安倍首相が消費税について予定通り2019年10月1日に8%から10%へと引き上げる方針を表明した。2014年に8%へと増税し、国民生活に甚大な影響を与えたことから、反発を恐れて2度にわたり延期してきたが、今春策定した「骨太の方針2018」に消費増税を明記しており、15日の臨時閣議で決定した。ガソリン代は高騰を続け、電気・ガス代、生鮮野菜も含む食品なども値上がりが続いている。アベノミクスの下で非正規雇用は労働者の4割を占めるまでになり、低所得層が増加するなかで、ますます国民や中小零細企業から巻き上げ、過去最高益をあげる大企業は減税を謳歌しようとしている。
安倍政府は、「アベノミクス」の成果でデフレ脱却を実現しつつあり、増税対策をすれば個人消費の落ち込みは抑制できるとし、「社会保障を全世代型に転換する財源を確保するため増税は不可欠だ」と主張している。2%の引き上げで5兆~6兆円の増収を見込んでいるが、それで幼児教育を無償化するという。
消費税をめぐっては1989年の導入時から、増税のたびに「社会保障の充実のため」というたてまえがついてきた。今回も安倍政府は「引き上げによる税収のうち半分を国民に還元する」とのべているが、社会保障費は削減の一方であり、国民に消費増税で福祉が充実した実感はない。
10%引き上げを大歓迎したのが経団連で、中西宏明会長は「非常によいことだ」とし、消費増税が経済に与える影響については「市場の状況を見ていると需要が冷える感じはしない」とのべている。経団連は再三にわたって10%への引き上げを要求しており、先月にも31年度税制改定に向けた提言のなかで、「確実に実現すべき」と要求していた。「持続可能な全世代型社会保障制度を確立しつつ、財政健全化を実現するために不可欠」などといっている。また日銀の黒田総裁も、これが日本経済に与える影響は大きくないとのべ、8%への引き上げ時に比べ「3分の1か4分の1程度にとどまる」とのべている。
政府は消費税増税による消費の落ち込みを防ぐため、経済対策として自動車や住宅向けの減税や補助金の拡充などを進める方針を明らかにしている。自動車では、購入時に燃費に応じて徴収する「環境性能割」や自動車税の初年度分の負担分を、一定期間免除する案などが出ており、住宅ではローンの残高に応じて所得税を減額する住宅ローン減税の拡充、住宅購入の助成金「すまい給付金」の増額などを検討しているとしている。
また中小小売店でクレジットカードなどを使った「キャッシュレス決済」をした消費者に対して2%分をポイントで還元した場合、それにかかる費用の補助を検討するとしている。だが、中小零細の小売店でキャッシュレス決済などしているところはまだ少なく、対応するには高額なシステムを導入しなければならない。消費増税を機にキャッシュレス決済を普及させることを狙ったものだが、結局、中小零細商店を淘汰していくものとの批判も上がっている。
貧困化進み購買力低下
2014年に消費税5%から8%に引き上げたさい、5・5兆円の経済対策がなされたにもかかわらず、駆け込み需要などの反動で個人消費は大きく落ち込み、持ち直すまで3年以上の年月を要した。地方では「消費が回復した」という実感はなく、低所得化に加えて、人口減少や少子高齢化が進み、消費購買力は着実に低下している。
国税庁の民間給与実態統計調査(平成29年分、調査対象4945万人)でも、300万円超~400万円以下が867万人(構成比17・5%)ともっとも多く、次いで200万円超~300万円以下が781万人(15・8%)となっており、400万円以下が全体の3割超を占めていることが明らかになっている。
男性にかぎると、年間給与額300万円超~400万円以下が523万人(17・8%)ともっとも多く、次いで400万円超~500万円以下が521万人(17・7%)となっている。女性はさらに低く、100万円超~200万円以下が473万人(23・6%)と最大で、次いで200万円超~300万円以下が435万人(21・7%)となっており、女性では45%超が300万円以下となっている。
こうしたなかで、低所得者も高所得者も関係なく課せられる消費税は逆進性が高く、低所得者により重い負担となる。このたび食品は8%に据え置かれる見込みであるものの、衣料品など生活必需品の多くは10%になるため、「さらに消費が落ち込む」と商業関係者らは危惧している。政府が減税で販促を後押しするのは自動車や住宅など大手企業であり、町の小売店は増税の影響をもろに受けることになる。
今回の10%への引き上げにあたっては、軽減税率をとり入れることになっている。対象になるのは、酒類・外食をのぞく飲料・食品や週二回以上発行される新聞だ。「軽減税率」というものの、生きていくのに不可欠な食品だから税率が下がるわけではなく、たんに現行の8%に据え置かれるだけだ。これがまた物議をかもしており、とくに外食をめぐって、テイクアウトの場合は8%、店内で飲食する場合は10%、コンビニで弁当や惣菜を買った場合、イートインコーナーで食べる場合は10%、持ち帰りとして販売されるときは8%など、線引きをどこでするのかが、現実離れした案として話題にされている。
大企業は増税で利益
安倍政府は消費税を「社会保障の充実に使う」といっているが、実際には法人税の減税分を消費税で穴埋めしているに過ぎない。
財務省が発表している一般会計税収の推移を見ると、消費税が導入された1989(平成元)年に19兆円あった法人税は2018年度(予算額)で12・2兆円と約7兆円減となっており、逆に消費税は導入時の3・3兆円から2018年度には17・7兆円と、14・3兆円の増となっている。2008年度には法人税収と消費税収が逆転し、今では国税収入の約4割が消費税によるものとなっている。
法人実効税率は減額続きで、2011年には39・54%だったのが2012年に37%に減税。さらに14年=34・62%、15年=32・11%、16年=29・97%に引き下げ、2018年度には29・74%まで引き下げている。法人実効税率は2%の引き下げで約1兆円規模の減税となる。この間の10%近い減税によって、大企業全体で5兆円規模の減税措置を受けており、その分が消費増税によって賄われている。
大企業には法人実効税率の引き下げに加えて、「政策減税」などの優遇もある。政府が2016年に明らかにした2014年度の実態調査によると、その合計額は約1兆2000億円にのぼり、トヨタ自動車は研究開発減税の1083億円、研究費総額にかかる税額控除の777億円など、年間約2300億円もの減税措置を受けていた。
さらにトヨタや日産など輸出主体の大企業は、製品を輸出するたびに「輸出品は消費税の回収ができない」という理由で消費税分が還付される制度がある。消費税が1%増えるたびに還付金が増える仕組みで、この還付金は国内の中小商店が収めた消費税納付額から支払われる。還付額がもっとも多いトヨタ自動車は消費税5%だった2010年度段階の還付金が約2200億円で、消費税が8%になった2015年度の還付金は3633億円にふくれあがった。これが10%になれば4500億円規模に増えることになる。一般庶民や中小零細企業・商店は消費税が増えると出費が増えるが、大企業は消費増税でばく大な利益を得る仕組みだ。
「社会保障を充実するためには消費増税しかない」といい、庶民の懐から有無をいわさず巻き上げる一方で、大企業の優遇や50兆円を超える海外へのばらまき、アメリカ製の高額兵器購入には惜しげもなく税金を投入する安倍政府に怒りが高まっている。