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「シンポジウム AIとゲノム編集・ビッグデータを考える」 

 東京都墨田区の江戸東京博物館で16日、ゲノム問題検討会議が「シンポジウム AIとゲノム編集・ビッグデータを考える」を開いた。近年、人工知能の技術の進展が急速に進み、囲碁などで世間をにぎわせる一方、膨大な個人データの解析にAIが利用され、国はマイナンバーや健康保険や免許証などとつなげた個人管理、企業は情報を利用した金もうけへと法改正を経ながら進んでいる。ゲノム技術及びAIによって監視される対象は個人だけにとどまらず、家系や未来にまで広がっている。科学や研究者の使命も問われるなかで、このような動きに関心をもった研究者や市民などが参加した。シンポジウムのなかから理化学研究所栄誉研究員で東京大学名誉教授の甘利俊一氏、ジャーナリストで市民バイオテクノロジー情報室の天笠啓祐氏の講演要旨を紹介する。

 

◇ 人工知能と社会  理化学研究所栄誉研究員 甘利俊一

 

 4、5年前頃から人工知能のことが毎日毎日メディアに出るようになり、もしも機械が人間の知的能力をこえることが起こってしまったらどうなるのだろうか、という話もある。ひょっとすれば産業構造がすっかり変わってしまい、人類の文明や文化がすっかり変わってしまうかもしれない。では、われわれはなにをすればいいのか。

 

 これまでも技術は社会の構造を変えてきた。今問題になっているのは生命技術と情報技術だ。生命技術とは遺伝子編集で、人間そのものを変えてしまうかもしれない。もう一つの情報技術は人間の心に関係する問題だ。情報はテレビや電話などの伝達にとどまらず、人間の心の領域まで割り込んできた。この二つはある意味恐ろしい技術である可能性があり、果たしてこれでいいのだろうか。注意深く見ていかなければならない。

 

脳―人間とはなにか

 

 われわれ人間は思考し、言語を使い、意識によって文明・社会を築いてきた。実はそれらは全部脳が生み出したことだ。脳とは何なのか。知能を宿すものがどうやってできたのかを明らかにしていきたい。

 

 まず、138億年前にビッグバンが起き、50億年ほど前に地球という星が生まれ、約40億年ぐらい前に生命という物質があらわれる。生命は自分の構造を情報として持っていて自分を再生産する能力がある物質だ。一度できてしまうと自己再生産するのでどんどんはびこり、進化もする。また、ときどき構造が変わってしまう。つまり自分の持っている情報を変えてしまうのだが、情報が変わってつくったものが前のものよりも環境に対して強靭で生きやすければそちらがどんどん自己複製し、古い方はどんどん劣勢になって滅びていく。単細胞生物から出発した生命が集まり、進化して1億年ぐらい前には恐竜がはびこり出したが、6500万年前に巨大隕石が落ちてきて恐竜は絶滅した。そのなかでしぶとく生き残ったのが哺乳類だった。それがだんだんと進化してついにサルになり700万年前に人類が登場した。

 

 物質の法則は普遍的に存在していて、世の中の動くものはみんなこの支配下にある。これは間違いないのだが、情報と物質がおりなす進化の法則、それは生命の法則だ。これは物理学にはない。さらにわれわれ人類の文明の法則もある。人間が心を持ち、意識を持ち、それがどう発展していくのかは物理学には還元できないし、生命科学にも還元できない。むしろ文化としてわれわれが考えていかないといけない非常に大きな問題ではないか。

 

人工知能の開発の歴史

 

 脳にはニューロン(神経細胞)が1000億個ある。1個のニューロンは1000から1万のほかのニューロンと結合しており、巨大な回路になる。1950年代になってコンピューターが実用的に使えるようになりかかってきた。そうなってくると学者たちが、コンピューターが論理をあつかえるならば人間の知的な動作もコンピューター上で実現できるはずだと色めきたった。例えばチェスを指したり、数学の定義を証明したり、小説を書いたり。

 

 その後、コンピューターにプログラムを入れるのもいいが、人間の場合は脳で学習し人間が成長する過程で知的機能を獲得する。だから人工の脳のモデル、つまり人工の神経回路網をつくって学習させれば知的機能もそこに出現するのではないか、ということが語られるようになり、一大ブームを巻き起こした。しかし当時のコンピュータではそれを実現させるだけの力はなく、うまくいかなかったが、人工神経回路網の構想は当然残った。

 

 それから20~30年遅れてもう一度ブームが訪れる。人工知能ももう少し地に着いたエキスパートシステムの知識をコンピューター上に入れて、診断させることをやってはどうかということだ。しかしこれも数年で終わってしまった。

 

 今、第三次ブームといわれている。これは2000年代に入ってコンピューターがさらによくなったということもあり、2012年ごろから画像認識の業界ではいろんな画像をデーターベースで大量に読みとらせ、「そこにいるのはなにか」を当てるコンクールがおこなわれてきた。どういうプログラムを使ったら間違いなく人間並みの認識ができるかというものだ。さらに2010年代、その分野にニューラルネットワーク(人工回路網)をつくり、それに1000万枚のデータをすべて学習させた。そうすると神経回路網が計算して「これは犬だ」と認識する。しかも「犬」だけでなく「ブルドッグという犬種だ」ということまで当てるようになり、ついに人間よりも認識率が良くなってしまった。画像だけでなく、音声認識やいろんなパターン認識の分野で人間よりも性能のいい装置がどんどんあらわれるようになってきた。

 

 さらに衝撃だったのは囲碁で、プロにコンピューターが勝つようになってしまった。これはパターンの認識によるものだ。深層学習(ディープラーニング)することで機械翻訳や言語生成などもある程度できるようになった。これは大変脅威だ。考えてみれば人間が脳でやっているのだから神経経路網でできないはずがないが、同じような脳を持っていても犬やネコやサルにはできない。

 

 1個のニューロンをとり出すと図のようになっている。1個のニューロンでさえ複雑な形をしており、これが1000億個積み重なって脳になっている。細かいことまではいえないが、脳は入力情報(x)がきたら、ある部分で処理し、処理した情報をさらに高次の部分で処理し、さらに高次の部分に行き決定(z)を出す。もちろん一方通行ではなくフィードバックという情報の逆流も当然あって、たいへん複雑なシステムになっている。では脳はなにをしているのかを簡単にいうと、1個のニューロンは他の細胞からの情報を受けとって、それを総合して自分の答えを出す。総合の仕方は情報を足し算するだけだが、足し算するときに「これはw1、これはw2」と重みつきの足し算をやり、しかもなかにはマイナスのものもあって引き算もしながら答え(z)を出す。これを複雑に組み合わせたものが下図だが、入力(x)があれば神経のなかで情報を隅に移しながら答えを出す。それで万能計算機械ができるはずなのだということだ。とくに2010年からこの深層学習(層をたくさん集めた神経回路網)を使って、非常に大量のデータを学習できるようになった。正解が分かっているので間違っていたらそれに合うほうに重みを少しずつ変えていく。これで人間よりも性能のいいパターン認識装置ができあがった。

 

 では、よほどすごいことをやっているのかというと、実は神経回路網は学習データから実験式をつくっているにすぎない。それは間違いなく役に立つが、なぜそういうことが起こっているのか、どういう計算をしているのかはまったく教えてくれない。彼らはたくさんのデータを集めて計算式をつくっている。式が非常に複雑なので、なにをやっているのか、原理的なことがわからない。そして人間は探究心を持っているので、実験式にとどまらないでその奥にある原理を理解し、全体の構造を明らかにしようとする。それがわれわれの探究心であり理性だ。さて数理脳科学をやっているが、脳がこんなにうまく働くのは一つは神経回路網が頭のなかにあるからだが、その原理をわれわれは解明したい。そのためには本当の脳を調べていけば脳がなぜこんなにうまく働くかがすぐわかるではないかというのが必然な考え方だが、なかなかそうはいかない。それは、脳は進化の結果できあがってきたからだ。

 

 今ある脳は昔の痕跡が山ほど入っている。生物学としてはそれがおもしろい。しかし情報の原理を調べようとすると、そういう「ごみ」は邪魔になる。だから、数理で単純なモデルを使って、神経細胞のようなものをつくるネットワークがどう働くのかを原理で明らかにしたいというのが数理脳科学だが、そううまくはいかない。

 

AIは心を持てるか?

 

 われわれは意識を持っていろいろな作業をこなしている。意思がどうやってできたのかは、人類が共同作業をするなかで自分のやろうとしていることを相手に伝えなければうまくいかず、相手に伝えるためには自分が自分でやろうとしていることを知らなければできない。自分がやろうとしていることを自分で知り、それがいいことなのかどうかを考えてみることができる。また、自分の意図を相手に伝えるために言語を使うことができるし、論理が生じる。

 

 では意識はどう生じるのか。リベットという神経学者が、回っている時計の秒針を針を止めたいところで被験者に止めてもらう実験をした。それにより実際に止めることを決めたときよりも前に意識が決めていたことがわかる。

 

 私たちは意識しないで仕事をすることも多い。歩くときなど、「歩く前に足を踏みだそう」など思わない。しかし、つるつるに凍った斜めの路面ではどうだろうか。一歩一歩意識して歩く。これは意識的にやらないとできない。大事なことは意識にのぼらせて、実行前にそれでいいのかどうか反省してみることができる。そのときに氷の性質、過去の経験などいろんな情報を集めてくる。もし悪ければとり消し、よければ正当化もする。人工知能はまったく意識をもっていない。ただ計算して答えをわれわれに出し、それをわれわれが実行するだけ。将来人工知能が脳に学ぶべきことがあるとすれば、心や意識、記憶の仕方だろう。

 

 さて、人工知能が発展し心を持ったロボットがつくれるのかは今も大問題になっている。つくりたい人もいるが、ロボットを設計するときに、人の心の動きを法則として知っていないとロボットは人間とは付きあえない。これはそんなにむずかしいことではないが、それはロボットが心を持つということとは違う。人間の心は、人間が社会生活を送るなかで相互に協力しあい、共感をし、高い使命感を持ったりするところからできており、それはある意味で不合理、不条理で、ロボットからすると「無駄」だ。ロボットは、心の動きは理解しそれにあわせもするが、全部合理的に判断する。喜んだふりはするかもしれないが決して喜んではいない。われわれは喜んだり悲しんだり、頑張ったりして一生を送るが、ロボットは壊れれば部品をとり替えてグレードアップすればいいので、そんな考えは持ちようがない。

 

AIは人間を超えるか

 

 今の人工知能は高度な実験式をつくることであれば役に立つし、社会の構造を変えるかもしれない。では人工知能は暴走しないのかだが、それは人間が暴走するからだ。今人間は暴走している。人工知能の研究がこんなに進むのは、企業も国家も金もうけになるからだ。逆にこれに力を入れなければ落伍してしまう。それで力を入れている。戦争をしようとすれば、人工知能ほど安上がりに戦争できるものはない。人間だと人を殺すのにためらいを感じるが、人工知能は心がないのでためらいはない。アメリカではもう実用化されており、CIAがドローンを使って人をどんどん殺している。人工知能が悪いというよりはそれを育てる社会がいったいどうなのかだ。

 

 非常に理想的な絵を描けば人工知能によって生産力が上がったり嫌な仕事はしなくて済むようになるかもしれない。「今までの産業革命でも仕事を機械が代替することによって人類の生活レベルは上がってきたではないか」「これからさらに人工知能がいろんな仕事をやってくれればいいではないか」というかもしれない。そうすれば間違いなく人工知能が人から仕事を奪っていく。そのときにどうしたらいいのか。やはり人間は社会のために働くこと、使命を持ち仕事をし自分の能力を高めること、ここに生きがいと喜びがある。これを奪ってしまってはいけない。だから、人工知能がもっと進んだ社会では人々の仕事をどんどんつくりださなくてはいけない。

 

 みなさんが気になるのは、人工知能の技術的特異点(シンギュラリティ)ではないか。人工知能が人間の知能をこえるのが2045年ということだが、こんな時代になると人工知能が人間よりもはるかに進歩するので、技術開発も数学の定義の証明もみな人工知能がやってくれる。人間はやらなくていい。では人間はなにをするのかということだが、そのうち人工知能は人間が無駄で邪魔になるというのがよくSFに出てくるストーリーだが、このようになるのかというと、ならない。意識を持ち、使命感を持ち、社会のなかで協力する。人間は進化の過程で何千万年かけてこれをつくりだした。人工知能は人間が設計するので、人工知能がいくら学習してもそのような探究心、目的意識は持てない。つまりシンギュラリティは起きるはずがない。

 

 しかし人間はすばらしい反面で非常に愚かだ。人工知能という技術を手に入れたとして、なにをすべきなのか。われわれは民主主義と自由、平等という価値観のうえに社会を築いてきたが、すさまじいまでの格差を是正できていない。人類の教育レベル・知的レベルをもっとあげた社会のうえに民主主義、自由と平等を実現していかなくてはならない。日本は超大国だから人工知能で巻き返して覇権をとり戻すといっているが、ありえないことだ。日本はもっと日本独自のすばらしい文化を築いていかなくてはならない。それはもちろん人工知能の基本原理を解明することでもいいし、科学だけでなく、文化として日本の科学技術、芸術をどう築いていくかが問われている。

 

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◇ 5G・ビッグデータ・ヒトゲノム 

 

           市民バイオテクノロジー情報室代表 天笠啓祐

 

 5G、ビッグデータ、ヒトゲノムというテーマでお話をするが、5G問題はクローズアップされてきていろんなところで話がされるようになってきた。しばらく前まではほとんど関心がないテーマだったが、最近は関心が強くなってきたテーマではある。

 

 私が大学を卒業したとき、就職先がまったくなく、最初に就職したのが製薬メーカーだった。そこで薬を販売するいわゆる「プロパー」になった。病院回りをしていたが、そのときにポケベルを持たされていた。ポケベルはこちらからは電波を発信せずに受けるだけのもので、建物の中や地下などでは鳴らない。しばらくすると携帯電話やPHSも出たが、最初のころは同じように電波の通りが悪かった。この最初に出てきた携帯電話を1G(1世代)といい、これがアナログの時代だ。しばらくして電波がデジタルになり、アナログのときは滑らかな電磁波だったのがデジタルになると電波が角型になる。アナログとデジタルでは健康への影響が全然違う。これが2世代目。3世代目からはスピードとか容量が大きくなり、そのレベルによって、3G、4G、5G、6Gという。

 

 今、科学技術が危ない方向になってきたとすごく感じる。とくにバイオテクノロジーの世界でいうと、ゲノム編集技術の登場とiPS細胞。この二つが組みあわさって大変な領域に入ってきたと思う。とくに動物性集合胚が登場し、認められた。これは動物に人間の臓器をつくらせるというもので、いってみれば人間と動物の雑種づくりが認められた。人間と動物の雑種づくり、iPS細胞を使うので、本当の意味で「キメラ」ではないが、キメラに限りなく近いものが認められた。iPS細胞で心臓をつくる細胞を動物に入れ、動物に人間の心臓をつくらせるというようなことまで始まる。

 

 ゲノム編集の場合は自由自在にゲノムを編集できるというのがキャッチフレーズになっている。ゲノムはすべての遺伝子を指すので、すべての遺伝子を自由自在に編集できる。今は遺伝子を壊す(成長を抑制する遺伝子を壊す)ことによって、成長が止まらない生物をつくるようになっている。いろんな遺伝子がわかるようになったことで、編集ができるようになった。これは本当にいいのだろうかとバイオテクノロジーが始まったときから思ってきたことなのだが、人間はどこまで生命の操作に深入りしていくのだろうか。

 

 今いわれている「スマートシティ」は、5Gで管理されている社会だ。先日テレビで中国の深というところを見たのだが、人間がこれほど管理されている社会があるのだとびっくりした。どこをだれが歩いているのかみな管理されている。

 

 今回、新型コロナウイルスの問題が出たとき、監視カメラがマスクをしていない人を見つけ出しマスクをするよう命令したことが話題になった。これがいわゆるスマートシティだ。

 

 管理社会化がここまで進行した社会というのはこんなになるのかと思ったが、日本もそうなりそうなので心配している。そしてこれはある意味では電磁波の危険性の増幅でもある。今までの1G、2G、3G、4G、5Gという世界ではデータ量を多く使うと周波数を上げなくてはいけなくなる。周波数が上がれば上がるほどエネルギーが強くなるので当然のことながら電磁波による影響は強くなる。しかも社会の脆弱化が進んでいくことになる。

 

 たとえば電磁波の問題でいうと、マイクロ波、ミリ波、サブミリ波のレベルがあり、それがさらに周波数が高くなると赤外線になって、環境中にある電磁波に限りなく近づいてくる。たとえば5Gで使うのはマイクロ波だが、家庭の電子レンジで加熱する電磁波と同じだ。これは水分子を振動させて加熱する。これがどういうことを意味するかというと、環境中の水と反応して電磁波が通りにくく、非常に近い距離でしか交信できないのであちこちにアンテナを立てることになる。当然のことながらすごい電磁波の被曝の問題が起きてくる。また木などがあれば電磁波が通りにくく誤動作が起きたりいろんな問題が起きやすくなる。社会すべてに網の目のようにアンテナを立てる社会をつくろうといっているのだからひどい話だと思っている。科学技術のあり方を根本的に見直す必要がある。原発も、政府も企業も推進こそすれ見直すことはなく原発事故の二の舞いのようなことがバイオテクノロジーやAI、ビッグデータの世界で何らかの形で起きるのではないかと感じる。

 

 5Gは第5世代移動通信システムというが、それは管理化と電磁波による健康障害、社会の脆弱化が一体となって進む社会だ。スマートシティは電磁波で覆われ、すべての行動を監視される超管理社会だが、もうすでに一部で実現されている。これにマイナンバーと健康保険証を一体化させようとしている。健康保険証と一体化するというなら免許証も一体化するのだろうと考えるが、そうなると顔認証が加わることになり、運転していても病院に行っても、監視カメラの顔認証でわかる。これがスマートシティが目指すもので、さらにこれにクレジットカードが結合する。要するにマイナンバーと免許証と健康保険証とクレジットカードが一体化したら、なにを買ったのかまでわかる。移動も健康状態もわかる。そうなると、健康医療、警察、消費行動などが一括管理・監視される社会になる。

 

分析される社会・個人

 

 今データが巨大化している。これを分析するのがAIだが、いろんな分析をしてさまざまな関連を明らかにしてきた。データの発信源はいろいろあり、スマホなどは典型的だが、スマートメーター(30分に1回電磁波を発信しており、だいたいその人の家での行動がわかる)、パソコン、公共データ、マイナンバー、クレジットカード、ポイントカード、スーパーやコンビニのPOSシステム、監視カメラ等々、いろんなデータが収集されている。これがビッグデータだ。

 

 そこに特定の個人のデータが入ると、さらにいろんなことがわかり、未来予測までもがわかるようになってきた。この人はどういう消費行動をとっているのか、政治信条がどうか、どういう政党に投票しているのか。信用評価、犯罪非行予測、病気予測などまでできる時代になった。このあらゆる分野での予測がビッグデータによっておこなわれている。

 

 ビッグデータの分析技術が進んだ一因としてコンピューターアルゴリズム(計算手法)の進化がある。AIの自己学習能力はすごく、囲碁や将棋でもかなうわけがない。なにしろ対戦時間が違う。人間は1回対戦するのに何十分、何時間とかかるが、コンピューターの場合は数秒あるいは数秒もかからないこともある。それをくり返しやって覚えさせていく。このように予測に威力を発揮するのがAIだ。そうすると思いがけない関連がわかってくる。たとえば、「赤い色が好きな人は○○が好きだ」など。企業などはもうすでに分析をしており、たとえばユーチューブなどを見ていると、好きな音楽や情報、関連情報や広告までもがどんどん入ってくるようになる。これをフィルターバブルというが、好みの情報にとり囲まれる社会になってしまう。

 

 情報化社会の展開というが、実は1980年代にトヨタ生産システムが大きく変わったのだが、これが一つのきっかけになったと思っている。これをコンビニがとり入れた。トヨタ生産システムの最大のポイントは在庫を持たないこと。要るときに要る商品が要るだけある、というのが基本だ。それをとり入れてコンビニは倉庫を持っていない。買い物客が店にきたときに「ほしいものがある」という状態をどうつくるかをとり入れた(ジャストインタイムという)。これはレジの担当者が来た客の年齢・性別を入れる。そうすると、その地域でだいたいどういう年齢層・性別の人がどれくらいおり、その人たちがなにを買うのかが情報としてインプットされる。しかも売れたものまで入れるので、在庫が切れそうになるのもわかる。すると周辺を回っているトラックが足りない商品を置いていく。これが出発点になり、その後はクレジットカードやポイントカードが普及して各社が客を招く。消費税増税もあり、それをカバーするためにポイントバブルの状態になっている。

 

 しかし考えてほしい。これらポイントカードに入るときには必ずプライバシーを全部相手に渡すことになる。それによってどういう人間がどういうものを好むかがみなわかるようになった。もたらす利益と売り渡すプライバシーの仕組みが確立した。有名な例が米国のターゲット社と妊娠情報で、家族より先にAIが出産予定日まで分かるようになっている。

 

 こういった情報を一番活用しようとしているのが警察だ。プロファイリング(未来予測)というのだが、犯罪やテロの未然防止ということで一気に加速した。例えばどんな本を買うのか、どんな場所に寄り道するか、どんなニュースに興味を持っているのかを警察がチェックし、疑わしい人間をリストアップしていく。疑わしいとなれば徹底的に追跡しまくることによって犯罪を未然に防ごうとするやり方だ。アメリカのFBIがこのやり方をとり入れた。

 

 また、活用されるのが病気の予測や医療、医薬品など健康に関する情報を必要とする健康産業だ。血液や細胞などの生体試料が採種できればかなりの情報がわかるので、これにこしたことはない。プラスして、病歴、食生活、喫煙、飲酒、家系、遺伝情報、身体測定、犯罪、非行経験、などから未来予測を立てる。一番喜ぶのは健康産業で「あなたはこんな病気になる可能性があるのでこういう健康食品を食べているとそれを防げますよ」と出せるので、多くの企業が熱心にとりくんでいる。健康食品産業の餌食にされてしまう。

 

遺伝子情報を営利活用

 

 このようなことがビッグデータでわかってきたうえにゲノム医療が加わると、どういう問題がおきるのか。

 

 ゲノム医療の話の前に必要なのがゲノム解析だ。ゲノム解析として「30万人遺伝子バンク計画」や「100万人ゲノムコホート研究」という大規模な遺伝子収集計画がスタートした。30万人遺伝子バンク計画は、2003年に国家プロジェクトとして東大医科学研究所が中心となってスタートさせたが、30万人の血液を集めてその遺伝情報を読みとる国家プロジェクトだ。私たちもこれに徹底的に反対しようととりくんだのだが、この計画がスタートするときに血液を収集するときのルールづくりがおこなわれ、患者に次の三つのことを求めてる。それは、無償での提供、特許などで得られた経済的利益の放棄、血液を長期間管理し将来の研究にも使用する資源とする、ということだ。あまりにもひどいインフォームドコンセントで、研究者のためのものであるということが一目瞭然でわかる。

 

 100万人ゲノムコホート研究は2013年に日本学術会議が提言した。ゲノムコホート研究とは病気や健康に関する遺伝子の大規模な調査ということだ。100万人から血液を採取して、病気や健康に関する情報、家系の情報を収集する。これを病気や肥満などの健康にかかわる遺伝子を探したり、新たな医薬品や治療法、健康食品などの開発につなげ、経済効果と結びつけるという目的がある。金もうけが基本的なポイントだ。

 

 これが次の段階でビッグデータに結びつくと、精密なゲノムレベルでのプロファイリングが可能となる。100万人ゲノムコホート研究に先行して始まったのが、東北メディカルバンクで、2012年2月1日に「東北メディカル・メガバンク」がスタートした。東北大学、岩手医大が被災者を対象に生体試料(血液や細胞など)を収集し、遺伝子のビジネス化を進めるということで、この研究には全額震災復興の予算が充てられた。

 

 そのほかの研究機関もゲノム情報の収集に乗り出していたが、なかでも一番すさまじいのが九州大学だ。福岡県久山町で1961年からずっととりくんでいて、ほとんどの住民の健康情報は九州大学が抑えてしまっている。

 

政府による生涯管理も

 

 政府による生涯管理も始まっていて、以前はゆりかごから墓場まで政府が管理すると思っていたが、ゲノムが加わると「家系の管理」というものに変わり次世代以降まで管理の対象に入ってくる。その人個人だけでなくなってしまったというのが今の状況だ。2018年4月25日に、厚労省がデータヘルス時代の母子保健情報の利活用に関する検討会を始めた。いわゆる生涯にわたっての健診情報の一元管理だ。

 

 生まれてくるときには母子手帳、その後は入学時健診、学校健診情報がある。健康診断のデータ、電子カルテ、おくすり手帳、要介護認定調査情報、施設入所時調査情報が入ってくる。生涯にわたる健康・医療情報が死ぬまでつながれていく。これにさらにゲノム情報が加わると次世代、そのまた次の世代までいってしまう。

 

 「ライフコースデータ」が基礎的なデータベースとして集められているが、これら大規模な遺伝子情報の収集のために個人情報保護法の改正がなされた。個人の情報を収集するにあたって個人情報保護法を改正しなければ集めることができない。2013年12月20日に高度情報ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)がたちあがり改正が促進された。2017年5月11日に改正個人情報保護法が施行され、個人情報の利用については本人の同意がなくても目的変更ができるとした。個人情報を利用しやすくしようというものだ。

 

 実は今、個人情報保護法の再改正の動きがあり、デジタル市場に向けた動きとして昨年12月17日に政府のデジタル市場競争会議が個人情報改正の再改正を求める動きもある。そのほかにもいろんな法整備が進んでおり、特定秘密保護法、安全保障関連法、そしてマイナンバー制度が大きく、これによっていろんなものをつなぐことができる。

 

 そして次世代医療基盤法が2017年5月11日に施行されたのだが、ここで個人情報を集めやすくするために匿名加工情報という考え方もとり入れられた。この匿名加工情報という考え方は収集のためのものであって、将来的にはこの考え方は消えるだろうと思っている。

 

 ライフコースデータとは京都大学大学院医学研究科と一般社団法人健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)、株式会社学校健診情報センターの三者が自治体と連携して、生まれてから終末期を迎えるまでの健康医療情報のデータベース化をはかっているものだ。自治体にはいろいろな情報があって、母子健康法にもとづく母子健康情報、学校保健安全法にもとづく学校健診情報、健康保険制度にもとづく医療の診療報酬請求情報、介護保険制度にもとづく要介護認定情報をデータベース化し、ビッグデータとして全体につなげていく考え方だ。

 

 学校健診情報を一生懸命集めていて、小学校1年生から中学校3年生までの9年分の健康診断結果を学校に求める動きがある。これに文科省が「科学技術イノベーション政策のための科学」推進事業として金を出し、総務省が「地域ICT振興型研究開発推進事業」として金を出している。国が積極的にお金を出してこの事業を進めている。

 

 ライフコースデータの登場によって、おそらく将来の病気などに関して追跡や予測が予定されているし、特定の個人に対しては生体試料提供が求められていくことになる。

 

家系や将来世代も対象

 

 遺伝子医療には、ヒトゲノム解析、遺伝子診断、遺伝子治療があり、このうち遺伝子治療が新たな段階を迎えている。

 

 今までの「遺伝子治療」は遺伝子を用いて治療するもので、遺伝子そのものを治療することはできなかったが、ゲノム編集という技術の登場によって遺伝子を治療(改造)できるようになった。家系管理も進み、羊水検査、血液検査、遺伝子検査からゲノム管理というかたちで赤ちゃんの出生にかかわることができるようになった。要するにどんな赤ちゃんが生まれるのかが、今までの検査をしなくてもゲノムを管理することで事前にわかる社会になる。

 

 アメリカでの遺伝病管理についてのべるが、鎌状赤血球貧血症も遺伝病管理の一つの対象になった。これは赤血球が三日月のような状態になり貧血がひどくなる病気で黒人に多い。そのため、この病気を診断することは黒人差別の問題と非常に密接につながってしまう。さらにユダヤ人に多いテイサックス病というものもあり、ユダヤ人差別の問題につながった。一番深刻だったのはハンチントン病で、これは大変悲惨な死に方をする。発病するまでは健康な状態ですごすことができるが平均して40代頃に発症する。

 

 アメリカでは健康保険が民営化されており、健康保険の加入のさいに健康保険会社がハンチントン病の検査を義務付けている。この病気は優性遺伝病で、父親か母親のどちらかが病気の場合、子どものかかる確率は2分の1。自分が40代半ばごろで悲惨な死に方をするかしないかが診断でわかれば悲惨な未来が見えてしまう。知りたくないという反面、健康保険に入らなければ治療費がものすごくかかる。そういう問題を提起したのがハンチントン病だった。このように遺伝子・ゲノムでいろんなことを診断することは差別の問題や個人に選択を迫ることになる。そういう大きな問題を持っている。

 

 もう一つ大きな問題はゲノム編集技術の登場で遺伝子を治療できるようになったことで個人の遺伝的改変、ひいては民族・人類の遺伝的改変が可能になったことだ。今までは優生学というとナチス・ドイツのようにユダヤ人を虐殺したり、障害者、弱い人を抹殺するという行為によって実行してきたが、このゲノム編集が登場することによって「プラスの」優生学が可能になってきた。これは新しい優生学社会への道を切りひらくものになる。

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