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笹子トンネル事故 インフラ民間開放が招いた惨劇

 2日午前8時頃にNEXCO中日本が管理する中央自動車道の笹子トンネル上り線の天井が崩落し、9人が犠牲となる前代未聞の事故が起きた。その後明らかになったのは、中日本高速では同トンネルの打音点検をやっておらず、いわば起こるべくして起きたこと、事前に点検して整備すれば防げたはずの大惨事だったことである。利潤追求の結果、107人の犠牲者を出したのが2005年の尼崎事故(JR西日本)だったが、高速バスに乗れば人件費カットのツケで客が死ななければならない。爆発事故を起こして放射能汚染をまき散らした原発を見ても、「減価償却が終わってからがもうかる」といって耐用年数の引き延ばしや再稼働をはかったりする。公共性を否定し、日本社会にとって有益であるか、安全であるかを二の次にして、反社会的な企業利益だけを追い求めていく新自由主義改革路線の犯罪性が浮き彫りになっている。
 
 デタラメな日本社会を象徴

 今回事故が起きた笹子トンネルは中央自動車道の大月JCT~勝沼IC間にあるトンネルで、全長は約4700㍍と長い部類に入る。上下線合わせて1日で4万台の車両が通行する基幹道路となっている。1975年に完成し、37年が経過した老朽トンネルだった。建設当時から、トンネルの途中には200㍍もの破砕帯が存在していることや、工事の際には毎分6㌧の湧き水が出ていたことがわかっていた。事故後には、供用開始前の1976年に会計検査院が強度不足を指摘していたことも明らかになっている。
 他国よりも異常に高額な料金を払って走っている高速道路で、天井板が大量に崩落してきて下敷きになって殺される。「あれでは死んでも死にきれない」と、多くの人人が思いを強めている。身近にある老朽トンネルや老朽橋、道路が思い浮かぶほど、全国的にライフラインの更新が停滞し、明日は我が身の心境に駆られなければならないほど、普遍的な問題となっている。
 今回の事故では、上り線トンネルのほぼ中央部分で、天井に釣られていた重さ約1・2㌧もあるコンクリート板が270枚ほど、約110㍍にわたって崩れ落ちた。NEXCO中日本は、トンネルそのものの天井と天井板を支えている吊り金具をつなぐアンカーボルトが抜け落ちていたと明らかにしている。
 このトンネルは1年に1度の定期点検と、5年に1度の詳細点検を実施することになっていた。詳細点検がやられたのが今年九月だったが、よそのNEXCOでは打音点検をしているところがほとんどなのにもかかわらず、トンネルが完成して以後、一度も打音点検をしたことがなかったことも発覚した。NEXCO中日本では目視で済ませ、「異常なし」としていた。
 この「点検」を実施したのはNEXCO中日本のグループ子会社である中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京。子会社が「異常なし」とお墨付きを与え、親会社が「よし」とする関係だった。実際に、中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京は事故の2日前にもトンネルの天井板を「点検」し、中日本高速に「異常なし」と報告していた。車の助手席からトンネル内部を目視する「日常点検」をやり、電灯が切れていないかを確認し、天井板が傾いていないかも調べたといっている。1カ月に10回ほど、こうした「日常点検」をおこなっていた。「異常なし」の空手形が乱発される構造だったことを物語っている。
 事故原因についてNEXCO中日本は、老朽化と東日本大震災による外圧の可能性などを説明したが、築40年近いトンネルで、しかも富士山周辺でも地震活動が活発化しているなら、なおさら厳密な点検なり整備が求められるのに、安全性を確保するための対応はまるでしていなかった。コンクリート部分の経年劣化や錆び、ひび割れなら打音検査をしていれば発見できた可能性もあったが、放置され続けた挙げ句崩落の大惨事にまでつながったのだ。「安全」と豪語していた原発が爆発したのと同じように、「異常なし」すなわち「安全です」を企業の経営的な都合で塗り固めていたなら、今回の事故は人災であり、JR宝塚線脱線事故を引き起こしたJRと同じように殺人経営といわなければならない。

 放置される老朽施設も 修繕の財源なく

 国土交通省が事故後に全国の高速道路やトンネルについて調査したところ、笹子トンネルと同型の吊り金具によって天井板が支えられたトンネルが49カ所あることが明らかになった。さらに、日本全国に築40年のトンネルが3200本、築30年が経過したトンネルが4800本あり、こうした老朽トンネルを修繕したり整備するための財源がなく、耐震化にせよ放置されていることも露呈した。トンネルだけでなく、橋も新規建設ばかりに夢中になり既存設備が次次と老朽化し、渡ることを禁止された状態のまま放置されているものが全国で1400カ所近くにのぼっている。
 総選挙では、「国土強靱化」で200兆円の公共事業をやるとぶち上げているのが自民党であるが、長年新規に作ることだけに熱を上げ、作れば作るほど膨大な維持費がかかるのに、後は野となれで突っ走ってきた。歴史的な解明とあわせて、反省のない「国土強靱化」の中身についても、改めて注目を促すものになっている。

 小泉構造改革で民営化 道路公団

 高速道路について見てみると、小泉構造改革によって道路公団が2005年に民営化され、NEXCO各社に引き継がれて7年が経過した。この間サービスエリアの派手さが競われ、客に金を落とさせる商業的な仕組み作りだけは力がこもっていた。サービスエリアに企業を参入させ、休憩所はデパートやショッピングモールのような形態が広がり、不動産業によってNEXCO各社はもうけを増やした。加えて世界的にも高額な通行料はそのまま維持された。しかし一方で、肝心な道路・トンネルの安全性がないがしろにされてきたことを問題にしないわけにはいかない。
 道路公団そのものは、運用資金である特別会計は黒字会計が続いていたが、小泉首相時代に「巨額の赤字を隠している」と大騒ぎをして解体し、民営化していった。その後、新規の高速道路建設や投資を押しつけられながら、企業経営としては黒字化をはからなければならないため、サービスエリアの不動産業に走ったり、安全のためのメンテナンス予算を削減することにつながったのが指摘されている。
 「小さな政府」路線、すなわち新自由主義改革によって公共性のある自治体業務や施設の管理運営などを軒並み民間開放し、企業の利潤追求や競争性に委ねる動きが、行政の現場でも活発になっている。「財源がない」を錦の御旗にして、市町村の体育館や運動公園、図書館運営利権など枚挙にいとまがない。その結果、人件費カットでワーキングプア状態はますます広がり、公共性と切り離れた企業管理のもとで過重労働が横行するようになった。国鉄民営化で誕生したJRは効率経営で大量殺人走行までする。郵政民営化は350兆円の国民資産を米国外資に投げ売りしようとして、こちらも効率経営のおかげで職場は大混乱となった。
 反社会的な姿をもっとも暴露しているのが原発事故後の電力会社で、電気という人人の生活にとって必要不可欠な事業を独占しながら、原発再稼働のためには計画停電で国民生活を脅しつけたり、料金値上げで揺さぶりをかけている。老朽化して稼働年数が長い原発ほど、建設費用は既に回収済みで丸もうけだからである。
 笹子トンネル事故は、こうした国民の生命、安全など知ったことかという、デタラメな日本社会の状況を象徴する惨事となった。政治状況としても右傾化が台頭し、尖閣問題を機に日中戦争の火の海に投げ込むことに躊躇がない連中があらわれている。国民生活をないがしろにし、ひたすら米国追随で売国をやる無責任さとも共通の根源となっている。

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