昨年末からにわかに騒がれ始めた自民党のパーティー券裏金問題は、数億~数千万円の裏金キックバックが党幹部や閣僚も含む90人以上の自民党国会議員のなかで横行していたことが明らかになったにもかかわらず、大山鳴動して鼠一匹ならぬ逮捕者1人に終わった。安倍派、岸田派、二階派などの有力派閥で長年の悪しき慣習が浮き彫りになったものの、会計責任者だけ略式起訴し、不正な金を懐に入れた者、裏金還流や虚偽記載を指示したと思われる幹部連中は誰一人お咎(とが)めなし。また、帳簿に計上しない裏金がなぜ必要だったのか? その裏金が何に使われたのか? などは未解明のままである。弱者に対しては証拠をでっち上げてでも冤罪事件を仕立て上げる検察だが、これほど強者に甘い「検察の正義」とは何なのかが逆に問われる事態となっている。一連の騒動について記者座談会で論議した。
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A 昨年12月ごろから検察が動き出して「安倍派のパーティー券キックバック」「報告書に不記載の裏金数億円」「全国の検察を集結させ異例の大捜査」などとセンセーショナルに報じられ、国会閉会と同時に検察が一斉逮捕に動く――などの憶測も飛び交っていた。だが一方、懐疑的な見方も強かった。自民党の裏金作りなど誰もが知っている公然の秘密であり、政治資金規正法に抜け穴があることも周知の事実だ。安倍政権時代のモリカケ桜問題でもまったく動かないか、アリバイ的に動いて見せるだけだった検察当局が、なぜ今になって鼻息を荒くしているのか? どんな風の吹き回しか? と勘ぐる人も多かった。それほど世間の検察に対する信頼がもともと乏しいなかで、どこまでやるか? と疑心暗鬼を抱きつつも見守っていたが、案の定、壮大な空砲に終わった。この顛末に、一体何を見せられてきたのか? と誰もが憤慨している。
B 一連の処分が決定すると、政治家の裏金キックバック問題が「派閥問題」にすり替わり、岸田首相が唐突に「国民の信頼回復のために岸田派を解散する」といい始め、それになびくように安倍派と二階派も解散を決定。それで一連の問題にケジメを付けたように装っている。メディアでも「派閥政治との決別」などといっているが、問題の入口と出口でまったく話が違っている。
そもそも派閥政治の問題は、37年前のリクルート事件や、20年前のヤミ献金問題などのたびに「政治改革」と称していつも問題になるが、自民党で派閥が消えることなどない。総裁選を勝ち抜いて首相や閣僚ポストを得るための集票・集金組織であり、とくに肥大化した昨今の自民党のなかで数を集めて権力を握るために必要不可欠な力の源泉だ。この派閥の力で、安倍晋三も菅義偉も、岸田文雄自身も首相になれたわけだ。
C 安倍派などは頭を失った残党が野合しただけの解散状態にあったが、岸田派の後押しで首相になったはずの岸田文雄が、恩を仇で返すように所属議員に相談もなく勝手に岸田派解散を宣言したものだから、周囲は蜂の巣をつついたようになっている。岸田派議員などはあっけにとられており、これが岸田文雄という男なのだとつくづく感じさせるものがある。
ただ、一時的に解散したとしても、土壌が変わっていないのだからまたすぐに集まる。岸田派が解散して旧岸田派になり、旧二階派になる。派閥で金を集めなくても、別の政治団体で同じことをやる。それだけのことだ。そんなものは有権者に対して何のケジメでもないし、いわんや裏金問題が解消すると思っている人など一人もいない。目くらましのカードに過ぎない。
90人以上が裏金受領 飼い慣らしの実態
A 検察を含む大茶番になったわけだが、この間見せつけられた実態は、この国の政治の黒々とした内実の一端ではある。経緯をおさらいしてみる。
ことの発端は、自民党の5派閥(安倍派、二階派、麻生派、茂木派、岸田派)の収支報告書を調べ上げた大学教授が、この5つの派閥が2021年までの4年間に計4000万円分の政治資金パーティーの収入を適切に記載していなかったとして検察に告発状を提出したことに始まる。
各派閥は年に数回、政治資金パーティー(励ます会、セミナー、勉強会など)を開くが、その都度だいたい1枚2万円のパーティー券を個人や企業、団体などに売りさばく。一定規模の企業では数十枚単位で買うところもあり、大きなパーティーだと億単位の金が集まる。これ自体は法律で認められた資金集めの手段になっているが、特定企業や団体との癒着を防ぐということで、1回のパーティーにつき同一の者からの支払い限度は150万円以下。また、同一の者が20万円をこえる支払いをした場合には、その氏名、住所、職業を収支報告書に記載(公開)しなければならないという規定がある。
だが、企業・団体には複数の議員から同じパー券の購入依頼があり、企業や団体はそれぞれの政治家に恩を売るため小口で購入する。それぞれが20万円以下でも、同じパーティーなので合計すると20万円をこえる場合がある。それらが適切に記載されていなかったというケースのようだ。
議員にはパー券販売ノルマがあり、個人競争で必死に売りさばくが、それぞれの議員がどこに売ったのかもわからず、販売先が重なってもチェックする機能もない。収支報告書は公開義務があるが、いちいち総務省が内容をチェックするわけでもなく、もともと「有権者から指摘が入れば訂正すればいい」という程度のユルユルなものなのだ。
B 経団連会長が「政党への寄付は社会貢献だ」などといって物議を醸したが、そのユルユルの制度設計のもとで、政治家は金で買われ、一方は金で支配するという共依存関係ができあがっている。2022年分の政治資金収支報告書を見ると、自民党の政治資金団体「国民政治協会」が企業・団体献金として集めたのは約23億円だ。あくまで表に出る金の流れだが、この程度の端金で政治をコントロールできるのなら安上がりというほかない。
そのうえ裏金をせびるためにパーティー券を売りさばいていたわけだが、そのためにはパトロンが必要になる。だから日本会議や統一教会などのカルト宗教やそれに近い政治団体などと癒着が深い安倍派に議員が群がっていたという構図だ。ただ首領を失い、カルト癒着問題がクローズアップされるなかで求心力は低下し、実質死に体状態。今回の捜査でも危機管理の手綱を握る人間もおらず、虎の衣を借りて野放図にやりまくっていたデタラメな実態が明るみに出ると、蜘蛛の子を散らすように解散した。安倍派になんらかのメスが入ったことは確かだ。
C 検察が入手した安倍派の裏帳簿リストには、各所属議員のパー券売上ノルマと集金実績、さらにノルマ超過分を派閥から議員にキックバックした額まで記されていたといわれ、そこから所属議員の大半が裏金キックバックを受けとっていたことが発覚した。派閥の収支報告書には、ノルマ超過分の収入、キックバック分の支出は記載されず、すべては裏金となっていた【図参照】。
検察発表などによると、収支報告書に記載していない裏金額は、安倍派では公訴時効の期限内(過去5年)だけで、収入(ノルマ超過分)で6億7503万円、支出(キックバック分)で6億7654万円の合計13億5157万円にのぼったという【表参照】。
裏金キックバックを受けとっていた議員(役職は発覚当時)とその金額(5年分)は、幹部では、安倍派座長の塩谷立・元文部科学相が234万円、「5人衆」といわれる松野博一官房長官が1051万円、高木毅国会対策委員長が1019万円、世耕弘成参院幹事長が1542万円、萩生田光一政調会長が数百万円(後に2728万円と本人発表)、西村康稔経済産業相が約100万円とされている。
その他、立件された大野泰正が約5000万円、疑惑発覚後に記者に「あんた馬鹿だね」と八つ当たりしていた谷川弥一が約4000万円、証拠隠滅の疑いで逮捕・勾留された池田佳隆が4826万円だ。こういう小物議員だけがアリバイ的に立件された。
キックバックだけでなく、ノルマ超過分をあらかじめ派閥内のグループでプールしたり、中抜きしていた議員も多数いたようで、中抜き総額は8000万円とされる。報道によると、安倍派事務総長でもあった下村博文元文科相が約500万円、丸川珠代元五輪相が約700万円を抜いていたという。もはや小汚い盗賊集団というほかない。
二階派でもパーティー券のノルマ超過分の収入2億6460万円(5年間)が裏金となり、そこから1億1622万円(同)が中抜きされていた。収支合計で3億8082万円が不記載だった。同じく岸田派でもパーティー収入の3059万円が裏金化していた。あれこれの手法で、派閥からの裏金を懐に入れていた自民党議員は、今回明らかになっただけで90人超ということだ。
現行法でも公民権停止が筋 「検察の正義」とは
A これだけ不正な金の横行が明らかになりながら、裏金を受け取った議員のうち立件されたのはたった3人。裏金発覚後、防衛副大臣を辞職した安倍派の宮沢博行衆院議員がカメラの前で「派閥から政治資金収支報告書に記載しなくてよいと指示があった」とのべ、議員らは異口同音に「派閥からの指示で政治資金として扱わなかった」と語っている。実際に銀行口座ではなく現金でやりとりしており、議員側の関連団体の収支報告書にも記載がなかったから「裏金」とされている。
これらの客観事実からみると、要するにこれらは政治団体への入金ではなく、派閥からの議員個人への寄付、もしくは議員個人への報酬(個人所得)と見なすほかない。
議員個人への寄付は、政治資金規正法上、政党からは禁じられていないが、派閥(政治団体)からは固く禁じられている。この場合、時効は3年と短いが、違反すれば1年以上の禁固または50万円以下の罰金。罰金刑以上の刑が確定すれば、公民権停止になる。
だが、検察はこの違法性では追及せず、あくまで「収支報告書の虚偽記載」の容疑で捜査した。ところが政治家には、資金管理団体のほかに政党支部、後援会などの政治団体等々いくつもの「財布」がある。1人で数十団体も持つ者もおり、それが許されている。元検事の弁護士らの指摘では、収支報告書の虚偽記載容疑で立件するためには、受けとった金がどの団体の収支報告書に記載されるべきものであったのかを、本人の自白などによって特定できなければ犯罪事実が成立しないという。本人がシラを切ればそれまでなのだ。
そもそも派閥から「収支報告書に記載しなくていい」という指示が出ていた金なのに、検察が「記載すべき政治資金」という扱いにしてわざわざ逃げ道を作ったとも見て取れる。
また、派閥からの寄付ではなく、何にでも自由に使える報酬として個人に配分されたものであれば個人所得であり、課税対象だ。所得隠しによる脱税容疑がかかる。数千万円もの所得を申告しなければ普通なら一発アウトで、税務署が飛んでくるレベルだ。これに関しても、検察が課税通報して国税なり税務署が動くという気配はまったくない。裏金が3000万円以上は犯罪(起訴相当)だが、1000万~2000万円なら犯罪にならないなら、今後は一般納税者も3000万円まで所得隠しが許されるということでならなければダブルスタンダードだ。
自分に不都合が及ぶと、すぐ制度の問題にすり替えるが、自分たちで決めたユルユルの現行制度ですら守っていないし、違反しても取り締まられない。国民をバカにするにもほどがある。
B この時期、一般国民は、事業者でもサラリーマンでも、確定申告のために1円単位で領収書を揃え、気の滅入るような作業をおこなって、法人税なり所得税を支払わなければいけない。少しでも申告漏れがあれば摘発される。数千万円規模なら即逮捕だ。
しかも、昨年10月のインボイス制度導入にあたっては、年間売上1000万円以下の零細事業者にも「免税措置は益税だ」「税の公平性」「会計処理の透明化が必要」などと難癖を付け、多くの反対の声を押し切って各事業者にインボイス登録を義務づけた。
ただでさえ30年続くデフレ不況のなかで、物価高であっても価格転嫁できず、身を削って商売している事業者も多いのに、煩雑な会計事務とともに消費税を上乗せされ、その負担に耐えきれずに廃業する事業者も少なくない。
その一方、「増税」を叫ぶ政治家どもは数千万円の所得隠しをしてもお咎めなし。追徴課税もなし。そのうえ、このような企業献金を禁止するために税金から支出されている政党交付金が、自民党には今年もきっちり160億5300万円あてがわれる。これで誰が納得するのか。自民党こそ最も規範意識、納税者意識が乏しい反社会的集団だったという話であり、これを誰も取り締まらないなら世も末だ。
検察の「お目こぼし」によって、逆に政治家の裏金作りはやりやすくなったといえる。落としどころを決めたうえでの司法取引以外の何ものでもなく、これが「検察の正義」だというのなら笑えない話だ。
死人に口なし、トカゲの尻尾切り
A 裏金キックバックのスキームを決めた派閥側についても、例によって3派閥とも会計責任者1人の略式起訴で終わった。派閥が集めた数億円にのぼる裏金の還流やその配分や手法について、政治家の関与もなく会計責任者だけで決めることなどあるわけがない。責任を背負って腹を切るような幹部は1人もおらず、チンピラ暴力団並みのトカゲの尻尾切りを見せた。こんな連中が「美しい国・日本をとり戻す!」「愛国心」「道徳教育」などと叫んでいるのだが、彼ら自身が体現した道徳とは「悪事を働いたらシラを切り、部下に責任を負わせてトンズラする」というものだった。
安倍派にいたっては、安倍晋三亡き後、派閥の主導権争いで譲らず、集団指導体制で「5人衆」などといわれて有力者ヅラしていたのが、裏金問題が浮き彫りになると、自身も裏金を受けとっているにもかかわらず、「私はまったく知りませんでした」を真顔でやり、あげくの果てには「(裏金キックバックは)会長マターだった」と口を揃え、派閥会長だった安倍晋三と細田博之が死んだのをもっけの幸いにして責任逃れに終始した。
あれほど神格化して国葬までやっておきながら、「裏金キックバックを指示した主謀者は誰か」と問われると、みんな黙って安倍晋三の墓を指さしているのだから、あのとき見せた涙は何だったのか? 「安倍先生、あなたの判断はいつも正しかった」などといっていたではないか?と唖然とする。最終的に安倍晋三を一番冒涜したのが、安倍派議員だったというオチだ。
清和会(安倍派)がもっとも裏金作りに精を出し、検察が捜索もどきをやったわけだが、大企業にたかっていただけでなく、いわゆる反共右巻き組織というか、統一教会をはじめとしたカルト、宗教団体等に金銭的にも支えられてなかったのか? 裏金の資金源にしていなかったか? という疑問もある。
C 安倍晋三が会長の時代には、2021年の「桜を見る会」の不正会計処理についての不起訴処分が検察審査会で不当とされ、再捜査となったため、防衛措置として裏金キックバックを一時廃止したといわれ、それが安倍亡き後にまた復活していることまで捜査ではっきりしているという。ならば歴代事務局総長なり幹部が立件されなければ筋が通らない。
B 結果から見て、安倍、細田が死去したタイミングで検察の捜査が動き出したことから考えると、「被疑者(安倍、細田)死亡により立証困難」という落としどころが初めから決まっていたのではないか? と思わざるを得ない。裏金捜査に動き出すタイミングなどいくらでもあったのだ。今になってこれだけ証拠が出てくるのなら、桜疑惑のときに検察は一体何を捜査していたのか? という話だ。なんらかの政治的作用で動いただけであり、検察とはそういうものだということを見せつける顛末となった。
道連れにされる日本社会 有権者の手で審判を
A これはあくまで「派閥」のパーティー券の話であって、実際には政治家個人がやる政治資金パーティーの方が多い。西村康稔に至っては、「西村やすとし茶話会」なるパーティーをでっち上げて、大口スポンサーに1枚2万円のパー券をまとめ売りし、実際にはホテルの会議室に経産省官僚10人程度を動員して架空パーティーを偽装していたという疑惑を『文春』が報じている。こういうものが溢れているし、捜査機関も野放しにしているのが実態なのだ。
B 山口県内でも、政治家のパーティー券は、公共事業や人事の「みかじめ料」として地元企業や自治体職員にも押し付けられることが古くからの慣習になっており、そこから政治家が中抜きしたり、私的に懐に入れていることが関係者の間で囁かれ久しい。行政関係者からも「そもそもが裏金づくりのツールであって、まともに会計処理できる代物ではない」とさえいわれる。金と人事にものをいわせた行政運営によって、体制や与党議員の意向に反した職員は冷や飯を喰らい、やる気のある有能な職員ほど除外され、地方政治や行政の質的な退廃をもたらし、結果として地方の衰退に拍車をかけているとの指摘だ。もっともだと思う。
A 政治資金パーティーが悪いとか、派閥が悪いとかに問題が逸らされるが、そもそも自民党の力の源泉は金であり、金によって飼われ、その金で築いた権力によって好き放題に支配してきたのが自民党だ。透明化や制度改革というが、抜け穴や裏口などいくらでもつくる。過半数の議席をもっている以上、自分たちが不利になる法制度など立法しないのだ。
要するに資本を握る一部にとって都合のよい政治を実行させるための代理人であって、かれらの要求に従って消費税は10%に上げ、大企業減税をやり、労働法制をかえて非正規労働者を溢れさせ、金と権力を握るものが好きなように私益を最大化できる社会構造にしてきた。
折も折、能登半島では大規模地震で数万人の被災者が、生死の境目で路頭に迷っている真っ最中だ。だが首相は2週間も現地視察すらせず、与野党で現地入り見合わせを取り決め、口を開ければ「低利子で上限20万円を貸付する」などと能天気なことをいって高をくくっていた。一方、裏金問題が自分の派閥からも暴かれると、即日派閥解散論を打ち出す初動の速さを見せ、その「岸田の乱」をめぐって自民党内を挙げて侃々諤々の大論議をやっている。その熱量がなぜ被災者支援に向けられないのか? 今、命の危険にある被災者そっちのけで「政治の信頼を取り戻す」などといっているから余計にみんな腹を立てている。
日本社会全体の利益など知ったことではないし、「今だけ、金だけ、自分だけ」で、国民の6・5人に1人が貧困であろうと、子育て世代が食べていけず少子化が進もうと二の次なのだ。このような社会に寄生して食い潰していくだけの連中を政治の場から退場させない以上、政治の腐敗は止まらないどころか、日本社会の衰退も止まらない。思い出したように「政治改革」などといっているが、泥棒が自分で自分を処罰するわけがない。捜査機関もこの体たらくなら、最後は有権者の手で審判を下す以外にない。