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自助に委ねるなら年金返せ 金融庁「人生100年時代」提言の盗人猛々しさ 

 金融庁が「人生100年時代」に備えた「資産寿命」を延ばすための提言をまとめた報告書「高齢社会における資産形成・管理」で、公的年金制度が将来限界を迎えることを認めつつ、国民に資産運用などによる「自助努力」を呼びかけていることが物議を醸している。

 

 非正規雇用が広がるなど「雇用が流動化」し、平均寿命が延びて少子化が続くという条件のもとで、退職金や年金を頼りにした老後のモデルでは成り立たなくなっているので、若いうちから計画的に「資産形成せよ」という内容で、強制的に保険料を徴収しながら「年金支給をあてにするな」と政府みずから公言する開き直りを見せている。

 

 報告書では、「平均寿命」が男性81・1歳、女性87・3歳という長寿化が進む一方で、「健康寿命(心身ともに自立し、健康的に生活できる期間)」はそれよりも9~12歳若く、「就労困難化に伴う収入の減少や、介護費用など特別の費用がかかることによる支出の増大」などの問題を生み出していると指摘する。また、単身世帯の増加で「老後の親の世話は子どもが見る」という「標準的と考えられてきたモデル世帯」が空洞化していること、認知症の増加によって資産運用が制限されていることなどを老後をとり巻く条件の変化として列挙している。

 

 各世代の収入は低下の一途をたどっており、年金だけを収入とする無職の高齢夫婦世帯では平均して毎月5万円の赤字となり、保有資産を切り崩す以外にない。20~30年生きるならば1300万~2000万円のとり崩しが必要となり、介護費用や老人ホームなどの特別な支出を加えれば出費はさらにかさむ。報告書では、65~69歳の男性の55%、女性の34%が働いていることを「高齢者は総じて元気である」からとしているが、働かなければ食べていけないほど高齢者の収入が減っていることには触れていない。

 

 そのうえで「かつては退職金と年金給付の二つをベースに老後生活を営むことが一般的であった」が、「長寿化による影響はもちろんのこと、公的年金の水準が当面低下することが見込まれていることや退職金給付額の減少により、こうしたかつてのモデルは成り立たなくなってきている」とし、「年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい。今後は、公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある。年金受給額を含めて自分自身の状況を『見える化』して老後の収入が足りないと思われるのであれば、各各の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった『自助』の充実を行っていく必要がある」と結論づけている。

 

 だが、そもそも国民の老後の不安が増しているのは、終身雇用が崩れ、不安定な非正規労働がはびこり現役世代の収入がより不安定になったことに加え、60歳だった年金支給年齢を65歳に切り上げ、はては70歳案も浮上するなど、国による公的年金運用が極めて詐欺的であるからにほかならない。国民が「老後の資金」として計画的に納めてきた年金を約束通り支給しないことが「不安」の根源であるにもかかわらず、それを棚上げして納税者に「自助努力」を説教する盗人猛猛しさを披瀝している。

 

 さらに報告書は憶面もなく「米国では75歳以上の高齢世帯の金融資産はここ20年ほどで3倍ほどに伸びている」とのモデルを持ち出し、「資産寿命」を延ばすためには「現役で働く期間を延ばす」ことや「生活費の節約」だけでなく、NISA(個人投資家のための税制優遇制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などを活用して「若いうちから少しずつ資産形成にとり組む」ことを推奨し、「老後の生活の柱の一つとなりうる退職金がない自営業の者などにおいては、この退職金にかわる自助努力が求められる」など、「自助」を連発している。

 

 金融機関に対しては、こうした「自助」のニーズにあったサービスの提供を求めている。「公的年金の水準が、中調的に低下していく見込みの中、長寿化に応じて、資産寿命をどう延ばしていくか、個々人の資産の形成・管理での心構えの一つ」が「『自助』の充実」であり、「『自助』の精神に基づき行動する顧客」に対して、「資産形成・管理やコンサルティング機能の強化」「サービスを多様化や『見える化』の推進」「認知・判断能力が低下・喪失した者に対する資産の運用・保全向けの商品・サービスの充実」することなどを提言している。約束通り払われない年金を強制的に徴収しながら、なけなしの蓄えまでも株式市場に投入させ、さらに剥ぎとる意図が見え隠れしている。

 

 公的年金の保険料を株式運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、昨年末の3カ月間で過去最悪の14兆円をこえる損失を出したことが報じられており、国民の老後の蓄えを株価維持の肥やしに散財している。公的年金制度の破たんを政府自身が認めるのであれば、納めた年金を耳を揃えて国民に返却しなければ誰も納得しない。

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