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岸田政府「身辺調査」法案を提出 特定秘密保護法の国民監視を大幅拡大 情報漏洩で罰金や懲役も “裏金”政府の経済安全保障

第6回経済安全保障推進会議での岸田首相、高市経済安全保障担当相(1月30日)

 岸田政府が2月27日、経済安全保障上の重要情報を扱う人の身辺を国が事前に調べる「セキュリティ・クリアランス制度(適性評価)」を導入する「重要経済安保情報の保護・活用に関する法案」(身辺調査法案)を閣議決定し国会に提出した。特定秘密保護法が監視対象とする情報(現在は防衛、外交、スパイ・テロ防止関連情報限定)を経済分野に広げ、民間人の身辺調査対象(現在は公務員が97%)を大幅に広げることが狙いだ。メディアあげた大宣伝で自民党派閥裏金事件に国民の目を釘付けにする陰で、特定秘密保護法の適用対象を一挙に拡大する意味合いも持つ国民監視法案の成立を急いでいる。

 

「経済安保」を掲げ民間人も罰則対象に

 

 「重要経済安保情報の保護・活用に関する法案」の閣議決定を受けて、高市早苗経済安保相は「同志国、友好国と同じ水準の制度を持つことで信頼してもらい、経済や科学技術に関する情報を政府間で交換できる。そういう環境を一刻も早くつくらないといけない」と強調した。経団連や経済同友会などの財界も「同盟国や同志国との情報共有が進みビジネスチャンスが拡大する」と基本的に歓迎する立場だ。高市経済安保相はことあるごとに「私に対する(特定秘密保護法を成立させた)安倍総理からの宿題」と公言し、適性評価導入を目指してきたが、その究極の目標は同盟国との軍事情報を共有し、国際的な兵器ビジネスに本格参入する方向へ通じている。それは「個々人のプライバシーが守れない」という問題では済まず、国策に従順に従わないなら、職場や商取引からも排除し、生活の糧すら奪っていく横暴な内容をはらんでいる。

 

 適性評価制度はもともと2020に年5月に成立した経済安全保障推進法(経済安保推進法)に盛りこもうとしたが同法の審議は難航。経済安保推進法自体が中国・ロシアとの取引を排除するため民間企業の動きを国が監視する法律で、批判が強かったからだ。そのため政府は適性評価制度の具体化は先延ばしし、昨年2月に有識者会議を設置して内容を煮詰め法案提出時期をうかがっていた。そして1年近く経て国会へ提出したのが特定秘密保護法の国民監視対象を広げる身辺調査法案だった。

 

 ちなみに2014年に施行した特定秘密保護法の主な規定は次の通り。

 

【特定秘密保護法】
対象情報 防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野
■情報の機密度 トップシークレット(機密)級とシークレット(極秘)級。(「漏洩が安全保障に著しい支障」と規定)
■情報漏洩の罰則(最大) 「10年以下の懲役」か「10年以下の懲役および1000万円以下の罰金」
■適性評価の対象 約13万人=公務員が約12・6万人(97%)、民間人が約4000人(0・3%)

 

 ところが新法案はこうした特定秘密とは別に、電気や鉄道、通信等のインフラ、半導体や鉱物資源関連情報のうち「他国に流出すると安全保障に支障を及ぼす恐れ」がある情報を国が「重要経済安保情報」に指定。これらの情報に関係する民間人や民間業者を片っ端から身辺調査の対象にする内容を盛りこんだ。この身辺調査法案の主な規定は次のとおり。

 

【身辺調査法案】
対象情報 外部からおこなわれる行為から重要経済基盤を保護するための措置又はこれに関する計画又は研究
 ※重要経済基盤
 ・我が国の国民生活又は経済活動の基盤となる公共的な役務であってその安定的な提供に支障が生じた場合に我が国及び国民の安全を損なう事態を生ずる恐れがあるものの提供体制
 ・国民の生存に必要不可欠な又は広く我が国の国民生活若しくは経済活動が依拠し、若しくは依拠することが見込まれる重要な物資(プログラムを含む)の供給網
■情報の機密度 トップシークレット(機密)級、シークレット(極秘)級に加え、コンフィデンシャル(秘密)級を追加。(「漏洩が安全保障に 支障の恐れ」と規定)
■情報漏洩の罰則(最大) 「5年以下の拘禁刑」か「500万円以下の罰金」又は両方
■適性評価の対象 民間人も含めて大幅に増加

 

 この身辺調査法で浮き彫りになるのは国が罰則付きで監視する特定秘密を「軍事・防衛関連」だけでなく、インフラや生活関連物資にまで拡大し、こうした情報もいずれは機密資格を持つ有資格者以外には秘密にしてしまう内容である。ちなみに経済安保推進法に基づき安定供給を図る「特定重要物資」としては、これまで12分野(抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体、蓄電池、クラウドプログラム、天然ガス、重要鉱物及び船舶の部品、先端電子部品)を政令で指定。また経済安保推進法に則って国が企業を審査(サイバー攻撃対策等)する「基幹インフラ」対象には、すでに210事業者(東京電力ホールディングスやNTTドコモ、日本郵便、JR東日本、三菱UFJ銀行等)を指定している。こうした業者を含めて、身辺調査を求められる対象が大幅に広がるのは必至だ。

 

 同時にそれはマイナンバーを軸にした広大な監視網に国民を組みこんでいく動きとも連動しており、大川原化工機冤罪事件(噴霧乾燥機メーカーの大川原化工機が自社製品を輸出したところ警察が生物兵器に転用できると主張し同社社長らを逮捕した冤罪事件)のような国家権力によるでっち上げが今後頻発しかねないことも示唆している。

 

犯歴、薬物、経済事情も 適性評価の調査事項

 

 そして重要経済安保情報を扱う人や企業に求められるのが「適性評価」と称する身辺調査だ。これについて身辺調査法案は「評価対象者の同意を得た上でおこなう」と規定し、次のような調査事項を列記している。

 

【適性評価の調査事項】
 ①重要経済基盤毀損活動との関係(重要経済基 盤毀損活動=重要経済基盤に関して我が国及び国民の安全を著しく害する恐れのある活動、政治上その他の主義主張に基づき重要経 済基盤に支障を生じさせるための活動)※評価対象者の家族及び同居人の氏名・生年月日・国籍・住所を含む
 ②犯罪及び懲戒の経歴
 ③情報の取扱いに係る非違(違法)の経歴
 ④薬物の濫用及び影響
 ⑤精神疾患
 ⑥飲酒についての節度
 ⑦信用状態その他の経済的な状況

 

 これは国の重要情報を扱わせても大丈夫な人か、危険な人かをふるいにかける「身辺調査」にほかならない。まず身辺調査に応じるかどうかで国の方針に従わない人や業者を排除したうえで、秘密情報に関わる職員の家族関係や経済状況、犯罪歴も調べあげ、もし不正な取引やデータ改ざんを目にしても、決して外部に情報を漏らさないような人員ばかり集めていく内容といえる。

 

 ちなみに岸田政府が手本にしている米国の適性評価制度は、日本の特定秘密保護法が機密指定対象とする4分野に加え「国家安全保障に関連する科学的、技術的、経済的事項」や「国家安全保障に関連するシステム、施設」「社会基盤等の脆弱性・能力等」も対象。これらの情報を漏えい時の損害レベルに応じて「機密」「極秘」「秘」の3つに分類し、連邦政府機関が機密情報を扱う職員について精神状態や家計状況、犯歴とあわせて「米国への忠誠心」を調査し「適性」を判断していた。米国では2019年時点で政府職員や軍人、関係企業関係者等の評価対象者は約400万人にのぼった。

 

 こうした米国の後を追う特定秘密保護法、マイナンバー制度、重要土地調査法などとも連動する身辺調査法案は、日本を国家総動員体制へ導く戦時立法であり、今国会における重要焦点になっている。

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