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地方に渦巻く変革の力束ねる れいわ新選組山本太郎の北海道・東北行脚 人と社会食い潰す政治に終止符を

バンドの生演奏をバックに街頭で市民と直接対話する山本太郎参議院議員(6月28日、札幌市)

 れいわ新選組の山本太郎参議院議員は、7月末から7月上旬にかけて、北海道、青森、秋田、山形、栃木、茨城などで増税反対デモやおしゃべり会をおこなった。対話形式のおしゃべり会では各地で問題となっている再エネ問題、燃料費高騰、原発などのエネルギー問題、少子高齢化、札幌五輪問題などについて切実な意見と質問があがり、地方の具体的実情を題材に国政や全国共通の課題について議論がくり広げられた。20代の高校生をはじめ現役世代からの質問が多く投げかけられ、山本氏は地方から政治を変えるための動きを市民一人一人の手で作り上げていくよう訴えた。以下、北海道・東北地方でおこなわれたやりとりのなかから一部を紹介する。

 

 質問(五所川原市・青森) 国はガスと電気には補助を出しているが灯油には出していない。寒冷地である青森県は、冬になると電気などで寒さをしのげる環境ではなく、ほとんどの家庭が灯油ストーブだ。油タンクというものがあり、それを満タンにすると高齢者の母と2人暮らしの私の場合、今年1月4日に3万9600円、2月には3万916円、3月に2万8243円の灯油代がかかった。今年は暖冬だったのにこれだけの費用がかかる。年金生活者にとっては非常に苦しく、高齢者は「食事を抜いてでも寒さには勝てない」という。命に関わる。凍死してしまう。北海道ではもっと大変だと思う。昔は、寒冷地手当というものがあったらしいが、国はこうした寒冷地の人々の生活を考えてくれていないのか。青森県は低所得で男女ともに平均寿命は全国ワーストだ。

 

 山本 国は何も考えていない。だからこんな状況になっている。日本は南北に縦長な地形をしていて地域の気候に差がある。今日タクシーの運転手に「この辺りは冬は厳しいのか」と聞くと、「そんなに雪は降らないよ」といっていた。だがどれくらい降るのか聞くと、1㍍だそうだ。東京のようにめったに雪が降らず、少し雪が降って地面が凍ったくらいでパニックになるような地域に住む人間からすると、1㍍の積雪などとんでもない話だ。そういった地域で厳しい冬をいくつも乗り越えてきた人たちのことは、実際に暮らしたことがない私たちには想像がつかない。

 

 一番厳しい時期には4万円近い灯油代がかかるということだが、国がきちんとお金を出すべきだ。これは夏場も同じことがいえる。国は熱中症対策のためといって法改正をするが、中身はペラペラだ。熱中症は夜中の発症が多いのに、国がやることといえば、「イオンやイズミに涼みに行けるようにする」といった調子で、まったく金をかける気がない。支援が必要なのは、経済的に厳しいためクーラーが設置してあるのに使えないような家庭や、そもそもクーラーが付いていない家庭などだ。そういった問題は高齢者世帯に多い。冬や夏の厳しさを乗り越えられるだけの手当は付けるべきだ。

 

 憲法第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。最低限度というが、「健康」で「文化的」でなければならない。冬を乗り越えるために当たり前に暖まれるだけの灯油や、酷暑を乗り越えられるだけの環境を担保できなければ憲法違反だ。そういうことをきちんと国民が政治にわからせなければならない。今の日本は国民の6・5人が貧困で、高齢者の5人に1人が貧困で、単身女性の4人に1人が貧困、一人親世帯の2人に1人が貧困だ。健康でも文化的でも最低限度でもない。地面を這って生きるような国だ。

 

 この政治を変えるしかない。そのためにはこの国の最高権力者であるあなた、みなさんの力が必要だ。最高権力者が本気を出すとなれば政治家たちは本当に震え上がると思う。それくらい圧倒的な力がある。自民党の支持者なんて全有権者の2割程度だ。一方で、有権者の5割が票を棄てているのだから、ひっくり返せる可能性は非常に高いし、贅沢はいっていない。「勝てるゲーム」だ。

 

 質問(札幌市・北海道) 札幌市ではついこの前まで札幌五輪に色めきだっていて、秋元市長が「五輪メガネ」といわれるほどだった(昨年12月に招致活動を停止)。だが札幌市含め北海道は五輪などなくても魅力がいっぱいある。山本代表が札幌市長や北海道知事になった場合、やりたいことや政策はあるか。

 

 山本 札幌に五輪をというが、そんな汚れたイベントを札幌に持ち込むなと私は思う。ロサンゼルス五輪以後のオリンピックはカネにまみれており、カネがかかりすぎるという理由で手を上げたところが下げたりなどという事例もたびたびある。東京でも当時の猪瀬知事が「世界一コンパクトなオリンピックを目指す」といったが、そこから費用は何倍にも膨らんだ。国民や市民への負担にもなる。オリンピックはスポーツマンのためではなく、企業のための祭典だ。

 

 東京五輪が終わってから、汚いおじさんたちがネコババしまくっていたということがわかった。そして「夢よもう一度」といって東京でくすね損ねたカネをもう一回札幌でネコババしてやろうかということだ。そんなことにカネを使うのであれば、札幌市民のためにもっとさまざまなお金の使い方ができるはずだ。

 

 これだけ多くの自然があり、北海道だけでエネルギー自給率を100%以上にでき、食料自給率も100%にできる。ある意味ものすごい特別で可能性しかない土地だ。そういう地域を冷たくあしらいながら一極集中や、三大都市圏にカネ・ヒト・モノを集中させ、地方をひからびさせた結果が今だ。

 

 北海道は観光ひとつとってみても、ポテンシャルは高い。ただ、日本におけるインバウンドが「成長戦略の一つだ」という人は間違っている。インバウンドはこの国のGDPの1%ほどでしかない。5兆~6兆円の世界にそんな期待をかけても仕方ない。あくまで「おまけ」だ。国がインバウンドを「最大の目玉政策」のようにいってはいけないし、東京のように嫌でも人が出入りする地域でインバウンドを目玉にすること自体、寒々しい。そもそも、日本にこれだけ外国人観光客が来るのは、日本に魅力があるのはもちろんだが、それを上回るくらい日本が貧しくなって「安い」からだ。

 

大規模再エネ開発 原発と同じ住民置去り

 

札幌駅前での山本太郎のおしゃべり会(6月28日)

 質問(東根市・山形県) 今日、生まれて初めてデモに参加した。最近は少子化問題は多く語られるが、高齢化がもたらす深刻な問題は置き去りにされていると感じる。地方に行けば行くほどいろいろな問題がある。また、年金からの引かれものも増えて驚いている。

 

 山本 高齢者の5人に1人が貧困という状況にもかかわらず「高齢者に金がかかりすぎて若い人にお金が回せない」という空気が作られ、世代間で分断させられようとしている。高齢者も若者もどちらも支えなければならないのに、そこをケチって世代間分断を持ち出してみんなの目が「国はちゃんとやれ」という方向に向かないように落とし込まれようとしている。非常に汚い。全体的に底上げしろということをみんなで訴えていかなければならない。

 

 今の若い人たちと高齢者とではもらえる年金額は大きく変わるだろう。国は「若い人たちもちゃんともらえますから」というが、もらえる額は少なくなる。年金というもの自体、元から持続可能な建て付けになっていないということが明らかになっているなかで、年金という形にこだわり続けるのか、それとも違った形にしていくのか。私自身は生活保護という仕組みをこの国のセーフティーネットにしていかなければならないと思う。例えば、生活扶助や住宅扶助、医療扶助などいくつもある支援を、困ったときにはそれぞれ単独で受けられるようにすることも必要だろう。すべてを失わなければ受けられないという現状の生活保護の仕組みを改めていく必要があると思う。

 

 これからは「高齢者が」「若者が」というような分断を進める話には乗らないでほしい。高齢者をバッシングすることで、高齢者だけでなく高齢者を支える世代も苦しむことになる。

 

 私は今49歳でロスジェネ世代だが、非常に社会が経済的に厳しい時期に就職をしたり就職できなかった世代だ。ロスジェネ世代の第1世代はもう親の介護が始まっているが、高齢者に対するさまざまな支援が引き下げられるとそれを支える人にも影響が出る。一番働き盛りの年代の人たちが、親の介護もしながら子育てもしなければならない「ダブルケア」の状況にあるし、そうでなくとも一人生きるのに精一杯なのに、親の介護までしなければならないという人たちにもダメージが直撃する。だからこそ国の側が支えなければならない。

 

 国はずっと「自助・共助」のスタンスだが、もっとも重要なのは「公助」だ。国からの手助けが少ないからここまで社会が壊れているということをもう一度政府に突きつけないといけない。

 

 質問(寒河江市・山形) 山形県遊佐町沖では280㍍(東京タワー並み)の巨大風車52基の建設計画(15㍋㍗)がある。酒田沖でも2㌔沖で建設計画が進んでいる。世界の10㍋㍗級の風車は台湾も含めて22㌔~30㌔沖で建設しており、最近では100㌔沖で計画されている。2㌔沖という日本の計画は完全に世界の非常識だ。離岸距離を22㌔の計画にする必要がある。

 

 山本 近すぎると低周波による健康被害の可能性や、自然破壊への懸念があるが、そういうことに対して政府や行政、事業者側がきちんとした答えを持って反論できていないことがおかしい。これでは住民が完全に置き去りにされるし、札束で顔を叩きながら進められていった原発とほとんど変わらない。そして、利益を受けられる者とそうでない者とで分断が生じる。環境省はしっかりとした指導をしなければならないが、現大臣も「検討します」ばかりで、のれんに腕押しの状態だ。

 

 私たちもこうした問題については訴えていきたい。一方、みなさんの地元で不条理な開発について一人でも多くの人々が声を上げて態度を示すことが重要だ。今日の会場でこの問題について知っているのはどれくらいいるだろうか?(10人未満)

 

 大企業が入り込んできて金をばらまいてくれるのだから、メディアも当然無視するだろう。広告まで流し始めるかもしれないし、そうなると企業側にマイナスになるような報道はしなくなる。だからこそ人々の手で故郷を守るために、みなさんで議論していく必要もあるだろう。当然、国会でも手続きの踏み方や海外事例と比較してもおかしいということは訴えていきたい。

 

マイナンバー義務化 泥棒政治家が国民管理

 

若者が多く参加した山形県東根市での増税反対デモ(7月5日)

 質問(札幌市・北海道) マイナンバーカードは実質義務化されるのではないか。保険証廃止にともなって今年の12月からマイナンバーカードと保険証を紐付けするという。だが、国家公務員ですら5%しか紐付けをおこなっていないそうだ。マイナンバーカードに関することについて教えてほしい。

 

 山本 マイナンバーという制度は、「便利になる」というイメージもあるが、本質はそこではなく「金もうけ」だ。マイナンバーのようなシステムを作った場合、必ず利益が盛れる。そして分野を広げれば広げるほど利益を得る確率は高まる。「盛れる」ものに対する永遠の公共事業だ。

 

 そして、国はマイナンバーという制度を使いながら、あなたの日常生活をすべて吸い上げる。あなたが今日何時に起きて、何時に駅の改札を通過し、何時にどんな物を買っているのかすべて把握される。つまり、あなた自身が自分のことをどのように思っていたとしても、あなたの生活の情報を元に、知らないところで「この人はこんな人間だ」という形が作り上げられてしまう。それだけの膨大なあなたの個人情報を、国家が持ち続けることは私はリスクだと思う。あなたが個人情報を預けるのは、あなたがもっとも信用する相手ではない。四分の一の自民党が泥棒で、公文書の改ざんや、公務員が死んでも自分たちの悪事を貫いたり、国の中枢のデータさえも改ざんするような人間たちだ。世界で唯一、30年の不況で格差をこれだけ広げたポンコツたちに、自分の個人情報を全部吸い上げられても安心だという人はいるだろうか。私は怖くて嫌だ。やめさせるしかない。

 

 皆さんの個人情報は国として所有するが、組織票や企業献金と繋がっている者たちに流されて、企業の商売のために利用される。マイナンバー法を国会で通すときに、「利活用させる」「先々は必要な人は免許証と一緒にできる」などという説明がされていた。私は「絶対強制になるのではないか」といっていたが、政府はずっと「そんなことは考えていない」といっていた。今から振り返ってみると、すべてウソの虚偽答弁だった。今進められているのは、マイナンバーカードを持っていないと生活できないような仕組み作りだ。要するに「小さく穴を作って大きく育てる」という、これまでの手法のくり返しだ。国の姿をした強盗のような奴らだ。

 

 ただ、マイナンバーカードを全否定するつもりはない。その人の資産に関しては、例えば大金持ちの隠し財産などを「見える化」するなどの使い方なら納得する。いずれにせよ、マイナンバーカードの幅を狭めることは必要だ。このままではプライバシー権などまったく無視して運用されるに決まっている。

 

山形県寒河江市でおこなわれた「増税!?ダメ♡絶対!」デモ(7月6日)

 質問(札幌市・北海道) なぜ食べ物からも消費税をとるのか。裏金と同じではないか。

 

 山本 消費税というのは日本だけにあるのではなく、世界にも「付加価値税」など、名前を変えて存在する。日本は税率が安いくらいで、ヨーロッパでは20%をこえているではないかという人もいるが、食べ物などの生活必需品は非課税になっていたり、税率がかなり抑えられている。つまり、生きていくためには当然何かしら食べなければならないのに、そこに課税をすれば影響を受けやすいので、ある意味当然の考え方だ。

 

 一方、日本ではそのようになっていない。人が生きていくために必要になる食べ物や飲み物に対して課税するという考え方は、かなり悪魔的だ。結局、みんなの所得が上がったとしても消費税が上がれば帳消しになる。消費税を上げるたびに景気が悪くなるというように連動している。

 

 ただ、私は消費税を続けるかわりに、食べ物を含む生活必需品は非課税にすることについては反対だ。この30年の間に消費税が大きな原因となって消費を弱らせてきた。そのことを考えると、一回リセットする必要がある。消費することによって課税が強制されるという仕組みが続くことによって国はさらに弱ってしまう。だから30年壊され続けた経済を一度立て直してから、もしもその議論があるのならしても良いだろう。

 

 とにかく消費税は廃止。百歩譲って「ゼロ%」。つまりまた上げることもできるという余地は残してもいい。「消費税は絶対的に必要な税金だ」と思い込んでいる政治家は、自民党だけではなく野党にも多い。こうした人たちとバランスをとっていくためにも「“廃止”ではなく、“一旦ゼロ”でもいいじゃないか」という交渉をする糸口もありとは思っている。

 

 質問(函館・男子高校生) 私は高校1年生で、周りに反原発だと伝えると、左翼だとかリベラルだといって馬鹿にされてしまうが、山本代表は反原発や原発再稼働についてどう思うか。

 

 山本 そういってくる人に「左翼ってどんなもの?」と聞いてみるといい。きっと説明できないだろう。右翼とか左翼とか関係ないし、はっきりいうと左翼にも右翼にもどうしようもない人はいるのだから、イデオロギーなど関係なく、その人自身を評価すべきだ。世の中にあるものを右と左に分けていったい何が語れるのか。血液型で性格を診断するよりももっと粗い。「あいつは左翼だ」などという人は、相手がそういわれることを嫌がって口を閉ざし、萎縮することを狙っていっている。

 

 原発をやめた方がいいと思うのはまともなことだ。続けようとしている人たちの方が異常だ。地震大国日本で、さらにこれから大きな地震がやってくる。首都圏直下地震における内閣府の経済的被害推計は合計95兆円だ。阪神大震災の10倍、東日本大震災の5・6倍の被害だ。さらに南海トラフ地震の被害額は推定207・8兆円。阪神大震災の21・6倍、東日本大震災の12・3倍だ。この地震に耐えられる原発があるのか? あるわけがない。

 

 2011年の震災であれだけの原発事故が起き、いまも収束していない。とり出さなければならない燃料が何十㌧もあるのに、耳かき一杯もとれないような状況だ。ロードマップ上では2040年とか50年といっているが、このまま収束させないで「もう終わった」といって手を引く可能性だってある。事故を起こしていない原発でさえ廃炉に30~40年かかるのに、福島第1原発も同じ期間に設定している。そんなことができる訳がない。収束にはおそらく何百年もかかるし、必要なお金も天文学的な数字になる。これだけ脆弱な事故原発をかかえていながら、さらに大きな地震が間違いなく来るのに、原発を再稼働させるなんてまともではない。狂気だ。

 

 「原発はやめなければならない」というあなたは間違っていないし、「お前は左翼だ」というクラスメイトは事態の深刻さに気づいていないだけだ。それで終わってしまうと思考停止のままだし、考えたくないからこそそういっているのかもしれない。それでも周りの人たちに少しでも気づいてもらえるための情報を提供していきながら、知らないということを否定することなくやりとりできれば、今の状況を少しでも変えていけるのではないか。あなたはそういう扉を開くことができる可能性を持っている。

 

戦時情勢への対応 アジア重視の外交が必須

 

 質問(能代市・秋田) ウクライナ戦争やガザ戦争について質問したい。私は広島と長崎の被爆者の方々と一緒に運動をしてきた。秋田県内で生きている被爆者はもう12人しかいない。亡くなった被爆者が生前「もう一週間戦争が早く終わっていれば、広島も長崎も原爆にあわずに済んだ」といっていた。今起きている戦争を早く止めさせるために、政党や市民団体、国民は何をすればいいのだろうか。

 

山本太郎参議院議員

 山本 非常に重要な話だ。戦争を早く終わらさなければ何の罪もない市民の命が奪われていく。戦争というものはビジネスという側面が一番大きい。だからなかなか終わらない。

 

 戦争にならなくても緊張状態が高まるだけで株価が上がり、金もうけができる。米国の軍需企業の株価が急激に上がったのは9・11以降だ。ロッキード・マーチン(米兵器メーカー)の株価は、9・11で少し上がり、リーマン・ショック、ISISの台頭、北朝鮮緊張化、ウクライナ軍事侵攻、イスラエル・ガザ大虐殺という出来事が起きる度に急騰し続けてきた。他にも「レイセオン」や「ノースロップ・グラマン」「ゼネラル・ダイナミクス」などの兵器メーカーも同じように株価が上がっている。緊張化しただけで株価は上がるし、実際に戦争が起きればミサイルなどの実物も売れる。戦争が終わらないのは、金もうけをまだ続けたい人がいるからだ。

 

 ウクライナに対して一番武器を送りつけているのはアメリカだ。戦争の引金を引いたのはロシアであり、それに対して世界中から「やめろ」と声を上げることについては同意する。ただ、日本側の姿勢を考えると、アメリカやNATOと一緒に手を組んでロシアを「敵国」として扱うことは絶対にしてはならない。日本という立場や外交問題を考えると、欧米の国々と一緒にロシアに対して経済制裁を加えると、ロシアにとって日本が「敵国」になる。そうなると目の前には中国もロシアもあるなかで、日本がみずからの首を絞めることになる。だからこそ、ロシアに対して侵攻への非難はしても交渉の窓口は閉じてはいけない。

 

 一方、日本にとってアメリカが同盟国であるならば、アメリカが今やっていることに対してブレーキをかけさせるべきだ。ウクライナの戦争を一番止められる存在は、今武器を大量に送り込んでいるアメリカだ。しかしアメリカ側からは停戦に関する話はほとんど出ていない。もうかるからだ。遠くから武器だけ送りつけて自国民は殺さずに景気拡大させる「オフショア・バランシング」、つまり「漁夫の利」だ。これがアメリカのビジネスモデルなのだ。

 

 米学者のミアシャイマー氏がオフショア・バランシングについて解説している。オフショア・バランシングは状況によって、直接的なバランシング(米国自体の軍備・抑止力強化)と、バック・パッシング(同盟国に責任を押しつける責任転嫁)を使い分ける戦略だ。基本的にオフショア・バランシングにおいて米国は、台頭する大国(中国)を他国(同盟国)が率先して阻止するように仕向け、必要な場合のみ米国みずから介入する戦略である。つまり、米中のいざこざに対して、日本が最前列に立ってその盾となり、巻き込まれることになる。アメリカはそのとき、太平洋の向こう側から武器を送り続ける。そして米軍基地も標的になるのでたまには自分たちも出て行くが、基本的には自衛隊を盾にするというのが主なミッションになるだろう。

 

 だからこそ、日本がやらなければならないのはNATOと足並みを揃えることではない。

 

 また、パレスチナの問題もあるが、あれは戦争ではない。一方的に殺しまくっているだけだ。イスラエルに対してものをいえる可能性があるのはアメリカだけだが、アメリカは本気でイスラエルを止めるつもりはなく、すべて繋がっている。それよりも民間人の虐殺にどれほど高度な武器が使われたかという、ある意味で展示会に近い様相を呈している。

 

 このような状況を終わらせるためには日本はちゃんとアメリカとの間にバランスを持つ必要がある。日本のように小さな国は、大国に影響される。アメリカと中国のいざこざに対して、アジアの国々は「どっちにも付かない」「私たちに選ばせるな」とみんな怒っている。日本のようにアメリカの尻馬に乗って軍拡を進めるのではなく、それぞれの国が手を繋ぎながら「関わりたくない」という意志を表明し続けている。

 

 日本も早く気づかなければならない。中国と日本がたった2カ月間緊張状態になっただけでも、中国からのいろいろな部品が1・4兆円分調達できなくなり、約53兆円分の生産額が消失する。戦争にもなっていないのにこの状況だ。生産に携わっている会社や労働者、運送や販売に従事している会社や人もいることを考えると損失額は計り知れない。そんなことは絶対にやってはならないし、そのためにはアジアに軸足を置いてアジアの人たちとまともな外交をやるしかない。アメリカの植民地のままではだめだ。アメリカと手を切れといっているわけではなく、バランスをとりながらあくまでアジアを重視しなければならない。

 

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