安倍政府の終わりを暗示するかのように自民党国会議員の不祥事や閣僚のスキャンダル、失言がこれでもかと浮上して連日メディアを賑わせている。安倍自民党の再登板から3年が経過したが、頼みの綱だったアベノミクスが吹き飛ぼうとしているなかで潮目は変化し、ガタガタと崩れ去るように程度の悪さをさらけ出しているのである。一連の不祥事や失言は、この3年の思い上がりを示すものにほかならない。同時に、国政の劣化と腐敗が国民の想像をこえて進行していること、何をするにも対米従属で政治にも経済にも独立性がなく、「国政」が子どもの玩具のような代物になっていること、今時の永田町界隈には使い物にならない反知性とか下品な輩が盤踞していることを示している。
品性のかけらもない自民党体質
今年に入り、1月には甘利明経済再生担当大臣(当時)が千葉県内の建設業者から口利きの見返りに現金を受けとっていた疑惑が暴露され、追い込まれて大臣を辞任していった。千葉の建設会社が独立行政法人都市再生機構(UR)の道路工事に難癖をつけ、工事開始前と開始後に約二億円超の補償金を受けとっていたが、その後さらなる追加補償を求め、口利きを甘利事務所に依頼していたというものだった。甘利やその秘書への資金提供や接待は1200万円にのぼるといわれ、甘利本人も大臣室や事務所で計100万円の現金を受けとっていた。URに対して甘利事務所が直接接触していた事実も明らかになっている。
一連の疑惑を要約すると「甘利事務所がヤクザの使い走りをして国にゆすりたかりを働いていた」という悪質なものだ。その後の自民党若手のスキャンダルや大臣の失言騒動にかき消されるようにして甘利事件は陰に引っ込み、真相解明には至っていない。安倍政府の重要閣僚といわれ、TPPやアベノミクスの成長戦略をはじめとした経済政策を請け負ってきた者が、最後は涙目で表舞台から消えていくこととなった。バッシング解禁は背後勢力が守らなかったことを伺わせた。
非常識で開き直る閣僚ら 丸川・高市・島尻
大臣たちが不勉強やいい加減さを自己暴露する例も続いている。
最近では丸川環境大臣が松本市でおこなわれた講演で、福島第1原発事故の除染基準が年間被曝量を1㍉シーベルトとしていることに、「『反放射能派』というと変だが、どれだけ(放射線量の安全基準値を)下げても心配だという人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだなかで、何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた」などと発言した。
1㍉シーベルトは国際放射線防護委員会が参考値としている被曝線量「年1~20㍉」のなかから、国が除染などによって達成する目標として決めたもので、いわゆる科学者といわれる原子力の専門家たちが論議して決めたものにほかならない。それを除染事業を担当する大臣みずからが、「科学的根拠などない」と本音を丸出しにして驚かせた。
衆議院予算委員会では、放送行政のトップである高市早苗総務大臣が、放送局が「政治的に公平であること」と定めた放送法四条の違反をくり返した場合、電波法に基づき電波停止を命じる可能性について「将来にわたり可能性がまったくないとはいえない」と答弁して物議を醸した。政府にとって都合の悪い報道をする放送局には電波停止の措置を講じるというもので、言論の自由などないという所管大臣の感覚が問題になった。
9日には沖縄・北方担当大臣である島尻安伊子が記者会見で、北方4島の一つである「歯舞(はぼまい)群島」が読めず、「はぼ…、何だったっけ」と言葉に詰まり、側にいた秘書官に「はぼまい」とささやかれたことが話題となった。「辺野古反対」を訴えて沖縄選挙区で当選したにもかかわらず、あっさり辺野古容認に寝返えり、その後は小選挙区では落選したものの比例区で復活当選。転向が認められて「沖縄・北方担当大臣」の席を与えられた。ところが、担当している北方領土の代表的地名すら読めないほど勉強しておらず、日頃から興味関心などない姿を披露した。「北方領土を返せ!」といったところで所管の大臣が歯舞群島を知らない。外務省のロシア担当者たちが世界で恥をかくことは必至で、交渉の相手国であるロシアから笑いものにされても仕方がないような、恥ずかしいものとなった。
こうして反知性を自己暴露するような人物たちが、論功行賞や「女性活躍」の花飾りのようにして登用され、はじめから無理があるものだから恥をかいている。為政者側の本音として口にしてはならないことの区別がつかないこと、官僚やその世界の受け売りで「反放射能派」等等とバカにするつもりが自爆したり、改憲前から言論の自由を否定したり、なんともいえない世界を作り出している。女性閣僚たちが、そのような意味で大活躍しはじめているのも特徴となっている。
下品極まる破廉恥続出 宮崎・武藤
甘利事件を覆い隠すような下品なインパクトを放ったのが「育休」議員からたちまち「不倫休」議員へと転落した宮崎某だった。同じく自民党国会議員である妻の出産に合わせて育休の取得を申し出て、「イクメン議員」として一躍有名になったが、妻が出産のために入院している最中に自宅に女性タレントを招き入れていたことが暴露され、議員を辞職していった。議員辞職の会見では女性タレント以外にも複数の女性関係があったことを認め、貞操観念など崩壊している男として世間の度肝を抜いた。その報道に対して「うらやましい…」と発言して驚かせたのが溝手顕正(自民党参院議員会長)で、若手に限らず自民党のなかで思いを共有する土壌があることを示した。
安倍政府になってからというもの、いわゆる安倍チルドレンといわれる若手議員たちの極端な自己アピールもひどいものがあった。
「沖縄の言論2紙をつぶさないといけない」の会合はじめ、少しでも安倍晋三的な世界観にみずからを染め、刺激的な発言やおべんちゃらをしてとり入っていく光景は、女性閣僚たちに見られる傾向と共通のものがあった。
昨年には、衆議院議員の武藤貴也が安保法制反対の世論が盛り上がるなか、ツイッターでSEALDsを批判し、「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」と発信。
その後、未公開株詐欺が発覚し、知人に「値上がり確実なソフトウェア会社の新規公開株を国会議員枠で買えるが、資金がないので集めてくれ」と持ちかけて約4000万円を奪っていたことが暴露された。出資者が返金を求めたところ、約800万円をみずからの借金返済にあてていたことも明らかになった。さらに議員宿舎に未成年の男性を連れ込み、「俺の奴隷になるなら金を振り込む」と金銭を渡して同性愛行為を強要していたことも明らかになった。
権力崩壊の下での腐敗 軽薄な「思想」弄び
「右」を弄べば首相に認められる。それは滅私奉公を説いて詐欺や同性愛にふけっていた武藤に限らず唐突に「八紘一宇」を説き始めた三原じゅん子、籾井勝人NHK会長、百田尚樹、長谷川三千子を見てもしかり、「そもそも国民に主権があることがおかしい」と述べた西田昌司、「立憲主義なんて聞いたことがない」の礒崎陽輔・自民党憲法起草委員会事務局長、「立憲主義を守ると国が滅ぶ」といった船田元・自民党憲法改正推進本部本部長代行、「終末患者は尊厳死させれば医療費が浮く」「最後はカネ目でしょ」の石原伸晃、「(天皇に直訴した山本太郎に対して)山本太郎議員は私なら直接殺す。天誅を加えなきゃいかん」の鴻池祥肇・元防災担当相などの言動からもわかる。出世への手っ取り早いツールが「右」ならば、「右」へ習えでカメレオンのように変化して成り上がっていく風土が出来上がっていること、そのような土壌で思い上がりだけが青天井になり、詐欺や不倫、ヤクザの使い走りなどが境界線もなく蔓延し、老いも若きも低俗極まりない姿を晒しているのである。
「日本を取り戻す!」「美しい国・ニッポン」と叫んで登場した安倍政府のもとで3年が経ったがいまやアベノミクスが大破綻しようとしているなかで、もともと脆弱だった権力基盤が崩壊に近づき、身内からボロボロと破綻者が引きずり出されている。
これらは政治が劣化したという代物ではなく、もともと劣化している上に度外れた腐敗が蔓延したことを暴露している。国政や中央銀行を玩具にした政治が終焉を迎えていることを実感させている。