米国の後追いする日本企業
米トランプ政府がシリアにトマホーク59発を撃ち込み、アフガニスタンに通常兵器で最強の爆風爆弾「モアブ」を投下し、逆らう者は軍事力行使でたたきつぶす姿勢をあらわにしている。
朝鮮半島近辺では過去最大の米韓軍事演習で挑発し、反発して北朝鮮がミサイルを発射すると原子力空母を急派した。このなかで軍需産業銘柄の株価が急騰した。軍事緊張が高まれば高まるほど値がつり上がる関係で、防衛政策トップの稲田防衛相などは軍需関連株を2万2000株所有し、国民の生命・財産を犠牲にすることでばく大な利益を得ている。一連の武力行使や軍事挑発をめぐり、戦争を渇望する勢力の存在が露わになっている。
トランプ登場後高騰する関連株
アメリカが原子力空母を展開し朝鮮半島をめぐる緊張が激化すると、細谷火工(照明弾や発煙筒)、興研(防毒マスク)、石川製作所(機雷や弾薬)など軍需関連企業の株価がそろって年初来の高値を更新した。軍事緊張が高まり、戦争の危機が迫れば、貿易や経済活動は縮小し国民生活は甚大な打撃を被る。当然、日本の株式市場もリスク懸念から株価全般は下がったが、軍需関連株だけが急騰している。
トランプ政府登場以後、豊和工業(自動小銃や迫撃砲)、日本無線(無線機)、東京計器(レーダー装置)の株が急上昇し続けているのも特徴だ。三菱電機(イージス艦搭載システムの保守)、OKI(潜水艦ソナー)、コマツ(装輪装甲車)や三井造船(護衛艦)、川崎重工(潜水艦、輸送機)、三菱重工(イージス艦、戦車)、IHI(ヘリ空母)など軍需大手の株にも買いが集中した。軍事緊張が高まることで防衛省による武器購入額が増え、戦争にでもなればばく大な数の弾薬や戦車など兵器供給が不可欠になるからだ。シリア爆撃後は、アメリカでもトマホークを製造するレイセオンや、ロッキードマーチン(戦闘機)、ジェネラル・ダイナミクス(軍用機)、グラマン(戦闘機)などの株価が急騰している。
そして昨年来問題になってきたのは、稲田防衛相が夫名義で軍需企業五社の株を大量に保有していることだ。防衛相就任前に取得したのか、就任後に取得したのか本人は説明していないが、武器輸出解禁で一気に軍需産業の市場が拡大した時期と符合して軍需産業株を大量取得している。保有株の内訳は三菱重工業=3000株、三菱電機=2000株、川崎重工業=6000株、IHI=8000株、日立製作所=3000株の計2万2000株である。中国や北朝鮮の脅威を煽って戦争の危機が高まれば高まるほど、稲田一族は巨額の配当を手にする関係である。
まともな外交交渉をせず、はてしもなく「北朝鮮の脅威」を煽ったり、「テロに屈しない」と叫んで自衛隊の海外派兵を強行して敵を増やすばかりで戦争の危機が一向に解決へ向かわないのは、こうした戦争によってもうける勢力がうごめいているからである。それに大臣までが投機するという信じ難い状況が露呈している。
安倍政府 武器輸出の解禁に着手
近年、安倍政府が実行してきたのは、5兆円ごえを果たした軍事予算の増額と、軍需産業にめぐりめぐって資金が還元していく体制の強化だった。
まず着手したのは武器輸出の解禁である。軍需産業の役員が牛耳る経団連など財界が執拗に実現を要求した。民需が見込めないなかで、防衛省に取引先が限られた状態を転換させ、あらゆる国や企業を対象に武器販売できるようにし、武器市場を拡大するためである。
武器輸出解禁後、真っ先にレイセオンが三菱重工に地対空誘導弾ミサイルの追尾装置を提供させることを認めさせた。そのほか豪州への潜水艦(三菱重工と川崎重工が建造)技術情報の提供、米国防総省が要求したイージス艦装備品(三菱重工と富士通が製造)など装備品輸出が始まっている。国内の軍需産業が米軍需産業の下請として組み込まれるすう勢も表面化している。
続いて実行したのは政府開発援助(ODA)の軍事転用解禁である。安倍首相は登場以来、外遊をくり返しバラマキを続けてきたが、この四年で資金供与を約束した総額は60兆円をこえた。この多くが政府開発援助(ODA)を表向きの名目にしている。だがこのODAの性格を「積極的平和主義の実現に不可欠」と主張し変貌させた。これまで「難民支援」が建前であり、「他国軍の支援は禁じる」と規定していたODA大綱を見直し(2015年2月)、事実上「軍事転用」を可能にした。「援助」と称して海外にばらまいた巨額のODA資金で現地政府が軍用車両を購入することも可能になった。結局ODAも現地政府を通じた兵器購入で日本の軍需産業の懐へ流れ込むしくみである。
さらに防衛装備庁も発足させた。同庁は自衛官400人を含む1800人体制で約2兆円の年間予算を握る巨大官庁で、国家あげた軍需産業支援に乗り出している。このとき経団連は「国家戦略として推進すべきだ」と提言を出したが、当時の役員は東レ、新日鉄、トヨタ、三菱重工、住友化学、日立など兵器生産にかかわる企業関係者が大半を占めた。国内で貧困化が進み、民需が行き詰まるなか、軍事緊張や戦争による破壊で需要を無理矢理つくり出し、軍事予算にたかって生き残りを図る軍需産業の姿があらわになっている。
国内製造業の変化 軍需にたかる三菱重工
現在、国内製造大手の内部でも民需を切り捨て、軍事部門へ傾斜していく動きが加速している。三菱重工業を見ると、同社で製造する主な兵器は戦車やイージス艦、潜水艦、ミサイル艇、戦闘機、軍用ヘリ、ミサイル、魚雷など多岐にわたるが、もっとも重視されているのは岩国基地などに配備したステルス戦闘機F35の国際整備拠点づくりである。
2014年に日米両政府はF35の国際整備拠点を日本に置くことを発表し、場所をF35のエンジンや機体組み立てを受注した三菱重工業小牧南工場(愛知県)とIHI瑞穂工場(東京都)を指定した。この計画にそって機体整備拠点を2018年までに三菱重工小牧南工場につくり、その3~5年後にエンジンの整備拠点をIHI瑞穂工場につくる段取りである。
人員面でも戦闘機部門を強化するため、2013年前半には長崎造船所から航空部門のある名古屋地区と下関地区へ約170人を配置転換した。同年10月にも長崎から93人を名古屋航空宇宙システム製作所に配転させた。さらに名古屋の大江工場と飛鳥工場から小牧南工場へ300人規模で移転させる。
三菱長崎造船所では、外国人労働者ばかり増え、火災が多発し、技術低下が危惧されていたが、三菱重工は民間用の造船部門はばっさり切り捨てた。大型客船部門から撤退し、液化天然ガス(LNG)運搬船を手がける商船事業は他社と提携する下請に丸投げし、本体は米軍や防衛省と直結した戦闘機や軍艦、海上保安庁の巡視船など手堅い軍需でもうけを確保しようとしている。
同時に軍事機密保全の体制強化が進行している。三菱重工内ではどのような部品を作っているのかはつねに極秘扱いで、親しい友人同士、仲間内でも話せないことが多い。同社の製造品にかかわる秘密には日本独自の「防衛秘密」と米国から供与された「特別防衛秘密」があり、「防衛秘密」の罰則は「5年以下の懲役」(契約業者社員も罰則対象)で「特別防衛秘密」は「10年以下の懲役」という。秘密情報を扱う施設は「立ち入り禁止区域」に指定され「記章」を着用しなければ入れず、消防署員や警察が入るときも防衛省の許可が必要になる。こうした動きは安倍政府が特定秘密保護法を成立させ、共謀罪法案成立を急ぐことと連動しており、労務管理を徹底し、アメリカの下請要員として日本の若者を殺人兵器製造に駆り立てる企みとも密接に結びついている。
国内軍需産業の代表格である三菱重工全体の売上高は、08年頃は3兆円をこえていたが、2011年には3兆円を割り込み、リーマン・ショック以後は縮小してきた。しかし近年、北朝鮮のミサイルや尖閣問題、中東やアフリカでの紛争、欧米のテロ事件など平和を脅かす動きが拡大すると、軍事部門は売上を伸ばしている。2010年に2000億円規模だった軍事部門の売上は、2015年度になると4850億円に到達した。IHIグループも2010年に2737億円だった軍事部門の売上が15年度は5002億円にまで拡大している。
こうした企業群が北朝鮮の核実験やミサイル騒動、米欧でのテロなど脅威を煽る材料を追い風にして、ミサイルやヘリ空母などの高額兵器需要を拡大し、戦争が勃発すれば笑いが止まらないほど潤う関係になっている。これらの軍需産業にとっては紛争や戦争の原因、正義か不正義かという理由は二の次で、戦争や軍事緊張をできるだけ長引かせ、どれだけ大量の兵器を売りさばくかが最大関心事になっている。
米軍産複合体 謀略仕組み戦争で利益
日本の軍需産業の先をいくのが欧米の軍需産業で、レイセオン(米)やBAEシステムズ(英)は軍事部門の売上が全体の9割以上に達している。レイセオンは電子レンジや冷蔵庫を手がけていたが、国内の景気後退で物が売れなくなり、97年に家電部門を売却した。そして遠隔操作技術など軍事関連部門を買収し、軍事依存度九割の軍需企業になった。ノースロップ・グラマン(米)やジェネラル・ダイナミクス(米)、ロッキードマーチン(米)も全売上の8割を軍事部門が占めている。航空機で知られるボーイングも全売上の約5割を軍事部門に依存している。これらの軍需産業は戦争がなくなれば売上が半減したり9割減となり、生きていけない。そのため政府との癒着を強め、数年おきにアフガン戦争やイラク攻撃など大規模な戦闘を引き起こし、在庫一掃で兵器を更新し、兵器生産の活況をつくり出してきた。
米トランプ大統領は2017年度の政府予算編成方針で「軍事費を歴史的規模で拡大させ衰えた米軍を再建させる」と公言し、アメリカの軍事費を66兆円規模にすることを明らかにしたが、アメリカでは国家財政を戦争につぎ込む戦争狂いの政治家がいなければ製造業は生きていけない。アメリカには軍需産業と政治家、建設業界、石油メジャーなどが一体化した軍産複合体が存在して国内の政治や経済を牛耳り、メディアや謀略組織を総動員して戦争に駆り立てているのが実態である。
もっとも象徴的なのは9・11テロ事件を口実に引き起こしたイラク戦争である。攻撃の理由となった「大量破壊兵器」も「国際テロ組織の支援」もフセイン政府崩壊後、すべてでっち上げだったことが暴露された。だがイラク戦争では徹底した都市の破壊によって現地の住民が約65万人も殺され、約220万人が難民となっている。この戦費は約6000億㌦(60兆円)にのぼり、アメリカ国内でも医療費や福祉予算の削減によって貧困層が激増した。サブプライムローン(低所得者向け住宅融資)の焦げ付きで家を失う人も多数出た。職もなく生活もできない若者が米兵として戦地へ投入されて約4000人が戦死し、3万5000人が負傷している。
この無実の人人の犠牲によってアメリカの軍産複合体はばく大な利益を手にした。ロッキードマーチンは爆撃機受注の増加で利益を急増させ、ボーイングは輸送機製造でもうけ、レイセオンはミサイル製造で巨利を手にした。05年にアメリカの軍需産業40社が売りさばいた兵器総額は18兆円をこえている。
またアメリカはイラク戦争前に周到に侵攻作戦を具体化しており、「9・11テロ事件」は戦争を開始する口実に過ぎなかったことも明らかになっている。アメリカは「9・11テロ事件」より前に、イラクの石油資源に関する調査をおこなっていた。そしてイラクの油田、パイプライン、製油所、石油ターミナルの地図に基づき、アメリカの六企業と開戦前から9億㌦に上るイラクのインフラ復興の入札を約束していた。米軍がイラクの都市を破壊すると即座に、シュルツ元国務長官が所属するベクテル社とチェイニー副大統領が最高経営責任者だったハリバートンが「復興」で乗り込み、破綻寸前の経営を復活させたが、それは最初からシナリオ通りだった。
ベクテル社は発電所、高圧送電線網、病院、学校、輸送網、空港施設、上下水道システム復旧で10億㌦の契約を得た。ハリバートンの子会社、ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)は、陸軍の工兵部隊からイラク油田再建費として70億㌦の契約を得たほか、イラクの米軍基地建設の契約もした。こうして軍需産業はボロもうけを謳歌したが、莫大な戦費がかさんでアメリカの国家財政はパンクした。現在は戦費調達も兵員調達もできないほど弱体化したなかで、日本をはじめとする「同盟国」を矢面にたてて戦争を引き起こそうとしている。アメリカの軍産複合体は、戦争がなければ生きていけず、戦争をなくすにはこうした軍産複合体を一掃することが不可欠になっている。
第2次大戦から72年目を迎えた世界は、恐慌と戦争の大激動の情勢を迎えている。リーマン・ショック以後、資本主義各国は国家財政の出動によって金融資本の救済に追われ、その犠牲を自国民や新興国その他の国国に押しつけてきた。しかし恐慌から抜け出せず、市場争奪や覇権争奪は激化している。通貨戦争やブロック経済化などをくり返しながら行き着く先は戦争で、最終的に破たんへ行き着くのは第2次大戦の経験が示している。
第2次大戦でアメリカは日本を単独占領するために原爆を投下し、沖縄戦や全国空襲をやり、あの戦争で320万人もが犠牲になった。だが天皇をはじめ独占資本、官僚機構、新聞などの戦争指導勢力は戦争が終わると、てのひらを返してアメリカの目下の同盟者になり国を売り飛ばしてきた。そして今度は集団的自衛権の行使によって、アメリカがアジアで企む原水爆戦争の矢面に立たされ、アフリカや中東など地球の裏側まで米軍の鉄砲玉になって自衛隊が出撃することを買って出ている。
現在、アメリカの本土防衛の盾として日本列島がミサイル攻撃の標的にされる危険が現実味を帯びている。日本社会の命運をかけて、戦争を渇望する勢力とのたたかいに挑むことが迫られている。