昨年から今年にかけて、全国各地の海にも山にも大規模風力発電の建設計画が次々と持ち上がり、驚いた住民たちが各地で反対する会を立ち上げて行動を始めている。東京に本社を置く大企業や外資系企業が、人口減少、少子高齢化に直面する地方をターゲットに、国が旗を振る再生可能エネルギービジネスにわれ先に殺到し、「風車列島」ともいえる事態をつくり出している。しかも風車の規模はますます大きくなり、洋上風力では原発1基なみの100万㌔㍗をこえる事業も目白押しとなっている。全国でなにが動いているのか調べてみた。
「1基9500㌔㍗から1万2000㌔㍗の超巨大風車を、海岸からわずか1・5㌔から2・4㌔のところに100基前後も建てるというのは世界に前例がない。2㌔内には病院や老人福祉施設、学校や保育所、居住地があり、ハタハタなど漁業への影響も大きい。人体実験場にされるわけにはいかない」
秋田県の由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会(佐々木憲雄会長)とAKITAあきた風力発電に反対する県民の会(金森信芳代表)は8月、1万筆あまりの反対署名と、すでに稼働中の陸上風車による健康被害を訴える20人からの聞きとり調査を添え、経産省や国交省、秋田県、由利本荘市に洋上風力中止の申し入れをした。
秋田県では「能代市・三種町・男鹿市沖」と「由利本荘市沖(北側)」「由利本荘市沖(南側)」の3カ所が今年7月、国の再エネ海域利用法にもとづく促進区域に指定された。この地域の洋上風力が総事業費5000億円ともいわれるなか、国から指定事業者に選ばれようとしてすでに11の事業者が名乗りを上げ、環境アセスを開始している【地図参照】。
名乗りを上げているのは、「能代市・三種町・男鹿市沖」では、
①大林組、関西電力、東北電力の合同会社、風車最大56基・最大総出力44万8000㌔㍗、
②中部電力と三菱商事パワー、同60基・48万㌔㍗、
③住友商事、ウェンティ・ジャパンなどの共同事業体、同50基・54万㌔㍗、
④日本風力開発、同172基・72万2000㌔㍗。
「由利本荘市沖」では、
①レノバ、東北電力などの合同会社、同88基・83万8200㌔㍗、
②RWEリニューアブルズ(ドイツ)と九電みらいエナジー、同70万㌔㍗、
③中部電力と三菱商事パワーとウェンティ・ジャパン、同105基・84万㌔㍗、
④日本風力開発、同83基・78万㌔㍗。
秋田沖ではその他に3事業者が計画を発表している。
そして最近、東京電力ホールディングスと中部電力が設立したJERA、電源開発、総合エネルギー開発エクイノール(ノルウェー)の3社が、この2つの促進区域での事業参入をめざして共同事業体を設立した。
しかし、こうした動きが起こっているのは5カ所の促進区域、4カ所の有望な区域、6カ所の一定の準備段階にある区域だけではない。まだ指定されていない地域でも、今後の促進区域指定を狙って事業者が動き出している。その一つ、北海道の石狩市では、国の促進区域に指定されることを前提にしてすでに6つの事業者が殺到し、環境アセスを開始している。
石狩市沖を狙う事業者は、
①グリーンパワーインベストメント、1万2000~1万5000㌔㍗の風車を最大80基・最大総出力96万㌔㍗、
②ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)、9500~1万4000㌔㍗×最大105基・同100万㌔㍗、
③JERA、8000~1万4000㌔㍗×最大65基・同52万㌔㍗、
④シーアイ北海道合同会社、200基・同100万㌔㍗、
⑤インフラックス、9500~1万2000㌔㍗×最大140基・同133万㌔㍗、
⑥コスモエコパワー、8000~1万2000㌔㍗×最大125基・同100万㌔㍗。
これに対し、石狩湾岸の風力発電を考える石狩市民の会は、巨大風車が低周波音・超低周波音をまきちらし、それによる健康被害は石狩市から札幌市中に及ぶとして、風力発電の建設をストップさせるためチラシ1万枚を作成して戸別配布している。また、石狩湾新港風力発電の建設を進めるグリーンパワーインベストメントが、コロナを理由に住民説明会を中止するなど住民にほとんど説明をしないまま、送電線の埋設工事を始めていることに注意を喚起している。
その他の大規模洋上風力の計画を含め、現在わかっている総出力10万㌗以上の計画だけを地図に示した。陸上風力の計画は多すぎて地図には書ききれない。北海道では、陸上と洋上をあわせると数基から100基をこえる風力発電建設計画が50カ所以上もあり、合計すると1300基以上建てる計画が動いている。四国ではすでに156基の風車が稼働し、加えて計画中の風車は323基にものぼるという。
中国地方では、山口県3、広島県3、島根県3、鳥取県3の陸上風力発電計画が動いている。広島県では、県西部の広島市佐伯区湯来町と廿日市市吉和地区、山県郡安芸太田町にまたがる山間部の尾根を中心に、電源開発が4300㌔㍗の風車を最大36基建てる計画を進めている。総出力は15万4800㌔㍗。地域住民が「中国山地の風力発電建設を悲憤する会」「広島西ウインドファームの風力発電を考える会」をつくり、地域への訴えを始めている。
また、熊本県水俣市では東京本社の3事業者――電源開発、日本風力サービス、JRE――が、同市山間部の尾根筋に、3450~4300㌔㍗の風車を合計64基(最大総出力26万㌔㍗)建設する計画を進めている。地元住民が「ちょっと待った! 水俣風力発電の会」「茶ん亀嶺な会」を結成。「計画地は住宅、学校などに隣接しており、騒音・低周波音による人や牧畜への深刻な被害がある」「水源地の山の大規模開発で、水資源の悪化や自然災害を誘発する」と問題点を指摘し、「海を殺し、人の生命や健康まで奪われた水俣。さらに山の恵みまで奪うのか。水俣に風車はいらない」と、計画の白紙撤回を求めて署名運動を始めている。
そのほか宮城県では、県内19カ所の陸上風力発電計画が同時に環境アセスメントにかかっている。
福島県では、大熊町や浪江町、川内村を含めた地域に、阿武隈風力発電事業(総出力15万6400㌔㍗)、阿武隈北風力発電事業(40万4200㌔㍗)、阿武隈南風力発電事業(17万5000㌔㍗)などの計画が進行しているが、それは「福島原発事故からの復興を世界にアピールするイノベーション・コースト構想」の一環だという。
政府がカネも場所も保証 電気の必要ではなくビジネスのため
このように全国各地の風力に事業者が群がるのは、政府が再生可能エネルギーを国策として推進しているからだ。
とくに洋上風力について、政府・経産省は2021年度から毎年約100万㌔㍗を新規に導入する目標を示している。これは「投資判断としては年間100万㌔㍗が少なくとも5~10年間続く必要がある」との財界の要求に応えたものだ。これによって現在2万㌔㍗である洋上風力の発電能力を、2030年までに原発10基分に相当する1000万㌔㍗、2040年までには3000万㌔㍗まで増やすとしている。
そして、政府は今年4月から再エネ海域利用法を施行した。それによって促進区域において国から指定事業者に選定されれば、30年間一般海域を占用することが保証される(現行の都道府県条例では3~5年)だけでなく、そこで発電する電気を20年間、高い価格で国に買いとってもらうことが保証される。その原資は、国民が毎月払う電気料金の中に含まれる「再エネ発電賦課金」だ。
そのなかで風力の市場から得られる莫大なもうけを手にしようと、東電をはじめとする電力会社や商社、石油・ガス会社、ゼネコンなどがあいついで参入している。
さらに最近の特徴は、投資会社をバックにした外資系企業が日本市場をターゲットに押し寄せていることだ。鹿児島県のいちき串木野市、南さつま市、日置市沖で進行している吹上浜沖洋上風力発電は、米国の世界最大手の資産運用会社から融資を受けた再エネ企業インフラックスが事業者だ。それも9500~1万2000㌔㍗の風車を102基建てる(最大総出力96万9000㌔㍗)という。現在、世界最大の洋上風力はイギリスのウォルニー・エクステンション(65万9000㌔㍗)だが、それを抜いて世界最大になる。インフラックスは佐賀県唐津市沖や北海道石狩湾沖でも計画を進めている。
また、同じく唐津市沖に60万㌔㍗の洋上風力を計画しているアカシア・リニューアブルズは投資会社マッコーリー・キャピタルの融資を受ける企業であり、山口県美祢・長門市や熊本県水俣市などで風力を計画しているジャパン・リニューアブル・エナジーは米ゴールドマンサックスが出資してつくった再エネ事業会社だ。国民が電気料金として払った金が、外国資本に巻き上げられることになる。
そのうえ、風力発電に必要なパーツは1万点以上といわれるが、すでに日立製作所をはじめ国内の風力発電機メーカーは市場から撤退しており、欧米市場では頭打ちになった外資系企業が日本を在庫処分の対象にしようと狙っている。
人間には優しくないエネルギービジネス
風力発電を含む再生可能エネルギーは「地球に優しい」「原発に替わるクリーンなエネルギー」と宣伝されている。だが風力は人間には優しくない。風力が稼働している地域ではどこでも、少なからぬ住民が健康被害に苦しめられている。
21基の陸上風力がある和歌山県由良町では、1990㌔㍗の風車から1・3㌔の所に住んでいた女性が、風車の振動で夜も寝られず、本を読もうとすると字が読めず、気分が悪くなり車に乗って遠く離れたコンビニの駐車場で仮眠をとる生活を強いられた。役場も病院も風車との因果関係を認めず、こうして苦しみながら死んでいった住民は多いと地元の人が訴えている。
日本だけでなく世界中で、風力発電による睡眠障害、頭痛、耳鳴り、めまい、吐き気などの症状を訴える住民が出ている。高血圧が悪化したり、心臓血管の病気が悪化する場合もある。原因は風車が出す、耳には聞こえない低周波音、超低周波音だ。人間の内耳器官や頭蓋骨、内臓、子宮などが共鳴振動を起こし、さまざまな症状を引き起こす。騒音と違って二重サッシでも壁でも防げないし、雨戸や襖、部屋全体が共鳴する場合もあり、転居以外に解決策はない。
尾根筋に建設される陸上風車は、森林を大規模に伐採し、巨大なブレードを運ぶために道路の拡幅もおこなうため、水源の汚濁や水量の変化、土砂災害の誘発を各地の住民が危惧している。洋上風力は海底を大規模に掘削しコンクリートを流し込んで土台をつくるため、潮の流れが変わり漁場が破壊されると漁師たちが声を上げている。「再生可能」といいながら自然を壊す、本末転倒した事業であり、地球にも優しくない。
また、風力発電は電気を安定的に供給するためのものでもない。風力は風速12~14㍍という、傘がさしにくく歩きづらいほどの風が吹くとき、はじめて効率良く発電する(定格出力)。風速3㍍以下のそよ風程度では風車が回っていても発電はできないし、風速25㍍以上の暴風雨になると自動停止し、羽は破損しないよう風に平行に向きを変える。風がなくても、強すぎてもだめという不安定な電源だ。だから風力の多い北海道電力や東北電力では、風の強い日は風力からの送電を停止している(解列)。風力は頻繁に変動するので、それにあわせて火力の出力を上げ下げするとよけい燃料を食うからだ。
というのも、電力系統は同時同量(発電量=使用量)でなければ大停電(ブラックアウト)を起こす。だから電力会社が年間計画、時間計画にもとづいて数分単位で調整している。この間、九州電力は太陽光の事業者とつながる送電線を切り離す「出力制御」を何度もやったが、それも太陽光の発電量が増えすぎて、火力では調整がきかなくなったからだ。不安定な電源である風力は、現状では電気の安定供給に貢献しないし、火力を減らせない。
そもそも電気はあまっている。多くの原発が停まったままなのに、休止中の火力が多いことがそれを証明している。
結局、外資をはじめとする大企業が先を争って風力発電をつくろうとするのは、CO2を減らすためでも、消費者に電気を安定供給するためでもなく、金もうけのためだ。金もうけのために、再エネには住民同意を得る法的規制がないことをいいことに、水面下で漁業権を持つ漁業者を買収して「地元同意を得た」として調査を開始し、市や県に促進区域に立候補するよう働きかける強引な動きが各地で起こっている。
地方を草刈り場にするな 各地で運動起こる
では、こうした国策を跳ね返す展望はどこにあるのか?
山形県の出羽三山に総出力12万8000㌔㍗の陸上風力を建設する計画をうち出していた前田建設工業は9月、計画の白紙撤回を表明した。そこには故郷を守るための政党・政派をこえた住民の立ち上がりがあった。
風力計画が持ち上がり、大学の教員が危険性を訴えると、出羽三山の山伏たちが立ち上がった。全国に何千何万といる出羽三山に修行にきたOBに連絡をとり、そこから一気に反対署名が広がった。同時に地元の有志が集まって「出羽三山の風車建設に反対する会」を結成し、8月31日に記者会見。羽黒町観光協会の呼びかけに応え、鶴岡市内の飲食店、農場、産直業者、たね屋、精肉店、養鶏場、寺院、理美容店、書店、漢方薬店、医院や整体院など100をこえる店舗・団体が一斉に名前を出して署名活動を開始した。それが鶴岡市長や庄内町長、山形県知事を動かして反対表明につながり、記者会見からわずか1週間で前田建設工業の撤退表明となった。
同じ前田建設工業が進める山口県下関市の安岡沖洋上風力発電も、住民の立ち上がりによって実質頓挫に追い込んでいる。7年前、前田建設工業が住民説明会を開くと、学者や医師が風力発電の健康被害を訴え、その内容が全市に伝えられた。安岡地区の自治会や医師会、漁業者、商工会、宅建協会が次々と市長に反対の陳情をおこない、風力反対署名が10万筆をこえるなか、市議会は風力反対の陳情を全会一致で採択した。反対する会は毎月の街頭活動や1000人デモ行進を旺盛におこない、漁業者は補償金の受けとりを拒否して風力反対を貫いている。
前田建設工業は、調査を妨害したといって反対する会の住民4人を裁判に訴え、裁判所は約1500万円もの損害賠償金の支払いを住民に命じたが、この事実が全市に知らされると、市民が続々と反対する会にカンパを寄せ、総額は1000万円をこえている。また、子どもも大人も1日楽しめる「安岡マルシェ」を何度も企画し、そこに出店したグループが売上を丸ごと反対する会に寄付するなど、困った時は住民同士の絆で助け合って乗り切ってきた。「企業のもうけのために住民生活を脅かすな」「安心して暮らせる故郷を子や孫に引き継ごう」を合言葉に、地域コミュニティの力を強めてきたことが、国策を跳ね返す大きな力になっている。