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キャッシュレス決済へのポイント還元 手数料とられ負担増すだけの中小小売店

 消費税10%への引き上げにともない、クレジットカードや電子マネー、スマホなど現金を使わないキャッシュレス決済を用いた消費に対して、政府が最大5%のポイントを還元して利用を促進している。わずか9カ月(来年6月まで)の期間限定の措置であるものの、お得感からキャッシュレス決済に移行する消費者が増えているが、小売店にとっては利用が拡大すればするほど負担が増す仕組みとなっていることに批判は強い。


 キャッシュレス決済は、各種クレジットカード、交通機関のICカードやプリペイドカード、さらにLINEペイ、ペイペイ、楽天ペイ、d払いのスマホ決済(QRコード)など数十種類に及ぶ。コンビニなら2%、中小小売店なら5%がポイントで還元される。全国142万店ある小売店のうち、9月25日時点での登録申請数は73万店となり、経済産業省は、加盟店にステッカーを配布し、全国各地の加盟店を一目で確認できるようオンライン地図まで作成して差別化を図っている。


 消費税を10%取られるところが8%ないしは5%で済み、さらに独自に「○○%還元」などのキャンペーンをする大手企業も出てくるなど、国を挙げてお得感が煽られるなかで、消費者はカードやスマホアプリを取得し、より還元率の高い店で買い物をするように促される。消費税の増税によって強制的に物価を上昇させたうえで、今度は官主導で大手による値下げ競争を促進している格好だ。


 政府は、これらのキャッシュレス決済やプレミアム商品券、住宅ローン減税などの「負担軽減策」のために、2%増税分の6兆円を大きくこえる6兆6000億円を投入する。巷では「還元するなら増税するな」との声も少なくないが、「軽減対策」の仕組みを見ると、消費税増税の目的が「社会保障予算の確保」のためではなく、クレジットカードや電子マネー、キャッシュレス関連企業への利益誘導、デジタル化による国民の個人情報収集、中小零細企業や低所得者をより簡単に搾取できるようにする構造改革の一環であることがわかる。


 小売店がクレジットカードによる決済システムを導入するためには、カード読みとり端末の設置料、通信費、売上に対して3~7%の加盟店手数料が必要となる。企業によって差はあるものの初期費用だけで7、8万円が必要で、月額の管理費用が5000~1万円、さらに取引に応じて売上金から数%の手数料が差し引かれる。手数料はカード会社が店の信用力などに応じて設定するため、小規模店ほど高くなる。キャッシュレスを導入させることで、これまで現金払いで得ていた小売店の収入の一部をクレジット会社が自動的に吸い上げていくシステムだ。


 来年6月をもって政府による還元は終わるため、初期投資や毎月の設備維持費を賄えるだけの売上のない中小零細商店は導入を見送らざるを得ず、約半分の小売店がポイント還元対象の蚊帳の外に置かれている。背に腹はかえられず導入しても「利用者が増えれば小売店にとっては負担増。本当ならできる限り現金払いにしてもらいたい…」と本音を漏らす商店主も多い。制度そのものが「個人消費の下支え」でも「中小事業者の支援」でもなく、キャッシュレス化を拡大し、消費者や中小零細企業をカード会社や金融機関に縛り付ける設計になっているからだ。


 ソフトバンクとヤフーが設立したペイペイなどは、手数料「ゼロ円」を売り文句にしてシェアを拡大しているが、「サービス開始日より3年間(2021年9月30日まで)」という期限付きで、消費者の財布を囲い込み、システムへの依存体質をつくってから吸い上げる戦略であるため、実際には「タダより高いものはない」のが現実といえる。電子決済導入によって収入が吸い上げられていくシステムになれば、小売店はさらなるコストカットが迫られ、人件費削減が避けられなくなる。


 全国スーパーマーケット協会や日本チェーンストア協会など業界4団体は先月、「ポイント還元店舗が至るところに出現し、その地域の消費環境や競争環境に大きな影響をおよぼす」とし、キャッシュレス還元加盟店の随時登録(無期限申請受付)を見直すように経産省に要望している。


 また、ポイント還元による「即日充当(実質値引き)」によって、官製による「常時値引き」が至るところに出現し、「公正・公平な競争環境や自由な事業活動を大きく損なう」として廃止を求めたが、いずれも政府に応える姿勢は見られない。


 さらにキャッシュレス化は、カード会社や情報管理企業による膨大な個人情報の取得を可能にする。本名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報を提供せずに電子決済を利用することはできず、これらのサービス提供企業には、商品購入履歴、位置情報、所得や預貯金残高、通話記録、電子メール、映像・写真情報、ネット閲覧履歴、店舗検索情報、移動履歴、SNSの利用履歴にいたるさまざまなデータが蓄積される。


 これらを氏名・住所・生年月日などの契約者情報と結び付けることによって、趣味・嗜向、人間関係、思想信条も含めた個人情報を丸裸にできる。これらのプライバシー情報は商品として売り買いされ、各企業はビッグデータをAIで分析し、マーケティングの材料とする。また、国家機関の要請に応じて国にも提供されるほか、マイナンバーなどと結びつければ、国や行政が国民の私生活をのぞき見でき、統制するさいの道具にもなり得る。


 自民・公明与党が「全額を社会保障に充てる」と約束した消費税だが、安倍首相みずから「増税分の5分の4を借金返しに充てていた」(今年1月28日の施政方針演説)といい、前回の3%増税分のうち社会保障費に充てられていたのはわずか16%であったことが広く暴露されている。低所得者により高い負担を強いる逆進税制で貧困化を加速させ、「軽減対策」によって大手が利益を巻き上げるシステムに中小小売店を組み込み、国民生活全体を統制しようとする意図があらわれている。

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