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外資喜ばす入管法改定 低賃金労働力の大量受け入れに狙い

 「人手不足の解消」を口実にして、安倍政府が外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法(入管法)改定案の国会審議を本格化させている。同法はこれまで禁じてきた単純労働の受け入れや、無制限の滞在を認める新制度の導入が柱で、「世界でもっともビジネスがしやすい国にする」というアベノミクスの具体化である。そのために今年6月に「2025年までに50万人の外国人労働者を受け入れる」という「骨太の方針」を発表し、夏の臨時国会では労働基準法の規制が適用されない「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)を事前に整備した。このもとで外国人労働者の大量受け入れを野放しにすれば、日本が世界最先端の奴隷労働活用拠点に変貌しかねない危険をはらんでいる。

 

 審議中の入管法改定案は、二段階の「特定技能」を新設することが焦点になっている。「働きながら日本で技術を学ぶ」という名目で実施してきたこれまでの「技能実習」は在留資格を最長五年と定め、それ以後日本で働くことはできないと規定していた。

 

 それを今回は「特定技能1号」と「特定技能2号」を新設し内容を大幅に変える。その内容は
【特定技能1号】
▼来日条件=一定の技能
 を保有
▼在留期間=通算五年間
▼家族の同伴=不可
【特定技能2号】
▼来日条件=熟練した技
 能を保有
▼在留期間=更新可能
 (無制限)
▼家族の同伴=可能

 

 となっている。「特定技能1号」は最長五年の技能実習を修了するか、技能と日本語能力の試験に合格すれば資格を得られる。「特定技能2号」はそれより高度な試験に合格すると資格が得られるしくみだ。

 

 特定技能1号の受け入れ条件を「一定の技能」とし、単純作業の外国人労働者受け入れを認め、さらに特定技能2号の在留期間を「制限なしで更新可能」とすることで、永住権獲得につながる長期間滞在も認めた。安倍政府は同制度を来年4月から実施し、5年間に14業種(介護、建設、造船、農業等)で最大35万人受け入れる試算を公表している。

 

 これまで日本の歴代政府は、国内の労働環境保護の立場から「外国人の単純労働受け入れは認めない」との立場をとってきた。給与水準が日本の労働者よりずっと低い外国人労働者の大量受け入れを野放しにすれば、日本の若者の働く場が奪われ、永続的な技術継承が困難になるからだ。同時に外国人労働者の大量流入で日本国内の労働基準がなし崩しになる危険もある。そのため1993年に技能実習制度を開始したとき、技能実習法の基本理念で「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と明記し、同制度の目的を「開発途上地域等の経済発展を担う“人づくり”に寄与する国際協力の推進」と規定していた。

 

 ところが実際に技能実習制度を開始すると、そうした規定を片っ端から崩していった。研修生の身分が「教育訓練中」であることを利用し、労働基準法を度外視した長時間過密労働を強要した。さらに研修生の給与を「賃金」ではなく「研修手当」と規定し、大半の企業が最低賃金以下の手当しか払わなかった。

 

日本人は非正規が急増

 

 1997年には同制度の合計在留期間を3年に延長し、2004年には製造業への派遣労働を解禁した。そこにも外国人労働者を多数送り込んだ。その結果、日本国内の製造現場は派遣や期間工を中心とする非正規雇用が主力を占めるようになった。経済面から結婚が困難な非正規雇用の若者が増えるなか、少子高齢化に拍車がかかり、生産現場では外国人実習生の存在感が増すことにつながった。さらに2016年11月には新たな技能実習法を成立(17年11月施行)させ、外国人技能実習の対象に介護職を追加し、在留期間を5年間に延長した。

 

 こうしたなかで現在の外国人技能実習生数は28万5776人(今年6月末)に達した。さらにかつての研修制度にとってかえる手段として日本語学校や地方大学への「留学ビザ」で来日し、アルバイトで働く学生も増えた。この留学生の数は32万4245人(同)となり、外国人技能実習生と留学生の合計は50万人をこえている。

 

 問題はこうした「技能実習」が「技術習得」どころか、劣悪労働の温床になっている現実だ。言葉が通じないため行政や日本の仕事仲間に相談しにくいことを悪用し、賃金未払いや長時間労働を押しつけるケースが後を絶たない。実習先企業から失踪する外国人技能実習生の数は年年増え、昨年は年間7089人になった。2012年以後6年間の失踪者数は2万8368人に達している。

 

 本来は外国人労働者の受け入れを拡大する以前に、こうした劣悪な実態を改善する方が先である。しかし安倍政府は日米財界が求める「投資しやすい国づくり」のために、これまでの派遣労働より劣悪な移民労働者の大量受け入れを加速している。夏の国会で導入を決定した高プロは「労働時間規制を外し労働基準法の適用外にする」と決定したが、年収規準、職種、労働時間はいまだに決まっていない。これは国会を通す必要のない「省令」で決めるため、安倍政府が勝手に内容を定めることができる。

 

 これまでの派遣労働ですら、まだ「労働基準法が適用される」という縛りがあった。だがその縛りすらない高プロを外国人労働者に適用すれば、労働時間、最低賃金などあらゆる労働条件が大資本の思う通りになる。「外国人の受け入れを拡大するなら、日本人並みの権利を保障する体制が必要」という主張もあるが、日本の労働者に対しても、労働基準法の適用すら認めない劣悪労働を押しつける動きが顕在化している。

 

国内の労働条件もなし崩し

 

 日米の財界で作る米日経済協議会は2016年6月に政策要求文書「アベノミクスの中心転換経済成長に不可欠な新しい構造・規制改革」を発表し、安倍政府に「ホワイトカラーエグゼンプション(残業代ゼロ制度)の拡大」と「労働基準法改正案の承認」を最優先課題として要求した。同時に「技術、保健医療、建設その他の専門的職業を含めた特定ニーズを満たす熟練技能者及び、非熟練技能者数を大幅に増加させる新しい方法を追求すべきだ」と指摘した。現在、進行しているのはその要求の具体化である。それは日米の財界が投資しやすい体制を作ることが最大眼目となっている。

 

 各産業で深刻な人手不足に直面しているのは事実だが、安倍政府の主張する「人手不足」は「低賃金労働力の不足」を意味しており、その解決策として移民大量受け入れを正当化するものにほかならない。TPP(環太平洋経済連携協定)11や日欧EPA(自由貿易協定)締結で世界各国から関税抜きの物品輸入を野放しにしたうえ、世界各国の労働力受け入れまで自由化する動きは、日本をまるごと欧米資本の市場として差し出すための地ならしである。

 

 また農漁業や介護、インフラ管理などすべての業務が外国人労働者依存となった場合、安全保障面に及ぼす影響も大きい。災害が起きて集団帰国してしまえば電気や通信施設が止まることも十分あり得るからだ。加えて欧州では言葉の壁と労働環境などの待遇の悪さから、仕事が長続きせず生活保護に流れる移民が増えている。スウェーデンやノルウェーでは移民保護の福祉費を捻出するため、自国民の福祉予算を削減している。

 

 日本国内の人手不足は、非正規雇用の拡大で結婚や子育てが困難になり、少子高齢化に歯止めがかからないことが大きな要因だ。その解決策をとらないまま、「人手不足だから」と主張して、より安価で使い勝手のいい外国人労働力を海外からかき集めるなら、日本国内の労働環境をより悪化させ、少子高齢化をさらに深刻化させることにしかならない。国が責任をもって自国の若者が生活できる労働環境を整備するなど、現実に即した人口減少対策に着手することが待ったなしの課題になっている。

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