「アベノミクス」から3年を経て、国内は景気が良くなるどころか個人消費は悪化の一途をたどり、GDP(国内総生産)も大幅に落ち込むなど、紛れもなくその経済政策は失敗だったことが明らかになっている。この間、日銀の異次元の金融緩和やGPIF(年金基金)投入等によって金融市場だけは活況を呈してきたが、それも年初から急降下し始め、官製相場の力業によってかつがつ保っているような状態が続いている。この3年で確かに大企業の業績は上向いた。富裕層や外国人投資家もおおいに潤った。しかし一方で、圧倒的多数の国民は増税、福祉切り捨てによる個人負担の増加や物価高、給与削減に直面し、日本社会は「1億総貧困社会」に向かっている姿を暴露している。
国内メディアがおとなしいのとは対照的に、海外メディアは「アベノミクス終焉」が定着した評価となっている。米『ウォール・ストリート・ジャーナル』は「日本経済の停滞に終止符を打つという公約は達成できていない」「一時しのぎの非正規雇用の増大」「企業が内部留保を積み上げる企業統治の失敗」「円安の恩恵が国内に回っていない」「首相自身が政治的に行き詰まることになりかねない」と見切りを付け、ロイターもデンマーク大手投資銀行のCIOのインタビューを配信し、「アベノミクスは失敗に終わった。新三本の矢はもはや矢ではない。低金利、エネルギー安、円安の1年で景気後退に陥った現実を見るべき」と指摘するなど、おしなべて「終わった」扱いをしているのが特徴になっている。
異次元緩和によるインフレ誘導の発信源で、リフレ派の「教祖」と崇められてきたノーベル経済学者のポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)までが手のひらを返してアベノミクスの失敗を指摘し、「日本の生産年齢人口の減少」を逃げ口上に自説を撤回するなど、風向きは明らかに変化した。アベノミクス開始当初にはスーパーマンの胴体に安倍晋三の似顔絵をつけたりして持て囃していた側は、今になって用済み扱いを始めているのが特徴となっている。
日銀は量的緩和によって250兆円近い国債を抱え込み、それだけのマネーを金融市場に吐き出してきた。ところが、雲の上の金融機関を行き来するだけで一般には回らず、むしろ景気は悪化するばかりとなった。GDPは約六割を占める個人消費が大きく落ち込み、住宅投資もマイナス。設備投資も伸びず、対中国貿易などアジア諸国との関係が冷え込んだことを背景にして輸出もマイナスになるなど、出てくる数値は「経済が好転した」とはいえないものばかりだ。
実質賃金は三年連続で落ち続け、一方で円安にともなう物価高と消費税増税がダブルパンチになって個人消費は落ち込んできた。3年間で非正規労働者は1775万人から1953万人となり、178万人増加。正規労働者は3370万人が3314万人へと56万人減少した。非正規雇用は4割超えをはたし、そのもとで所得税、住民税、相続税の増税、子育て給付金の廃止、介護報酬の削減、障害者年金や事業者報酬の削減、福祉給付金の削減、住宅扶助や生活保護費の削減、年金支給の減額、消費税の8%への増税、物価上昇などを、国民生活に強いてきた。暮らしが上向く要素などまるでなかったのが実態だ。
消費増税先送りへ 国民の怒りの世論恐れ
こうしたなかで、来年4月に10%を宣言していた消費税率の引き上げについて、安倍政府の消極的な発言が目立っている。直接には今夏の参院選を意識していることもあるが、あまりにも国内経済が冷え込み、「アベノミクス」などといって好景気を偽装したり、世論を弄べるような状況ではないこと、充満する国民の怒りの世論に恐れをなしていることを浮き彫りにしている。
最近になって、内閣官房主催の国際金融経済分析会合にケインズ学派のジョセフ・スティグリッツ(米コロンビア大学教授)を招き、来年4月の消費税率10%への引き上げの延期を提言させたり、クルーグマンにも「消費税増税を先送りせよ」といわせたり、海外の権威を使っているのもそのあらわれにほかならない。
そして、アベノミクスの首謀者だった国内リフレ派の面面は昨年末あたりから手のひら返しがあいつぎ、竹中平蔵が「トリクルダウンは起きない」と発言したのに続いて、生みの親といわれた浜田宏一・米エール大学教授もGPIF(年金基金)の株投資について「大損する」「(国民を)教育しなければいけなかった。損をするんですよ。これだけもうけるんだから(損もすることを)いっておけと僕はいろんな人にいいました」(TBS報道特集)などと弁明。経済学者の高橋洋一も失敗だったと認め、首相の経済アドバイザーである内閣官房参与の本田悦朗までが消費税増税の延期を提言したりするなど、今になって「厳しい見通し」を連発し、終いには勢揃いでスティグリッツやクルーグマンに教えを請うている。
取り残されているのが御輿に乗せられた安倍晋三で「経済の好循環は確実に生まれている。アベノミクスが失敗したなどという言説は全く根拠がない!」「総雇用者所得は増えている!」「ファンダメンタルズは良好だ!」等等、失敗を認めたくない一心で懸命に応戦していたが、本人が認めようと認めまいが、実質賃金は下がり、GDPも下がり、株価も下がり、経済指標は軒並み悪化している現実を突きつけられている。
大企業の延命策 株価とともに吹き飛ぶ
ここまできて、安倍政府が実行してきた経済政策は何だったのかを問わないわけにはいかない。「アベノミクス」は投資先を失ってさまよっていたヘッジファンドの荒稼ぎに弄ばれただけだった。自慢だった株価は民主党政府時期よりも二倍近くに跳ねあがったが、それは「安倍政府の登場」以上に、米国が金融緩和を引き締めたことでドル高=円安に向かったのが大きな要因だった。日銀はマネタリーベース(金融緩和の指標)を増大させたが、国内金融機関の貸し出しは伸びず、国内には循環しなかった。
その大部分は在日外銀が安い円資金として国内で借り入れ、その円を金利の高いニューヨークの本店に送り、そこから米国のヘッジファンドや金融機関、証券会社に貸し出されてウォール街が投機資金として運用した。こうした円キャリートレードの金利差分は彼らにとって丸もうけとなった。日銀が供給するマネーで外資が日本株を買い、ドル買いしたことによって円安になるからくりだった。
もともと不景気で「失われた20年」といわれていたが、あだ花のようにして「アベノミクス」が登場し、メディアが持て囃して“好景気”を捏造していた。ところがいまや、「高支持率」と同様に捏造や嘘が通用しないまでになった。そもそもリフレ派の理論そのものが人人が好景気と思い込むことによって景気が好循環し始めるという代物で、人欺し、詐欺の類いにほかならない。それが息を吐くように嘘をつく政治とセットになって実行されてきただけである。
実際には賃金は減り、非正規雇用ばかりが増え、増税やあいつぐ社会保障の負担増で、国民の圧倒的多数が「好景気」とは無縁の状態に置かれてきた。円安で輸出が増大して景気は良くなるといっていたが、輸出も伸びなかった。大企業がもうかればおこぼれが下下に滴り落ちるといっていたのも、国民のなかでまるで実感がなく、むしろ日本社会は大不況に見舞われたままである。
強欲に利潤を溜め込むのはもっぱら大企業や金融資本で、ますます国民を貧乏にして「物が売れない」状態を作り出し、活路を海外市場に求めて権益を争っている。そして、その海外展開においてよその帝国主義国に負けてはならないと軍事力を備え、自衛隊の海外任務にも道を開いた。
一連の経済政策は誰のためのものであったのか、経済が行き詰まり、軍事にのめり込む根拠とあわせて歴然としたものとなっている。大企業、大資本の延命策であった「アベノミクス」は株価とともに吹き飛ぶところまできている。