秋の味覚として親しまれてきたサンマだが、今年は昨年以上の異常な不漁となっている。そのため価格も高止まりし、なかなか食卓にものぼりづらい。これまで好漁場だった北海道・東北沿岸で捕れなくなり、道東の根室市から東に100㌔以上離れた公海(大型船で2日前後かかる海域)が主漁場になったため、小型船がサンマの群れを求めて公海に出て行って転覆し、死者を出す事故まで起きている。
9月18日現在の全国のサンマの累計水揚量は、道東中心に約3370㌧。昨年の同じ日までの累計水揚量が2万2600㌧なので、今年はその15%にとどまっている。ピークだった1950年代の年間50万㌧に遠く及ばず、累計が近年で最低だった2017年同期と比べても3割に満たない。例年なら9月には一日2000~3000㌧が揚がるが、累計が一日分しかないことになる。
もう一つの特徴は、水揚げしたサンマは小ぶりなモノが中心であることで、体長30㌢前後、重量100~120㌘の細身が多いという。
サンマの不漁の原因について、下関市にある水産大学校の研究者に聞いた。
黒潮の蛇行で漁場が変化
研究者が共通してあげたのが、ここ数年続いている黒潮の蛇行である。
日本列島周辺はおよそ3700種の魚が生息する、世界でももっとも豊かな海の一つで、それを生み出すのが千島列島から南下する親潮と、フィリピンから北上する黒潮である。黒潮は東シナ海から屋久島と奄美諸島の間を抜け、太平洋側を日本列島に沿って北上する、幅100㌔㍍ほどの早い海流だ。
この黒潮がここ数年、紀伊半島付近から南下し、再び伊豆半島へ向けて北上するなど蛇行するようになった。そしてこの黒潮が分流してできた暖水塊(温かい水の塊)が北海道沖に停滞している。
サンマは北太平洋の広い範囲に分布しているが、日本周辺では、夏はオホーツク海で豊富なプランクトンを食べ、秋から冬にかけて道東から三陸へ流れる親潮に乗って南下し、本州南側の黒潮が流れる海域にある産卵場へ向かう。サンマは冷たい水温を好むので、南下するさいに北海道の暖水塊がそれを阻む格好になって、漁場がこれまでの日本のEEZ(排他的水域)内からより東の公海へ移っていったのだという。
また、魚食の普及によって、以前ならまったくサンマを食べなかった中国や台湾、韓国、ロシアなどで消費が増え、とくに台湾や中国の大型船が北太平洋の公海でサンマを大量に漁獲するようになった。
これについてある研究者は、「日本はこれまでサンマを領海内でたくさんとり、安く売っていた。その漁場がEEZ外に出たということであり、資源がなくなったわけではない。政府は中国や台湾に対抗して、日本の漁船の大型化に補助金を出すというが、それだけでは対立していくことにしかならないし、乱獲にもつながる。関係各国での話し合いによる資源と漁獲の管理が必要だ」とのべた。
別の研究者は、小ぶりの魚が多いことについて、「アムール川から流れ出る豊富な栄養塩類によってオホーツク海で大量の植物プランクトンが発生し、これがサンマやサケ・マスの餌となって、オホーツク海や北太平洋において豊かな漁場を育んできた。たとえば瀬戸内海で、植物の腐食物や人間の生活排水が海に流れ込むことで生まれる栄養塩が不足していることが、魚介類の基礎的生産力の低下につながっていることがわかっているが、多くの国にまたがる北太平洋でなにが起こっているのかはわかっていない。ウナギの生態もそうだが、サンマについてもまだわからないことは多い」とのべ、共同研究を進めることの重要性を指摘した。