防衛省による沖縄県石垣市への陸上自衛隊ミサイル部隊配備計画の賛否を問うため、住民らが市内有権者の四割に及ぶ請求署名をもって住民投票の実施を求めたにもかかわらず、市当局が実施しないことは条例違反であるとして住民投票の義務付けを求めた訴訟の判決公判が8月27日にあり、那覇地裁(平山馨裁判長)は門前払いともいえる請求却下の判決を下した。
石垣市(人口約4万9000人)では2018年10月、住民の頭越しに進められる平得大俣地区への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票を求める署名活動がとりくまれ、若者たちを中心にした「石垣市住民投票を求める会」が1カ月間で市内有権者の4割近い1万4263筆(有効署名総数)を集めて市に提出した。
住民投票は通常、地方自治法に則っておこなわれるため、市内有権者の50分の1の署名によって条例案が提出でき、議会の可決を必要とする。ただし、石垣市は2009年に「市民自治によるまちづくり」を趣旨とした自治基本条例を制定しており、住民投票については「(市内有権者の)総数の4分の1以上の者の連署をもって、その代表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる」(28条第1項)とし、「市長は第一項の規定による請求があったときは、所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならない」(4項)と定めている。
自衛隊配備の賛否を問う住民投票を求める署名は、法定数を大きくこえる数となり、市長の実施義務が問われたが、中山市長は「自治基本条例には不備がある」として地方自治法を根拠に議会に付議し、昨年2月に議会は反対多数(賛・反同数による議長決裁)でこれを否決した。今年3月には、市議会は陸自配備予定地の半分を占める市有地を防衛省に提供する案を可決した。
住民らは「住民投票を実施しない不作為は条例違反である」として昨年9月に那覇地裁に提起し、市側の不作為の違法確認と住民投票の義務付けを求めていた。
那覇地裁は判決で「いまだ具体的に定められてもいない投票日の告示の前日よりも前の段階では、有権者という法的地位自体も不確定」であり「不安定で間接的な法的効果をもたらすにすぎない本件住民投票の実施過程を包括的に捉える形で抗告訴訟の対象とすること」は「行政事件訴訟法の法意に照らして想定されているとは解されない」などとのべ、「原告らの訴えはいずれも不適当」として請求を却下。争点となる内容には踏み込まないまま門前払いとし、有権者の約4割に及ぶ請求署名を無視する市側の違法行為を不問に付す国策判決となった。
石垣住民投票訴訟原告団と弁護団は27日、声明で「本判決は、住民投票によって政治的意思を表明する権利を奪われ続けている石垣市民、とくに住民投票の請求をなした請求代表者や署名の主権者としての権利を蔑ろにするもの」であり、「民主制の過程が害されていることから、司法が人権救済を図らなければならない局面であるにもかかわらず、裁判所が人権救済の最後の砦としての役割を放棄するものであって、司法権をつかさどる裁判所としてあり得ない判決であるというほかない」と判決を批判した。
さらに「本判決は、住民投票の実施義務についての実体判断から逃げたもの」であり、中山市長が住民投票実施義務を負っていることを否定するものではなく、「石垣市の憲法である石垣市自治基本条例の規定からすれば、市長が住民投票実施義務を負っていることは火を見るよりも明らかである」とし、「我々は、石垣市の有権者の3分の1(37%)の署名を集めて請求された石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票を実施させ、憲法上も極めて重要な政治的意思を表明する権利の実現を図るために、引き続き、全力で取り組む所存である。我々は決して諦めない」と今後も争う決意を示している。