本紙は6日、先月初旬に佐賀市川副町でおこなわれた佐賀空港へのオスプレイ配備計画反対住民集会での前泊博盛・沖縄国際大学教授の講演「沖縄の現状とオスプレイ佐賀空港配備の課題」(4月5日付から連載)と、記者座談会「辺野古に隠れ進む岩国要塞化」(2月6日付)を掲載した号外5000部を佐賀市内全域に配布した。先月末、防衛省による土地買収についての地権者説明会で反対世論が圧倒するなか、「温度差がある」といわれてきた佐賀市中心部でも号外は強い関心を呼び、米軍要塞化が進む沖縄や岩国の現状を佐賀市の将来と重ね、全市民的な論議の材料として注目された。
佐賀空港オスプレイ配備計画
号外は、佐賀市の中心市街地をはじめ、北部の大和町から東予賀町、諸富町、佐賀空港近隣の川副町など市内全域の住宅に戸別配布した。オスプレイ配備計画が持ち上がる佐賀空港に隣接する川副町だけでなく、市内全域で強い関心を集め、丁重に受けとる市民が多く見られた。
JR佐賀駅前の商店街や繁華街でも、「山口県からご苦労様」「ありがとう。ゆっくり読ませてもらおう」と号外が受けとられた。ある衣料品店主は、「佐賀空港のオスプレイ配備は私たちも賛成できるものではない。近隣の川副町民が反対の声を上げているのは知っている。商売をしているので、生活のために表だって声を上げることは難しいが、本音は反対だ。オスプレイ問題というと騒音問題か、経済効果かの二局対立で見られがちだが、佐賀市全体の将来を考えても軍事に依存するような経済ではいけない」とのべた。
美容室を営む60代の女性は、「経済効果を期待する人がいるのは、佐賀市内のシャッター通りが増えているからだ。とくに10年前にイズミが全国最大規模の大型店舗を出店し、地元の商店街が次次に潰れた。隣近所を見ても10軒のうち7軒は80代というほど高齢化しているが、買い物をする場所がないほど店が減った。国が強権的にやってくることに対抗するのは簡単ではないと思うが、諫早干拓事業から玄海原発の再稼働など、国の都合を問答無用で押しつけられていることが腹立たしい」と話した。
諸富町の住民は、「同じ佐賀市内でも、オスプレイ問題については地域が少し離れるだけで住民にはなんの説明もされないし、意見を求められることもない。原発問題と同じようにカヤの外に置かれている。だが、北朝鮮のミサイル騒動のなかで、有事になれば市全体が狙われることになるとみんな話題にしている。若い子どもを持つ母親たちにもっと関心をもってもらいたい」と期待を込めて語った。
佐賀市南部の農業地域でも号外は強い関心を集めた。有明海に面した佐賀平野南部は、古くは室町時代からはじまった干拓による広大な農地が広がり、コメをはじめ麦、タマネギ、レンコンなどの全国有数の産地として知られる。
干拓地は、筑後川上流の阿蘇山系から粘土質の土砂が長い年月をかけて有明海に流れ込み、潮汐干満の差が大きい有明海の潮流がその土砂を流域に堆積させ、数千年単位でできた広大な干潟が幾世代かけて造成されてきた。ミネラルが豊富な重粘度質の土壌は、肥料持ちがよく、昭和30年代にはコメの単収量(1000平方㍍あたりの収穫量)で日本一となり、いまも同じ水田でコメ、ムギの二毛作、タマネギを加えた三毛作をする農家も少なくない。防衛省は、空港周辺に民家が少ないことを「騒音や事故の影響が少ない」と評価し、有明海のノリ養殖だけでなく農業地帯への直接的影響も度外視している。
号外を受けとった70代の男性農業者は、「このような号外を配ってもらってありがたい」とのべ、「ここに入植して40年以上農業をし、コメや施設園芸、麦、タマネギなどを作っている。オスプレイ一機が試運転しただけでも気持ちが悪くなったが、佐賀空港にオスプレイ17機や目達原基地のヘリ50機まで常駐するようになれば農作業どころではない。一度受け入れたら沖縄と同じように永久に基地の町にされる。地元としては大反対だ」とのべた。
「広大な干潟を干拓し、人の背丈ほどもあるアシが生い茂る原野を開墾して耕作地にした。3、40年前までは十分コメだけでやっていけるほど豊かな地域だったが、減反政策から農家経営は狂いはじめた。自民党政府はTPPや農協改革といって農家を潰そうとしてきたが、前回の知事選では、原発にもオスプレイにもすぐに賛成した自民党推薦の樋渡・前武雄市長を絶対に当選させてはいけないということで農漁業者が一致し、泡沫だった山口知事を押し上げた。佐賀県では農家が動かなければ知事も選挙では勝てない。その山口知事も最近、原発再稼働を認めた。原発の最大の犠牲になった福島は何一つ片付いていないのに、目先カネが入るというだけで佐賀県全体が同じ目にあってもよいという判断をしたということだ。そして事故が起これば“想定外”といって、調子が悪くなるとすぐに逃げる。オスプレイも同じ問題だ」と話した。
一緒にいた夫人は「佐賀空港は韓国行きの国際線が増設され、便数も利用者も増えている。そのために駐車場を増やして、滑走路も改修したばかりなのに、一大軍事基地になればみんなが敬遠するのは目に見えている。国は“誠心誠意対応する”などといっているが、とても信用ならない。私たちだけでなく、子や孫のためを考えて判断してもらいたい」と語気を強めた。
別の農家の男性は、「佐賀平野は昔から豊かな土地で、軍事基地に頼らなければならないような町ではない。戦後の農政転換でコメ余りから減反が進められ、川副出身の池田知事(当時)が空港を誘致したが、“軍事基地にしない”という協定まで破ってオスプレイが来るのでは話が違う。昔に比べてコメの値段は下がったが、それでもタマネギなら10㌃あたり30万~50万円、キャベツなら30万円、ブロッコリーなら40万~45万円の収穫があり、北海道に次ぐ生産量のタマネギは東京でも高品質と評価され高値で取引されるので、7㌶も作れば年間3000万円は収穫高があがる。なによりもオスプレイが来ると決まれば地価は下がり、農地も二束三文で買い叩かれる。後継者は戻ってこられなくなり、農業の将来が断たれる。農業者も反対の声を上げられるまで、盛り上げないといけない」と話した。
農地16㌶の耕作をしている川副地区の男性農家は、「防衛省は、オスプレイ配備の見返りとしての経済効果や地域振興をいうが、川副のみならず市全域で人口が減り、購買力が疲弊している。若者が安心して暮らせて、子どもを増やす政策こそが先決なのに、そのために軍事基地を認めろというのはバカげている。実際に、中国や韓国、北朝鮮など近隣国が攻めてくる理由などない。交易関係を見ても実際にアジアの国同士で戦争をすればとり返しの付かない大混乱に陥り、各国の経済はもたない。むしろアメリカが戦争を焚きつけてもうけようとしているだけだ。安倍首相が憲法を変えようとするのも戦争を進めるための体制づくりだ。市内全体に沖縄の現状を知らせ、“しかたがない”と思っている人たちに危険性を知らせないといけない」と号外への共感を語った。
一方で、「農業団体も反対を表明すべきだが、国が補助金カットするのではないかという不安があるから現状では表だった動きがない。長崎新幹線の敷設事業で、鹿島市長が反対したとき、当時の古川知事は鹿島市に出すはずだった県の補助金をカットし、公共事業が激減したといわれる。この新幹線問題も佐賀県民にとっては負担が増えるだけで、移動時間も利便性でもいいことは何一つない事業だ。このオスプレイでも国への忖度が働くのではないか? という危惧がある。だが、佐賀平野の農業にはまだまだ未来があるし、潰すわけにはいかない。簡単に原発再稼働まで認めた山口知事は、どのようにして知事になったのか、自分の立場をよく考えるべきだ」と話した。
説明会は全支所で反対 漁業者も結束し行動
川副町では、防衛省がオスプレイやヘリ部隊の駐屯地整備に必要な33㌶の土地買収について地権者である佐賀県有明海漁協の漁業者への説明会がおこなわれ、対象となった南川副、広江、早津江、大詫間の全四支所で反対が圧倒する結果となった。とくに、規模として最大の南川副支所では、田中運営委員長が漁協として移駐反対と、土地の売却拒否を再度表明したことが漁業者や住民の意志を代弁するものとして強い支持を受けている。
50代のノリ漁業者の男性は、「運営委員長が“孫の代まで有明海の環境を残すためにも反対する”と明言したことが、漁業者の総意ではないか。防衛省にとっては打撃だったはずだし、県知事が容認しても、土地を強制収容しない限りは移駐は不可能だ。諫早干拓事業で有明海の西南部地域ではノリも不作になり、アサリやタイラギなどの2枚貝は9割減という壊滅的な状態になった。他地域では、補償金をもらって施設を建てても収穫量が激減して、自宅まで差し押さえられた漁協役員もいる。高裁判決まで無視して開門せず、制裁金を出しても全部税金でとられるから意味がない。オスプレイの問題も執行部任せではなく、漁業者が結束して、切り崩しには応じない空気を貫かないといけない」とのべた。
13年連続で日本一のノリ生産量を誇る有明海でも、川副地区の水揚げはその2割を占めており、佐賀市全体でも漁業者の九割はノリ漁業者というほど経済の基盤となっている。年間売り上げは220億円で、一軒あたりの漁船や乾燥機などの設備投資だけで数千万円かかるため、関係業種の裾野も広い。有明海の存亡はそのまま佐賀市、ないしは沿岸地域の存亡にかかわる死活問題といわれる。
ノリ養殖歴40年の男性漁業者は、「佐賀の漁師は昔から、筑後川を上流でせき止める筑後大堰、諫早干拓、空港建設と巨大な事業を経験してきた。そのたびに漁協をあげて徹底的に反対してきた。筑後大堰のときには、“有明海を殺すな!”とテントを張って抗議し、機動隊とももみ合った。だが、最後は国会議員に裏切られた。一度受け入れたらなし崩し的に押し切られ、被害が出てもほったらかしだ。“佐賀空港を軍事基地化しない”という公害防止協定は、戦争を体験した先輩たちが県と結んだものだが、いまになってその意味の重要さがわかる。その思いを若い世代にも受け継いでいかないといけない」と話した。
号外に書かれた沖縄の現状を真剣に読む人や、米軍基地増強による岩国の変貌ぶりに驚く人も多く見られ、「騒音だけにとどまらず、佐賀がミサイルの標的にされるという問題だ」「佐賀だけの問題ではなく、九州全域を戦場にするわけにはいかない」と語られると同時に、「長いものにまかれろで賛成する知事をはじめ、市議や県議を締め上げたい」「特定の政党政派の運動ではなく、幅広い市民に問題点をアピールし、全市的な世論を喚起していきたい」と語り合われていた。