横行する権力の覗き見
検察当局が、鉄道や携帯、クレジットカードなど民間企業や団体が管理する顧客情報を捜査令状もなく入手していることが判明し、物議を醸している。安倍政府は、消費増税後の9カ月間、キャッシュレス決済には還元措置をもうけるなどカード化やデジタル化を推進しているが、秘密保持が前提である個人情報が本人が知らぬ間に第三者(捜査機関)の手に渡り、買い物記録や会話まで個人の私生活を自由にのぞき見できる仕組みづくりが背景にある。個人情報保護法など表向きは厳格なプライバシー保護を装いながら、裏では国民を「丸裸」にする監視体制作りが進んでいる。
明らかになったのは、最高検察庁が作成した「捜査上有効なデータ等へのアクセス方法等一覧表」なる内部資料で、個人情報を保有する企業など約290団体から、公共交通機関や商品購入の履歴、位置情報など約360種類もの個人情報の取得方法、留意点がまとめられている。大半の情報は、裁判所などの外部チェックを受けず、捜査令状を必要としない「捜査関係事項照会」で入手できると明記している。
資料を入手した共同通信が、リストに記載された企業など約290団体にアンケートをとったところ、少なくとも3割にあたる91団体が、警察や検察による「捜査関係事項照会」などの任意の要請にもとづいて、顧客の氏名や住所、利用履歴などを提供していた。このうち29団体は、顧客に向けた利用規約や個人情報保護方針(プライバシーポリシー)などに捜査当局へ情報提供を明記していなかった。さらに半数以上の約180団体は回答しておらず、利用者の知らないところで個人情報の共有が広がっている可能性がある。
回答した企業が提供した情報の種類は、①カードなどの利用履歴、②氏名、住所、生年月日、③電話番号、④銀行口座、⑤メールアドレス、⑥家族情報などが上位を占めている。
対象に挙げられている企業は、主要な航空会社、鉄道、バスなどの交通各社、クレジットカード会社、消費者金融、コンビニ、スーパー、家電量販店をはじめ、買い物のさいに付与されるポイントカードの発行会社や、携帯電話会社など、国民生活の全般にかかわる主要企業がほぼ網羅されている。
JRなどの鉄道会社からは、定期券の内容、ICカードのチャージ金額や移動範囲を示す利用履歴などが入手対象となり、電子マネー、ポイントカード、クレジットカード会社からは、預貯金残高や銀行口座、利用履歴にいたる個人の信用情報のほとんどが入手できる。携帯会社からは、通話履歴やメール送受信履歴、位置情報が「入手可能な情報」としてリストアップされており、これらの情報を組み合わせれば個人の私生活や人間関係まで把握できる。
さらに、アプリでのフリーマーケット取引履歴、運転免許証や顔写真の写しなども含まれ、ドラッグストアやコンビニ、レンタルビデオ、書店などの購入履歴などからは、対象者の思想信条や趣味嗜好、健康状態まで把握することが可能だ。これらの情報の入手に使われる「捜査関係事項照会」は、捜査当局が独自に企業側に出す要請にすぎず、取得後の情報の使用方法や管理体制、漏洩リスクの実態も不明なうえに、当局へ情報を提供したことは顧客本人には通知されない。
憲法は「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」は、「正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない」(35条)と明記しており、個個の捜査や押収にはその正当性をチェックする裁判所の令状を必要としている。権力の乱用を防ぎ、国民のプライバシーや財産権を守るために定められたものだが、マイナンバーに至る全社会的なIT化を進めるなかで、権力の都合で好き勝手に個人情報を覗き見できるシステムが国民が知り得ないところではびこっている。「自由と人権」を掲げて他国を非難したり、「ファーウェイのスマホは危ない」と騒ぐ一方で、それどころではない国家による個人情報の覗き見が横行している実態が浮き彫りになっている。