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辺野古新基地建設を阻止する追撃戦 注目される沖縄県民投票

 日米政府が計画する沖縄県名護市辺野古への米軍基地建設をめぐり、埋め立ての是非を問う沖縄県民投票(2月24日投開票)が14日、告示された。沖縄県では、1995年の米兵3人による少女暴行事件に端を発した基地撤去世論の広がりのなかでおこなわれた米軍基地の整理縮小を問う県民投票に続き、2回目の実施となる。沖縄県民は、昨年9月の県知事選を含めてあらゆる機会を通じて辺野古新基地建設に対する圧倒的な反対世論を突きつけたが、政府は法解釈を一方的に変え、司法を盾にしながらこれを無視しており、県民にとってはこの計画にとどめを刺す追撃戦となる。

 

県民投票の会によるアピール行動(14日、那覇市県庁前)

 「辺野古」の是非を問う県民投票の実施は、県民が一貫して示してきた基地建設反対の民意を政府が一顧だにすることなく工事を強行してきたことから、県民の民意をより明確に示す手段として実現に向けた動きが下から盛り上がってきた。

 

 問題は、2013年12月、それまで公約である「普天間基地の県外移設」を唱えていた仲井真知事(当時)が、安倍政府との間で毎年3000億円の振興予算と引き換えに政府の辺野古移設案(新基地建設)を認め、「いい正月が迎えられる」といって公約を裏切ったことに端を発する。このとき、仲井真知事は条件として「普天間飛行場の5年以内運用停止、早期返還」など4項目を安倍政府に要望し、政府が「最大限努力する」と答えたことを「驚くべき立派な内容」と評価したうえで、公有水面埋立許可を出した。その後、仲井真県政は「普天間の運用停止は、辺野古新基地の建設とは区別する」という立場をとりつつ、安倍政府は2019年2月までの普天間基地の運用停止を明言していた。だが、その期限を迎えた現在、普天間基地の運用停止の動きはまったくみられない。それどころか、一昨年からは大規模な改修工事をはじめ、滑走路のかさ上げや兵舎の新改築などが400億円もの予算をかけて進行している。

 

 この仲井真県政の裏切りに怒りの世論が巻き起こり、2014年11月の知事選では、那覇市長であった翁長雄志前知事が「辺野古新基地阻止」を公約にして出馬し、仲井真元知事に10万票の大差を付けて圧勝した。叩き落とされた仲井真元知事は1年にしてまったく逆の正月を迎えることになった。翁長県政は2015年、仲井真知事がおこなった埋立承認が環境保全等多くの問題があることを理由にこれを取り消した。しかし、国も提訴して裁判になり、2016年12月、最高裁は「(仲井真知事の)承認には問題がなく、取り消した沖縄県は違法」との判決を下し、国は工事を再開した。また、国の工事にともなう岩礁破砕許可を求めた県の訴えに対しても、那覇地裁はその訴えの内容を審理することなく「県の訴えは裁判の対象外」として却下した。

 

 知事選だけでなく、衆参両院議員などのあいつぐ国政選挙でも、沖縄県内では「辺野古」問題が争点となり、「反対」を公約とする候補が当選し、推進側の自民党候補を落選に追い込んできた。だが、県の「埋立承認取り消し」の取り消しを求めて国が起こした裁判で、福岡高裁那覇支部の判決(2016年9月16日)は、「普天間飛行場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するものであり、そうである以上本件新施設等(辺野古基地)の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとは言えない」として、国の「是正の指示」に沖縄県が従わなかったのは違法と断じた。つまり、県知事選や各種選挙の結果は、いくら選挙戦で「辺野古」が争点になっていたとしてもさまざまな要素が含まれており、「辺野古新基地反対」の民意とは見なすことはできないという政府にとって都合のいい見解だった。

 

 こうして辺野古新基地をめぐって選挙で県民が突きつけてきた「辺野古新基地反対」の意志は棚上げにされ、地元自治体でありながら沖縄県の権限さえも無効化された。官僚や最高裁人事を握る安倍政府は、本来は憲法で分権が規定されているはずの行政、司法を抱き込みつつ、都合のいい法解釈の変更をくり返しながら辺野古の埋め立てに向けた工事を強行した。メディアを使って「地方自治体が反抗しても工事は進む」という諦めを誘いながら、沖縄県に配分する一般予算を減らす「兵糧攻め」をし、県内での市町村長選挙では「アメとムチ」を振りかざして介入を強め、昨年2月の名護市長選では「辺野古」を争点にさせない棚上げ作戦で市長ポストをもぎ取るまでに至った。

 

条例請求署名開始 2ヵ月間で10万人

 

 知事選などで敗北したさいには「辺野古問題は、地方選挙の結果に左右されない」といっていた安倍政府だが、名護市長選後は「地元の理解が得られた」と喧伝する。沖縄県の地方自治権や県民の意志をまるで蚊帳の外に置いた法廷での闘争や、予算配分で介入しやすい市町村長選挙という土俵で「オール沖縄」の側が劣勢となるなかで、もう一度県民の世論を土台にしてたたかいの仕切り直しを図るために提起されたのが県民投票の実施だった。

 

 当初は「選挙を通じて全県民的な民意はあらわされており、リスクを冒してまで県民投票をやるべきでない」などの否定意見が大勢を占めていた「オール沖縄」だったが、「県民に意志表示のチャンスが与えられないまま基地建設が進むようなことがあってはならない」「県民の意志を直接問う機会をつくることが最大の武器であり、県による埋立承認撤回にとって有効な後ろ盾になる」「より直接的な方法で全県民の意志を示すことが必要だ」という観点から、団体組織や政党、議員などではなく、大学生や事業主、退職者、主婦など一般市民による下からの実力行使によって署名活動が開始された。米軍基地をつくるために、憲法で定められた地方自治権や、唯一の参政権である選挙による間接民主主義を歪め、公正中立であるべき司法までが二重基準の判断を下して県民を翻弄するという支配構図があらわになるなか、この枠に縛られるのではなく、主人公である県民が直接民主主義を行使して、より明確に民意を示すことによってこの枠を取り払い、県民の力によって新たな米軍基地建設を阻止するという不屈の意志が下から揺り動かしていった。

 

スーパー前で県民投票実施の署名に応じる県民

 昨年5月からはじまった署名活動は、県民有志でつくる「辺野古」県民投票を考える会(元山仁士郎代表)のメンバーたちが、離島を含めた県内各地をくまなく回って署名への協力を訴え、終盤にはスーパー前などの街頭にもくり出し、わずか2カ月間で県内有権者の10分の1をこえる10万950筆もの署名が集まった。直接に不特定多数の県民の中に飛び込んでいく努力を通じて、辺野古現地での抗議行動などには参加できない人たちも含めて結びついていったことで、またたくまに島ぐるみの力を結集するものとなった。選管審査の結果、法定必要署名数2万3171筆の4倍を上回る有効署名9万2848筆が県に提出され、昨年10月に県議会で投票の実施が可決された。

 

 翁長知事の逝去にともなう昨年9月の知事選では、オール沖縄陣営が推す玉城デニー氏が翁長知事の前回の得票を3万5000票上回る39万6632票という史上最高得票で当選し、自民・公明・維新などの組織をフル動員した安倍政府の切り崩しを完全に打ち砕くものとなった。県民投票署名をはじめとする一連の活動は、諦めの世論やイデオロギー対立に持ち込んで県民を分断するような動きを排し、あらためて県民を世論を喚起していくうえで大きな援護射撃となった。

 

当選が確実になり、万歳を三唱する玉城デニー陣営

 それでも開き直るしかない安倍政府は、沖縄県が発出した埋立承認の撤回を、4年前に「取り消し」を無効化させた同じ手法ではね付けて土砂投入を強行し、行政レベルのたたかいは再び法廷闘争にもつれ込んでいる。だが、土砂を投入した辺野古新基地の現場では、あいつぐ環境破壊問題や周辺の建物の高さ制限問題、活断層問題、さらに地下40㍍にも及ぶ「マヨネーズ状」の軟弱地盤の存在が明らかになり、時間が経てば経つほど政府が隠してきた過失が表面化をはじめている。昨年、土砂投入で苦し紛れのパフォーマンスをしたものの、政府はいまだに工事の完了時期も事業費の規模も示せていない。

 

軟弱地盤に砂杭6万本 物理的に無理

 

とくに軟弱地盤問題は、文字通り辺野古基地の物理的な存立基盤を揺さぶっている。安倍政府は大浦湾の海域約57㌶の地盤改良のため、砂の杭約6万本を水深90㍍まで打ち込む工事を検討していることを今月はじめにアナウンスした。沖縄防衛局が昨年末まで県に示していた砂杭4万本という想定を大幅に上回った。しかも、そのためには設計そのものの計画を変更しなければならず、県の許可を得られるメドはない。

 

 6万本の杭打ち工法は、強く締め固めた砂杭を地盤に打ち込んで密度を高める「サンドコンパクションパイル」と呼ばれ、同じく軟弱地盤の上にたつ関西国際空港などでも使われた。だが、関西国際空港では埋め立て区域に2・5㍍間隔で直径40㌢、長さ20㍍の砂杭を一期島、二期島あわせて220万本打ち込んだが、その後も沈下は止まらず、いまでも護岸のかさ上げ工事や滑走路や建物の水平を保つための鉄板で挟むジャッキアップをやり続けなければ安全性が確保できない現状にある。

 

 辺野古の場合は、明らかにしているだけでも護岸部分で約17㌶、埋め立て部が約40㌶。それもすべて水深90㍍という異例の深さまで地盤改良をしなければならない。国内に存在する作業船で打ち込める深さは最大70㍍で、しかも2隻しかないため、「工事をするには中国が持つ大型作業船を借りるしかない」との情報まで飛び交っている。

 

妨害乗り越え全県実施

 

 県民投票の実施をめぐり、安倍政府は沖縄県内の自民党議員に号令をかけて投票事務予算の否決や、市長による「投票の拒否」をやらせたものの、これも県民の反発によって覆された。市町村議員を対象にして弁護士出身の自民党衆議院議員(比例復活)が手ほどきをする学習会をしていたことも判明したが、政府を忖度して県民の投票権を強奪する手法は逆に県民の怒りに火をつけた。沖縄県内の自民党議員を使ったサボタージュ作戦が失敗し、不参加を表明していた自治体も含めた全県実施が実現すると、最後は、背後にいた官邸自身が「県民投票の結果がどういう結果でも移設方針に変わりはない」(菅官房長官)と開き直りのアナウンスをする顛末となった。

 

 沖縄県民の間では「嘘を嘘で塗り固めてきた政府のやり方を県民はみんな見抜いてきた。今年2月までに返還するといっていた普天間基地は強化されており、嘉手納基地も滑走路の改修工事をはじめている。今回の県民投票は、県民の意志をはっきりと示す絶好の機会にしなければならず、投票率を上げて政府や裁判所の逃げ道をふさがなければならない」「自民党支持者のなかで“県民投票はしない方がいい”という意見もあるが、膝をつき合わせて話をするなかで“支持政党やイデオロギーをこえて、辺野古問題について県民の民意をはっきりと示すことは沖縄が政府と交渉するうえで大きな武器になる。是非をはっきりさせて要求していかなければ問題はいつまでたっても解決しない”という論議になる。普天間の閉鎖撤去も含めて、辺野古問題の決着をつけることでしか前に進まない」と語られている。

 

 今回の県民投票条例は、辺野古新基地のための埋め立てに「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択で、得票の多いものが有権者の4分の1に達すれば知事は結果を尊重し、首相とアメリカ大統領に通知することを定めている。そのためにはまず投票率を上げることが大きな焦点となっている。辺野古新基地問題に対する民意を内外に示すだけでなく、民主主義の原則と国の主権を蹂躙し、沖縄と日本全国を米軍基地支配に縛り付ける日米政府とたたかう全国的な連帯を広げるうえで、その結果が注目されている。

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