いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

「在日米軍も削減対象に」 トランプ米政府の歳出削減計画 80年の隷属関係を見直す好機 世界最大の駐留費負担する日本

(2025年3月21日付掲載)

トランプ米大統領と石破首相(2月7日、ワシントン)

 トランプ米政府が連邦政府機関を縮小する計画の一環として、国防予算削減を念頭に置いた米軍の組織再編を進めるため、米軍幹部の大幅削減や在日米軍の態勢強化の中止を含めて検討を始めたと、米メディア『CNN』『NBC』などが報じた。米国防総省の内部資料や米軍当局者の話を根拠としており、計画の中には、アイゼンハワー大統領の時代から75年間握ってきたNATOの欧州連合軍最高司令官のポストを米国が放棄することも含まれているという。覇権縮小とともに「同盟国」に防衛費負担増を迫るトランプ政府の動きに対し、世界で唯一全土基地方式を容認し、世界最高額の駐留経費を負担して米軍事力を補完してきた日本政府の立場が問われている。

 

 報道された米国防総省の内部資料は、イーロン・マスクが責任者を務める政府効率化省(DOGE)が、連邦政府機関に対して経費節減のための大幅な予算削減を迫るなか、米国防当局が上級指導者向けに今月作成したものだという。

 

 バイデン前政府が昨年成立させた2025年度の米国防予算は、過去最大の約8950億㌦(約139兆円)にのぼる。そのうち対中国を名目にしたインド太平洋地域での米軍の能力を高める「太平洋抑止イニシアチブ」に155億㌦が充てられた。財政赤字が膨らむなかでも、政府と軍需企業との一体化が進む米国の軍事費はうなぎ登りの上昇を続けてきた。

 

 トランプのコスト削減策により、米国防総省はここ数週間、主に民間従業員の大量削減に注力しており、最終的に国防総省の民間従業員の5~8%を削減すると当局者はのべている。

 

 さらに国防総省内で検討されている計画には、戦闘指揮部の統合、統合部隊の開発、訓練、教育を監督する統合参謀部局の廃止、在日米軍の態勢強化中止を含む海外の米軍基地の再編整理が含まれている。アフリカ、中南米、カリブ海などに展開している米軍司令部の統合により5年間で3億3000万㌦(約500億円)、在日米軍の態勢強化の中止により約11億8000万㌦(約1750億円)が節減されると試算されている。

 

 この文書ではまた、統合参謀本部の大幅な人員削減も提案しており、各軍の共同訓練と教育を監督する統合参謀本部局の廃止、統合参謀本部の将来作戦室、サイバー、訓練部門で働く民間人約400人の解雇、そして数百人の統合参謀本部職員をバージニア州サフォーク基地に移転することなどが含まれている。さらに統合情報作戦センターは「不要」として完全に廃止する可能性がある。これらの削減により5年間で約10億㌦の節約が見込まれるという。

 

 さらに注目されているのが、第二次世界大戦後、75年にわたり米軍将校が統括してきたNATO司令部の指揮権を放棄する案だ。『NBC』は米国防総省当局者の話として、NATOの欧州連合軍最高司令官のポストを米国が放棄することも検討中の計画に含まれると報じている。このポストは、米軍欧州軍の司令官も兼任し、ロシア・ウクライナ戦争ではウクライナ軍支援を監督する主任司令官でもある。『NBC』は「米国がNATO最高司令官の役割を放棄することは、欧州では同盟からの離脱を示す重大なシグナルとみなされる」「米国はNATO内で多大な影響力を失うだろう。NATOからの完全離脱に向けた第一歩として認知されるはずだ」と警鐘を鳴らす元司令官らの発言をとりあげ、「第二次世界大戦以来、ヨーロッパの安全と平和を定義してきた同盟であるNATOの勢力バランスに大きな象徴的変化を与える」とのべている。

 

「互恵」「対等」なら見直しが筋

 

 これらのトランプ政府の動きの背景には、連邦政府全体の支出と人員を削減するため、ヨーロッパの「同盟国」に自国防衛の責任や負担をより多く負わせる米国の意図がある。この流れのなかで、ドイツでは、防衛費を財政規律の対象外とする改憲案が可決され、今後、GDP比1%を超える国防費支出を可能とした。

 

 一方、日本の米軍駐留経費負担割合(2004年時点)は約75%で、ドイツ(約30%)、イタリア(約40%)、韓国(約40%)と比べても突出している。日米両政府は2022年度から5年間で在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を単年度当り2110億円に増やしており、総額は1兆円をこえた。負担額としても2位のドイツの数倍にのぼり、米側が「(他の同盟国が)見習うべきお手本」(当時のマティス国防長官)と評するほど、世界で類を見ない米軍奉仕国となっているのが現状だ。

 

 近年では「台湾有事」を煽る米国の要求を受けて、在日米軍司令部を再編・強化して「統合軍司令部」とし、自衛隊が主体となって「統合作戦司令部」を創設。自衛隊がアジア近隣における米軍の軍事作戦の下請け部隊となって米軍と共同作戦を実施する体制づくりを進めてきた。同盟国や世界への軍事力展開を「不当な負担」と見なすトランプの歳出削減計画は、これらを一から見直す契機となる可能性もある。

 

 トランプは米軍再編において「互恵関係」や「対等性」を掲げて各国に相応の防衛負担増を求めているが、80年にわたり世界最大の米軍基地、法外な駐留経費負担、治外法権である日米地位協定を押しつけられてきた日本では、その意味合いはまったく逆となる。総裁選だけでなく首相就任時にも「日米地位協定の見直し」に言及した石破首相の態度が注視されている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。