米軍原子力空母4隻の艦内で新型コロナウイルスの感染があいつぎ、7つの海を徘徊し世界に睨みを効かせてきた米軍の「即応体制」の危機が叫ばれている。また、在日、在韓の米軍基地でも感染が広がっている。歴史的に、米軍がウイルスの感染源となった、あるいはその疑いのあるパンデミックは少なくない。そのなかで、とくに在日米軍基地が治外法権のもとで日本の検疫体制をすり抜けてきたことが、重要な問題として浮かび上がっている。
空母セオドア・ルーズベルトではベトナム寄港後に集団感染が発生し、4800人のうち感染者が少なくとも200人をこえたと伝えられる。空母艦長がその窮状とともに乗員を下船させて隔離するよう米軍幹部に訴えた文書を、外部メディアなどにも伝えた。それに対して「秘密漏洩」を理由に艦長を解任したモドリー海軍長官代行が、社会的な批判を浴びて辞任する事態になっている。
艦長が解任されて下船するとき、空母の任務につく米兵が部下を守ろうとした艦長の行動を連呼で称える様子がSNSに投稿されるなど、海軍の指揮系統の崩れも露呈した。乗組員を全員検査し、艦内を消毒する作業が必要になるため、ルーズベルトは長期的に稼働できないと見られている。
そのルーズベルトの後釜として、アメリカからアジア・太平洋に出航するはずだった空母ニミッツでも感染者が出たことが判明した。日本の横須賀と米西部ワシントン州にそれぞれ停泊中の空母ロナルド・レーガンとカール・ビンソンでも感染者が出ている。各空母が時を同じくして新型コロナ感染に見舞われたことは偶然ではなく、早くから米軍内に世界規模で深刻な感染が広がっていたことを示すものだ。
米国防総省は先週、同省の傘下にあるすべての軍事基地および部隊に対し、コロナウイルスの感染者、犠牲者に関する統計の公表を禁じた。在韓米軍は8日時点で、新型コロナウイルス感染者数が21人になり、エイブラムス在韓米軍司令官が、「緊急事態が発生している」と発表した。しかし、空母と同様、その中身は覆い隠されている。
在日米軍基地をめぐっても、横田基地の在日米軍司令部のシュナイダー司令官が6日、横田・横須賀の主要基地を含む関東全域の米軍基地に「厳格な感染症対策」を求める緊急事態宣言を発表した。横須賀市は、米軍横須賀基地に勤務する日本人労働者が感染したことを明らかにしている。
沖縄の米軍嘉手納基地は、2人の米兵とその家族1人の新型コロナウイルス患者が発生したと発表している。2人が海外から帰って感染がわかったというが、その性別や年代、居住地が基地内か基地外か、帰国後の行動については伏せている。したがって、沖縄県民への感染の影響はわからないままである。
米軍、とりわけ在日米軍基地内での感染の拡大と「非常事態宣言」は、「日米地位協定」のもとで主権を奪われた日本の検疫体制の大きな抜け穴を暴露することになった。日本政府は、世界最多の感染国となったアメリカを入国拒否の対象に指定し、「水際対策を強化している」といっている。しかし、米軍基地を通して国内外から自由に出入りするアメリカ人への検疫はまったく開けて通されているのだ。
在日米軍基地が基地の街はもとより、全国への感染源として存在していることは確かである。こうしたことは、2009年に日本でも全国的にまん延した新型インフルエンザの流行が沖縄から始まったことを思い起こさせる。
新型インフルエンザは、メキシコでブタからヒトに感染して発生したといわれた。しかし、後にアメリカの養豚業者がメキシコへ持ち込んだことが判明した。日本では5月のゴールデンウィーク時に第一波が報告され、現地からの帰国者を成田・関西・中部空港で、「水際作戦」をとり、隔離措置などによって食い止めていた。しかし、夏になって、国際空港がなかった沖縄で感染が発生し、急速に全国に流行が拡大した。これは、疫学的に見て、米軍施設が新型ウイルスの感染源となったと考えるのが正しいといわれている。
スペイン風邪も米軍発
人類史上最悪のパンデミックといわれた100年前のスペイン風邪(インフルエンザ)は、アメリカのカンザス州にあるファンストン陸軍基地の兵営から広がったことが判明している。1920年までの約2年にわたり、当時の世界人口の3割に当たる5億人が感染し、そのうち2000万~4500万人が死亡した。当時は第一次世界大戦の真っ最中で、アメリカがヨーロッパに大規模な軍隊を送ったことで、ウイルスが世界中に拡散した。
感染症専門家の押谷仁・東北大学教授は『パンデミックとたたかう』(岩波新書、2009年)で、歴史的にみてアメリカが「いわば“最大のウイルス輸出国”であるわけですが、そのことに対してほとんどの国は何も言わない」「何かを言っているのは中国ぐらい」だと発言している。また、新型ウイルスが始まるのは途上国で、広がりやすいのは先進国との見方は正しくないことを強調していた。それは世界保健機構(WHO)の機能が、「途上国に対しては強いプレッシャーをかけられるけれども、先進国はそれぞれの国に委せるしかない」という現実にもあらわれているという。