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日本にTPP参加を迫る黒幕 米多国籍企業

 国民が安全な食料を安定的に得ることは、生きていくうえで、また社会を維持するうえで不可欠であり、それは国家として当然保障すべき義務である。ところがこうした人間の生死にかかわる食料が、今ではアメリカなどの一握りの多国籍企業のもうけの対象とされ、この多国籍企業が国内では生産農民や食品企業、商店などを淘汰して巨大な独占体となり、他国の食料自給をつぶして輸入食料依存国とし、その国の市場を奪い、世界に飢餓人口を拡大している。その下では国家も彼らの道具と化している。このことについて最近、農業学者やライターが報告している。それは、日本にTPP(環太平洋経済連携協定)参加を強要する黒幕がいかなる連中か、その正体を暴露している。
 
 流通も牛耳るウォルマート

 日本国内でもイオンやセブンイレブンなどの巨大な流通大手が、食の安全も安定供給も無視した低価格競争に駆り立て地域の農漁業者など生産者と直結した地場流通の破壊が進行し、これとの矛盾が各地で噴き出している。そのルーツとなったのがアメリカで、世界最大手のウォルマートなどの道行きは、米国内をさんざんに食い荒らし、国外まで食いつぶす多国籍企業の横暴な姿を象徴的に示している。
 1980年代、レーガン政府が規制緩和で独占禁止法を骨抜きにしたことを契機に、大手スーパーが地域の小売業者や、競争相手のディスカウントショップを次次に買収し傘下に収めた。一人勝ちしたのが安売り大手スーパー・ウォルマートで、今年全米に4740店舗、国外にも同数程度の店舗を持ち、純売上高4661億㌦(約46兆円)という巨大独占体となった。
 ウォルマートが進出する過程は、卸業者も小売業も製造業も大手以外は廃業に追いやり、農家や納入業者は徹底して買い叩き、従業員はヒスパニックやアフリカ系などを臨時で雇って搾り取り、失業者を急増させた過程だった。黒人の販売員が今の給料で働いてウォルマートの会長の年収を稼ぐには1000年かかるといわれる。また、進出先のその土地ごとの文化や伝統、共同体のつながりも崩壊させた。この過程で食品加工業界も吸収合併がくり返され、ペプシコ、クラフトフーズ、ネスレの上位三社を含む多国籍企業20社の独占となった。
 それは農家にも大きな変化をもたらした。1950年代、全米の養鶏場の95%は農家の個人経営であり、地産地消もおこなわれていた。ところがレーガン政府の下で、「伝統的農業は時代遅れ」「株式会社経営による大規模な工場型産業こそが世界をリードする強い農業」と宣伝された。現在タイソンフーズ、ブラジルJBS、ペルデュ、サンダーソンの4社が種鶏とその特許、飼料、抗生物質、運搬用トラック、と畜場を所有して全米の養鶏の60%を支配する一方で、生産者の98%が契約養鶏者となり、鶏舎の建設などで政府から借り入れた1農家1億円近くの莫大な借金を返すために働いている。
 こうして食の工業化で効率性を追求した結果、狂牛病や鳥インフルエンザなどの新種の病気が猛威を振るい始め、国内外で毒入り食物を食わせられかねない状況をもたらした。狂牛病は本来なら農場で草を食べて育つ牛を、狭い牛舎に何千頭も詰め込み、死んだ動物肉を餌として与え続けた結果である。しかし農場の安全性についての法律も規制緩和されたため、たとえば養鶏場にいた安全審査官の予算は廃止、劣悪な環境の養鶏場からサルモネラ菌が出ても、米国政府はその鶏舎を閉鎖にすらできない。
 そこでは政府自身が多国籍企業の道具となっている現実がある。現在、遺伝子組換え(GM)作物はアメリカの穀物生産全体の7割を占めている。当初は安全性を危惧(ぐ)する意見が多かったが、1992年に政府のFDA(食品医薬品局)が「GM作物を通常の食品と同等に扱う」とお墨付を与えることで批判世論を封じた。このときのFDAの担当者が、世界の種子売上高の4分の1以上を支配するモンサント社の顧問弁護士マイケル・テイラー。楽天の三木谷が安倍政府の産業競争力会議に入って、薬のネット販売を全面解禁させるようなものである。その後テイラーはモンサント社の副社長になり、現在オバマ政府のFDA上級顧問である。
 発ガン性が疑われるGM食品について、アメリカは先進国で唯一表示義務がない。そしてアメリカはTPP交渉をテコに、GM食品の表示を許さない方針を世界に広げようとしている。
 一方、オバマ政府は昨年1月、「食品安全近代化法(FSMA)」を成立させた。クリントン政府のHACCPは、「食品の安全」を盾に高額な投資、細かすぎる手続き、膨大な提出書類を強制することで、地域の中小食肉業者を淘汰し、大手食肉業者の寡占化を進めた。FSMAはその対象を農産物や魚類にまで広げ、国内の生産者や取扱業者だけでなく輸入業者にも罰則をつけて縛りをかけるものとなっている。

 食料も金融投機の対象 ウォール街

 アメリカでこうした食の工業化・農業ビジネスの巨大化を、だれよりも支えたのはウォール街である。アメリカで住宅バブルが破裂したとき、オバマ政府が国民の税金で救済したシティグループやモルガンスタンレーなどの大手銀行は、今度は食品業界の吸収・合併に積極的に関与し、そこから得られる手数料でボロもうけした。
 大手銀行や機関投資家は、次の投資先として、国民の生死にかかわる食料を選んだ。すでにクリントン政府のもとで、法律の規制が緩和され、「食料価格」が株式と同じようなマネーゲームの対象となっていた。巨額の投機資金が食料市場に流れ込み、食料価格は2008年前半まで高騰し続け、そして世界食料危機となった。
 2008年の世界食料危機のさい、コメを主食とするハイチやフィリピンでは、各国の輸出規制で金を出してもコメが買えなくなりハイチでは死者まで出す事態となった。ハイチでは1995年、IMF(国際通貨基金)の融資条件として、コメ関税の3%までの引き下げを約束させられた。「安く売ってやるから非効率な農業はやめろ」と迫られたのだ。そうしてコメ生産が大幅に減少し、主食のコメを輸入する構造に変えられてきたところに食料危機が襲ったのである。アメリカの食料戦略による人災であった。
 アメリカが「自由貿易」を掲げ、他国の関税を極端に引き下げさせたことで、基礎食料であるコメ、小麦、トウモロコシなどの生産国が世界的に減り、アメリカなど少数の国からの輸入に依存する市場構造がつくられた。輸出する国が少数になり独占度が高まれば高まるほど、ちょっとした需給変化にも価格が上がりやすくなり、高値期待の投機マネーにとっては流入しやすくなる。こうして多国籍企業や投資家だけがもうかる仕組みがつくられる一方で、世界の勤労者は飢餓線上に放置されている。

 大規模農業しか残さず GM種子売る下準備

 モンサントなどの多国籍企業は、最初に自国アメリカを、次には他国の農業を、輸出のための大規模農業に変えている。「強い農業」というのは一握りの多国籍企業のためのスローガンであり、それを理由に他国に介入しその国の農民は主権も農地も失って離農を強いられている。
 かつて「世界の穀物倉庫」と呼ばれたアルゼンチンは、多くの小規模家族経営農家から成り立っていた。しかし1980年代の累積債務危機のさい、IMFは緊急融資と引き換えに、国内産業の民営化と規制緩和を要求した。農地が底値で競売にかけられた。
 沸き立ったのがアグリビジネスと海外投資家で、彼らはこの国の広大な安い土地を買い占めて、モンサント社のGM大豆栽培を開始しようと、アルゼンチン政府に迫って許可を出させた。そしてモンサント社は「農薬の使用量が節約できる」といって、グリホサートと呼ばれる除草剤と、グリホサートに耐性のあるGM大豆の種子をセットでアルゼンチンの中小企業に売りつけ、在来種からGM大豆に切り替えさせていった。
 こうして1996年にアルゼンチンで1万㌶以下であった大豆畑は、2000年までに1000万㌶に拡大した。一方アルゼンチンの中小企業は、特許使用料と高い農薬代を押しつけられて土地を手放す者が増え、それを大地主が手に入れて農地の集約化がますます進んだ。
 また、1993年にカナダとメキシコがアメリカとのあいだで結んだNAFTA(北米自由貿易協定)の経験がある。NAFTAによってメキシコ政府は、零細農家への助成金や支援をカットし、そこに米国政府の助成を受けたGMトウモロコシが流入し、メキシコのトウモロコシ市場を席巻した。メキシコがNAFTAへの参加を決めてから20年で、300万人の農家が離農した。
 このときモンサントなどの多国籍企業は、メキシコに古くからある原種トウモロコシや豆類を一部遺伝子操作してから商品化し、新製品として特許をとり、次次に独占していった。WTOが定める知的財産権の協定によって、一度特許権を認められれば、その種子から収穫した作物から自家採種した種を農民が蒔(ま)けば「特許権侵害」になる。それ以来メキシコ農民は、先祖代代受け継いできた作物を栽培するために、GM種子企業から毎年その種子を購入し、特許料を支払わなければならなくなった。
 メキシコはかつて農産物を自給してきた国だったが、現在では食料の4割を外国からの輸入に依存している。そのため、2000年にモンサントやカーギルが穀物市場に投機してトウモロコシの市場価格が2倍に高騰したとき、メキシコ国民は主食を口にすることができなくなり、初めての食料暴動が起こっている。

 多国籍企業だけの自由 99%への専制支配

 以上のことは、日本がTPPに参加すればどうなるかを如実に示している。アメリカのいう「自由貿易」とはそれ自体ダブルスタンダードのインチキだが、そこには多国籍企業など1%が社会を食いものにする自由が貫かれる一方で、99%にとっては専制支配が押しつけられ、絶対的貧困化を加速させるすさまじい階級格差の拡大にほかならない。公的な利益を守るはずの国や自治体も、その目的が「株主利益の最大化」にとって代えられる。
 こうした独占大企業の支配が続くかぎり、国を支える働く者が生きていけず、社会を維持することができない段階に到達している。
 日本の農林漁業を振興し食料自給率を高めることは、国民に安全な食料を安定的に供給するうえで不可欠であるとともに、雨の多い日本で水源涵養、洪水防止、国土保全の機能を維持するためにも欠かすことができない。そればかりでなく、コメと魚を中心とした日本独自の食文化、民族文化を次の世代に受け継ぎ、生産を基礎にした地域共同体の団結を発展させなければならない。今の為政者にそれを実行する能力がないのなら、引きずり下ろす以外にない。それを実現するのは全国民が団結した下からの運動である。

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