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大企業の内部留保460兆円に  為替や金融への依存強め

 財務省が法人企業統計を公表し、2016年度の「内部留保額」が全産業で過去最高となる460兆円(金融業、保険業も含む)をこえたことが明るみに出た。第2次安倍政府登場後の4年間で100兆円以上の増加である。町を歩けば商店街では「物が売れない」ともっぱらの話題で、多くの勤労家庭でも「給料は増えないのに物価や税金だけ高くなる。生活は厳しくなる一方」と語られている。本来、企業は社会に役立つ製品を作り、それを売らなければ利益を上げられないはずだ。ところが今は国内消費が落ち込むなか、大企業だけがばく大な利益を上げ、内部留保をため込んでいる。いったいどのような企業がどうやって内部留保を積み上げ、それをどう活用しているのか実態を見てみた。

 

 法人企業統計による「内部留保」とは、企業の利益から従業員への給料や株主への配当を差し引いた「利益剰余金」を指す。いわゆる企業がため込み続けてきた資金である。この総額は2012年段階で342兆126億円だった。それがアベノミクス実行後の4年で急増し、2016年度は460兆6122億円に膨れあがった【棒グラフ参照】。しかもこの内訳をみると資本金10億円以上の企業の内部留保額が245兆2761億円で、全内部留保額の53%を占めた。全企業数のわずか1%にも満たない大企業の金庫にばく大な資金が流れ込んでいる。

 

 なお内部留保額の多い企業(2015年度)は、1位=トヨタ自動車(16・8兆円)、2位=三菱UFJフィナンシャル・グループ(8・6兆円)、3位=ホンダ(6・2兆円)、4位=NTT(5・1兆円)、5位=三井住友フィナンシャルグループ(4・5兆円)、6位=NTTドコモ(4・4兆円)、7位=日産自動車(4・1兆円)、8位=日本郵政(3・5兆円)、9位=キヤノン(3・4兆円)、10位=三菱商事(3・2兆円)などである。トヨタ自動車の内部留保は右肩上がりで伸び続けており、16年度は前年比8000億円増の17・6兆円に達している。

 

 だがこれらの企業の売上高はあまり伸びていない。全製造業の売上高合計を見ると横ばい傾向が続き、2014年からは微減している【グラフ参照】。総務省による家計調査報告「家計支出の年間平均1カ月間の支出(2人以上の世帯)」も同様で、2012年に28万6169円だったのが2014年は29万1194円に微増するが、その後は毎年減り、今では27万9197円(2017年7月)になっている。2014年以後の3年で約1万2000円ほど平均出費が落ちた。多くの家庭が必死で出費を切り詰めてきたことを反映している。

 

 売上が伸び、個人消費が増えていくなら当然、さまざまな企業の利益が増えていく。だが現在、ばく大な内部留保を積み上げているのは中小を除いたごく一握りの巨大企業だけである。しかも売上も個人消費も伸びていないのに、ばく大な利益をあげ巨額の内部留保をため込み続けている。この売上が伸びなくても巨額な資本蓄積が可能な経済構造の存在が「トリクルダウン」どころか、一般国民にはまったく富が回ってこない事態を招いている。

 

冷戦後の経営戦略 非正規増やし市場開拓

 

 日本における財界の経済戦略は米ソ二極構造の崩壊、バブル経済の破たんを契機に大きく変化した。それまで財界や大企業は「長期的視野に立った経営」「人間中心の経営」を建前にしてきた。公益に基づいて手厚い社会保障のある社会主義国が世界に複数存在し、アメリカをはじめとする資本主義国と対峙していたことが背景にある。このもとで終身雇用制と年功序列型賃金制度を維持し、巨額な利益のなかから微微たる賃上げも実施してきた。1980年度から1990年度の10年間を見ると売上高は1・8倍、内部留保は3・3倍となった。このときも売上高や内部留保の増加幅には遠く及ばないが、実質賃金は1・2倍になっている。

 

 だが91年にソ連が解体し米ソ二極構造が崩壊すると、公然と終身雇用制、年功序列賃金の解体に乗り出し、営利優先・市場原理の本性をむき出しにした。真っ先に労働コストの削減に着手し、「売上がなくても利益が上がる経営戦略」の実行へ舵を切った。当時の財界は旧来の日本型経営堅持を主張する製造業を基盤にした勢力が主流派を占めていたが、「企業は株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える責任はない」(当時オリックス社長・宮内義彦)と主張する勢力が前面に登場し、アメリカ型経営への転換へ突き進んでいった。

 

 その方向性を具体化したのが日経連(現在の経団連の前身)の『新時代の“日本的経営”』である。その中身は、労働法制の全面改悪を進めて非正規雇用労働者を増やし、福利厚生や社会保障を切り捨て、給与水準を押し下げていくことだった。

 

 その結果、1998年に3794万人いた正規労働者が2007年は3399万人になり、395万人減少した。反対に1173万人だった非正規労働者は1728万人になり、555万人増加した。さらに民間賃金水準(民間給与実態調査・国税庁)が年間419万円から367万円へ推移し52万円減った。223兆円規模だった給与総額も201兆円になり、約12兆円も減った。

 

 従来の経済構造のままなら、内需に直結する労働者の賃金がこれだけ減少するなかで企業の売上が伸びることは望めない。だが07年度の大企業の売上は622兆円になり、98年度(512兆円)のときより大幅に増加した。経常利益も12・4兆円から32・3兆円(2・6倍)になり、内部留保も143・4兆円から228・4兆円(1・6倍)になった。

 

 国内での売上がなくてもばく大な利益を確保できたのは、不安定な非正規雇用を増やして賃金水準を引き下げて製造原価を押し下げ、国内市場に見切りを付けて海外販路拡大で収益を上げたことと関係している。トヨタの07年3月の決算を見ると自動車の販売台数852・5万台のうち、日本向けが273・3万台(前期比4%減)、アメリカ向けが294・3万台(同15%増)、欧州向けが122・4万台(同20%増)だった。このとき国内の生産拠点をつぶして海外に移し、安い部品を逆輸入して国内で組み立て、海外へ輸出する動きも加速した。

 

二〇〇〇年代 財テク資金で株買漁る

 

 しかしいくら大企業のみが巨利を手にし、内部留保を積み上げても、買い手である国民の貧困化が加速する一方で、消費や売上は落ち込み、内需もさらに縮小するしかない。国内で物が売れなければ過剰生産で物が余るため、製造設備への設備投資も尻つぼみとなるしかない。利益にならないため賃金を増やすことにも一切回さない。内部留保をせっせとため込んだが、労働者を搾り過ぎて現実社会で投資先を失う末期的な段階にまで到達した。

 

 こうしたなかで、ため込んだ内部留保を活用して利益をひねり出すために編み出した利益拡大策が、内部留保で投資有価証券を購入し、財テク(財務テクノロジー)で利益を上げることだった。財テクは企業が本業以外に株式・債券・土地・不動産、外国為替取引などに投資し資金運用を多様化してもうける方法だ。実体経済ではなく、株など架空の金融マネーゲームで利益をむさぼるもので、とくにリーマンショックが起きる08年頃を前後して大手企業の財テク重視は顕著になった。

 

 大企業の有価証券等保有資産の推移を見ると、1998年度は80・9兆円だった。それが2005年頃には150兆円台に拡大し、2013年度には222・5兆円に膨れあがった。内部留保の増加と符合して投資有価証券保有額は増えていき、15年間で約142兆円増加している。

 

 このなかで増加したのが財テク利益だった。財テク利益は投資活動など本業以外の活動で得た営業外収益から営業外費用を差し引いたものだが、2004年までは一貫してマイナスだった。生産活動をはじめとする本業に軸足があるときは、本業の営業利益で営業外費用のマイナス分を埋めて経常利益を増やす関係だったからだ。

 

 ところが04年度に初めて財テク利益がプラスに転じ、07年度2・7兆円、08年3・4兆円と増え、13年度には7兆円に達した。リーマンショックを契機にして急増した財テク利益は、いまや企業の経常利益の2割以上を占めている。近年、自動車や家電製品の欠陥品製造があいつぎ、リコール(不良品の回収)が後を絶たない。こうした技術低下は製品製造という本業を切り捨て、財テク利益の増加にばかり傾斜していることとも無関係ではない。

 

 さらに大企業が保有する投資有価証券のなかで急増したのは株式(当期末固定資産)である。2003年度から10年間で107兆円増え、2013年度には196兆円に達した。子会社の株式や日本企業が設立した現地法人の株式が多く、海外子会社の設立やM&Aによる海外企業の買収で株式保有が増加したことを示している。リーマンショック以前の企業の海外進出は、内需が見込めないなか、海外で安い部品を作って海外販路を広げるという海外進出だったが、今では海外にあるめぼしい企業の株式を買いあさり、ピンハネだけで利益を得る方向へ舵を切っている。そのため自動車業界も東南アジアやインドなどに生産拠点を作り、そこから日本も含め世界中へ輸出する体制を強化している。海外の日系企業が世界で販路を拡大すれば、株式を持っているだけで株主配当は高くなり、なにもせずに利益が転がり込んでくる関係だからである。こうした新手の海外進出によって大企業は日系進出企業の株式保有を増やし、そこからの配当金とロイヤルティを受けとり、海外企業の利益を獲得している。現地法人からの大企業の受取収益はリーマンショック前の07年は2・2兆円だったが、2014年度は5・8兆円(経産省「海外事業活動基本調査」)になり2・6倍に伸びた。

 

 国内で本業を切り捨てて財テクで内部留保をため込み、その資金で海外企業の株式を保有し、株主配当やロイヤルティによるもうけをむさぼっているのが巨大企業の姿である。そこには社会で役立つ製品を開発・製造し、その販売や社会的有用性によって利益を追求していく生産原理の経営姿勢は微塵もない。このようなカネでカネをもうけていく経済構造が存在する限り、国民には一切資金は回らず、国内経済が好転しないのは歴然としている。

 

大企業に至れり尽せり

 

 こうした大企業のみを国挙げて優遇する構造を強化したのがアベノミクスだった。もともと39・54%(2011年)だった法人実効税率は2012年に37%に下がったが、これを14年=34・62%、15年=32・11%、16年=29・97%に引き下げ、2018年度には29・74%にすることを決めている。法人実効税率は2%の引き下げで約1兆円規模の減税となる。ここ5年の10%近い減税は大企業全体で5兆円規模の減税措置である。加えて時の政府が大企業の税金を特別に安くする「政策減税」もある。その合計額は2014年度で約1兆2000億円に上った。トヨタ自動車は研究開発減税の1083億円、研究費総額に係る税額控除の777億円など、約2300億円もの減税措置を受けていた。

 

 さらにトヨタや日産など輸出主体の大企業は、製品を輸出するたびに「輸出品は消費税の回収ができない」という理由で消費税分が還付される制度がある。消費税が1%増えるたびに還付金が増える仕組みで、この還付金は国内の中小商店が納めた消費税納付額から支払われる。還付額がもっとも多いトヨタ自動車は消費税5%だった2010年度段階の還付金が約2200億円で、消費税が8%になった2015年度の還付金は3633億円に膨れあがった。一般庶民は消費税が増えると財布から出費が増えていくが、大企業は逆に消費税でばく大な利益が転がり込むしくみである。

 

 そして大きいのは異次元緩和と呼ばれる円安誘導策である。もともと通貨に関しては、どの国も政府が決めるのではなく中央銀行が独自に決め、中央銀行の政策で通貨の流通量を決めてきた。だが安倍政府は政府が勝手に通貨の流通量を増やすことを決め、日銀側がその要求を拒むと日銀総裁を更送し金融緩和を強行した。

 

 その結果、2012年に約1㌦=80円前後だった相場が現在1㌦=112円になり、この5年間で32円規模の円安になった。輸出企業であるトヨタは1円円安になっただけで年間利益が400億円増えるといわれており、30円規模の円安となれば約1・2兆円も増益になることを意味する。同時に円安は海外預金やFX(外国通貨を売買する投資)などで外貨を保持している投資家の利益も増加させた。

 

 こうしてアベノミクスで大企業は巨万の富を築いているが、国民が経験してきたのは、非正規雇用の4割超え、所得税、住民税、相続税の増税、介護報酬の削減、年金支給の減額、消費税の8%への増税、物価上昇など惨憺(たん)たる現実だった。それは物が有り余って大量に廃棄される一方で、高齢者の餓死や孤独死が頻発する社会情勢にも反映している。安倍政府によるアベノミクスで拍車をかけてきたのは、まぎれもなく、富める者がさらに富んでいく構造であり、国民のもとにはトリクルダウンどころか一滴の富もしたたり落ちない構造がすでに出来上がっている。日本社会を豊かにするためには、実体経済を切り捨てて内部留保を握りしめて離さない強欲な大資本の富を解放し、社会の利益に役立たせる以外にない。

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