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官製相場崩壊の代償は誰が負うのか NYダウ、日経平均が暴落

聞こえてくるバブル崩壊の足音

 

株価暴落を受けて錯綜するNY証券取引所

 NYダウが1日1000㌦の値幅で暴落したり、連動して日経平均株価が暴落するなど、金融市場が再びざわついている。2008年のリーマン・ショックから10年が経過したが、その間、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)、日銀が量的緩和によって膨大なマネーを市場に注ぎ込んできた。この緩和マネーに寄生して膨張したバブルが、資本主義各国による延命措置や調整にもかかわらずいつか弾ける運命にあり、暴落したり調整したりをくり返しながら、より巨大な破綻を引き寄せている。

 

 リーマン・ショック以後、各国で中央銀行がかつてない規模の量的緩和を実施し、沈静化をはかってきた。景気回復やデフレ脱却などを理由にして中央銀行が市場にマネーを供給したのは、資金ショートに困った金融資本を救済するためにほかならなかった。そして、そのマネーがより有利な投資先や投機先を探して世界中をかけまわり、再び株式や債権、商品や不動産などに張り付いて資産価値の上昇をつくりだしてきた。

 

 一方で、「経済が成長」しFRBによる「出口戦略が見え始めた」といわれている米国では、国民生活の窮乏化が著しいものとなり、ウォール街の「安定」とはまるで裏腹な現実がある。経済指標や雇用統計には決して映し出されないものの、ホームレスやフードスタンプ受給者はますます増大し、日本国内から見ても想像を絶する貧困状態が蔓延した。こうして犠牲をみな国民に転嫁したもとで、マネーゲームだけは社会から浮き上がったところでくり広げられ、市場の「安定」や「出口戦略」が語られている。

 

 「景気は緩やかに回復している」(日銀短観)「いざなぎ越え 戦後2番目の長さの好景気」等等がもてはやされてきた日本でも、その好景気を実感している生活者などいない。異次元の量的緩和の恩恵を被ったのは外資も含めた金融市場のプレーヤーたちで、「トリクルダウン」(恩恵が下下にも滴り落ちてくる)が起こるわけなどなかった。実体経済とは無縁な雲の上にマネーだけが溢れかえり、日銀と市場、金融資本の間で回転していただけだったからだ。原発でババ抜きを強いられた東芝、不正ドミノの神戸製鋼所、データ改ざんの三菱マテリアルやSUBARU等等、名だたる日本の大企業が次次と不祥事や巨大損失を抱え、株価下落要因しかないなかでも、なおも日経平均株価は右肩上がりを続け、「根拠なき熱狂」などといわれていた。企業の実体にかかわらず、株価を押し上げる力が働いていたからだ。

 

 2月に入ってからの米国を震源地にした株価暴落は、「FRBによる金利引き上げへの警戒感」といわれ、下げ幅が大きかったことについては、コンピュータープログラムによる超高速取引が反応したことで、売りが売りをよんだともいわれている。その影響は米国だけにとどまらず、夜が明けると必ず日経平均株価が連動して暴落し、さらに中国などアジア各国にも及んだ。

 

 ひとたび暴落がはじまると、ババ抜きに乗り遅れまいと他も条件反射のように反応するのは、超高速取引のアルゴリズム云云というだけでなく、それほど市場が不安定で、実体とかけ離れたバブル状態に置かれていることをあらわした。経済の専門家たちが指摘してきたのは、一連の緩和マネーによって膨張したバブルはいつか必ず弾けることで、その代償はリーマン・ショックどころではないというものだ。1日で1000㌦をこえる暴落というのは、2008年のリーマン・ショックでも見られなかった下げ幅だ。1987年のブラックマンデー、97年のアジア通貨危機、2000年代はじめのITバブル崩壊、2008年のサブプライムローン破綻に端を発したリーマン・ショックなど、10年も持たずに破綻し、そのたびに次なる投機先やバブルをひねり出して金融資本主義は焼け太りしてきた。マネーゲームに費やす種銭がかつてなく膨張しているのが今日の特徴だ。

 

株価は自作自演で虚構の指標に 

 

 こうした状況のなかで、日本国内で株式価格の乱高下や為替の動向が一般生活者にとって無関係で済まないのは、アベノミクスなる経済・金融政策によって日銀が大量に国債を抱え込み、株式市場でもETF(上場投資信託)購入によって株価を下支えし、さらに政府は政府で年金資金まで株式市場につぎ込んでいることがある。誰の目にも明らかな官製相場であり、これが世界同時株安によって暴落すれば、出口戦略どころか日銀砲によってばらまいてきたカネや年金資金が水の泡になりかねない危険性をはらんでいる。為替相場の変動による国民生活への打撃も大きい。

 

 国債市場では日銀の存在感が巨大なものになり、いまやその保有額は446兆円にもなっている。日銀が大量に国債を購入し、マイナス金利を強いていることで銀行の収益は悪化してきたが、金融緩和をやめたらやめたで金利上昇する可能性が高いことが指摘され、国債の利払い費が増加すれば日銀が巨額の損失を被るだけでなく、民間金融機関が保有している国債にも影響が及び、その副作用は借金依存の国家財政まで含めて甚大なものになることが懸念されている。

 

 いずれ抱えた国債なり株式を市場で売却して金利を正常化する(出口戦略)場合、こちらも市場が大混乱して、それ自体が暴落の引き金にもなりかねない。債権市場での存在感もさることながら、日銀が株式市場において昨年1年間で購入したETF(上場投資信託)は約5兆9000億円(2016年から年間6兆円規模に拡大)にもなり、その購入額は累計17兆円をこえている。株式市場では上場企業の4社に1社で日銀が大株主となり、メインプレーヤーになった。

 

 国内株式市場では7~8割を外国人投資家が占め、残りの2~3割が国内投資家や金融機関といわれている。そのなかで、日本株保有額において第1位は運用資金36兆円を誇るGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)で、第2位が米ブラックロックの17・6兆円、第3位が日銀で17・1兆円、第4位が野村アセットマネジメントの13・1兆円と続いている。第7位の日本生命が7兆円だ。日銀や年金資金がなだれ込んだなかで、株式相場は企業の実体とはかけ離れた虚構の指標と化した。ヤラセ相場といわれてもおかしくないもので、自由競争や市場原理などとはほど遠い自作自演である。

 

 これらの水増しやカンフル剤によって人為的に押し上げた株価がNYダウ暴落等の世界的動向に連動して吹き飛べば、景気回復やデフレ脱却はおろか、社会的な大混乱を生み出しかねない危険性が高まっている。現状のまま進んでも、日銀が出口を探ればそれ自体が株式市場の崩壊を促進することから身動きがつかず、かといって金融の世界でこのままの状態がいつまでも続く確証などなにもない。再びリーマン・ショック級の世界同時株安に直面すれば、カンフル剤やインチキな水増しもろとも水の泡となり、年金資金まで巻き上げられることが現実問題となっている。

 

 無謀なる金融・経済政策のツケは、旗を振り回してきたリフレ派や日銀総裁の黒田、安倍晋三に負わせなければならない。

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