高騰続ける軍需関連株
朝鮮半島近辺でアメリカが空母や戦略爆撃機を動員した大規模軍事演習を何度もおこない、それに反発する形で北朝鮮がミサイル発射や核実験をくり返している。米トランプ政府は登場以来、シリアにトマホークを撃ち込み、アフガニスタンに通常兵器最強の爆風爆弾「モアブ」を投下し、ベネズエラへの軍事介入を企むなど、逆らう者は軍事力でたたきつぶす姿勢を露わにしている。このなかで軍需産業銘柄の株価は急騰し続けている。朝鮮半島における執拗な軍事挑発にも戦争を渇望する勢力の動きが作用している。軍産複合体といわれる戦争渇望勢力が存在していることは以前から指摘されてきたが、いったいどのような勢力なのか各方面から暴くことが求められている。
朝鮮半島情勢が緊張するたびに軍需関連株がぐんぐん値を上げている。ステルス戦闘機やミサイル開発をしているロッキード・マーチン(米)はリーマンショック後の2009年は株価が57・41㌦に落ち込んだが、2013年後半に120㌦台に達し、9月1日段階では302・19㌦に上がった【グラフ参照】。約8年間で株価が五倍以上になり、まだ上がるすう勢だ。オスプレイなどを製造するボーイング(米)も09年段階は30㌦前後だったが今は240・33㌦(9月1日)に達し、約8年間で株価は8倍をこえた。
ここ4年間の株価変動を見ると、グローバルホーク(無人偵察機)を製造するノースロップ・グラマン(米)が約3・5倍、トマホークを製造するレイセオン(米)が約3倍、軍用ヘリを製造するユナイテッド・テクノロジーズ(米)が約2倍、戦車を作るゼネラル・ダイナミクス(米)が約3倍とどこも絶好調となっている。
日本企業も傾向は同じで細谷火工(照明弾や発煙筒)や石川製作所(機雷や弾薬)の株価がわずか8日間で2~3倍にはね上がり、興研(防毒マスク)などの株価が急騰した。自動小銃を作る豊和工業、レーダー装置メーカーの東京計器などとともに、Jアラート(全国瞬時警報システム)の販売メーカーである理経や日本無線の株が上昇しているのも特徴だ。川崎重工、三菱重工、IHI、三菱電機、OKI、コマツや三井造船など軍需大手株にも買いが集中している。さらにまだ株価が低い、軍需大手企業の下請・孫請や取引会社の株に目をつけ「夢のテンバガー銘柄(株価が10倍になる銘柄)になる可能性がある」と買いあさる投資家もいる。
軍事緊張が高まり、戦争の危機が迫れば、貿易や経済活動は鈍化するため、日本の株式市場全般はリスク懸念で株価は下がる。だが軍需企業は真反対の活況を呈している。軍需関連株急騰の動きは戦争を渇望する大資本の本音を赤裸々に映し出している。
紛争地に武器売り込み 政府と企業が一体化
現在、世界の軍事市場は約50兆円規模といわれる。武器輸入額が多いのは中東とアジア・太平洋地域【地図参照】である。2015年まではインドの武器輸入額がもっとも多かったが、2016年単年ではサウジアラビアの武器輸入額が世界でトップの29・79億㌦(約3575億円)となった。2位がアルジェリアの28・82億㌦、3位がインドの25・47億㌦、4位がイラクの17・34億㌦と続く。エジプト、韓国、アラブ首長国連邦、ベトナム、オーストラリア、中国、カタールなども上位に入る。紛争やテロが多い国や地域へ大量の武器が流れ込んでいる。
一方、そのような地域へ武器を売ってもうけている軍需会社トップ100社の売上総額ランキングを国別に見ると、アメリカが2286・5億㌦(27・4兆円)で抜きん出ている。2位以下はイギリス(394・4億㌦)、ロシア(319億㌦)、フランス(213・7億㌦)、イタリア(171・8億㌦)。アメリカの軍需産業100社が世界の武器市場の半分以上を牛耳っている。軍需企業の売上額(2015年)上位5社はロッキード=364・4億㌦(4・3兆円)、ボーイング=279・6億㌦、BAEシステムズ=255・1億㌦(英)、レイセオン=217・8億㌦、ノースロップグラマン=200・6億㌦である。
さらに国別の武器供給得意先(2011~2015年)は、アメリカがサウジアラビア、ロシアがインド、中国がパキスタン、フランスがモロッコ、ドイツがアメリカ、イギリスがサウジアラビアなどである。武器輸出によって大国が中東・アジア諸国にテコ入れし、巨額な武器市場を巡ってしのぎを削っている。
しかも近年、開発競争が進んでいるのはミサイルの飛距離や命中率、戦車などの速度や性能など旧来装備の更新だけではない。本来は軍用機やミサイルを作っているノースロップグラマンやレイセオンもゼロディ脆弱性(ソフトウェアのセキュリティ上の欠陥で一般的に知られていないもの)を利用したコンピューターへのサイバー攻撃の研究を強化したり、コンピューター分野に力点を置いている。
遠隔操作で無人ドローンを使った殺人兵器、人工知能を搭載したカメラを内蔵した殺人ロボットを進める企業もある。米国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)などは「心の病」に冒された米兵の脳に、コンピューターと脳を繋ぐチップを埋め込み、人間をいつでも戦闘に専念できる「サイボーグ」に変える技術開発にまで着手した。アメリカはすでに国と軍需企業が一体となった戦争準備に乗り出している。情報・通信技術を駆使しコンピュータ制御を誤作動させることで発電所や電力網等インフラを破壊したり、目に見える武力行使をせずに国家中枢へ打撃を与える技術構築を進めている。「朝鮮のミサイルの迎撃」「核実験の阻止」と主張する表向きの顔とは裏腹に、だれにも気づかれずに世界各国のインフラ施設を「事故」と見せかけて破壊出来るコンピューター技術の開発に力を入れている。
破壊と殺戮で市場創出 軍事大国アメリカ
アメリカは「軍産複合体」国家だといわれ、世界でもっとも規模の大きい民間の軍需産業、国防総省と陸海空・海兵隊の軍隊、政治献金やロビー活動で軍需産業と癒着する上下両院の議員たちが一体となり、アメリカを戦争に仕向ける大きな要因として作用している。いったん戦争が起これば巨利をむさぼることができるからだ。研究者がこの軍産複合体の実態を報告している。
アメリカは世界一の軍事大国であり、世界最大の武器輸出国である。2016年のアメリカの軍事費は6112億㌦で、2位(中国・2152億㌦)以下を大きく引き離している。国家予算の54%が軍事費で、教育・福祉・医療はあわせて12%といういびつな社会になっている(2015年度)。
軍産複合体は第1次・第2次大戦をへて米国経済の屋台骨となった。アメリカの技術者や科学者の3分の1が軍事関連の仕事に携わり、造船や航空、宇宙科学、情報通信などの産業は国防総省の予算や海外への武器輸出に依存するようになった。それは戦争がなければその生産ラインを維持できないことを意味する。戦後もアメリカは、冷戦時には「ソ連の脅威」を煽り、冷戦後は「ならず者国家」「イスラム原理主義のテロの脅威」を煽り、平時から戦争計画をつくり戦争に次ぐ戦争に終始してきた。
1950年、トルーマンが「ソ連の拡張主義を封じる」という目的で「現在の危機委員会(CPD)」をつくった。反共産主義とソ連の脅威を宣伝し、軍備拡大を支持することが目的だった。設立を担ったのはポール・ニッツ(国務省の政策立案の責任者)や国務長官アチソンら政財界の重鎮たちで、この報告を受けてトルーマンは「アメリカの兵員を350万人にまで増やし、兵器の生産能力を増加させ、ヨーロッパの同盟諸国への軍事支援の予算を増やす必要がある」と説いた。
70年代後半には第2次CPDがつくられ、大統領レーガンは「新冷戦」を掲げてソ連との対決姿勢を明確にし、軍縮の停止、軍事費の増大を唱えた。レーガン時代に構想された「戦略防衛構想(スター・ウォーズ計画)」-米本土を狙う大陸間弾道ミサイルを人工衛星と地上の迎撃システムを連動させて撃墜する-には、15年間にわたり550億㌦もの予算が注がれたが、技術的に未完成で大失敗だったと評価されている。
冷戦後になると「ならず者国家」「イスラム原理主義」が新たな脅威だと宣伝し、国防総省はイラクとイラン、北朝鮮の脅威を強調することで軍事予算の増額を図った。とくに9・11テロ事件とアフガン・イラクへの侵略戦争に、軍産複合体の戦争体質がはっきりと示されている。
1990年代、アメリカのネオコン(新保守主義)のシンクタンクは「軍の改革を成し遂げるためには新たな真珠湾攻撃が必要だ」との報告書を出した。この時期、ネオコンは湾岸戦争に次ぐ第2のイラク攻撃のシナリオもつくっていた。彼らから見れば、2001年9月1日のニューヨーク・テロ事件は、待ち望んでいた「新たな真珠湾攻撃」にほかならなかった。そこから「フセインがアルカイダのテロリストを支援している」「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」との捏造で世論動員がおこなわれた。ベトナム戦争拡大の契機となった1964年のトンキン湾事件も、1989年のパナマ侵攻も同じで、「捏造」は米軍の常套手段である。
9・11の直後、大統領ブッシュは「テロとの戦い」を宣言し、米議会は軍事予算を前年より326億㌦も増額することを決めた。
2003年に開始したイラク戦争では、2016年までに総計2兆㌦以上の戦費が使われたと推計されている。それは朝鮮戦争やベトナム戦争の戦費の3倍以上である。ロッキード・マーチンはF117ステルス爆撃機やパトリオットミサイルで、ボーイングはB52爆撃機やそれに搭載されたスマート爆弾や精密誘導ミサイル、戦車や装甲車を輸送するC17輸送機で、レイセオンは1基60万㌦もするトマホーク・ミサイルや空対地ミサイル、戦闘機に搭載されるレーダーや監視システムで大もうけした。
それだけではない。イラク戦争開始前、すでにUSAID(米国際開発庁)は、6つの軍需企業にイラクのインフラ復興のための入札(総額九億㌦)を依頼していた。2003年に最高額の6億8000万㌦の契約をとったのは、レーガン政府のシュルツ国防長官が社長だったベクテル社で、電力、水などの復旧や、空港の再建、ウンム・カスル港の復興などを請け負った。また、チェイニー副大統領(当時)が最高経営責任者であったハリバートン社は、イラクの油田の再建や米軍基地の建設に携わった。ブッシュ一族も軍産複合体の出身である。こうして軍産複合体の幹部と政府高官が一体となった下で、事前に武器を大量に売りさばいてもうけ、戦争をしかけて爆弾やミサイルで破壊してもうけ、その後は復興でもうけるという、典型的なマッチポンプが実行されている。
さらに軍需企業とCIAとの親密な関係についても研究者が指摘している。軍需企業ベクテル社は、原爆を製造したマンハッタン計画に関与し、戦後はアメリカの原発の設計と建設に携わったが、イランのモサデク政府転覆や、インドネシアのスカルノ政府転覆など、外国の政府転覆と親米政権樹立にもCIAとともに関与していた。また、イラクがイランと対立していたとき、イラクのサダム・フセインに化学兵器や生物兵器を売りつけたのもベクテル社で、彼らはフセインが打倒された後の戦後復興でも最大の恩恵を手にしている。
現在のトランプ政府も、来年度の軍事予算9%(六兆円規模)増額や、サウジアラビアとの史上最大の武器輸出合意などが取り沙汰されている。国防長官ジェームズ・マティスは海兵隊でイラク・ファルージャの虐殺を指揮し、中央軍司令官を解任された後はジェネラル・ダイナミクスの役員(年俸150万㌦)になり、軍産複合体を代表する人物といわれている。マイケル・フリン解任後、国家安全保障担当大統領補佐官を代行したキース・ケロッグ元陸軍中将は、イラク戦争後の「連合国暫定当局(CPA)」の最高執行責任者で、退役後は軍需産業CACIインタナショナルやオラクル社の顧問を務め、キュービック社(戦闘訓練システムの開発・製造・販売)では地上戦プログラム部門の副責任者だった。かれらがトランプ政府の中枢を占め、戦争を渇望する軍産複合体の利益を代弁している。
戦争をひき起こし他国に干渉し続けることによって、兵器の生産と販売を増やし、軍需産業の利益を増やす。だがそれによって現地で何万何十万という民間人が殺され、何百万人が難民となっており、アメリカ本国でも数万の退役軍人が精神疾患になり、年間数千人が自殺している。こうした人間の殺戮と破壊を利潤獲得の根拠にする軍産複合体は、資本主義末期の腐敗の産物でしかなく、全世界で反米闘争が爆発する根拠にもなっている。
日本も高額兵器市場に 不安煽る一方で傾斜
こうしたアメリカの後追いをしているのが日本である。安倍政府が実行してきた中心は5兆円ごえを果たした軍事予算の増額とともに、日本列島を丸ごとアメリカの下請戦争を担う軍産複合体として再編する方向だった。
真っ先に着手したのは武器輸出の解禁である。軍需産業の役員が牛耳る経団連など財界が執拗に実現を要求した。民需が見込めないなかで武器販売の取引先が防衛省のみに限られた状態を変え、あらゆる国や軍需企業を対象に武器や関連部品の受注・販売を可能にし、世界の武器市場に本格参入するためである。
武器輸出解禁後、三菱重工が地対空誘導弾ミサイルの追尾装置をレイセオンに提供することを決め、米国防総省が要求したイージス艦装備品(三菱重工と富士通が製造)の輸出を開始した。豪州の潜水艦製造に三菱重工と川崎重工が名乗りを上げるなど、他国の装備受注合戦も始まった。
2年に1度開かれる世界最大の武器見本市「ユーロサトリ」、アジア地域を中心にした「海上防衛技術国際会議」などでの装備品売り込みにも拍車がかかっている。これを全面的に支援するため、自衛官400人を含む1800人体制で約2兆円の年間予算を握る防衛装備庁も発足させ、国家あげた武器ビジネス支援に乗り出している。
そのために軍事機密保全の体制を強化した。三菱重工などの軍需産業ではどのような部品を作っているのかはつねに極秘扱いで、日本独自の「防衛秘密」と米国から供与された「特別防衛秘密」があり、「防衛秘密」の罰則は「5年以下の懲役」(契約業者社員も罰則対象)で「特別防衛秘密」は「10年以下の懲役」である。秘密情報を扱う施設は「記章」を着用しなければ入れず、消防署員が入るときも防衛省の許可が必要である。特定秘密保護法に続いて共謀罪法も成立させたが、それは反抗を許さぬ労務管理でアメリカの望む殺人兵器製造に日本の若者を駆り立てる地ならしである。
政府開発援助(ODA)の軍事転用も解禁した。安倍首相は登場以来、外遊をくり返しバラマキを続けてきたが、この4年で資金供与を約束した総額は60兆円をこえた。この多くが政府開発援助(ODA)を表向きの名目にしている。このなかで「他国軍の支援は禁じる」と規定したODA大綱を見直し(2015年2月)、ODA資金を現地政府が武器購入に使えるようにした。外務省の概算要求は今年度当初予算よりODAを554億円増やし4897億円にするよう求めたが、こうした資金が現地政府を通じて兵器購入で大手軍需産業の懐へ流れ込む仕掛けにもなっている。
こうしたなかで日本の軍事予算は上昇を続けている。2013年は4兆7538億円だったが、2016年には5兆円を突破。2018年度予算概算要求で防衛省は5兆2551億円を要求した。
福祉予算や全国の市町村予算はギリギリに削り込む一方だが、軍事予算だけは5年間で約5000億円も増額する方向である。しかも米軍需産業は日本に異常な高値で装備を売りつけるFMS(対外有償軍事援助)方式で取引をしており、契約後に値段を数十億円単位でつり上げることが常態化している。アメリカからFMSで調達したF35を例に見ても、2012年当初単価が1機96億円だったのが4年後には1機181億円に変わり85億円も値上がりしている。1機122億円で契約していたオスプレイも購入時には1機211億円になっている。FMS方式で前払いさせて武器を実際に収めていない「未納入」が多多ある。「国防のために必要」と宣伝する軍事装備だが、金だけ払って実際は収められていないケースも約500億円分に達している。「国防」を錦の御旗にして軍需大手の公金つかみ取りがやられている。
現在、アメリカを中心とする軍産複合体、その後追いをする日本の軍需産業群が北朝鮮の核実験やミサイル騒動、世界各地で頻発するテロなど「脅威」を煽る材料を追い風にして、「対テロ」と叫んで武器の販売、開発、輸出を加速し、武器市場の争奪戦に乗り出している。こうした軍需産業にとっては紛争や戦争の原因、正義か不正義かなど理由はどうでもよく、戦争や軍事緊張が長引くことで、どれだけ大量の兵器や関連装備を売りさばくかだけが関心事になっている。
日本やアジア、世界の平和を守るには戦争を渇望する勢力の一掃が不可欠になっている。