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ババ抜きで掴まされた東芝  WHの原発撤退戦略の尻拭い

 日本の有数の原子力メーカー・東芝が実質上倒産の憂き目にあっている。

 契機となったのは2006年にアメリカの巨大原子力メーカー・ウェスチングハウス(WH)を傘下においたことであった。その時点ですでにアメリカでは原発事業は斜陽産業となっていたわけだが、当時のブッシュ政府は「原発ルネサンス」などとぶち上げ、日本政府に原発推進策をとらせ、東芝にWHを法外な価格で買収させ、日立とゼネラル・エレクトリック(GE)を提携させて損失を押しつけ、三菱重工にもフランスのアレバと提携させ結局は経営不振の尻拭いを日本企業に押し付けている。

 2011年に福島原発事故が起きてもなお原発を成長産業であるかのように描き、事故を起こした本家本元の日本の安倍政府に原発輸出のトップセールスに奔走させ、東芝や日立、三菱もその気にさせていた。だが、世界のすう勢は、1979年のアメリカのスリーマイル島原発事故や1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故、それに続く福島原発事故を受けて明確に原発撤退に転換している。東芝の倒産騒動まできて、日本の原子力メーカーがWHやGEといったアメリカ巨大原子力メーカーにまんまとはめられ、巨額の負債を押し付けられたという顛末が浮き彫りになっている。
 
 思考停止と対米従属の産物 気づいたときには会社が倒産

 東芝が陥っている今日の事態は、東芝一社の問題にとどまらず、戦後アメリカに屈服することで救われ、引き続き支配層の位置に座ってきた日本の独占資本がいまやアメリカに骨の髄まで吸い上げられている姿であり、対米従属の日本社会の末路を示している。


 東芝はWH関連で今回総額で7000億円にものぼる損失が判明し、実質上倒産という深刻な事態に直面している。


 東芝に続いて原子炉メーカーの日立製作所も1日、原発の燃料となるウランを濃縮する先端技術の開発事業から撤退することを発表した。2017年3月期に約700億円の損失を計上する可能性があるとしている。損失の対象は、日立が40%、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が60%を出資するGE日立ニュークリア・エナジーの子会社で、ウランを濃縮する技術を開発している。損失額は16年9月中間期の時点で500億円としていたが、円安などの影響で200億円ほど膨らむとしている。


 東芝の7000億円にものぼる減損処理の遠因は原発事業を成長産業と見なし、06年10月にアメリカの巨大原子炉メーカー、WHを54億㌦(当時の為替で6600億円)で買収し、子会社化したことから始まっている。当時、専門家の間では、衰退傾向にあるWHの市場価値は、最大その半分の3000億円か、あるいはそれ以下といわれ、「東芝は高い買い物をした」とみなされていた。


 11年の福島原発事故後、ドイツのメルケル首相は22年までの原発全廃を宣言し、その直後に同国最大の原子炉メーカー・シーメンスは原発事業からの撤退を表明した。東芝がこの時期にシーメンスと同様に、原子力事業を売却・撤退し、新規資金を成長事業に投入する決断をしていれば、今日のような苦境に追い込まれることはなかったであろうと専門家は指摘している。


 だが東芝にはそれは不可能であった。ここまできた東芝をめぐる事態は、日米政府の原子力政策にもからんだ大掛かりな計略の底なし沼にまんまとはまった感がある。


 福島原発事故以前、日本の経済産業省はアメリカのブッシュ政府が掲げた「原子力ルネサンス」を真似して標榜し、「原発時代の到来」を煽った。さらに安倍政府のもとで経産省は、福島原発事故後もその方針を改めず、原発推進をアベノミクスの成長戦略の柱にすえた。東芝はこの経産省の方針を実行する優等生であり、安倍首相の原発輸出セールスにも同行するなど先頭に立った。


 約7000億円規模の損失は、WHが買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)のものである。S&Wは原発の工事を手がける建設会社で、WHが一昨年12月に買収した。当時、東芝は粉飾決算で大騒ぎの真っ最中で、WHがS&Wを買収する話は陰に隠されていた。


 WHはジョージア州とサウスカロライナ州で計四基の原発を受注したが、工事は予定通り進まずに3年もの遅れが出ており、電力会社から損害賠償を請求されていた。コストは膨らみ、WHとS&Wどちらが損失を負担するかで衝突し、訴訟合戦が泥沼化した。


 WHを買収したとはいうものの実態は東芝がWHに吸収されたも同然の状況であり、原発技術はすべてWHが持っており、アメリカの事業はWHが取り仕切っていた。東芝が粉飾決算の追及を受けて大騒動をしているすきにWHはS&Wを買収した。


 この買収での最大の問題は、S&W社が関与したアメリカと中国のすべてのAP1000型の加圧水型原子炉(PWR)について過去、現在、未来の債務をWHが全面的に引き受けていたということである。その点について東芝本社には隠されていた可能性が高い。S&Wの実質的な買収額は260億円であったが、その20倍をこえる損失があることを1年経って東芝本社は知らされた。S&Wが抱えていた負債を丸ごと東芝がかぶることになり、突如数千億円から7000億円規模の減損処理を迫られ、事実上倒産の淵に立っている。専門家は「明らかにWHの背任的要素がある」と指摘している。

 WHの損失丸ごと被る 対米従属の構図

 さかのぼれば東芝のWH買収に至る過程ですでに大きなわなが仕掛けられていた。
 アメリカでは東芝がWHを買収した2006年段階ですでに原発は斜陽産業の部類に入っており、WHは当時でも問題企業の一つであった。スリーマイル島事故や電力自由化で原発の採算は悪化し、WHの親会社は原発部門を英国核燃料会社(BNFL)に売却して撤退している。


 しかも東芝によるWH買収はアメリカの原子力戦略と関係している。原発技術は原爆製造のマンハッタン計画の副産物として生まれた技術であり、原爆製造と直結している。その先端技術を握るWHの譲渡先はどこの国の企業でもよいというわけにいかない。BNFLはアメリカの同盟国であるイギリスの国有企業であった。だが、同社もWHの経営再建を果たせず、日米同盟に白羽の矢がたった。そこで甘言につられて飛びついたのが東芝であった。東芝はWHの巨額の損失を丸ごとかぶり倒産の憂き目にあっているが、まんまとはめられたといっても過言ではない。


 東芝はWHに相場の3倍以上をも投じた。実体価値は2000億円ほどで、そのほかはのれん代などが4000億円とされている。当時はどこから見ても「高い買い物」と評されていた。ただ、東芝はWH買収によって、原発ビジネスが約2000億円から15年には約7000億円、20年には約9000億円に拡大すると計画を立てており、それだけの投資をしても元はとれるという計算であった。その根拠となったのは06年に経産省が発表した「原子力立国計画」であり、「既存原発の60年間運転、30年以降も原発依存度30~40%を維持、核燃料サイクルの推進、原発輸出を官民一体でおこなう」との内容であった。


 しかし、東日本大震災による福島原発事故を契機に世界の原発マーケットも冷え込み、大きく歯車が狂い、結果的に6000億円という過大投資が経営の足を引っ張る原因になった。


 日本の原発には沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)とがある。いずれもアメリカの技術で、BWRはGE、東芝、日立、PWRはWH、三菱重工が採用していた。日本の原発市場は、PWRの三菱重工と、BWRの東芝・日立が分け合う構図になっている。


 WHを取り込めばPWRも手に入る。国内市場だけでなく世界の原発需要を取り込める、という思惑のもとでのWH買収であった。原発が世界で増設されれば、屈指のメーカーであるWHに相当な受注が入る。5~6年で三十数基を受注できるというもくろみで、WH買収を決断した。だが08年秋にリーマン・ショックが起き、続く11年の福島原発事故がとどめを刺した。15年度までに39基受注という計画は「幻」になった。


 それどころか、福島事故が起きた2011年、東芝はWHの株式20%を追加取得することになった。売り手は米エンジニアリング大手のショー・グループで取得金額は約1250億円。当時の東芝の佐々木則夫社長は「原発受注はまだ増える」と強気の姿勢を崩さなかったが、この期に及んでの原発事業への追加投資に東芝の先行きを案じ、株価は暴落した。

 原発ルネサンス煽られ 実際は米国では凍結

 東芝が買収したWHの創業は1886年。57年にペンシルベニア州で米国初の原子力発電所を稼働させた。世界の原発市場で最もポピュラーなPWRの特許を同社は持っている。GEと並んで、米国では長らく名門重電メーカーとして脚光を浴びてきたWHだったが、90年代に深刻な経営危機に直面した。93年に再建請負人としてCEO(最高経営責任者)に迎えられたコンサルティング大手マッキンゼー出身のマイケル・ジョーダン会長が、99年に電力システム部門を独シーメンスに、原子力部門を英国核燃料会社(BNFL)と米エンジニアリング大手モリソン・クヌードセンの合弁会社にそれぞれ売却、「重電の名門」は切り売りで解体された。会社本体は九五年に買収した米放送大手CBSに事業を集中(97年には社名もCBSに変更)し、WHの歴史はここで一度は途絶えている。


 このとき売却された原子力部門はBNFLの100%子会社となり、この会社が「ウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニー(WH)」の社名を継承、現在に至っている。イギリス政府が100%出資するBNFLはその後巨額の赤字を背負って事業戦略の見直しを迫られ、2005年7月にWHの売却を表明した。半年余りの入札商談を経て、06年10月に東芝が傘下に収めた。WH売却の入札に参加したのはほかに三菱重工業などほぼ日本企業のみであり、アメリカ資本にとってはなんの魅力もない存在であったことを示している。


 アメリカではブッシュ政府が05年に電力会社に対する原発建設の補助制度を盛り込んだ包括エネルギー法を成立させ、20年までの15年間に米国内で少なくとも30基の原発を新設するとして「原発ルネサンス」を煽っていた。そのもとで、日本の原発3社(東芝、日立製作所、三菱重工業)や仏アレバは、BNFLが包括エネルギー法とほぼ同じタイミングで売りに出したWHの争奪戦に色めきたった。だが、不思議なことにお膝元のアメリカの企業や投資家は静観するだけで入札には動かなかった。


 当時日本でも「2030年までの25年間に世界で150基が新設され、原発市場の規模は30兆円に膨らむ」などと「原発ルネサンス」が叫ばれていた。にもかかわらず、米企業や投資家はWH入札に動かなかったのには理由がある。


 一例では、「原発ルネサンス」を契機に原発新設計画を手がけた米電力大手コンステレーション・エナジー・グループ社は、2010年10月に新規計画の凍結をエネルギー省に通知している。同社の新規計画はアメリカでは1979年のスリーマイル島原発事故以来初めてとなる原子力発電所の新設計画として注目されていたが、コスト増などを理由に計画は凍結された。


 しかし、アメリカで原発増設が復活したと騒いだのと呼応して、日本でもマスコミなどを使って、アメリカでは35基前後の原発新設計画を進めると煽り、このようなアメリカ政府の扇動に呼応して東芝は2006年にWHを買収した。


 三菱重工はフランスのアレバ社と業務提携、日立はGEと提携して、世界の原発メーカーは3つのグループに統合された。だがこの段階ですでにアメリカでは「原発ルネサンスの終焉」が叫ばれており、翌年の福島原発事故で原発撤退が世界のすう勢となる。


 2010年段階で世界中の稼働中の原発は450基あったが、そのうち、チェルノブイリ原発事故以前に建設されたものが330基で、その後に建設された原発は120基しかない。ブッシュ政府が「原発ルネサンス」を煽った後の07年でも年間に2基しか新規建設はおこなわれなかった。アメリカでは06年段階ですでに「原発ルネサンス」どころか「原発終焉」の時代が到来していることが明白だったといえる。


 そうした実情がわかっているアメリカの企業はどこもWHに手を出さなかったのであり、東芝は大掛かりなババ抜きにひっかかったとしかいいようがない。


 またアメリカでは、原発事業は核戦略に付随して発生した不完全なビジネスという印象が根強い世論となっている。1957年に成立したプライス・アンダーソン法により、米国内の原発事業者は5億6000万㌦をこえる放射線被害については免責され、政府が責任を負う。事業者に事実上の無過失・無限責任を課している日本の原子力損害賠償法(1961年施行)に比べ、かなり甘い規定になっている。というのも、アメリカでは「これくらい“アメ”を与えないと原発事業への参入業者が出てこない」という事情がある。


 WHやGEといったメーカーに対してもアメリカ政府の擁護姿勢は手厚い。事故を起こした福島第1原発の1号機はGE製だが、仮に原子炉の技術上の問題が何らかの事故原因につながったとしても、GEが責任を問われることはない。日本の原賠法では、事故にともなう補償責任は事業者(電力会社)のみが負うことになっている。この規定については、50年前の立法化当時日本での原発プロジェクト受注を後押しするアメリカ政府がGEやWHなどの自国メーカーを擁護する意味合いで圧力をかけて盛り込まれたことを専門家は指摘している。


 こうした甘い規制のもとでもアメリカ企業や投資家がWHへの関心を示さない最大の理由としては、アメリカではもはや原発を次代の主要発電プラントとして見ていないということが大きい。

 世界の流れは原発撤退 神話崩壊し転換

 世界のすう勢は明確に原発撤退に転換している。
 今年に入っては台湾の国会にあたる立法院が1月11日に、国内にある3つの原発(原子炉は計6基)を2025年までにすべて廃炉にすることを盛り込んだ電気事業法改正案を可決した。アジアでは昨年11月、ロシアと日本へ2つの原発(計4基)の発注を決めていたベトナムも国会で計画を撤回した。ヨーロッパでは、リトアニアで反原発を掲げる農民・グリーン同盟を与党第一党とするスクバルネリス政府が昨年11月に誕生、日立製作所が受注を内定していた原発建設が絶望的になった。


 昨年末、フランスの保守系大手紙『フィガロ』は、トルコで計画されている日仏共同事業のシノップ原発プロジェクトからエンジーが撤退すると報じた。シノップ原発は、安倍首相がトルコ大統領と直談判で受注した、日本にとっては「国策案件」ともいうべきものである。仏「アレバ」と共同開発した次世代PWR「アトメア1」の受注を見込んでいた三菱重工業など関係企業や日本政府関係者にとって、仏エネルギー大手エンジーの撤退報道は衝撃を与えた。


 原発導入に熱心だったベトナムがロシアと日本への原子炉計4基の発注をにわかにキャンセルしたのも、建設費が当初見込みの約100億㌦(約1兆1500億円)から約270億㌦(約3兆1000億円)へと3倍近くに膨れ上がったことが理由とされている。


 「安全」「安い」という原発神話は世界中で崩壊している。「原発ビジネスに未来はない」というのが世界の電力事業者の常識になりつつある。


 こうした事態を10年以上も前に把握していたアメリカ政府が、原子炉メーカーであるWHやGEがかかえる負債の尻拭いをする企業として、日本の東芝や日立、三菱に白羽の矢を立て、撤退戦にひきずり込んだと見てもおかしくない。


 アメリカは広島と長崎に2発の原爆を投下して日本を単独占領し支配下においた。その原爆製造過程から生まれた原発技術を「原子力の平和利用」などと称して持ち込み、日米原子力協定でがんじがらめに縛りつけて、地震列島である日本に54基もの原発を建設させ、利益を吸い上げてきた。


 2011年には原発史上最悪といえる福島原発の爆発事故をGE製の原子炉が起こし、6年目を迎える現在も10万人以上が故郷に帰れず避難生活をよぎなくされている。にもかかわらず対米従属一辺倒の安倍政府は福島原発事故の責任もとらず、GEに事故責任を追及することもなく反省もなく原発輸出を叫び、原発再稼働を強行している。


 しかし、実は原発を巡ってババ抜きが始まっており、気付いたときには倒産するしかない状況に直面しているのが東芝である。対米従属構造のもとでの思考停止と哀れさを示している。

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