米大統領トランプがアジア各国を訪問し、属国である日本や「朝鮮半島での武力衝突は許さない」と反発している韓国、さらに北朝鮮情勢で鍵を握るといわれている中国に足を運び、北朝鮮に対する圧力強化を訴えている。同時に、一連のアジア歴訪のなかでは、中国が大国として存在感を増しているなかで、周囲に米空母3隻を集結させるなど軍事力によって東アジア全体に恫喝を加えつつ、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議やAPEC(アジア太平洋経済協力会議)において「アメリカの指導力を示す」と覇権誇示に躍起になっている。このアジア歴訪は何をあらわしているのか、記者座談会で分析してみた。
A 日本、韓国を経て中国に渡り、向こうでも国賓級扱いでもてなされているが、属国と見なしている先の2国に対してはあからさまに侮蔑的態度をとっていたのに対して、中国ではてのひらを返したように習近平に気を遣っているのが特徴だ。東アジアのパワーバランスを巡って、米国は中国を相当に意識していることをあらわしている。北朝鮮の封じ込めもさることながら、この中国との覇権争いで火花を散らしているのが実態だ。そこに中国と接近するロシアも加わって、アフリカや中東、欧州など世界情勢が動いている。北朝鮮情勢一つとっても、アメリカ単独でどうこうできる代物ではない。一極支配が崩れているからこそ躍起になっている。
B それにしても、トランプが日本にやってきただけで連日メディアを挙げて大騒ぎだった。情けなくなるほどイヴァンカやトランプのおもてなしに嬉嬉としていた。メディアや日本の為政者どもは、確か1年前のちょうど今頃はヒラリー全面応援で熱を上げ、仮にトランプが当選したらこの世の終わりがやってくるような調子で戦戦恐恐としていたはずだ。変わり身が早いというのか、属国の悲哀というのか、とにかくみっともないの一言に尽きた。世間一般でも「見てられないな…」「本当に属国だ」という声が支配的だった。ニュースでも「USビーフにケチャップをたっぷりとつけて食べるのが好き」とか、どうでもよいことばかりを延延と垂れ流していた。イヴァンカについてもマドンナか何かと同じような扱いだ。「大歓迎」のおもてなしに貫かれていたのは卑屈な属国の奴隷根性だった。
C もてなす側はこれでもかとへりくだって笑顔を振りまいているのに、当のトランプは占領者意識丸出しで侮辱の限りを尽くしていった。のっけから大統領機エアフォースワンは米軍横田基地に着陸した。歴代のアメリカ大統領や海外要人は正式な玄関口である羽田なり成田に着陸してきたが、入国審査や日本の法律が及ばない米軍基地から入ってきた。それに対して文句などいえない日本政府の隷属関係を示していた。米国の要人なりCIA要員が横田基地をはじめとした米軍基地から入国して、パスポートなしで日本国内に自由に出入りしていることは以前から問題になっていたが、それを堂堂とやってみせた。なにが日本の法律や入国審査かと侮蔑しきっているわけだ。これは韓国も同じで、トランプは在韓米軍基地に着陸した。中国だけはさすがに米軍基地がないので北京空港だった。
D 警察が警備に大量動員されて、羽田空港ではコインロッカーの使用禁止措置までしていたのに、横田に勝手に着陸した。どこに着陸するかも日本の警備当局が知らなかったということだ。横田基地というのは「横田幕府」と揶揄(やゆ)する人もいるが、在日米軍の心臓部にあたる。在日米軍司令部や空軍司令部が置かれ、ここを中心にして海軍司令部の横須賀、陸軍司令部の座間と連動する。首都圏周辺にある300もの米軍基地を統括する本部にあたる。ここには朝鮮戦争は休戦協定を結んでいるとはいえ、「国連軍」の後方司令部も置いている。さらにスノーデンが暴露したように監視・情報収集機関が置かれていることも明らかになっている。
そして横田基地の上空は「横田ラプコン」といわれる飛行禁止空域がもうけられ、新潟から静岡に及ぶ広範囲の制空権を米軍が握っている。九州や西日本から飛行機で羽田へ向かうと分かるが、「横田ラプコン」を避けるために一度房総半島まで海側から回り込んで、そこから旋回して東京に向かって高度を落としていく。首都圏の制空権を他国に握られている国など日本だけだが、この属国が忖度しまくっている横田基地に大統領は占領者として乗り込んだわけだ。そして、その後も海兵隊の専用ヘリ「マリーン・ワン」で首都圏の上空を自由に移動した。
B 目を疑ったのは、まず横田基地で米軍兵士だけでなく自衛隊員まで集めて「米国の決意をいかなる国も侮ってはならぬ」「われわれは空を支配し、海を支配し、地上と宇宙を支配している!」等の演説をおこなったのに対して、自衛隊員までが「USA!」と歓喜していた光景だ。自衛隊が米軍の下請軍隊になるために安保関連法や集団的自衛権の行使容認を強行してきたが、実態ははるかに先行している。既に一体化していることがありありと伝わってくるものだった。首相が指揮権を握っているのではなく、米国大統領が自衛隊も含めた指揮権を握っており、トランプが己の軍隊として鼓舞激励するという振る舞いだ。自衛隊員もどんな心境で「USA!」と叫んでいたのだろうか。そんなUSAの鉄砲玉にされることをわかっていて米兵といっしょに歓喜しているのだとしたら、これは属国の悲哀等で済む話ではない。日米安保は「日本を守るため」にあるのではなく、「アメリカを守るために日本が命を捧げる」ものだという関係を正直に映し出している。
「真珠湾を忘れるな」 原爆投下正当化の挑発
E 日本に来る前日にハワイに寄り、「リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)、リメンバー・戦艦アリゾナ!」と発言(ツイート)したのも意識的だ。「リメンバー・パールハーバー」は日米開戦のスローガンで、第2次大戦後も原爆投下や沖縄戦など日本への武力攻撃や大量殺戮を正当化するために利用してきたものだ。あえて日本人を挑発し、戦争体験者や遺族の感情を逆なでしたうえで堂堂と訪日した。それに対して怒ったりする為政者もおらず、みんなしてヘラヘラと笑っている。メディアも問題視するところがまったくない。とにかく占領者意識を前面に出してきたのが特徴だ。反米感情を高めかねないとかの繊細な判断があれば普通は遠慮するものだが、入国にせよ、何にせよ、肉にケチャップをぶっかけるが如く土足で踏み込んできた。畳の上を泥靴で歩かれて、なおもヘラヘラしているのが日本の支配層だ。保守とか右翼を標榜しているくせに、何と屈服的な連中かだ。
C 朝鮮人ヘイトをやっている自称「保守団体」が新宿で星条旗を握りしめて歓迎していたのも象徴的な光景だった。何の違和感もなく日の丸を星条旗に持ち替えて旗を振る。それこそ、恥を知れ! と本職右翼から一喝されなければおかしいと思うのだが、どうも昨今は様相が異なる。恥と思っていないことに特徴がある。
A 昔は腹を切ってでも世論に訴えた者もいたが、右翼にせよ、左翼にせよ、当節は腹をくくって筋を通すような人間がほとんど見当たらない。というより倒錯がある。それで「なんちゃって右翼」とか「右翼もどき」みたいなのが朝鮮人や中国人を罵倒することで日本人である自分を慰めたりしているが、それが本当に誇らしい日本人なのか問うてみなければならない。反米愛国でないものは全て紛い物だ。アメリカに屈服しながら他民族を侮蔑して喜んでいるというのは情けないし、滑稽極まりないものだ。
それで「リメンバー・パールハーバー」発言に対して「広島、長崎、福島も忘れないでもらいたい」と返したのが吉永小百合だけだった。それこそかつての大戦で320万人の邦人の生命が奪われた事実は消し去ることなどできない戦争の深い傷痕だ。その戦争で、広島・長崎への原爆投下によって二十数万人の老若男女の生命を奪い、沖縄戦や130回以上に及んだ首都圏への空襲で同等の非戦闘員を焼き殺したのはアメリカだ。おびただしい犠牲のうえに今日がある。直接に原爆投下や殺戮をくり広げた側が開き直ってやってくるのに対して、「オマエたちも忘れるなよ!」と主張するのは当たり前の反応だ。ところが、これにネトウヨとかの自称右翼が「オレたちのアメリカ様に何をいうか!」といわんばかりに腹を立てている。もうめちゃくちゃな話だ。
D アメリカに屈服し、国の主権を売り渡した側のDNAがそうさせている。岸信介から連なるDNAといってもいいものだ。その売国ぶりを右翼装いで誤魔化すなといいたい。320万人の犠牲者の側に思いがある人間は、パールハーバー発言に敏感に反応するが、国を売り飛ばして単独占領に加担した側のDNAはヘラヘラと笑っていられる。ケチャップをかけられても、何をされてもヘラヘラと笑ってられるのだろう。まさに奴隷根性が染みついた人間にしか真似できないものだ。
72年を経て、一層屈辱的なものになっていることを感じさせる数日間だった。独占大企業にしても政治家にしても、日本の為政者というのは72年間ずっとそうだったのだ。オブラートにくるんで独立国であるかのように装ってきたが、本質は変わらない。それを真似している安倍晋三があまりにも程度が悪いというだけで、最近では隷属関係を隠すこともしなくなった。ある意味バカ正直で、国民世論を舐(な)めているからそうなる。ゴルフ場でバンカーに転げているのを見ても、つい最近まで国難突破などと叫んでいたのに、国難はどこに行ったのか? と思わせるものがあった。トランプ訪日を見ていると、この属国の奴隷根性の浸透こそが国難ではないかと思えてならない。
B トランプが日本に来た目的は結局のところ、米軍需産業の武器を売りつけるためだった。日米首脳会談で「安倍首相はさまざまな防衛装備を米国からこれから購入することになるだろう」とのべ、離日直後にも得意になって「われわれの偉大な国に多くの利益を生み出すだろう。大量の軍関連やエネルギーの注文が来ている」とツイートしていた。安倍晋三は何兆円もの武器購入を確約させられただけだ。ゴルフ接待をしてもてなした側がカモにされたわけだ。接待する側が買ってもらうならまだしも、まったく逆だ。その武器を購入してトランプのいうがままに「武士の国として北朝鮮のミサイルを迎撃せよ」を実行した場合、北朝鮮と開戦して戦場になるのは日本列島だ。どこまで愚弄されれば気が済むのかと思う。北朝鮮のおかげで米軍需産業が潤う構図でもある。
アジアへの軍事恫喝 米国離れ顕在化に焦り
E トランプは韓国についても相当に侮蔑的な振る舞いをしていたが、あっちは大統領が「朝鮮半島での武力衝突は許さない」と一定の抵抗をしている。国民世論が許さないという力関係を示している。以前、アメリカ政府高官が頬を切られた事件があったが、反米世論も強い。「韓国より日本の滞在時間が長いのは、日本を優遇していることのあらわれ」などと喜んでいるメディアもいたが、そのような低次元な話ではない。日米韓で北朝鮮包囲網を強め、アメリカとしては日韓を鉄砲玉にしたいが、韓国はそうたやすく乗れない。またロシアや中国もいるなかで、アメリカの願望だけで事は動かないのが実際だ。イラクやアフガン攻撃のように単独で爆撃等をしても、収拾がつかない事態に陥るのが関の山だ。そんななか、安倍晋三だけが「北朝鮮がー!」をやっている。世界的に見て、いかに異常な隷属関係かがわかる。東アジアのなかのイスラエルかと思うような浮き上がり方だ。
C 米軍は引き続き朝鮮半島周辺海域で大規模な軍事演習を続けている。今月からは原子力空母3隻を展開し、3つの空母打撃群が執拗に挑発している。この米海軍の空母3隻が11月中旬に西太平洋で一斉に合同演習をおこなう予定になっている。原子力空母の主な戦力は約60機の艦載機だが、空母打撃群は空母を旗艦に5~10隻の護衛艦(イージス艦や潜水艦)と1~2隻の補給艦で構成する。一つの空母部隊だけでも兵力は7000人を超す。空母打撃群を3隊投入して軍事演習を展開するのは、まぎれもない東アジア地域全体への恫喝だ。単純に北朝鮮だけを意識したものではない。
A ASEANやAPECなども開催されるが、東アジア地域で米国離れが顕在化していることへの焦りが背景にある。中国が影響力を強めるなかで、ロシアや中国に接近しているフィリピンでは大統領のドゥテルテを恫喝するように国内でISの反乱が始まり、これまた中国に接近しているミャンマーのスーチーに対しては、ロヒンギャ族への人権侵害を持ち出して責め立てている節がある。
第2次大戦から72年が経ったが、かつて社会主義資本主義で対立していた構図はすっかり変質を遂げている。社会主義・中国が変質し、ソ連が崩壊したもとでアメリカ一極支配といわれる状況が続いてきたが、そのアメリカも今や自国を安定させるのに精一杯で「アメリカ・ファースト」などといっている。既存の権威が崩壊しているからこそのトランプ登場でもあった。アジア地域において「指導力を見せる」といってはいるものの、既にオバマの時代から「世界の警察」からの転落が始まっている。それがシリアや中東情勢にも如実に反映し、アジアでもパワーバランスの変化が起きている。米国一辺倒の日本とは対照的に、アジアでも各国は独自に動き始めている。
B 二極構造崩壊後にあらわれたのは、永遠の勝利を叫んでいた側の資本主義の破綻でもあった。そして、社会主義だったはずの中国も共産党が独裁体制をとりつつ経済は資本主義化して、今やアメリカ以上に自由貿易を叫んで覇権を求めるようになっている。このどちらが善で悪かというような単純な代物ではない。互いに軍事的には恫喝しあいながら、覇権を奪いあっているだけだ。北朝鮮問題もそのなかの一つに過ぎない。
こうしてかつてなく外交力が問われる局面でありながら、外務省は米国一辺倒、米国忖度で、世界から笑われているのが日本だろう。外交といえば安倍晋三がばらまく以外に能がないと思われていてもおかしくない。終いには自国が戦場に晒されるというのに、「武士の国だろ」とおだてられてミサイル迎撃までしかねない有様だ。韓国大統領が「武力衝突するな」と自制を呼びかけているのと比べても、いかに自国への脅威や危険に対して無自覚かを暴露している。知識人は反知性主義者などと丁寧語を使っているが、このようなバカ者の巻き添えをくらって日本列島を火の海にするわけにはいかない。あくまで国民の生命を守る側で戦争策動に抗わなくてはならないし、死んだ者の生命をとり戻すことができないなら、死なないためのたたかいを今こそやらなければならない。
A この戦争情勢のなかで、いわゆる「左翼」がくたびれて消滅する流れも酷いものがあるが、「大衆のために」の情熱が失せたようなものはむしろ消滅した方がよい。資本主義の消滅と共に消滅していくそれは「左翼もどき」だったということだ。「リベラル」なる衣に逃避したがる者もいるが、戦争情勢を前にして右とか左とか小さなイデオロギーやウイングに固執することに何の意味があるのだろうか。左翼でも右翼でも、下翼でも上翼でもどうでもよい。何とでも呼べばよい。自己主張や自己満足で世の中は変わらないし、徹底的に「大衆とともに」で力を束ねていかなければ展望にならない。
新自由主義のもとで世界的に大衆的反撃機運が高まっているのに、昔のように世界の労働者や人民を束ねる組織などない。しかし国境をこえた連帯を強めて、グローバリズムや新自由主義の横暴なる支配に抗わなければ、各国で人民生活は窮乏化し、終いには戦争と破壊に乗り出していくことが目に見えている。第2次大戦で破壊し尽くしたことによって資本主義各国は相対的安定期を得たが、それも行き詰まって今日に到っている。民需も行き詰まっているし、もう一丁やりますか? が支配の側の本音だ。軍需産業の株が高騰するのもそういうことだ。従って、泣きべそをかいていても始まらないし、死なないために頑張るしかないのが現実だ。
E 東アジアのなかで、日本はどう存在していくのかが問われている。対米従属のまま好きなだけアメリカに国益を吸い上げられるようなことでは、衰退国家まっしぐらなのは疑いない。植民地支配を終わりにしなければ永遠に吸い上げられる。イヴァンカに57億円を持っていかれたどころの話ではない。トランプ訪日が教えたことは、独立した国ではなく、まさにアメリカの属国であるという現実だ。