも医師や看護師の退職があいつぐなど各医療機関で人手不足が顕在化し、府は自衛隊に派遣要請をおこなった。9日には大阪府立病院機構「大阪急性期・総合医療センター」(大阪市住吉区)で入院患者や主治医ら13人の集団感染(クラスター)が発生しており、その深刻さは段階を画している。市民の存続要求を無視して住吉市民病院を4月に解体したことも仇となり、施設不足にも陥るなど、一連の「府市統合」路線による切り捨てが裏目に出たといえる。
また大阪府内では、公的補助金カットを要因として、関西最大の生徒数を誇ってきた府医師会看護専門学校が今年度から学生募集を停止し、2022年3月に閉校予定となっている。同校HPでは、公的補助の削減や停止、校舎の老朽化などを理由に挙げ、「将来にわたって教育活動を継続することは困難であるとの判断に至った」としている。また淀川区医師会看護専門学校も、看護高等課程を2023年3月末、看護専門課程を25年3月末で廃止する。
2017年には、府立病院機構が運営する「大阪母子医療センター」が新生児を搬送する専用保育器の購入資金をクラウドファンディングで募るなど、行政のコスト削減による公的医療体制の脆弱化が再三危惧されてきた。
医療崩壊といえる危機的状況は、「身を切る改革」と称して目先の政治目標やコスト削減の実績づくりを優先し、市民、府民の生命と生活を守る行政の責務を放棄してきた結果として表れており、早急に感染症対策の指揮権を医師や専門家に委ね、「府市統合」や2025万博その他のイベント予算をコロナ対策や医療供給のために充てることが死活問題となっている。