いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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国民の食守ると漁業者が行動 円安で燃料高騰

 アベノミクスによる円安をはじめ、露骨な農漁業潰しで突っ走る安倍政府に対し、日本の食料生産を守る漁業者の行動が活発化している。燃料高騰問題では福岡県、大分県、兵庫県、秋田県、北海道など全国の漁業協同組合連合会が一斉休漁や危機突破集会で、国が水産食料の安定供給に責任をはたすことを要求。29日には全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)が東京で全国集会を開催した。原発再稼働問題では被爆県の長崎県漁連がいち早く声をあげ、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)再稼働に反対して7月に大規模な海上デモをおこなう方針を決定した。尖閣諸島近辺で米軍や自衛隊がマグロはえ縄漁船の網を切断した事件も、宮崎県漁協が米軍や自衛隊の責任を追及する動きになっている。海に囲まれた日本で沿岸は埋め立てられて魚が激減し、沖に出れば異常な燃料高騰で苦境に立たされ、米軍や自衛艦には漁具まで破壊され、まともな漁業ができず、つぶされるに任せることほど異常なことはない。各地の浜では戦中戦後に海がはたしてきた役割を知る漁業者も多く「日本が戦後復興できたのは海と山があったからだ。今農漁業の再生に乗り出さないと手遅れになる」と切実な思いを込め行動へ踏み出している。
 
 全国各地で集会や街頭宣伝

 JF全漁連は29日、全国各地でとりくまれた行動の集約点として「我が国漁業の存続を求める全国漁業代表者集会」を東京・日比谷野外音楽堂で開き、2500人が結集した。全漁連の服部郁弘会長は「省エネ、経費削減の努力を続けてきたが、燃油価格の上昇がこの努力を全てのみ込んでしまった」とし、小手先の手直しだけでは変わらないことを指摘。「円安によってもたらされた燃油価格や養殖用飼料の急騰によって、漁業・養殖業者が廃業にまで追い込まれることは許されることではない」「燃料高騰が続けば漁業者が減少し、食料の安定供給にも支障が出る」とのべ「我が国漁業存続のための緊急政策が確実に実現できるよう全国の漁業者が一丸となってともに頑張ろう」と訴えた。
 次いで青森県小型いか釣り漁業協議会の三國優会長、全国底曳網漁業連合会の吉岡修一会長、宮崎県かつお・まぐろ漁業者協会の渡邊義一監事が意見を表明。どこの港に行っても休んでいる船が増えているが、やむにやまれず船を出せない実情であること、漁業を続けたくても廃業に追いこまれる漁業者が増えていることを報告した。食料生産を担い続けてきた漁業者として、国民に新鮮な魚を届ける役割が押しつぶされていく実情を変えていくために、国が漁業再生に力を入れるよう訴えた。
 その後、国に燃料高騰分の緊急支援を求める決議を採択。「我が国漁業の存続を!」の横断幕を先頭に「食卓に日本の魚を届けたい!」などのプラカードを掲げ国会周辺をデモ行進した。
 この日、全国各地で漁業者が街頭宣伝にくり出し、国に漁業存続のための緊急政策を要求するチラシを配布。青森、岩手、石川、福井、静岡、三重、京都、大阪、兵庫、和歌山、鳥取、島根、広島、徳島、愛媛、長崎、大分、鹿児島などの県漁連が一斉に行動した。福岡県漁連や北海道漁連はすでに宣伝行動を展開しており、山形県漁連は6月9日のイカ釣り漁船出航セレモニーで宣伝する。
 配布したチラシでは、円安による燃油高騰が漁業経営にもたらす影響とともに、福島原発事故による風評被害や消費の減少、輸入水産物の流入で魚価が下落していることを訴え、TPP参加によって輸入水産物の歯止めがなくなれば一層の魚価下落は避けられないと指摘。「漁業者が廃業すれば、水産物供給の役割を果たせなくなるだけでなく、水産物の加工業者や漁船漁網などの製造業者を含む幅広い関連産業も経営不振に巻き込むという負の連鎖が始まる。さらには国民にとって重要な多面的機能発揮(藻場・干潟を守る環境保全、海難救助・国境監視、伝統文化の創造と継承、関連産業の発展など)の責務も果たすことができない」と警鐘を鳴らしている。東京の集会に代表が参加するだけでなく各地で行動の裾野が広がっている。
 全国集会にむけて大分、北海道、兵庫、福岡、香川、三重、宮崎など各地で危機突破集会が開かれ、戦後一貫して続いてきた漁業をつぶす政治の行き着く先として福島原発事故、燃油高騰、TPP参加などが動いていることが語られ、こうした政治とたたかい、幾世代にもわたって日本の漁業を守り続ける意気込みがみなぎった。
 筑前海域(福岡県)の漁業者は「燃料高騰分を国が補助することが漁業者にとって切実な問題だが、魚がおらず魚価が安いということについて、もっと抜本的な対策が必要だ。人工島やコンテナターミナル、空港、工場、原発、米軍基地をつくって岸壁を埋め立てて、魚が産卵し育つ場がない。海中も波が岸壁にぶつかるだけだから普通の砂浜のように上下が入れ替わらず、ヘドロのようになり貝も死んでいく。こんなことを放置しておくと死の海になる。東北も津波や原発被害で漁業者の廃業が増えているなかで、本気で海を再生しなければ後後取り返しがつかないことになる。今なら浅瀬に魚礁を入れたり、漁獲制限をするなどの対策をとれば、長い年月はかかるが再生していける。大型道路や箱物ばかりあっても、人が住めなくなれば意味はなくなる。そんなむだ遣いをやめて海や山の再生に力を入れるほうが将来性がある。政府は国防に力をいれるというが、食料自給率四〇%では外国に輸入を止められれば国民が餓死する。アメリカから輸入すればいいというような考え自体が安易すぎる。国の食料生産、国の未来を守るためにも、今海を再生する努力を開始しないといけないと思う」と力をこめた。
 燃料高騰問題をめぐっては全日本トラック協会と都道府県トラック協会も23日、自民党本部(東京都千代田区)で全国総決起大会を開き、約800人が結集。大会決議では「トラック運送事業者はわが国の国民生活、産業活動を支えるライフラインとして、その重要な使命を果たすべく日夜懸命に努力している」が、アベノミクスの影響で多くの事業者が廃業の危機にあると強調。公的物流サービスを担うトラック運送事業者を守るため、国は実現可能なあらゆる緊急対策を早急に実施せよ、と要求している。

 長崎県漁連は海上デモ 原発再稼働に反対し

 福島原発事故がいまだに収拾できないなか、性懲りもなく安倍政府が原発再稼働へ乗り出す動きにも漁業者の行動が活発化している。
 長崎県漁連は20日に、玄海原発再稼働に反対する大規模な海上デモを実施する方針を決定。原発の新規制基準が施行され、電力各社の再稼働申請が可能となる7月に照準をあわせ漁船2000隻の参加を目指している。6月14日の県漁連総会で正式決定し、再稼働に反対する特別決議も採択する方針だ。
 同県漁業は生産量、生産額とも全国屈指の規模を誇り、県漁連の組合員は約2万8000人と全国最多。車エビやふぐの養殖、イカ釣り漁、まき網漁が盛んだが、玄海原発が近くにあることで魚価が低迷し、後継者育成にも甚大な影響を与えている。こうした積年の憤りを重ね再稼働絶対反対の声を被爆地・長崎から上げていく動きとなった。
 昨年総会の特別決議では「玄海原発から30㌔圏内では長崎の漁船が多く操業し、原発で事故が起きれば水産業への壊滅的な打撃は避けられず、漁業者としては安全・安心な水産物を提供する責務がある」とし「国や九州電力から安全性の十分な説明がないかぎり原発の運転再開に強く反対する」としている。
 玄海原発から近い福岡県の年配漁業者も「原発を建てさせること自体が無謀。大型タンカーは停船するまでに何㌔も走ることが必要だが、原発はブレーキがないタンカーか列車のようなものだ。だから事故が起こったのに、またブレーキのないまま再稼働することは絶対に許されない。自分たちは広島に落とされた原爆で許嫁を失い、戦後被爆したからと独身で過ごした女性を何人も見てきたが、あのようなことは二度とくり返させてはいけない。福島原発の被害もまだ収拾せず、日本では有数の漁場だった東北が大変なときだから、九州や西日本などの漁場が持つ役割は震災前より大きくなっている。原発で九州の漁場までつぶさせるわけにはいかない」と語る。
 海岸線の長い日本で沿岸や近海の漁場をつぶれるまま放置することへの違和感は強く「遠方の国境付近でもめるよりも沿岸漁業から再生する必要がある」「藻場を作るなど適切な措置をとっていけば再生の余地がある。ただ早くしないと手遅れになる」といった。
 戦時中、学徒として動員されていた筑前海域の漁業者は、「戦争のとき、お前たちはいずれ敵の弾よけになるのだから勉強はしなくていい。戦地にいくと自分が隠れるためのたこつぼを掘らないといけないが体が大きいと不利だ。だからあまり食べず体も小さくていいといわれた。戦争が近づくと食料生産はないがしろにする。そんなことがないようにと思って漁業を続けてきた。戦後は食べ物も職業もなかったが、海があったことで漁師になり焼け跡のなかから日本を復興していくことができた。海をつぶせば国の未来はなくなる」と強調した。

 尖閣騒ぎにも憤り拡大 米軍の漁具破壊追及

 燃料急騰のなか、沖縄県の尖閣諸島の周辺海域で操業していた宮崎、鹿児島両県のマグロ漁船が、米軍艦や自衛艦にはえ縄を何度も切断される事件が発生し問題になっている。自衛隊では横須賀基地(神奈川県)所属の海洋観測艦「にちなん」(3350㌧)と音響測定艦「ひびき」(2850㌧)が引き上げた観測機器にはえ縄が絡まっており、米軍艦船は漁業者が目撃した艦番号から音響測定艦「インペッカブル」(5368㌧)とみられている。
 被害にあった宮崎県のマグロ漁民は尖閣諸島近辺を中心操業地域としているが、高い燃料はむだになったうえ、はえ縄が切られてマグロはとれないため、収入は得られず、漁業経営の存続にかかわる問題になっている。尖閣諸島近辺に出漁する漁業関係者は「昔は訓練をやるときは事前通告があったが、尖閣問題が騒がれだして、自衛隊や米軍の船の航行が増えている。軍艦ばかり増やして軍事緊張を煽るとまともに漁業もできなくなる。近隣諸国と仲良くすることが大切」と指摘した。
 事前に「訓練をやる」とも「調査をする」とも漁業者に一切知らせず隠密行動をとり、漁具破損の事実についても、自衛隊はいまだに弁償の意向を示していない。米軍は漁具破損の事実も認めていない。海自イージス艦「あたご」が5年前、千葉県のマグロはえ縄漁船を沈没させ無罪となった事件も重ね、各地の漁業者は「米軍艦は日本を守らない」「漁業を安全に操業するうえでも近隣諸国との友好が不可欠」との実感を強めている。
 燃料高騰も原発再稼働も尖閣近辺をめぐる漁具切断も、アメリカのいいなりになって日本の食料生産を押しつぶすTPP参加を急ぎ、東北被災地を漁業権剥奪のチャンスとみなす売国政治、さらには「改憲」を叫び、戦時国家作りを急ぐ対米従属政治が漁業経営、そして国の食料生産を破壊していく関係を示している。国の食料生産を守る漁業者の行動は、日本の独立を目指し日米安保を破棄する課題と結びついて発展していく様相を見せている。また、漁業者の行動は同じく大企業優先の景気対策による円安で物価高に憤りを強める多産業の国民の共感を集めている。

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