北日本漁業経済学会が25日、宮城県仙台市の東北大学青葉山コモンズで第48回大会を開催した。北海道、東北地方を拠点に水産業に関する研究をおこなっている研究者や地元の漁業者、漁協関係者などが参加した。今回の大会では昨年12月8日に成立した「新漁業法」について、現場にどのような影響が起きるのか、各分野の研究者が問題点を指摘した。新漁業法の下で規制緩和による漁業権の開放や企業参入の自由化、自然法則に見合わない資源管理方法が現場に押しつけられることが問題点として浮き彫りになった。議論のなかでは、戦後70年続いてきた漁業法と、代代受け継がれてきた生産現場をないがしろにする新漁業法に対して、都道府県独自の条例を制定することで対抗していく提起もあった。
初めに、主催者を代表して北日本漁業経済学会会長の二平章氏が「北日本漁業経済学会は昨年50周年を迎えた。学会はこれまで北海道、東北地方で研究をおこない、北日本の漁業をよりよくしていくために何が必要か、漁村に入って漁民や漁協、自治体職員と一緒に議論をしてきた。他の学会とは違い現場主義的だ。政府は戦後70年続いてきた漁業法を改悪して、新漁業法を昨年12月8日に成立させた。全国に755ある漁協のうち、新漁業法についての話をきちんと聞いたのは77漁協しかない。ほとんどの現場で組合長ですら改定の中身を知らないのが現実であるにもかかわらず、政令や省令の策定がどんどん進められている。また、法案が決議されるまではさまざまな議論がおこなわれていたが、国会を通過すると議論は下火になった。今回の学会では法律の中身を精査してどこに問題があるのか、どのように捉えればよいかということについて考えなければならない」と挨拶した。
地元の宮城県漁協理事長の松本洋一氏は「新漁業法の一部改定案が国会で通過し、漁協の役割がより重要になっている。これまで漁協が果たしてきた多面的な機能を維持するとともに、発展的な漁業振興を図っていきたい。漁業者の高齢化や後継者不足が叫ばれるなか、漁業法改定による漁業者の不安を払拭すべく、説明会を開くなど毅然とした立場で対応してきた。沿岸漁業者が抱える問題解決のためにも、若者が安心して生活を送れる漁業にしていかなければならない。今日を契機に漁村地域の特性を生かした漁業の構築が進むことを願っている」と挨拶した。
以下、各論者の報告要旨を掲載する。
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「新漁業法」の施行と今後の課題
帝京大学経済学部教授 加瀬和俊
新漁業法改定について、問題の全体を見ていきたい。新漁業法によってもたらされるさまざまな状況に対し現場の負担が増すことが予測されている。
また、企業が入りやすい法律になったことで共同漁業権が失われ、これまで管理していた漁場が漁協の管理外になり、現場の組合員が流出することへの危惧もある。したがって、これまで融通を利かせて運営をしてきた漁協にとって新漁業法によって受けるマイナス面が増えるのではないか。
水産庁は法律制定後に丁寧に説明するといっていたが、広報活動は急激に減退している。水産庁のホームページはほとんど更新されておらず、政策誌「漁政の窓」も毎月発行されていたものが今年に入って3カ月に1回になっている。しかも内容は水産白書の抜粋であり、そもそも広報活動をやる気がない。水産政策審議会でも議論の形跡はない。だからこそ私たちが意識的に論点を定める議論を作っていかなければならない。
5月末に水産庁が出した水産白書には、「規制を緩めて操業と資本投下を自由にすることで漁業が発達する」という規制改革派のスタンスが表れている。「状況が変わったので仕組みを変えざるを得ない」というのではなく、「戦後漁業法の原則自体がそもそも現実にあっていない」との立場だ。
水産庁の態度は予算にも表れている。2020年度の概算要求は前年と同額だった。新漁業法の下で、漁協による資源管理の負担は増えるが、これに見合った予算は付いていない。
新漁業法の具体的な説明も遅れている。「有効適切に漁場を利用していない人はその漁場から出て行ってもらう」という法律の内容だが、有効適切とは何を基準に判断するのかもいまだに分からず、県知事が好きなように決められる状態が続いている。
改定法の原理と問題点を確認しておきたい。
①資源管理のあり方が大きく変化した。
これまで現場では、時期によって禁漁区や禁漁期間を定めたり、漁獲圧を低くするために漁法を変えたり、出漁時間を変えたりしながら資源管理をおこなってきた。だが新漁業法では、それぞれの事情に見合った規制をすべてなくし、いつでも好きなときに好きな漁場で漁獲できる形にした。
また、新漁業法策定の背景には、企業が自由に投資と操業をおこなえるような自由化、規制緩和の要請に見合った「TAC」を用いた資源論でなければつじつまが合わないという関係性がある。
②漁船の大規模化によって沿岸漁業が圧迫され、投資を促進して企業的経営をしやすくする。
全体として合法的な個人主義によって個別経営体がもっとも良い条件で活動する自由を認めている。これは、個個の経営体が最良の条件を得たときに日本の漁業はもっとも良くなるという考えに基づいている。しかし、現在の経済学に照らして見れば、個別の経営が良くなってもその総和が必ずしも良くはならない。企業の生産性を基準にして漁場の配分が考えられるようになるとすれば、地域の漁業者にとっては大きな打撃になると考えられる。
③地元の漁業者の漁場優先利用方式を否定し、行政の裁量で漁場を奪取する。
従来の漁業法では、漁場の公平な使い方を定めたものではなく、その地域に住んで漁業を営んでいる人たちが優先的に地域の資源を利用するという明確な優先順位に基づいた漁場割りをおこなっていた。また、都市と比べて就業機会が少ない漁村において、地域の資源を大事に使いながら生活を営むために仲間内で規則を決めてきた。しかし新漁業法では、優先順位をすべて取り払って、その場で長く漁業を営んできた人たちと、都会に住んでいながら漁村で人を雇って投資できる人が平等であるとした。そして、両者のうちでどちらが漁場を使うかという話になったときに、話を決めるのが県知事になる。両者を同じはかりで比べることは難しいが、そこをどうやって決めれば良いのかということもはっきり示されていない。
④漁協への負担と打撃。
行政は漁協に依存して一人一人の漁業者の実態や数値を把握しなければならない。その結果、漁協の事務量が急増するが、負担に耐えられるのかという懸念がある。
今回のシンポジウムのなかで議論したい論点をいくつかあげる。
新漁業法を通じて水産庁は「漁業計画を作成するさいに、その人が希望するいけすの数や場所を丁寧に聞きとりなさい。それを踏まえてどのように検討したかを公開し、その内容が実際の漁場計画のなかにどれだけ生かされているかを説明しなさい」といっている。
漁場計画作成については、県が申告に沿って広さや位置等を決めることから、漁業計画を作成する段階で、事実上県が参入者を決めてしまうことになると思う。つまり、県と企業体との癒着が大きく進むのではないか。
また、現在は共同漁業権しかない場所でも、ある企業が「条件が良いので養殖漁場にしたい」と県知事に依頼した場合、他に反対する人がいなければ免許が発効されてしまう。法案によれば、そのときに歯止めとなるのは唯一「海区漁業調整委員会の意見を聞く」とある。しかし、意見を聞くだけで、最終的に判断するのは県であり、さらに新法では海区漁業調整委員を従来の公選制ではなく県知事の任命とした。そうなると自分の意見を聞く人材だけを県が選ぶことになり、結局何の歯止めにもならない。
漁業の中だけにとどまらない懸念もある。共同漁業権の上に区画漁業権が乗っかる形になり、実質的に共同漁業権は消滅する。今までは漁業者の生活がかかっているので、補償金が非常に高く設定されていることから海洋開発の歯止めとなって漁場が守られてきた経緯がある。ただし、実質的に価値のある漁場がすべて区画漁場になった場合、企業体によっては補償金の額に応じて「経済合理的」に海を簡単に手放す可能性もある。また、開発企業が養殖業に手を出して漁業権を得たとすると、自分が漁業権を持っているので、補償金も必要ないまま開発に進んでしまう危険性もある。
2012年の第2次安倍内閣が発足して規制改革推進会議ができ、はっきりと規制改革が進められた。「一次産業の成長産業化」がいわれるようになり、投資をすることで生産を増やすという理念を持たない経営体は、成長産業とは見なさないという概念で物事がはかられるようになった。
新しい法律のなかに、漁業をおこなっている一般の漁師は、数年後にどれほどの水揚げにするのかという計画を立てて漁協に提出し、漁協は各人の計画に照らした点検・指導をするという内容がある。すなわち、高齢漁業者が少ない水揚げ高で漁業をおこなうということは、他の人の権利を奪っているという発想だ。
(質問 今の段階で、企業参入の具体的な動きは実際にあるのか。)
すでに全国に約130のクロマグロ養殖をおこなっている企業体があり、経営を10年、20年と続けているので需要は十分にあると考えられる。参入する企業からすると、組合員と同じ扱いで漁場の利用料を払わなければならない現状よりも、直接県知事から免許を受けて、お金も支払う必要がない方がいいと思うのは当然だ。
(意見 福島県で漁師をしている。先祖代代ヒラメの稚魚や鮭の稚魚を放流するなどして、漁師は自分たちで沿岸の環境を管理して漁業を営んできた。原発問題で漁の回数は限られて海に出る回数が減り、手が着けられないなかで漁業権が開放されたら、財力のある企業の参入などが進み、海洋開発を自由にやられることになる。息子3人も漁師をしているし、孫や玄孫の代までかけて海を明け渡すことになる。)
将来の漁場のあり方は、漁民の皆さんにとっては気になるところだと思う。これからは区画漁業権が個人(企業)に免許され、漁協の手から離れることになる。今までの場合、組合員の総意で区画漁業権の範囲などを決めることができ、クロマグロ養殖にしても、みなが同じ組合員として話し合い、融通を利かせてきた。しかしこれからは漁協とは切り離れたところで勝手に物事を決められる。また、今までは漁業者が歳をとって引退したら権利を次の代に引き継ぐことができ、漁場が空かないようになっていたし、範囲も漁業者の人数によって変えられていた。しかし企業が漁業権を持った場合、倒産しない限り永遠にその区画を使うことができ、地元の漁業者にとっては「他人の海」になってしまう。企業にとっては希望したら許可を維持できるというメリットがあり、より参入する条件がよくなった。
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「新漁業法」条文から見て今後の漁協、漁業権はどうなるか
全国漁業協同組合学校 田中克哲
今回の新漁業法で、これまでとどこがどのように変わって、どういう条文が消されたのかということを知ってもらうことが必要だと思っている。水産庁は条文を示さず、都合の悪いところを隠した説明書を使って説明しており、みなさんに影響がないような印象になっている。
新漁業法を見て一番感じるのは、「外堀を埋められている」ということと、もう一つは「漁業の金融商品化」を可能にするということだ。やろうと思えば何でもできる法律に変えられている。
これまでの漁業権には地元優先という前提が明確にあったが、新漁業法ではこれが廃止される。
また、適切かつ有効に利用されていれば、いったん免許を受けた人はずっと免許を受けられるという話になっている。今現在たとえば企業として定置の免許を受けている人がいるとする。その場合だいたい地元に対して協力金などを払っている。なぜなら5年ごとの一斉切り替えのときに各企業が漁協へ競願したら立場がなくなるからだ。そういう漁協からのプレッシャーがこれまではあった。
だがそのプレッシャーがなくなれば何をしても「俺たちのもの」という扱いが横行する危険性がある。また、抵当権の設定が可能になり、競売にかけることで権利が他人に移り、まったく地元に協力する気のない企業が突然入ってくることも考えられる。
新規参入の場合「地域の水産業の発展にもっとも寄与すると認められる者」「適切かつ有効に活用していると認められる者」という文言が定められている。これまでの漁業法ではすべて数字による客観判断が基準になっており、たとえば「地元漁民世帯の7割以上を含む法人」など、明確な数字で判断するので恣意的な判断が入り込む余地がなかった【図1参照】。しかし、「認められる者」となると知事の主観判断になる。これは漁業法改定のなかの悪意だとしか思えない。
また、保全沿岸漁場制度というものができた。当初の水産庁の説明では、直接企業に免許した場合、漁協が沿岸漁場管理団体になり、強制的に企業から協力金等をもらうことができるという発想で作ったとされている。しかし、沿岸漁場管理団体には一般財団法人と一般社団法人もなることができるので、地元に関係ない人でもなれる。たとえば国際的な環境保護団体がやってきて地元の漁協に金を払えと要求することもできる。こういう部分が非常に危ないシステムになっており、「外堀を埋められている」という怖さがある。
漁業計画の策定手続きにも驚くような内容が盛り込まれている。このなかでは、沖合にどんどん漁業権を設定しろという命令がある。漁業計画を策定するときに「これから漁業を営もうとする人の意見を必ず聞きなさい」という内容が含まれており、それを踏まえて計画を作らなければならないため、新規参入する企業の発言権が増すことになる。
ある企業が沖合の共同漁業権がない海域で区画漁業権を手にしたものの、経営が悪くなればその漁業権を放棄して風力発電が建つということにも繋がりかねない。自分がもし悪い人間だったら、知事にマグロ養殖をやりますといって免許をもらって、即権利を売る。タダで免許を受け、補償金までもらうことができる。そのような非常に恐い内容が新漁業法のなかには含まれている。
これまでは、漁業権の免許の期限が満了する3カ月前までに次の漁場計画を作らなければならないという法律があった。この法律は、漁業権を継続して免許しなければならないことが分かっていながら知事が「開発計画があるからしばらく免許するのをやめよう」ということができないようにして、切れ目なく漁業権が免許されるように作られた法律だった。だが、この法律は新漁業法のなかからなくなっており「5年ごとに漁場計画を作るように」としか書いていない。
もっと恐ろしいのが、農林水産大臣の地域漁業権の直接免許だ。従来は、有明海のように県と県の間で争いがあって困るような場所については、大臣が直接免許するという内容だった。しかし新漁業法ではどの海域でも知事が了解すれば大臣が企業に対して直接免許することができる。つまり政府と結びついた企業が「漁業権が欲しい」といえば、すんなり許可されるようになるという話だ。
これまでは地元の漁村共同体が漁業権を持っていたので、たとえ企業に免許されていても、そこに地元漁民を含む企業が入りたいとなれば入れなければならない「加入申し込み制度」というものがあった。しかしこれがあると企業側は困る。そこで、新漁業法ではあっさりとこの制度は消され、何の説明もない。書面同意制度や総会の部会制度などと一連の制度だが、加入申し込み制度だけが削除されている。
海区調整委員会の公選制度も廃止される。水産特区を導入するときに一番障害になるのが、海区調整委員からの反対だ。そこで、海区調整委員の公選制をやめて委員全員を知事が任命することができるようになった。水産特区を導入するときなどに、適格性に関する審査がおこなわれ、最終的に海区調整委員会が投票して委員の3分の2以上が適格でないと判断すれば、漁業権は免許できない。こうした投票制度を残すことが今後の障害になるということで、新漁業法のなかでは廃止されている。漁民は委員のうち半分以上は入れなければならないとのとり決めはあるものの、委員を選ぶのは知事であり、イエスマンの漁民しか選ばないのは目に見えている。
漁民のみなさんが今しなければならないのは、法律を読むことだ。法文を読んでいれば、水産庁の説明に対しても反論することができる。自分は静岡の海区調整委員だが、地元の漁民に対して説明もないし、資料もないのでみんなよく分かっていない。うまくいいくるめられないように気をつけてほしい。
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「新漁業法」における資源管理政策の問題点は何か
東北大学大学院教授 片山知史
新漁業法によってこれからは無駄な資源管理をしなければならなくなる。これまでTAC論理にもとづいて7、8魚種の資源管理をおこなってきたのに資源量は増えていない。にもかかわらず、新漁業法のスタンスは「資源管理が甘い。もっと徹底しろ」という論理になっている。
乱獲には二つある。
一つは「成長乱獲」。魚が大きくなる前にとってしまうということだ。もう一つは「加入乱獲」。親を獲りすぎて子どもが減り、次世代が育たないというものだ。
新漁業法では加入乱獲をイメージして、資源保護のために親を残しなさいといっている。今までTAC対象種は7、8あったのに対し、150に広げる。TAC管理を広範囲に当てはめて、IQやITQを導入する。
法文のなかには、「資源管理の目標は、資源評価がおこなわれた水産資源について、水産資源ごとに次に掲げる水準の値を定める」とある。この「値」とは、最大持続生産量(MSY)というものだ。MSY管理が今回のキーワードになる。産卵新魚量(とりのこし量)を算出し、100ある資源のうち、60を漁獲し、40残す。60がTAC、40がMSYということになる。その手段としてIQを用いて出口管理をする。
今までは、許可や免許、禁漁区、自主的管理によって「入り口管理」をおこなってきたが、それをTAC管理によって出口(漁獲量)を管理するというのが新漁業法の大きな特徴だ。
新漁業法の資源管理は、今多くの資源は資源量が少なく、努力(余剰生産)量が高すぎるためにMSYが得られていないので、努力量を下げて資源量を上げろという考え方だ。
一般的なイメージだと、親が多ければ子どもも多いだろうと思うかもしれないが、実際には親をたくさん残したからといって翌年の子どもの量が簡単に予測できるわけではない。
だが、新漁業法からは従来のMSYは「古典的MSY」だとして違うMSYがあるんだという立場をとっている。水産庁と水産研究所が示している新しいMSYについての論文を読んでみたが、まったく理解ができなかった。
この法則に則って資源管理をした場合、今までは100ある資源のうち60をとっていたが、これからはその1・5倍から2倍をとり残さなければならなくなり、40をとって60を残すことになる。漁業者は我慢してさらに収入が減る。「親の資源量を今までよりも多く残せば、将来的に漁獲が増えるので安心して資源管理をしてください」というのが新漁業法だが、本当に我慢すれば増えるのだろうか? MSYを元にした資源管理に対しては2000年あたりから「過去の理論だ」といわれてきた。親子の量の関係性は不明瞭な部分が多い。
資源はどうやって増えたり減ったりしているのか。多くの資源が「卓越年級型」といって5年に1回くらいの割合で出生が急激に増え、これによって資源量が維持されている。そのほか、岩礁性のカサゴなどの「安定型」、寿命が短いマハゼなどの「短期的変動型」、レジームシフトによる地球規模の環境変動によって中長期的に変動をくり返すスルメイカやマイワシ、サンマなどの「中長期的変動型」がある。そして、親の量によって子どもの数が決まるイカナゴなどの「親子関係型」があるが、これらは実はごくわずかな種に限られる。つまり、ほとんどの魚種は親子の量とは違った要因で増減していることから、漁師が我慢して漁獲量を減らしても資源は増えない。
福島では試験操業が続いており、出漁日数も限られている。震災後ヒラメやタラ、カレイが増えたといわれたが、中身を見てみるとほとんどが震災前に産まれたものが大きくなって漁獲量が増えていた。しかしその後の2012年、2013年の加入水準は非常に低い。つまり卵を産む親の量は非常に多いのに、子どもの量は増えていなかったといえる。私たちが教訓として得られることは、親の量と子どもの量の関係性の脆弱さであり、小さい資源は大きくしてとることで漁獲量は増えるということに帰結する。
ほとんどの魚種系群で再生産関係は不明だということに立脚すれば、加入乱獲を避ける管理は功を成さず、個別割り当てを通して出口管理を徹底しても資源は増大しないという考え方にいたる。
まずは漁業者間の自主的管理のルールがあるのか、また自主的管理のなかでどこが足りていないのかという部分から問題の解決にあたることこそがリスク管理になるのではないかと思う。「漁獲規制によって収入が減るうえに資源が増えなかったらどうするのか」という問いに対して水産庁は答えることができるのか。その場合だれが責任をとるのか。
(意見 福島県では去年、一昨年イカナゴの漁はよかったが、今年はまったくとれなかった。その反面スルメイカやサワラは今までにないほどとれた。さまざまな環境によって資源は変動するし、管理したからといって増えるわけではない)
サワラの漁獲量増加は温暖化の象徴のようにいわれるが、そうではない。東北地域では1960年代に今年と同じくらいの漁獲量があったこともあり、まさにレジームシフトの影響だといえる。中長期的な環境変動に左右されている。
(意見 香川県でもイカナゴをとっている。1月頃から産卵を終えたものをとっているが、昔から「親が多い年は子どもが少なく、親が少ない年は案外子どもがとれる」といわれてきた。「親が多いときは子どもを食べてしまう」という言い伝えも幼い頃から聞かされてきた。水温が1度上がれば外気は7度上がるといわれている。そういう変動が今海の中で起きている。資源量に環境が大きく影響しているという事実は大いにあると思う。)
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米国マグナソン・スティーブンス法にみる社会的公正への配慮
農林中金研究所研究員 田口さつき
普段は漁協のみなさんの社会的・経済的地位の向上のために働いている。
新漁業法によって資源管理方法が新しく欧米型の制度へと変わる。アメリカの有名な資源管理法であるマグナソン・スティーブンス法について調べてみた。この法律のなかでは、漁業のなかに一般的な漁業と遊漁も合わせて含んでおり、資源管理をおこなううえで、遊漁の漁獲高もチェックすると規定されている。
アメリカでは、日本でいう経済産業省にあたる商務省が資源管理に責任を持つという体制をとっている。同法では、日本でいうEEZにあたる海面を8地域に分け、地域ごとに水産資源管理委員会を設置させることを定めている。この会員が資源管理計画を作り、商務省長官がその計画を承認して実施する形になっている。水産資源管理委員会において投票権を持つ委員は、日本のように選挙で漁業者が選ばれるのではなく、地元の州知事が水産職員を候補者としてあげその人たちが選ばれる。また、地元の海洋資源局の責任者、州知事が作成した遊漁者のリストから商務省長官が選ぶ。
資源管理計画には盛り込むべき15項目もの義務規定があり、さらに10の国家基準に準拠しなければならない。委員会が提出した計画の整合性がとれているかどうかを商務省長官がチェックする厳しい形になっている。日本の新漁業法の場合、作成された計画の整合性を確認する機関はない。
アメリカのニューイングランドというカナダに近い地域の実例を見てみる。ここではかなり厳しい漁場の管理計画を立てた。タラに近い魚種をとっていたが管理計画を実行しても資源量が回復せず、2012年と2013年に商務省が「漁業災害宣言」を出したがいまだに回復していない。現地の漁業者は「私たちが提出した漁獲報告を使い、私たちの漁場を封鎖した」と資源評価に対して批判的な意見を持っている。また、「ニューイングランドの資源量融通資源管理の最悪の問題は、資源評価量と実際の水産資源量が一致していない」ともいわれている。漁業者は、漁獲割り当てをこえたら他の魚もとれないので、漁獲量を調整しながら漁をしている。
アメリカでは厳しい漁獲割り当てに怒った漁業者が訴訟を起こしている。ニューイングランドではタラの漁獲量が制限されているためサメをとっているが、アメリカでは消費されず地元経済も潤わない。アメリカでは同法の改正案も出ており「地域水産資源管理委員会は、漁獲量を定めるときは、生態系の変化及び共同体の経済的必要性を考慮することができる」という文言を加えるよう柔軟な内容へと変更する動きが起こった。この改正案は結局成立しなかったが、米国型資源管理下での現場の苦悩を示している。
地域のことを考えないMSYなどの資源管理法を先行してとり入れているアメリカで、受け入れられない意見が上がっているということを日本は考慮すべきだ。
今の日本の漁業法は、資源について遊漁者にはなんの縛りもない。このままいけばマグロの漁獲割り当てに怒った漁業者が漁協を辞めて遊漁者になって規制を受けずにマグロをとり、こっそり売るというような抜け穴もできてしまう。いくら漁業者をいじめても抜け穴がある限り漁業者は生活がかかっているので真剣に守ることがばかばかしくなってくるのではないか。
漁業者が乱獲しているから資源が減っているという論調はあるが、実際には生態系の問題で魚の行動が変わり、漁場が沿岸に形成されなくなるなど、漁業者の努力をこえたところで魚が減っている現状がある。そのため、法律のなかでもこうした事実を反映して考慮していかなければならない。また、資源管理計画を一度決めたら10年間守らせなければならないという決まりもあるというが、3年ごとの短いスパンで見直したり、地域ごとの違いをもっと考慮するなど、規定をしっかりつくっていかなければならないと思う。農林水産大臣が決めた方針を都道府県に下ろして従わせるという中央集権的になりすぎた資源管理は失敗するのではないかと危惧している。
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「新漁業法」施工で自治体と漁協にどのような課題が生じるか
水産北海道協会 上田克之
北海道では新漁業法に関する水産庁の説明会が24カ所でおこなわれたが、質問をしても水産庁の答えはみな「ホームページのQ&Aに載っている」の一点張りで中身を深化させるものにはならなかった。
北海道で大きく影響するのはホッケとスケソウダラのMSYにもとづくTAC管理であり、もっとも経営に密接にかかわる漁獲量の削減になるだろう。これまでホッケについては自主的に漁獲努力量の3割カットにとりくんできた。そして昨年あたりから沿岸、沖合ともに経過は上向きで手応えを感じていた矢先に、水産庁からの資源管理が提示された。現在道内では新たな資源管理を受け入れるのかどうかが大きな問題になっている。水産庁はホッケの道北系群を新たな資源管理のターゲットにしている。
自民党水産部会・沿岸漁業振興ワーキンググループの会合で、漁連会長が「漁業者の十分な理解・納得をえられるまでは、個別魚種の漁獲枠導入に係る検討を始めない」と要請し、関係する5地区を代表して小樽地区組合長会会長が現場の実態と乖離した拙速なとり進めを改めるよう強く要請している。
業務的には漁獲報告の対応がもっとも負担が大きくなるとみられ、実際の仕事や調整をおこなう道庁と漁協では人員が少なくなっているなかで、大きなしわよせがいくことになる。漁協にとっては水揚げが減るうえに、漁獲規制にかかわる資源管理や作業、報告が増える。また、新たに参入する人や企業との交渉などの負担が増える。
水産庁は今回の改革を、早いスケジュールで国会の審議もほとんどしないまま強行採決に近い形で進めた。戦後改革のなかからできた漁業法が、どういう変化をしながらどのような役割を果たしてきたのかという反省なしに、いきなり改定してしまった。
これに対して漁協や現場としては、予算獲得のためのビジョンではなく、一歩踏みとどまって自分たちが生き残ってこれから地域漁業をつくっていくために、将来性を見据えて考える良い機会ではないかと感じている。
北海道は水産資源の水揚げに恵まれてきたが、今年はサンマ、イカ、秋サケ、コンブ、養殖ホタテの成績が悪かった。これを契機に漁業者自らの資源管理のあり方や、将来の地域漁業を見据えて魚種転換を考えたり付加価値を付ける努力も必要になるだろう。ここでもう一度漁協の役割をはっきりと確認する必要がある。