「政治とカネ」ではなく「政治はカネ」を自己暴露
安倍政府の閣僚たちが次次と政治資金規制法違反を指摘され、ついに首相にまで追及が及んでいる。政治は万事カネで、企業が政治家にカネを渡して国の補助金や事業などで便宜をはかってもらう、個別利害優先の政治が臆面もなくやられている。近年「政治資金規制法」など建前上のとり決めをしてきたが、「知らなければ法律違反にならない」「返金すれば無罪」と開き直る始末で、国会は立法府と呼べるような代物ではなくなっている。自民党といえば昔から金権政治が伝統で、今に始まったものではない。表沙汰になっている問題はどれも小物臭を漂わせるものばかりで、本人たちはあたりまえのようにあっちからもこっちからも受けとっているが、国家予算を握っている閣僚たちが勢揃いで受益者になっている異常さと同時に、「一強体制」のもとで思い上がりがひどくなり、歯止めが利かなくなっている姿を暴露している。二年を経てこうした問題がボロボロと出始め、安倍政府をとり巻く環境に変化が生じていることを感じさせている。
個別利害優先の政治を象徴
今年に入ってからまず問題が指摘されたのは、TPPを担当する西川公也農水相だった。当初は地元栃木県の木材加工会社から300万円の違法献金を受けていたことが追及されていた。国から森林再生等の事業費として7億円の補助金交付を受けた加工会社が1年以内に政治献金していたもので、会社社長がそれとは別に100万円を個人名で献金し、さらに政党支部から100万円分のパーティー券を購入していたことが問題にされた。
「違法な可能性があるので返金した」と弁明し、「すでに返金しているから問題ない」(菅官房長官)と政府としても全力でかばう動きを見せた。しかし、別件で農水省のさとうきび補助金交付団体である「精糖工業会」の関連会社から100万円の違法献金を受けていた問題も発覚した。こちらも「今朝一番に返金した」「政治資金規正法上、問題ない」と切り抜け、国会における追及では、安倍首相まで腹を立てて、追及する野党議員に向かって「日教組どうするんだ!」とヤジを飛ばすなど、身内擁護で善悪の判断基準など吹っ飛んでいる姿を露呈した。ただ、あまりにも真っ黒という判断なのか、即日厄介者として切り捨てられ、安倍政府の体面を保つために「辞任」で幕引きをはかった。
辞任後の会見で西川公也は、「いくら説明しても分からない人は分からないということで辞表を出した」「(政治献金問題について国会で)全部説明はできたし、法に触れることはない」とのべ、引き続き非は認めない対応となった。小学校五年の孫から「おじいちゃんは悪い人なの? 私の運動会に来ないで」といわれたことが辞任を決意させたとかで、会見では「非常に私にとっては耐え難いイメージがつくられた」とものべた。
2月に運動会をやる小学校があるのかどうなのかの疑問は置いておいて、カネに汚い政治家という“耐え難いイメージ”をつくり出したのは本人で、補助金受給企業や団体からせっせとカネを受けとっていたから追及されたのに、なぜか他人が悪いことになって「虐められているおじいちゃん」という被害者になってしまった。どこまでも反省しない人物であることと、官邸内がそのような開き直った空気であることを印象付けた。
ヤジを飛ばしていた首相も、辞任後は事態収拾を優先し、「国民からさまざまな疑問が出されているのも事実だ。そうした疑問に答えるのは当然のことだ」と西川氏とは距離を置き、「政策を前に進め、結果を出すことにより責任を果たしていく」とのべ、幕引きに躍起となった。
ところが西川氏が辞任した3日後に、今度は下村博文文科相の違法献金疑惑が浮上した。下村氏が塾業界から違法献金を受けていたというもので、学習塾経営者を中心にした全国団体の後援会「博友会」が毎年のように年会費を徴収し、下村氏を招いて講演会や懇親パーティーをくり返していながら、政治団体として届け出ていなかった。領収書まで切っているのに支出先だった「博友会」は任意団体という隠れ蓑をまとって、裏金処理していた疑惑が追及された。
その後、違法献金疑惑の渦中にある任意団体に対して「報道機関の取材を拒否するように」とメールで口封じしていた問題も発覚し、「私の秘書が勝手に送ったもので、私は何も知らなかった」と釈明に追われた。
さらに望月環境相と上川法務相についても、それぞれ代表を務めている政党支部が国の補助金を交付された企業から献金を受けていたことが発覚した。総合物流会社「鈴与」(静岡市)から2011~2012年にも寄付を受けていたことについて問われ、2人とも「交付決定を受けたとは承知していなかった」「補助金は国ではなく一般社団法人が交付決定している」などと言い訳に終始した。
望月環境相については、昨年も自身の後援会が平成20年と21年の収支報告書に新年の賀詞交歓会の費用として660万円を計上し、実際には別の会費や会合費だったことが問題にされた。その際、人人が寝静まった未明に記者会見し、「私自身、何ら法令違反はない」としたうえで、4年前に亡くなった妻がすべて経理をしていたのだと開き直り、責任をかぶせる行為に及んだ。西川某にせよ、みな反省がないのを特徴にしている。
今回の政治資金騒動はまだまだ終わらなかった。西川大臣の後任として配置された林芳正農相も、自身が代表の党支部が補助金交付が決まった2企業から60万円の寄付を受けたと明らかにした。それだけでなく、林農相の資金管理団体「林芳正を支える会」が企業から200万円のパーティー券を購入してもらっていた(政治資金規正法は、同一の者から150万円をこえて政治資金パーティーの対価の支払いを受けてはならないと定めている)疑惑も浮上した。
さらに首相みずからも、代表を務めている党支部が平成二五年に経済産業省の補助金交付が決定していた「宇部興産」から50万円の献金を受けていた事実が明るみになった。セメント製造を省エネ化する技術を開発する「革新的セメント製造プロセス基盤技術開発」事業として、宇部興産に対して他の化学メーカー3社と合わせて約1億1200万円の支給が決まっていた。宇部興産もカネなら山ほどもっているのに補助金に群がるから、「恥ずかしくないのだろうか?」と地元では話題にされた。塩崎恭久厚労相も、自身が代表を務めている党支部が、国の補助金の交付決定を通知された大阪市の総合設備工事会社から寄付を得ていたことが発覚した。国会での追及に対して、「国からの交付決定を受けたものではないので、違法ではない」と開き直った。
野党の追及に対して、安倍首相は「補助金のことは献金の受け手は知り得ない立場で、知らなければ違法行為ではないということは法律に明記されており、違法行為ではないことは明らかだ。指摘された以上、献金を返したということで十分に説明がついている」と正当化している。そして「(安倍政府の)『構造問題』ということばを使われるのは極めて不愉快だ」と腹を立てていい返す対応をしている。
政治資金規正法は、国からの補助金の交付決定通知を受けた企業や団体から1年以内に政党や政治資金団体へ寄付することを禁じている。2年目以降に企業側が便宜のお礼をするのは規制されていないようだ。そのなかで今回、政治家側は交付決定を知らなければ刑事責任を問われないという抜け穴まであったことが明らかになった。要するにザル法である。そのザル法を決めたのはほかならぬ立法府(国会)というわけで、「知らなかったら違法行為ではない」と首相が居直り、みんなして「交付決定を知らなかった」とオウム返しのように答弁しているのである。
「立法府」名乗れぬ醜態 ザル法で逃げ切る
昨年は、小渕優子経産相が高級装飾品やベビー用品など私物を山ほど政治資金で購入したり、明治座を貸し切って地元支援者を招いた観劇料の不明瞭が発覚して辞任した。自己宣伝のウチワを配り回していた松島みどり法務相も辞任した。小渕経産相の後釜として登場した宮沢洋一経産相は、政治資金でSMバーに支払いを済ませていた事実が判明した。
有村治子女性活躍相は、自身が代表を務めている政治団体が、脱税で罰金判決を受けていた鹿児島市の企業から60万円の寄付を受けていたことが発覚。同じ企業から小里泰弘環境副大臣もパーティー券を30万円分購入してもらっていたことが暴露された。
江渡聡徳防衛大臣は自身が所属する選挙区支部から、政党助成金を元手とする寄付350万円を受けとっていたことが発覚。問題が発覚しない大臣の方が少ないのかと思うほど、政治資金絡みでは身綺麗な者がいない。国会議員すべてを調査したときに、いったい何百人が引っかかるのか想像がつかないほど汚れている。
問題は政治献金というとき、企業は議員が世話してくれたから見返りを支払うのであって、議員側が知らないわけなどない。国会議員が霞ヶ関の官僚たちに「交付金を出せ」と圧力をかけたり、便宜をはかってくれたお礼として金銭的な協力をする関係にほかならない。企業からすると議員ないしは議員事務所に知らせないと補助金交付という目的を達成することなどできない。いわば国家財政の分捕り合戦に食い込んだことへの報酬である。金儲けを目的とした企業が、どうして政治家にカネをプレゼントするのか? それは誰の目から見ても便宜を図ってもらうために決まっている。
従って「知りませんでした」で済むのかも曖昧にするわけにはいかない。知らないわけなどなくむしろ「知らなかったら問題にならない」という抜け穴まで知っていて受けとっているから悪質である。自分たちがザル法をつくっておいて「法的に問題はない」と言い逃れるのだから、これほど法律を弄んだデタラメはない。法的問題以上に政治的問題、道義的問題こそ問われなければならない。法律をつくる立法府が「知らなかったら無罪」「返金したら無罪」というルールを運用して悪さをする。とても「法治国家」と呼べる代物ではないが、こうした連中が憲法改定までゴリ押しする世の中になった。
SM大臣にウチワ大臣、地元でのあだ名が「カネ持ってこーや(公也)」といわれるような人物が大臣を司って小銭を稼ぐ。政治資金でいえば、数年前には下関の安倍事務所が女性が身体を披露するパブの代金を政治資金で支払っていることが発覚して人人を驚かせたこともあった。
もっとも見逃せないのは小さな献金問題以上に記載のない裏金の方がもっと大きいはずで、下関の中小企業などは一連の政治献金騒ぎを見て笑っている。林派といえば、父親の林義郎(元厚生労働大臣)が自民党総裁選に出馬する際、献金マシーンにしたのが信漁連で、203億円もの不可解な負債を抱えて破綻したことはみんなが知っている。おかげで山口県の漁協はつぶれてしまった。
安倍派も同じで、地元における箱物事業は巨額見積もりが当たり前になり、いったい誰が抜いているのか? の疑問がいつもつきまとう。受注企業として名乗りを上げるのが代議士の実弟が支社長を務める三菱商事だったり、あるかぽーと利権でも代議士出身企業の神戸製鋼所が握ったり、代議士の叔父が頭取をしていたみずほ銀行が登場したり、そんな調子で万事が動く。行政にカネを出させるのは政治家の腕力である。今問題になっている政治資金の小銭よりもはるかに大きな裏金の存在が指摘されるのに、警察は捜査に動いた例しがない。「警察が動いた」「検察が捜査している」という噂が流れることはあっても、いつも尻切れトンボで幕が下ろされてきた。安倍代理市政をやって「疑惑のデパート」状態だった江島潔やブローカーの疋田善丸も縄がかかるどころか、江島潔は法律を弄ぶ側の国会議員になった。政治とカネで表に出てくるものは、いつもほんのわずかな些末なことばかりなのである。
国家財政や権力私物化 公共性は二の次
アメリカを筆頭に国家財政や国家権力が個別企業のために買収されるのが新自由主義の世界では常識のようになった。アメリカではロビイストと呼ばれるブローカーたちが政治家周辺をウロウロして、税金のつかみ取りをくり広げていることが知られている。議員や政治家はその代弁者である。社会的利益や公共性、国益は二の次、三の次で、こうした個別企業が国家財政を食い物にする構図がある。
日本も同じで、国土強靱化、被災地復興といえばみなゼネコンのつかみ取りである。被災地では住民生活の復興はそっちのけでゼネコンや商社の利権創出ばかりに熱を上げ、元々あった生業をつぶしてしまった。規制緩和、構造改革といって優遇されたのも大手企業ばかりで、終いには派遣会社パソナに拾われていた竹中平蔵が派遣業の拡大を政府中枢で叫ぶようになった。景気が悪化すればトヨタなどの大企業はエコカー補助金などで利益を確保され、至れり尽くせりである。大企業はカネを溜め込んでいるのに、研究開発資金まで国家財政から支出させる。法人税を納めなくてもよい法律を決めるのも、こうした大企業に飼われた自民党の仕事である。
いまや戦後社会の常識、とくに政治の常識が変わってしまっている。国益や国民の生命を守るといった政治の使命から考えるのではなく、医療も福祉もみな切り捨てで、すべて個別企業の営利を優先させるようになった。そのような大企業天国をつくるのがアベノミクスにほかならない。中東など外遊に出かける世界各国に大企業の幹部衆を引き連れ、その度にODA(政府開発援助。昔から政治家の利権の温床になってきた)をばらまいているのが首相であるが、いったいどれほどの見返りを企業群から受けているのかも想像しないわけにはいかない。