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海外移転が横行し激変する製造現場

 大学生や高校生など若者に就職先がなく日本国内で277万人もの失業者があふれるなか、自動車産業や半導体などの大企業が生産の海外移転を加速している。リーマンショック以後「円高だから」「日本の法人税や人件費が高い」と叫び、中国などアジア諸国に進出して莫大な利益を確保してきたが、それに飽きたらず「このままでは国際的な競争に勝てない」と主張し、ミャンマーやベトナムなど人件費が低い国へ進出。このなかで国内の工場閉鎖や売却、正社員の配転や首切り、派遣切り、下請や関連企業の倒産に拍車がかかっている。工業優先でさんざん農漁業をつぶしてきた大企業が、さらなるもうけ拡大のために地域を足蹴にして海外へ進出し、製造業もつぶし国をつぶす動きになっている。それは米国や財界が推し進めるTPP参加の先取りであり、「大企業の営利のために国をつぶすわけにはいかない」と憤りが渦巻いている。
 
 自動車の国内生産比率39%

 日産自動車九州やその関連工場が立ち並ぶ福岡県苅田町は、近年、新しい倉庫群が増えており、生産現場の労働者はつねに多忙状態だ。製造ラインの現場では「例年は8月8日から盆休みだったのに今年は12日まで仕事をした」「忙しくて先月から三菱自動車の人が100人応援に来ているが、トイレに行く暇もない」「若い人が増えて苅田町の幼稚園も保育園も定数があふれている」と生産は活況を呈している。しかし日産九州工場から、自転車や車で家路につく労働者の顔は土気色で疲れ切っている。
 地域住民の一人は「昔から日産を見てきたが、どう見ても生産が増え、車がよく売れて活気がある状態ではない。東北や関東に分散していた生産をアジアに近い九州に集約し、そのうえに人を減らしたから忙しいだけだ。工場内のラインも正社員が中国など海外に技術指導で派遣され、年年技術者が減っている。そのかわりに補充するのは派遣社員や中国人や女性パートだ。でも仕事はきついしいつ切られるかもわからず、相当ストレスがたまっているようだ。車やバイクのエンジンをブンブン噴かしたり、道ばたにゴミを散らかすから地域でも心配され問題になっている」と話した。
 日産は今まで神奈川県内の追浜工場や日産車体湘南工場でノートとキャラバンを作っていたが、この生産が九州に移ってきている。関東に比べ人件費が安いこと、アジア諸国からの低価格の部品調達をしやすくすることが理由だ。2011年度の九州の生産台数は59万台だったが2012年度は70万台に増える見通し。苅田地区は多忙化しているが国内全体は減産へ動いている。
 このなかで先月に発売された新型ノート(日産自動車九州で生産)は部品を中国、タイ、韓国で40~45%輸入することに踏み切った。関東圏からは15%調達していたが、いずれ九州・山口・アジアで100%をまかなう方向だ。日産経営陣は「国内に組み立て工場を残すため」と宣伝しているが、関東の工場は縮小してつぶしていき、九州の組み立て工場のなかも外国人労働者ばかりになりかねない。日本の若者を雇う気はないが工場は置き、消費税の還付金を受けとったり諸諸の優遇措置は受け続けようとする強欲な大企業の姿も露呈している。
 日産自動車九州の関係者は「リーマンショック後に部品工場などの海外移転が進み、正社員は切られ、下請企業もつぶされ、今は海外で現地生産された部品が入ってきている。下請大手のバンテックやみやこ産業が大きな倉庫を建てたのも海外の部品を調達するためで、地元や国内の企業は切り捨てる体制だ。そもそも九州を主力拠点にするということ自体が口先だけ。日産自動車九州はすでに日産と分離して生産子会社になっているから、いつつぶしても日産本体は痛くない関係。それにラインから正社員が減り、派遣や外国人労働者ばかり増えていくのを見れば、技術継承もできない。それが今後長年にわたって生産を継続していく体制でないのははっきりしている。国を捨てて本格的に海外に出ていくか、本格的に外国人を受け入れる準備としか思えない。このままでは海外の生産拠点が軌道に乗れば国内はスクラップになるし組み立て工場が国内に残っても日本の若者は職がなく地域は寂れていくだけだ」と話した。

 なにかあればすぐ生産停止 海外移転の脆弱性

 また海外移転による生産の脆弱性も指摘され「以前は簡単に生産停止など起きていなかったのに、最近はすぐ生産が停止する。タイで洪水が起きると生産停止、中国で尖閣問題の騒ぎが起きると減産。少し前は台風で海外から来る部品が入らなくなり生産停止になった。目先のもうけや人件費の安いところを追い求めて海外ばかり出て行くが、どこかで災害が起きれば、遠く離れた工場がすぐに止まる。安定生産を維持することもできない状態だ」と地域でも話題にされている。
 この海外移転の動きは自動車産業全体に広がっている。新規工場建設ではホンダがバングラデシュ、インド、ブラジルに計画。マツダはマレーシアで合弁企業を立ち上げる方向だ。スズキはインドの工場が暴動で一カ月生産停止になったことでミャンマーへの進出を検討している。すでにトヨタはブラジル、オーストラリア、メキシコなどへ進出し、三菱自動車もインドやタイに進出している。
 当然、自動車の国内生産は縮小し海外生産が拡大し続けている。2012年度上半期の国内自動車メーカーの海外生産比率はトヨタ=60%、日産=77%、ホンダ=73%、スズキ=64%、マツダ=30%、三菱自=48%、ダイハツ=21%、富士重工=26%。この乗用車8社の総生産台数は約1294万台で、このうち海外生産が795万台。自動車業界の海外生産比率は61%に達している。食糧自給率39%と同様、自動車製造も国内生産は39%に低下。自動車大手は車をアメリカに売るため農産物輸入の自由化を進めて食料生産を破壊してきたが、もうからなくなると国を捨てて海外に出ていき、製造業もぶっつぶす動きとなっている。
 海外移転の流れは自動車関連企業にとどまらず、半導体や家電メーカー、食品会社など全産業に拡大している。タイにハードディスク製造工場を持ちアジア進出を加速している東芝は北九州工場など三工場を閉鎖。1200人の配置転換を押しつけ、移動できない労働者は自主退職に追い込んでいる。最盛期に3000人を働かせていたエム・シー・エス(本社・下関、MCS)は来年3月で閉鎖。シルトロニック・ジャパン(山口県光市)も5月に工場を閉鎖し500人解雇している。
 さらにルネサスエレクトロニクスは3年以内に10工場閉鎖し1万4000人削減。そのほかTDK(来年3月までに7工場閉鎖、1200人配転)、SUMCO(来年度までに2工場閉鎖、1300人削減)、パナソニック(2工場閉鎖)、旭化成(千葉県館山市の工場を来年秋までに閉鎖、200人配転)、シャープ(工場を台湾の会社に売却し、1万人規模の人員を削減)などが次次に大リストラを打ち出している。
 その一方で最近、海外生産の拡大計画を表明した主な企業を見ると新日鉄、JFEスチール、富士ゼロックス、椿本チエイン、ヤマハ発動機、安川電機、日立製作所、三井化学、三菱重工、デンソー、パナソニック、大日本印刷、ダイキン、武田薬品、三陽商会(アパレル大手)、オンワード樫山、キッコーマン、アサヒ、日清食品など多様。進出先はベトナム、インドネシア、インド、韓国、ミャンマー、フィリピン、パキスタン、バングラデシュ、マレーシアなどアジアを軸に、南アフリカ、メキシコ、ロシア、ブラジル、ポーランドもある。世界中で人件費の低い国を物色している。
 アジア各国の人件費(一般工)は日本と比較すると韓国が2分の1で中国が7分の1。他の国はインドが9分の1、フィリピン=11分の1、タイ=13分の1、ベトナム=29分の1、カンボジア=46分の1、バングラデシュ=49分の1、ミャンマー=56分の1。最近はミャンマー進出を狙う企業が増えている。経営が立ちゆかなくなって工場閉鎖に追い込まれたわけではなく、営利追求でアジア各地を食い荒らして回る日系大手企業の思惑があらわになっている。
 日本全体の海外進出企業の動向をみると、海外現地法人の事業所は01年段階で1万2476社。それが9年間で6123社も増加し1万8599社(2010年度)になっている。海外生産をおこなう現地法人の労働者数は01年段階は317万5396人だったが、9年間で約182万人も増え、499万3669人(2010年度)に到達した。海外進出の裏で進行したのが日本国内の著しい疲弊である。
 こうしたなかで、外国人労働者流入の規制を取り払うTPP参加の動きが日米政府間で強行されようとしている。それは企業の海外移転と外国人採用を拡大し、農漁業生産がつぶされた上に製造業までつぶし日本の未来をつぶすことを意味している。製造現場では「大手企業の営利追求で国がつぶされるわけにはいかない」「地場の中小企業を中心に産業を保護しないと日本の未来はない」と切実に語られている。

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