「特定秘密保護法」成立で暴走する安倍政府に、戦争体験者をはじめ、国家公務員、知識人など各界から即時廃案を求める声が噴出している。「国家機密を漏らした!」と国民を平時から監視・弾圧する体制を徹底し、アメリカの下請司令塔・日本版NSC(国家安全保障会議)を設置して、あげくはアメリカが企む戦争に日本を国ごと差し出す体制の具体化だからだ。それだけでなく安倍政府は秘密保護法と同時進行で、改憲、集団自衛権行使、自衛隊の国防軍化、防衛大綱見直し国家安全保障基本法制定など全分野で戦争ができる国への改造を急いでいる。アメリカのための戦争で日本を廃虚にする安倍売国・戦争政治と対決し、戦争を阻止する行動機運が全国で高揚している。
日本版NSC設置とセット
「国家機密漏洩の防止」「外国のスパイから国を守る」と安倍首相は息巻くが、国民のなかでは「アメリカにあれだけ情報を垂れ流しておいてなにが機密漏洩防止か。そんな法律をつくるのは歴代首相を処罰してからにしろ」「日本から外国へ機密情報を漏らすのを取り締まるのではなくて、戦前のように国民に情報を知らせず戦争にかり出すものだ」との世論が沸騰している。
現実に福島原発事故の対応をみても米国に情報を真っ先に知らせながら、被災地住民には一切放射能汚染の状況を知らせず見殺しにした。TPP交渉の内容も、米軍再編の進展も、自衛隊の海外派兵の実態も米国には情報が筒抜けだが国民には秘密。消費増税や年金支給額削減、医療費負担引き上げなどの国民生活破壊も、商業メディアが「国家財政が厳しいから当然だ!」と情報操作しながら強行していく。
そのなかで持ち出された秘密保護法について「今もウソ情報で操作されているが、それをもっとひどくするものだ」「政府におかしいと疑問をもったり、調べたりしようと思えばすぐ処罰する弾圧立法。だれでも“スパイだ”といいがかりをつけて処罰するものだ」と生活実感も込めた憤りが広がっている。
戦時中の関門地域 些細な事で憲兵が捕捉
戦時中戦略的要衝だった関門地域では「秘密保護」の中身が実体験を重ね論議されている。
薬局関係者の90代女性は「当時、下関は要塞地帯で、写真を撮るのもいけないといわれていた。名池小学校に通っていたが、図画の写生で関門海峡が見える見晴らしのよい場所に出ても、海の方を見て描いたことがない。山の方を見て、松の木ばかり描かされた」と明かす。90代の体験者も「秘密保護法について本当のことを報道しないのは昔の大本営発表と同じ。下関も戦時中はカメラを持ち歩いているだけで憲兵に引っ張られた。そんな世の中にするということだ」と話す。別の体験者(80代)は「小学校四年生の終わりごろから、学校の朝礼で“火の山のまわりをうろつく人がいれば、要塞地の様子を探りに来たスパイだから、道や場所を聞かれても答えてはいけない。お菓子をあげるといわれてもついていってはいけない。変に思ったらすぐ届けなさい”といわれた」といい、普段見かけない男性が通報ですぐ憲兵に引っぱられた経験を明かした。
また元商店主の90代男性は「下関は要塞があるから空襲でやられた」とよくいわれるが、実際には下関重砲連隊も憲兵隊本部も空襲では燃えなかった。彦島の三井や三菱の工場も燃えなかった。民家の密集地だけが焼夷弾攻撃で焼き払われた。アメリカはみんなわかっていた」と指摘した。
戦地体験者の危惧も強い。中国戦線に出兵した体験を持つ戦争体験者(90代)は「特定秘密保護というと、戦争がないときはなにも影響がないように見える。でもいったん戦争になり徴兵制がしかれて出兵するとすべてが特定秘密になる。部隊の数が何人か、どこにいるのか、今後どこにいくのか、戦況を話しても処罰対象だった。でも今度は昔と違って“天皇のため”ではない。アメリカの司令部が日本に指令を出すときに情報がもれたらいけないから、国民にわからないようにアメリカの命令をやる体制をつくれということ。それは戦争の最終段階とそっくりだ」と話す。
「あのときも国民の方は機密保護といわれ、すぐつかまえられ処罰されていた。でも日本の中枢は最初からアメリカに情報を流していた。戦後、“暗号が解読されていた”といかにも知らなかったような顔をしているがそんなことはない。アメリカに情報がもれているのを知ったうえで、戦争をやめようとせず、特攻隊を片道燃料で出兵させてアメリカにうち殺させた。空襲もしたい放題にさせ国民を見殺しにした。自分たちは当時なにも知らなかったが、これが“秘密保護”の実際だ。今も小学校5・6年生から英語を必修化している。本当に国家秘密を外国に漏洩してはいけないというなら、わざわざ解読しやすい英語ばかり勉強させる必要はない。こんなことを野放しにしたら日本はアメリカの州にされ国がつぶされるしかない。昔は“天皇陛下のため”といって、戦争にかり出したが、今は“自由・人権を守る”といって戦争にかり出す。アメリカにだまされてはいけない」といった。
公務員を厳罰で縛り国民には機密隠す意図
もともと特定秘密保護法案自体が「日本の国益や国民を守る」ことと縁もゆかりもないものだ。同法は安倍政府が企む日本版NSC設置に向け、アメリカ側が「情報がもれない体制を作れ」と要求し具体化が加速したもので、アメリカが日本版NSCを通じて戦時動員も含めなんでも直接命令する体制に向けた情報漏洩防止が内容だ。それは日本の国家機密情報をすべてアメリカに筒抜けにし、軍事指令も含めアメリカとの情報交換をもっと活発にやることが眼目。「外国への機密漏洩防止」といいながら、情報どころか国の命運までもアメリカに預けて恥じない安倍政府の度はずれた売国性が露わになっている。
「特定秘密」には「防衛」「外交」「外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止」「テロ活動の防止」など日米同盟にかかわる四分野を指定した。具体例として自民党は、原発警備情報、軍事装備の部品情報、公電に用いる暗号、弾道ミサイル発射時にとる体制などをあげた。しかし「漏洩したら安全保障に支障を与える」と各省庁の大臣が決めれば、なんでも特定秘密になる仕組みだ。戦時中のように関門地域全体を軍事要塞とし特定秘密対象に規定することも想定される。そうなると、住民すべてが写真をとってもいけない、スケッチをしてもいけない、友人に仕事内容を聞いたり、道を聞くのもいけないとなり、たわいもない雑談ですら処罰対象になりかねない。
そしてこの「特定秘密」をとり扱う公務員には「適正評価」を実施する。負債や経済状況や犯罪歴、精神にかかわる通院歴の有無、飲酒の節度や使っている薬物、家族や同居人の国籍、氏名、生年月日、住所などを調べあげ、適任か判断する。「適正」とならない公務員も多いため、全公務員が身辺調査対象となることを意味する。自治体との契約業者なども対象。防衛省が発注する戦斗機など軍事機器製造、その物流・運輸にかかわる民間労働者の裾野は広くあらゆる民間企業労働者も無関係ではない。
「特定秘密」を漏らした公務員の罰則は懲役10年か罰金1000万円。民間人でも「特定秘密」を得るため、人をだます、資料を盗む、建物への侵入、不正アクセスなどの行為で懲役10年。それを「指示した」「扇動した」と見なされても懲役10年。「特定秘密」を知った契約業者が情報を漏らせば懲役5年。「未遂でも罰則を科す」とした。
もともと公務員による秘密漏えいの罰則は最高で懲役1年。だが今回は、アメリカの装備情報についてとり決めたMDA(日米相互防衛援助協定)秘密保護法と同基準に変えている。
国家公務員の一人は「以前は市民が窓口のなかに入り普通に話すことができた。でも今は個人情報保護といって入れない職場がほとんど。もともとは市民を守るのが基本で市民の公僕と宣誓して公務員になったのに、だんだん“法律ではできません”と市民を切り捨てる仕事ばかりになってきた。そして国家機密をもらしたら牢屋にぶち込むといって、国やアメリカの命令に従うイエスマンにして人間の感覚をなくしていく。こういうようにして平気で赤紙が送付できるような公務員がつくられていく」と指摘した。
こうした国民監視・懲罰体制をつくる動きに全国の知識人、放送界や報道関係者、民放連、日本雑誌協会、日本新聞協会、日本弁護士連合会、日本ペンクラブなど各界の抗議行動が活発化している。
10月28日には憲法・メディア法と刑事法を研究する全国の法学者400名が連名で「特定秘密保護法の制定に反対する声明」を発表。そこでは「基本的人権の保障、国民主権、平和主義という憲法の基本理念をことごとく踏みにじり、傷つける危険性」を指摘。政治的背景として、アメリカの要請を受けた対米従属下の軍国主義の強化があり、秘密保護法案がアメリカの戦争に国益を差し出す体制作りの重要な一環であることを強調している。
集団自衛権行使狙い平時も日米軍事一体化
特定秘密保護法制定の動きは1952年の日米安保条約制定から用意周到に準備され、1996年の「日米安保共同宣言」による日本の米軍下請化が進行するなかで段階を画した。01年のNYテロ事件が起きると米大統領・ブッシュは「今後、この国の最優先事項は治安と国会機密漏えい防止だ。テロリスト予備軍を見つけ出すために、政府は責任を持って全米を隅隅まで監視する」と公言。
「愛国者法」を作って米国内全通信の国家的盗聴を開始した。民間企業にも顧客情報や通信内容、書籍販売記録、患者のカルテなどの提出を義務づけ、国防総省の諜報機関・NSA(国家安全保障局)などが、一般人のパソコンや通信記録に至るまで情報収集に乗り出した。
日本には「金だけではなく血を流せ」「陸上部隊を出せ」と小泉首相を脅しつけた。小泉内閣はすぐさま自衛隊法を改定し「防衛秘密漏洩」の罰則を強化。そして武力攻撃事態法をはじめとする有事三法を成立させた。「有事だ」となれば民間港湾や自治体などが総動員できるようにし、自衛隊のイラク派遣を強行した。さらに2004年には有事関連7法を成立。戦時になれば住民を規制していく国民保護法、米軍に自衛隊が物品提供するための自衛隊法改定、日本の法律を無視し米軍の行動を優先するための関連法、公共施設を戦時となれば自由に使わせる特定公共施設利用法、外国軍用品の海上輸送規制法などを整備した。2007年には日米軍事協力を深化させた軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結。日本がアメリカから提供される軍事情報を保護することを決めた。
そして「反テロ」「国民保護」「防災」などのかけ声で地域総動員の訓練が何度も繰り返され、最近は当然のように自衛隊や米軍が参加するまでになっている。日本中の道路もNシステムやETCで監視し、港湾にはフェンスを張り巡らせて、身分証明書がなければ立ち入りできない。町中に監視カメラが設置され、盗聴法で警察の盗み聞きも認めている。携帯電話もスマホもGPSが組みこまれ、マイナンバー法(国民総背番号制)とあわせれば、一人一人の暮らしや行動はすべて監視されている。「犯罪を防止するため」と思っていたら、いつのまにか「国家機密漏洩防止」の莫大なデータのなかにとり込まれ、それがアメリカの諜報機関に丸ごと垂れ流され戦時の国民弾圧や戦争動員の際にはフル稼働する仕掛けだ。
このために安倍政府が設置を急ぐのがアメリカと直結する司令塔・日本版NSCで、来年1月発足を目指している。それは首相と外相、防衛相、官房長官による「四大臣会合」を設置し、その下にCIAのような内閣情報局をおき、短期に戦時対応策など決めていく体制である。この元締めとなるアメリカのNSCは大統領、副大統領、国務長官、国防長官で構成し、その下でCIAが国内外の情報収集で暗躍する。日本版NSCはこの米国版NSCの下請けとして組み込まれることになる。アメリカの「安全保障」に日本を総動員するための情報収集、戦時の司令塔が日本版NSCであり、アメリカに不利益をもたらす情報漏洩に厳罰を加えるのが特定秘密保護法にほかならない。
さらに自民党が2014年の国会提出を目指す「国家安全保障基本法」には、米軍が攻撃されれば自衛隊が自動参戦する集団自衛権の行使を可能にすると明記。アメリカの利益を守るため教育、科学技術、建設、運輸、通信などの分野で軍事上必要な配慮をすること、秘密保護体制を作ること、「核軍縮」を隠れ蓑に原水爆戦争体制を構築する意図を露わにしている。
「外国への機密情報漏洩防止」などという大ウソで国民を欺き、平時から国民の情報を丸ごとアメリカの諜報機関に差し出し、監視する体制をつくり、いざ米軍が戦争を引き起こすと、アメリカからの司令で日本の若者に赤紙が届き総動員されかねない事態が進行している。それは日本をふたたび原水爆戦争の戦場にするアメリカに付き従う安倍政府の売国・戦争政治と、全国的な各界各層の力を結集して対決する以外に活路はないことを示している。「日米安保条約」を破棄して対米従属の鎖を断ち切るしか、日本の平和も発展もなく、全国で原水爆戦争阻止の行動を巻き起こすことが決定的になっている。