安倍政府が臨時国会の目玉とする入管法改定案をめぐる論議のなかで、日本で働く外国人労働者のうち年間7000人が失踪している事実が判明して物議を醸している。受け入れ体制が崩壊した現状を棚に上げ、安価な労働力を求める大企業や多国籍企業の要求を丸呑みにして事実上の移民受け入れ政策を実行している実態が暴露されている。
内閣府発表の統計では、日本に在留する外国人の数は2017年末には約256万人にのぼり、日本国内で働く外国人労働者の数は128万人と、労働規制を緩和してきた5年間で2倍に膨れ上がっている。そのなかで安倍政府は入管法の大幅な改定をもくろみ、これまで大学教授や研究職など「高度人材」に限ってきた外国人の就労を、建設、介護、造船、宿泊、農業、漁業、外食など14業種に拡大することを提示している。
在留資格として新たに「特定技能1号」を設け、最長5年の技能実習を修了するか、技能試験と日本語試験に合格すれば通算5年間の在留を認める。さらに「高度な試験」に合格すれば「特定技能2号」の資格を与え、家族や子どもの帯同を認める。審査によって一定の生活レベルを維持できるなどの条件をクリアすれば永住権も得られる。これら2つの資格を持てば転職も可能になるとしている。「単純労働」(一般的な職業)の分野で永住を前提に外国人を受け入れる公的方針(移民政策)は、域内での自由移動を認めているEUを除いて他に例がない。しかも受け入れ規模は規定しておらず、「特定技能」や審査の基準など詳細な規定は定まっていない。
それは、外国人就労を単純労働に広げることで日本の労働市場における雇用コストを抑制し、人材不足の主要因である「低収入」や「少子化」といった国内問題の解決を棚上げすることにほかならない。企業が求める雇用条件で働く外国人の受け入れを拡大することは、日本人労働者の賃金を押し下げる関係にある。
そして、外国人労働拡大の先駆けになったのが外国人技能実習制度であり、日本で働く技能実習生の数は昨年末までに27万4233人にのぼり、日本中の生産、加工、サービス業などあらゆる職場に広がっている。
今国会では、これら外国人実習生の失踪者が今年上半期だけで4000人をこえていることが明らかになった。法務省の発表によれば、2012年に2005人だった失踪者は、2016年には5058人に倍増し、2017年には7089人にのぼっている。2013年からの5年間でのべ2万6000人が失踪しており、その在留場所や就労実態について政府は把握できていない。不法在留者数も6万6498人(今年1月1日)となり、その1割が技能実習生としての入国者であることが明らかになっている。
失踪者激増の背景には、表面からは見えづらいピンハネによる劣悪な雇用環境が広がったことが指摘されている。また、外国人実習生は日本へ来る際、仲介ブローカーに多額のお金を渡し、日本へ来てからはその返済のために身を粉にして働いているケースが多く、3年の実習期間が終わる頃になると所属企業から姿を消し、追加の期間を不法就労によって稼ぐ手法が広まっている。実習生同士の独自のネットワークが存在し、それを仲介するブローカーがおり、さらに受け入れる企業からすると、摘発された場合のリスクはあるが社会保険料その他の負担を逃れ、正規に雇うよりも安上がりという関係のもとで失踪が増えている。入管法改定によって数万人規模の外国人が流入すれば、問題がより深刻化することは目に見えている。安価な労働力として連れて来るだけで、社会的な受け入れ体制は不十分なままであり、なかにはまるで人間扱いをしていない企業や仲介業者もいるのが実態だ。
今回の改定案でも、外国人材受け入れ後の支援は「受入れ機関」(企業)または「受入れ機関から委託を受けた登録支援機関」とし、移住にともなう日本語教育、生活環境、医療や保健、社会保障制度、福祉サービス、子どもの就学問題にいたるまでの社会的な受け入れ体制の保障は「現場丸投げ」が実態であり、年間7000人にのぼる失踪者の数が、そのしわ寄せによる矛盾の深刻さを物語っている。派遣会社を介して外国人材を雇用するトヨタなどの大企業では「雇用の調整弁」として全国の工場を転転とする外国人も多く、抵抗する手段や転職の自由を持たないことに乗じて奴隷労働を蔓延させていることが問題視されてきた。
年内に発効するTPP(環太平洋経済連携協定)では、グローバル企業が日本市場に進出する条件として、国境をこえた雇用の流動化を進め、使い勝手の良い安い労働力を途上国から大量に受け入れることが前提になっている。日本市場参入を狙う多国籍企業の要求を丸呑みする安倍政府の姿勢を露呈している。