「上級国民」の楽しみを支える為に翻弄される現場
いよいよ10連休に突入した。「皇位継承の祝賀ムードを高める」としてかつてない大型連休がつくり出されたが、湧いているのはテレビや旅行業界、レジャー産業くらいだ。1カ月のおよそ3分の1ものあいだ公的機関や金融機関、医療機関、保育園や学校などさまざまな社会生活が停止することが、国民生活に甚大な影響を与え、混乱を招くことは明白なものとなっている。すでに連休対応のために忙殺されている業種も多く、10連休を楽しみにしている国民はごく一握り。その社会的役割を果たすために休日をとれない人人も多く、休日格差も生じている。「連休をつくれば消費が拡大する」と短絡的に考えている日本政府が、いかに社会について無知であるかを浮き彫りにしている。
下関市内でも、中小企業の経理担当の周囲は月末が近づくにつれ殺気立っていた。本来なら30日は平日だったはずなのに、「国民の休日」になったため、26日までに支払い等を終えなければならないからだ。連休中に営業する商業者は、10日分の釣り銭も26日までに確保しておかなければならない。金融機関に行けば長蛇の列で、何をするにも時間がかかる。「ただでさえ忙しい月末をわざわざ休日にするなどやめてほしい」というのが中小企業主や経理担当の思いだ。連休中は大手が止まるため休まざるを得ない業種もあれば、前倒しで部品などを発注し、休まず動く企業もあるが、どちらにしても影響は大きい。
中小の建設業関係者は、「連休中はメーカーからの部品納入が止まるが、うちが止めると大工さんや顧客に迷惑がかかるので、前倒しで発注をかけて期間中の部品を確保した。休みのあいだは夫婦だけでも現場を回って部品を届けるつもりだ。支払いなど金融機関が関係するものは26日までに終わらせなければいけないので、早めに仕事を追い込んでいる」と話した。
鉄工関係の中小企業は、「大企業が止まるので、必然的に現場はストップせざるを得ない。月給制をとっているので収入がなくても給料は当たり前に払わないといけない」と話す。今月はおよそ100万円の赤字になる見込みだ。約30年仕事をしてきて10連休など初めてのことだと話した。
日給月給の企業の場合は、労働者の収入に直結する。もともと5月は連休で手取りが少ない月だが、今回はそれに3日間が加わる。1日7000円の日給の場合、他の月と比べると3万5000円の減収だ。建設業界や鉄工業界など日給月給の現場は多く、「ニュースでは連休で海外に行くとか、普段行けない遠方に行くなどの話題ばかり出るが、連休になると収入が減って遊びに行く金などなくなる」と話す若者たちもいた。非正規雇用が全就業者の4割にのぼるなかで、強制的な休業が家計に及ぼす影響は甚大だ。
商店主たちも頭を抱えている。周囲の会社に勤める人たちが昼食を食べに来る店などは、10日間休日になると商売はあがったりだ。飲み屋の多い豊前田商店街も「人が来ないので、カレンダーで平日になっている日は休業しようかと思っている」といい、観光客の多い唐戸や長府の商店街では、「1人でも2人でも客が来れば…」と店を開ける商店主もあれば、店を閉めてアルバイトに出るという商店主もいる。
新学期が始まったばかりの小学校は、春に運動会や修学旅行などの行事もあるため、授業時間との調整が大事になっている。これを機に家庭訪問をとりやめる動きもある。教師のなかで、連休が子どもたちに与える影響を心配する声は強く、「とくに新1年生は入学式から1カ月かけて基本的な生活習慣を身に付けるよう指導してきたのに、おそらく10連休で吹っ飛んでしまう。これまでの5連休でさえ自分の机がわからなくなる子が出ていたのに、10連休明けはどうなるだろうか」「10連休明けに登校して来ない子が増えるのではないかと心配だ」と語られている。
また親が休めない子や、給食が命綱になっている子も増加しており、「近年、長期休暇のあいだに痩せる子どもが増えている。ようやく春休みが終わって給食が始まったのに、1カ月もたたないうちに10連休になると、また痩せる子が増えるのではないか。それが一番心配だ」と話す関係者もいた。
連休とはいえ、24時間365日、だれかが常に働かなければ社会が回らない仕組みになっている。休日がかき入れ時になるサービス業が10連勤になるのはもちろんだが、スーパーが開けば、レジや品出しなど店舗スタッフも必要だし、ささがきやパック詰めなど野菜を加工して納める下請業者も動くことになる。当然、商品を運ぶ運輸関係も動かなければならない。細分化した分業が進んでいるため、一口にサービス業といってもそれに連なる製造業も動かざるを得ない。
患者や高齢者を抱える医療や介護業界は、命にかかわるので事務方も含め、通常通り業務をおこなうようだ。政府が「10連休だ」と決めたところで、みなが休めば世の中が止まる。相当数の人たちが通常通り働くことになっており、祝日をつくって10連休にするという手法は、時代遅れも甚だしいものとなっている。
息子が医療関連の研究所で働いているという女性は、「普通の工場は止まっても、研究所は止まらないようだ。命にかかわる仕事でもあるし、ずっと仕事だといっていた。総合病院も入院患者がいるので、看護師や給食をつくる人たちにしても連休中も働かなければいけない。10連休というのが9割の働く人の発想ではなく、1割の富裕層の発想だ」と指摘した。
当初は「過去にない大型連休になる」というはしゃいだ空気の方が強かったが、いざ連休が近づいてくると、休めない親たちが子どもを預ける場所、医療機関や介護、流通など、さまざまな分野に支障が出ることが明らかになってきて、安倍政府も今年に入り、医療・介護、保育体制、電気・ガス・水道事業や金融機関などに対して、「生活に影響が出ないよう万全の対応をとること」とする指示や対応策を矢継ぎ早に下ろした。
ある介護関係者は、「うちは日曜日をのぞいて、10連休中も通常通り稼働する。特別養護老人ホームは高齢者が入所しているので、もともと年中無休で動いているが、今回はデイサービスなども開けることになった。職員は休日出勤の割り増し賃金になるので、経営的に見ると人件費の膨らみはすごいと思う。しかし生きている人が相手なのでいくら国が“連休だ”といっても休むことはできない。政府は10連休を決めて満足しているだろうが、現場は大変だ」と話した。
介護関係がデイサービスやヘルパーなども含めほぼ通常通りの業務をおこなう背景には、独居や2人暮らしの高齢者世帯が増加していることがあるようだ。とくに認知症で自宅で生活している高齢者の場合、定期的に人が出入りする状態を維持することが必要で、「10日間もヘルパーが入らないとか、デイサービスに行かないとなると、子どもが帰ってこない家はそうとう厳しい生活になる。命にもかかわりかねないので、10日休業するという選択肢は現実的に難しい」と介護関係者は話していた。こうした現場では「“対応を怠らないように”という指示が下りてくるが、だれが10連休にしたのか? といいたくなる」という声が広がっている。
下関の医療機関では
政府が通達を下ろすまでもなく、みながこうして動いている。一つの懸念となっていたのが医療機関で、今年に入り厚生労働省が、連休中も必要な医療を受けられる体制づくりと情報の周知を要請していたが、結局、医療関係者が休日をとらずに稼働することで、連休中に病院がないという事態は避けられることになった。
下関の場合、救急は4総合病院が通常通りの輪番体制で受け入れをおこなうほか、病棟や透析も通常通りに動く。加えて外来も平日の4月30日、5月1、2日のうち、少ないところで2日間、多いところは3日とも外来診療をおこなうことになっている。外来を開けるということは、医師・看護師に加えて受付スタッフなどの委託業者も仕事に出ることになり、ほぼフル稼働になるようだ。総合病院関係者は「連休中も平日の3日間は3病院ないしは4病院とも外来を開けているので、何かあればかかれるようになっている。何もなければ休みの人は連休を楽しんでもらえたらいい」と話す。
個人病院は大半が休業する。「開院する」と申告してしまうと、休日の診療報酬ではなく通常の診療報酬になるが、スタッフには休日の割り増し賃金を支払わなければならないため、赤字になるという事情があるようだ。実際には急な患者に備えて病院や自宅で待機している医師も少なくない。
ホリデー保育には殺到
働く親たちが相当数いるなかで、矛盾となっているのが保育園や学校の休業だ。娘が食品加工業で働いている女性は、「スーパーが開くので娘の会社も連休中は仕事だが、学校が休みになるので、その期間は私が孫を預かることにした」と話す。祖父母が近くにいる家庭は預けることができるが、子どもの預け先がなく、仕事を休まざるを得ない家庭もあり、休む人が出ると、現場は人手不足で呻吟する実態がある。
下関市内では市立1園、私立2園でホリデー保育をおこなう。10連休の期間中は、ホリデー保育の申し込みが予想以上に多く、1日当りの利用者数は3園の合計で昨年のおよそ2倍となっている。いかに休まない親が多いかを示している。
下関市が管轄する市立幡生こども園は、とくに3歳未満児の申し込みが予想以上に多かったため保育士を増員して対応した。10連休中はのべ70人の保育士を確保しなければならないため、連休前はスタッフ確保とシフト編成に追われた。担当課は、「土・日は休みだが、祝日は休みではないという親が思いのほか多い。通常でも保育士不足なので、10連休となると大変だ」と話していた。
このほかに、親たちの状況を踏まえて4月30日~5月2日の期間は普通通りに開園する私立保育園もある。ある私立保育園関係者は、「ひとり親で、看護師など交代勤務の親も多く、日頃から午後9時になっても迎えが来ない子どももいる。10日連続で保育園が休みになると親たちが困るだろうという判断から、平日期間は開園することにした」と話した。
別の園では希望をとったところ、連休初日の27日と30日~5月2日の3日間は、全園児の約45%が登園を希望したという。子どもが多い日には保育士15~20人体制で対応し、給食なども準備することにしている。
こうして見ると、10日間も連休がとれる人がどこにいるのか? というほど各業種が相手先との関係で動く体制をとっている。労働者には休日出勤手当が出るが、この4~6月の期間は年間の社会保険料が決まる時期でもある。ある企業の経理担当は、「連休で賃金が高くなると、来年8月から1年間の社会保険料が引き上げられる人も出てくるのではないか。誰も休めないのに、勝手に連休にして、手取りが増えた分は国が吸い上げていく。本当におかしなことばかりだ」と話していた。
政府・財界主導で導入した「プレミアム・フライデー」が隠れたサービス残業を増加させたように、かつてない10連休が社会的混乱を招くことは必至となっており、「善意でみなが動くから世の中が回っているが、いっそ本当に休業して10連休という発想がどれだけバカげたことなのか、政府に知らしめた方がよいのではないか」という意見も上がっている。
10連休にも、社会格差
10連休で遊べる(休める)のは、正規雇用、完全月給制、通常勤務の恵まれた労働環境の人だけだ。
国民の多くは、休めない、休んだから収入が減った、休んでもお金がないので何もできない、といったのが現状だ
けっきょく、今の政府は、恵まれた人のための施策しかできない、裕福な人の政府なのだ。
私は、いつもどおり仕事ですよ