水道事業民営化を促進する水道法改定案について政府・与党は13日、今国会での成立を断念すると決定した。安倍政府は当初、「PFI(民間資金を活用した社会資本整備)法改定」と水道法改定をどちらも成立させることで、一気に水道事業民営化を進めようとしていた。だが水道事業民営化は欧米や中南米で極端な料金値上げや水質悪化を招き、200カ所をこす水道事業体が公営に戻した現実がある。そのなかで政府はPFI法を強行成立させたものの、世論の反発も強く水道法改定案の成立は頓挫した。ただ、安倍政府は水道法改定案成立を秋の臨時国会に先送りする方針を示しており、持ち越しとなったに過ぎない。
政府・与党は水道事業民営化に向け、今国会ではPFI法と水道法改定の成立を狙い、6月中旬にPFI法を成立させた。PFI法はこれまで、上下水道や公共施設の運営権売却には「地方議会の議決が必要」としていたのを「地方議会の議決は不要」とした。さらに地方自治体の承認が必要だった料金改定についても企業側が通告するのみで「手続完了」とみなし、自治体が口を挟めない仕組みにした。それは地方議会の審議や関与を一切排除して上下水道事業の民間売却を決定し、運営企業が自由に料金を値上げすることができる内容だった。
そして今月5日に衆院を通過させた水道法改定案は「地方公共団体が水道事業者」という位置付けは維持するが、厚生労働大臣等の許可があれば「水道施設に関する公共施設等運営権」を民間事業者に明け渡す仕組み(コンセッション方式)を導入するものだった。政府は「水道施設の老朽化がますます進むと見込まれる一方で、人口減少に伴い料金収入が減少し、事業を担う人材も不足するなど、水道事業は深刻な課題に直面している」(加藤厚労相)と指摘し、「複数の自治体による広域連携を認めれば、財政規模が小さな市町村でも水道管の老朽化対策を強化することができる」「水道法改定が遅れれば水道管の老朽化対策が遅れる」と宣伝した。水道法改定案は「広域連携の推進」と大幅なコスト削減に向けた「水道事業民営化の促進」が主な内容だった。
水道事業の現場や自治体関係者は「郵政民営化や国鉄民営化では真っ先に僻地路線や僻地の簡易局が閉鎖となった。水道が民営化になれば僻地の水道管破損や水質悪化の対処は必ず後回しになる」「日田彦山線を襲った豪雨災害についていまだにJR九州は予算がないといって災害復旧していないが、水道も民営化後に大規模災害が起きたらどうなるか心配だ。住民が少ないからと復旧しなかったり、支援物資の水を高く売りつけてもうけることも考えられる」と指摘した。
しかも参入を狙う民間企業は地場企業ではなく海外の大手水メジャーである。4月からコンセッション方式を導入した浜松市で、下水道事業の運営権(20年間契約)を買いとったのは水メジャーのヴェオリア(仏)やオリックスなどの六社企業連合だった。スエズ(仏)、シーメンス(独)、GE(米)、IBM(米)など欧米の水メジャーは日本の水市場に参入することを狙っている。
国際的には1980年代から水道事業民営化が急速に広がり、欧米、中南米、アフリカなど多くの地域で弊害が多発した。共通するのが水道料金の高騰であった。貧困層への水供給がストップしたり、水道管修理が放置されるなどサービス低下も深刻化し、コレラや感染症の多発で死者が出た国もあった。このなかで再公営化を実現する行動が急速に活発化した。PSIRU(公共サービスリサーチ連合)は、2000年以後15年間で「世界37カ国で民営化された235水道事業が再公営化された」と明らかにしている。
国内でも、一昨年3月には奈良市で上下水道のコンセッション方式導入に向けた条例改正案を市議会が否決し、昨年3月には、橋下徹前市長が提案した水道事業民営化関連議案を大阪市議会が廃案に追い込んだ。昨年3月に閣議決定した水道法改定案は同年9月に廃案となっている。
今国会での水道法改定先送りについて政府・与党は「カジノ法案成立のために見送った」と主張するが、そこには水道事業民営化を拒み、公営堅持を求める全国的な世論が強力に作用している。それでも執拗に水道法改定を狙うのが安倍政府で、秋の臨時国会で水道法改定は再び焦点になる。公的インフラの売り飛ばしを図る政府に対し国民の生活維持に欠かせない水の安定供給堅持を求める力を突きつけることが求められている。