瀬戸内海に面した四国電力の伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について広島高等裁判所(森一岳裁判長)は17日、運転を認めない仮処分の決定を出した。30~40㌔圏内に住む山口県の住民3人が仮処分の即時抗告審で同原発の運転差し止めを求めていた。森裁判長は、原発周辺の断層帯が活断層である可能性が否定できないとするとともに、約130㌔離れた阿蘇カルデラ(熊本県)の噴火の影響も考慮すべきとして、四電の調査や新規制基準にもとづく原子力規制委員会の審査を不十分と指摘した。
山口県の住民3人は四国電力に対して、伊方原発3号機の運転差し止めを求める仮処分を申し立てたが、昨年3月山口地裁岩国支部が退けたことから、広島高裁に即時抗告していた。
審理では、伊方原発からどれだけの距離に地震を引き起こす活断層があるかや、約130㌔離れた熊本県の阿蘇山で巨大噴火が起きた場合の影響などが争われ、広島高裁は、昨年の山口地裁岩国支部の決定をとり消し、運転差し止めの決定を出した。
決定で森裁判長は、伊方原発の敷地の近くに活断層がある可能性を否定できないとし「断層から原発までの距離は2㌔以内と認められるが、四国電力は十分な調査をせず、原子力規制委員会が問題ないと判断した過程には、誤りや欠落があったといわざるをえない」と指摘した。
伊方原発沖合には九州から関西まで約440㌔にわたる中央構造線断層帯が走っている。同原発の約600㍍沖合の同断層帯について森裁判長は、活断層の可能性を指摘した国の地震調査研究推進本部の見解などをもとに「活断層である可能性が否定できない」と判断した。
四電は「詳細な海上音波探査をし、佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず、活断層が敷地に極めて近い場合の評価は必要ない」として地震動評価をおこなっていない。だが、中央構造線断層帯長期評価(第二版)では、佐田岬半島沿岸に存在すると考えられる中央構造線について「現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる」と記載している。
この記載などを考慮したうえで広島高裁は「中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できない」「その場合地表断層から伊方原発敷地までの距離は2㌔以内で、仮に十分な調査で活断層だと認められた場合、地震動評価をする必要がある」としている。
四電が十分な調査をしないまま原子炉設置変更許可申請をし、規制委が問題ないと判断したことについても、「規制委の判断には、その過程に過誤や欠落があったといわざるをえない」と言及した。
同原発から約130㌔離れた阿蘇山の噴火のリスクについても、国の新しい規制基準が噴火の時期や程度を相当前の時点で予測できることを前提としているのは不合理だと指摘したうえで、噴火時の火山灰などの降下物は四電の想定の約3~5倍にのぼるとして「四電の想定は過小」とした。
伊方原発3号機は、2016年8月に新たな規制基準の審査に合格し再稼働した。伊方原発3号機をめぐっては、2011年の福島原発事故以降、広島、松山、大分の各地裁でも住民が同様の仮処分を申し立てたが、一審はいずれも却下された。広島高裁は2017年12月、抗告審で阿蘇山の噴火リスクを理由に運転差し止めの仮処分決定を出した。原発から半径160㌔以内にある火山で噴火規模が想定できない場合は、過去最大の噴火を想定すべきだとし、阿蘇カルデラで約9万年前に破局的噴火が起きており、伊方原発まで火砕流が到達する可能性があるとして「立地不適」と判断した。
しかし、これに四電が異議を申し立て、異議を認めた広島高裁は2018年9月仮処分決定をとり消した。広島高裁の異議審決定は、火山の噴火のリスクについて、「我が国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準として判断せざるをえない」とし、「国は具体的対策を定めていないが、国民の多くは問題にしておらず、原発の安全性は欠けていない」として再稼働を容認した。
「地震列島に54基」の不合理
今回17日の広島高裁決定のなかでは「破局的噴火を想定した法規制や防災採択は(一般的に)行われておらず、それだけで立地不適とするのは社会通念に反する」としながらも、「破局的噴火に次ぐ大規模噴火が起きたさいの降下火砕物の想定が過小だ」として、異議審では退けたリスク要因を再評価し、規制委の判断は不合理だとしている。
2011年の東日本大震災にともなう福島原発の重大事故は、火山列島、地震列島である日本に54基もの原発を建設したこと自体が無謀であることを突きつけた。その後も地震や火山活動は活発化しており、福島事故の二の舞をくり返さないためには、原発から即時撤退すべきであることが国民的な世論となっている。司法においてもそうした国民世論を無視できない判決が出てきている。
とくに伊方原発は閉鎖海域である瀬戸内海に面した唯一の原発であり、いったん事故が起こった場合の被害は福島原発事故の比ではないことも指摘されている。