いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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失われた「非戦の国」を取り戻す一年に 沖縄国際大学教授・前泊博盛

 平和憲法9条に明記された「非武装・非戦の国」が、2022年12月に閣議決定ごときで決められた「安保関連三文書」で、もろくも崩壊されてしまいました。

 

 改憲なしで武装国家へ。そして敵基地攻撃も可能な好戦国家に容易く変貌させられてしまう。この国の戦後の民主主義も、立憲主義も、法治主義も、すべて「砂上の楼閣」、国民の「共同幻想」に過ぎなかったことが明らかになりました。

 

 根拠なき「43兆円」もの財源なき莫大な軍事費の支出、対米追従の2兆円もの莫大な米国製ミサイルや装備品の購入、前年比3倍増の8000億円超の弾薬製造と備蓄、南西諸島への自衛隊ミサイル基地の急造と部隊配備、住民が戦闘に巻き込まれることを前提とする「シェルター」建設予算の計上、民港湾、民空港など民間施設の軍事施設化など、「新たな戦争」に向けた準備が着々と進められています。

 

 その危険な動きに、在京メディアが拍車をかけています。中国脅威論を振りまきながら、自衛隊の基地建設や4万人規模の日米両軍による実戦を想定した巨大な軍事演習をつぶさに報道しています。「台湾有事」の勃発への期待感すら滲む報道のあり方に、恐怖を感じさせる。そんな昨年1年間でした。

 

 「平和も民主主義もメディアから腐る」との同志社大学の山谷清志教授の指摘を、何度も反芻しました。撤退を転進に、敗戦を終戦と言いかえる政府・大本営発表を垂れ流し、国民を戦争に駆り立てた戦前・戦中メディアの反省は、どこに消えたのでしょうか。

 

 世界に目を向けると、子供たちを虐殺する中東パレスチナ・ガザ地区でのイスラエル・ハマス戦争、ロシア人同士が殺戮を繰り返すロシア・ウクライナ侵略戦争など、残酷で残虐な救いようのない人類の愚かさに目を覆いたくなる状況が続いています。

 

 今年は、3月のロシア大統領選挙、11月には米国の大統領選挙が行われます。プーチン大統領は20年以上も大統領・首相の座にあり続ける異例の長期独裁政権を維持してきました。これが憲法を変えて、再再選を可能にしてきた結果です。今回も議会は、5期目の就任を目指すプーチン大統領を支持しています。こうなると今後さらに10年間、プーチン大統領がロシアを支配することになります。30年もの間、1人の人間に支配を委ねることの危険性は、クリミア半島併合に次ぐウクライナ侵略戦争をみればわかります。やりたいほうだいで、誰も歯止めをかけることができない。そんな危険な状況を、さらに10年間延長するようなことがあってはなりません。

 

 その点、アメリカの大統領は、3選禁止です。権不10年。10年で権力は腐敗する。だから10年以上は政権を同じ人に委ねてはいけない。日本でもルールを変えて10年以上も長期政権を独占した人がいましたが、その方はテロに倒れました。

 

 まともな政治家をしっかりと育てていかなければ、この国も同じような戦争国家になります。一党独裁的な現在の日本の政治態勢では、政権交代はおろか健全な民主主義の機能が発揮されず、党利党略・私利私欲の金まみれの腐敗政治がはびこる原因にもなっています。

 

 軍縮や核兵器廃絶を先頭に立って唱えるべき広島選出の国会議員が首相になって、異次元の軍拡を打ち出し、核兵器廃絶に後ろ向きな言動に終始する。人類の歴史上、初めて核兵器による大量虐殺の犠牲になった広島が、なぜそんな代表を選んだのか。不思議です。戦後の日本の平和は、まさに広島から壊れ、広島が日本の平和を破壊する皮肉な結果となっています。広島選出の首相に壊された「非戦の国・日本」を、どうやって取り戻していくか。

 

 外交力を高め、アジアの平和の盟主を目指す政治家を、いつ、どう国会に送り込めるか。政治資金や公共事業欲しさに政権に媚びる主権者たる国民の理念と哲学、意識の再構築を図る新年にしていきましょう。

 

1万人が集まり「沖縄を再び戦場にさせない」と声を上げた県民平和大集会(昨年11月23日、那覇市奥武山公園)

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 まえどまり・ひろもり 1960年宮古島生まれ。沖縄国際大学大学院教授(沖縄経済論、軍事経済論、日米安保論、地位協定論)。元琉球新報論説委員長。『沖縄と米軍基地』(角川新書)、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)、『沖縄が問う日本の安全保障』(岩波書店)など著書・共著書多数。

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