猪瀬直樹前知事の辞職にともなう東京都知事選が9日に投開票を迎え、自民・公明に加えて労働組合の連合が推薦した舛添要一が当選した。大雪の影響があったとはいえ、投票率は前代未聞の46・14%(前回62・60%)という低投票率を記録し、575万人あまりが棄権した。すべての陣営が政策や主張の良し悪し以前に、有権者から浮き上がっていたことをあらわした。そのなかで組織票をかき集めた舛添が支持率19・8%(当日有権者数1068万5343人)という極めて貧弱な支持基盤のもとで知事ポストを抑えた。
当選した舛添の獲得票数は211万2979票で、次点となった宇都宮健児が98万2594票、続いて細川護煕が95万6063票、田母神俊雄が61万0865票となった。舛添票は、前回選挙で猪瀬直樹が獲得した得票の半分以下となった。
名護市長選に続いて安倍政治への審判が問われた今回の選挙では、候補者擁立の段階から及び腰で、世論を恐れていたのが自民党だった。独自候補の擁立をあきらめ、自民党本部が何度も世論調査をした結果、人気トップだった舛添に公明・連合とともに相乗りを決定。自民党が野党転落の憂き目にあっていた最中に「自民党の歴史的使命は終わった」と発言して離党し、除名していた舛添を組織あげて支援し、選挙期間中には安倍首相みずからが街頭で応援演説するなどした。
これに対して、自民党・公明党に対抗する陣営としては、社民党や「日共」集団が担ぎ上げた宇都宮と、「脱原発」を叫んで登場した細川・小泉コンビが互いに票を奪いあう形で競合し、共倒れとなった。街頭演説では舛添陣営と比較にならないほどの盛り上がりを見せたものの、批判票が分散する結果に終わった。
候補者のなかでもっとも安倍政治を代弁していたのが、元航空幕僚長で核武装を唱えたり、かつての大戦は侵略ではなかったと主張してきた田母神俊雄だった。選挙期間中は「安倍総理も心の中では私に当選して欲しいと思っているはず」と叫び、安倍ブレーンとしてNHK経営委員にとりたてられた百田尚樹や石原慎太郎といった仲間たちも街頭に勢揃いした。全有権者からの支持率は5・7%で、安倍政治やその「お友達」集団への評価は極めて低いことをあらわした。
注目された首都決戦は、かつてない低投票率のもとで、組織票をバックにつけた舛添がかつがつ当選した。選挙後、さっそく「安倍政府への信任を得た」等等の発言を始めているのが自民党幹部たちであるが、本来なら彼らが担ぐべき候補者は田母神である。正正堂堂と田母神こそ安倍政治の実行者なのだと叫んで回ればよいものを逃げ、一度破門にした者にすがりつき、勝ち馬に乗って「勝った、勝った」といっている点にみっともなさがあらわれている。
野党が解体した状況のもとで自民党が返り咲いて1年以上が経過した。米軍普天間基地の辺野古移転や岩国基地の大増強をはじめ、原発再稼働や輸出、TPP、消費税増税といった政策が次次とごり押しされ、さらに特定秘密保護法、集団的自衛権の行使など露骨な戦時国家体制作りが安倍政府のもとで進められてきた。都知事選の争点は単純に原発だけでなく、こうした安倍政治への審判が問われるものとなった。しかし、記録的な低投票率が示すように、どの候補者も陣営も有権者から見て浮き上がった存在であること、大雪にかき消される程度の支持基盤だったことを突きつけた。