れいわ新選組の山本太郎参議院議員は6日、東日本大震災復興特別委員会で質問に立ち、岸田政府が8月から開始した福島第1原発のALPS処理水海洋放出の問題について質した。質疑では、今後数十年におよび海洋に放出される放射線核種の総量、またトリチウム以外の放射線核種とその人体や環境への影響をまったく考慮していない政府の海洋放出決定プロセスが暴露された。山本氏は、国際的にも被災地の将来にも多大な禍根を残す問題として警告し、議論のやり直しを求めた。質疑要旨を紹介する。(掲載図表は山本氏の提出資料から作成)
山本 大臣、ALPS処理水は「トリチウム水」と呼ばれることがあるが、これに違和感を感じるか、感じないか?
土屋復興大臣 ALPS処理水という理解なので、あまり感じない。
山本 これには違和感を持ってもらわなければ困る。トリチウムだけに問題を矮小化するのはまずい。説明する。福島第1原発では、毎日10万㍑ほどの新たな汚染水が生まれる。これまでのさまざまな汚染水がタンク保管されており、今年11月時点で約13億3000万㍑だ。
この汚染水には理論上210種類の放射性物質が含まれる可能性が想定される。実際にはすべて測っていないので理論上の想定だ。測定すらされない核種は100以上。測定しない理由は「微量だから」「影響が低いから」。
当初測定しなくてよいレベルとされていたカーボン(炭素)14はその後、想定よりも影響があることが判明した。このような事例から見ても、すべての核種を測定する努力が必要と考えるが、それはおこなわれない。
ALPS処理で濃度を減らせる核種は、セシウム、ストロンチウムを含む62種類。その濃度を減らし、基準値未満にするが、放射性物質そのものが消えてなくなるわけではない。一方、海洋放出前の測定は約30核種に限定。海洋放出されたのはトリチウムだけではない、さまざまな核種が混ざり合った汚染水だ。
海洋放出はセシウム換算でどれくらいになるか、計算しているか?
湯本原子力事故災害対処審議官 全期間を通じての計算はしていない。一回一回の放出については総量を公表している。
山本 全体でどれくらいの総量になるのかということを聞いている。それを計算してないのが日本政府だ。無茶苦茶だ。汚染を環境中に排出するさいの基準は原則的に濃度規制方式。つまり海・川に流すなら1㍑当りの濃度で規制する方式だ。汚染原因物質ごとに排出口での濃度について許容限度が決められる。しかし、これには問題がある。事業者がより多くの汚染原因物質を適法に放出したいと思えば、希釈すればいいとなる。
全体でどれくらいの汚染が環境中に放出されるかが把握できず、それによって過去にはさまざまな公害が生み出された。その反省から総量規制を導入。ちなみに総量規制の対象は、河川・湾など閉鎖水域であり、太平洋などの外海は対象外だ。よって東電原発事故による汚染の海洋放出は量的な規制はおこなわれていない。
東電原発事故前、放射性物質は大気汚染法、水質汚濁法による規制対象外だった。原発爆発後の改正を受けてもなお放射性物質はモニタリング対象となっているだけ。そのようなことから現在の汚染水の海洋放出は1㍑当りの濃度でのみ規制。それさえ守っていれば天井なしの排出が許される。これまで福島第1原発から垂れ流された、または放出する水の中には、工場集積地などから放出されるものとは比べられない人体環境影響を考慮すべき物質が大量に含まれる。総量を明らかにしたうえで、それぞれの汚染物質をどのくらい自然環境中に廃棄するか、将来的な環境や人体への負荷を長期的にどうコントロールするのかを、科学的にはもちろん倫理的観点からも熟慮し、世界的にもコンセンサスを得るべき案件だ。
しかし、そのような面倒をすっ飛ばしたのが現在の海洋放出、海洋投棄だ。大臣、被災地の100年後、1000年後を考えて、総量を把握する必要はあると思うか、思わないか?
土屋復興大臣 それは(原子力)規制委員会等で管理しているので、私ちょっと答えられない。
山本 答えられなかったら困る。復興大臣ではないか。どうして被災地に寄り添わないのか。被災地に将来的にどのような影響が出るのかということを先回りしてやっていかなければダメだ。それをやっていないのだから、「なされなければならない」というのが最適解ではないか。
半減期1570万年も ヨウ素129
山本 総量を考えず1㍑当りで「基準値未満だから大丈夫」という、その基準値とは「告示濃度比の総和」。平たくいえば、海洋放出するさい、1㍑中に含まれるさまざまな核種の合計(総和)で考え、それが「1」未満なら海に流せるルールだ。
セシウムの濃度限度は1㍑当り90ベクレル、でも実際はさまざまな核種が含まれているから1という枠を調整する方式【図①参照】だ。たとえば1㍑当りのセシウムが45ベクレルだった場合、セシウム濃度基準の半分だから0・5となる。セシウムだけで基準値1の半分が埋まったけど、残り0・5までは違う核種を流せるねといった具合だ。1を下回る水を流すから安全というのが政府の「基準値未満」の意味だ。この告示濃度限度比の総和は、人体影響を何年間考慮しているのか?
大島原子力規制庁原子力規制部長 ご指摘の告示濃度限度の総和は、原子炉等規制法に基づく線量告示に定められた放射性廃棄物を環境中へ放出する際の基準だ。具体的には、原子力規制委員会が放射線審議会の指針に示した式を用いて、人が生まれてから70歳になるまで告示濃度限度の放射性核種を毎日摂取し続けたときを仮定し、年平均線量が実効線量限度1㍉シーベルトに達する量として算出したものだ。
山本 告示濃度比の総和以外で、今の70年以外で、はっきりと年数を示して人体影響または環境影響を見積もったものがあるか?
大島部長 ない。
山本 汚染された水を毎日2㍑、生涯70年飲み続ける人なんていない。評価すべきは、長期の放出により、食物連鎖、生体濃縮、どのような影響があるかだ。それには何が必要か? それが総量だ。でも計算しない。スルーを決め込んでいる。
処理水の放出で1㍑当りの告示濃度比が最も高い核種ベスト3は?【図②参照】
湯本審議官 第3回放出にかかる告示濃度比の高かった3核種は、ヨウ素129、炭素14、セシウム137だ。
山本 海洋放出1㍑当りで最も比率が大きいものがヨウ素129。大臣、ヨウ素129の半減期はご存じか? 知っているか、知らないかで。
土屋復興大臣 存じていない。
山本 1570万年だ。大臣、この方【図③参照】をご存じか?
土屋復興大臣 われわれの祖先だ。
山本 そうだ。700万年前の人「サヘラントロプス・チャデンシス」。人間の祖先誕生から700万年。その倍以上の時間をかけて、ようやくヨウ素129の放射能が半分になる。今放出されているヨウ素129は、100年後も1万年後もくり返しくり返し何万、何億回も生物を被曝させ続ける。「仮に年0・1㍉シーベルトの被曝だとしても、年間被曝限度の1㍉シーベルトの10分の1じゃないか。問題ない」という人もいるだろうが、これが1570万回くり返されれば合計157万シーベルト。つまり1570シーベルトの被曝を起こす。1シーベルトといえば、放射線を引き起こすといわれるレベルだ。それを合計1500回以上引き起こすほどの汚染がもたらされる。薄めたからといってこんな物質を環境に流してはダメだ。
アメリカではネバダ州ユッカマウンテンの核廃棄物処理場計画の評価にさいして、当初一万年の期間で環境影響評価をおこなう基準が使われていた。しかし、全米科学アカデミーが長寿命核種の影響が1万年をこえることを指摘。この指摘が裁判でも考慮され、判決を受けて2008年には100万年の期間に及ぶ影響を評価する基準に改定された。
このネバダ州の基準改定は、半減期が約21万年のテクネチウム99などの影響を考慮するために改定された。
ヨウ素129の半減期(1570万年)は、テクネチウム99の約75倍。それに対してたった70年程度の影響評価で「基準値以下だから大丈夫」とごまかしているのは日本政府だ。いい加減にすべきだ。環境テロだ。もう犯罪だ。
欠測データで政策決定
山本 政府の海洋放出の根拠となったものは、ALPS小委員会報告書だ。この小委員会は2016年11月~2020年1月まで合計17回開催された。
報告書発表が2020年2月。政府が海洋放出を決定したのが21年4月だ。大臣、この政府の有識者会議(通称ALPS小委員会)の報告書から、資料の赤字部分だけ読んでほしい。
土屋復興大臣 では読む。「技術的には実績のある水蒸気放出及び海洋放出が現実的な選択肢である」。
山本 ALPS小委員会がいう「実績ある現実的選択肢」とは何か。報告書では、通常原発でトリチウムの海洋放出がおこなわれてきたという実績をのべたにすぎない。
処理水の放出で1㍑当り告示濃度比が最も高い核種のベスト3、その中のセシウム137は事故を起こしていない運転中の通常原発から排出されているか?
湯本審議官 (山本委員提出の)資料には、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素などは、「通常の原子力発電所では燃料棒の中にとどまっており、その排水からはほとんど検出されません」と書いてある。
山本 そうだ。今見ていただいたのは、環境省の資料(放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料、令和4年度版)だ。排出されていないということが書いてある。(処理水に含まれる核種ベスト3で)第2位の炭素14も、通常原発から排出されていない。トップのヨウ素129もだ。海洋放出決定の根拠であるALPS小委員会報告書は、あくまで「過去にトリチウムの海洋放出が通常原発でもおこなわれてきた」という実績についてのべたにすぎない。
通常原発からヨウ素129や炭素の海洋放出実績があるとはいっていないうえに、それらがどう環境に影響を与えるかということは議論されていない。だからこそ現在も「トリチウム水」「トリチウムは基準値以下でした」とかいう。これは印象操作でしかない。問題を矮小化し続けている。こんな汚いことをやってはいけないのではないか。
過去に遡ってALPS小委員会の議事録を確認すると、この程度(4回)しかヨウ素129の話題は上がっていない。だが、なんとALPS小委員会の中では話されていなかったことが、政府の海洋放出決定の根拠となる報告書が出された(1カ月も)後になって問題になっている。
それは原子力規制庁の検討会だ。全ベータと主要七核種の値が離れていて、捕捉できていないベータ核種があることが判明した。ここで(規制庁は)ずっと1人で測っていたという。そこで、人数を増やしたからっていう話をしている。この事態について、参加委員からものすごく批判を浴びている。これまでのデータは「真っ赤な嘘だった」ということではないかと。これまである意味で欠測だったということかと。
つまり、ALPS小委員会の中では、まともなデータを用いた議論はおこなわれていなかったと考えなければいけない。しかも長寿命核種の環境や人体への影響も考慮されていない。
大臣、ヨウ素129等の長寿命核種の影響について、内外の独立した立場の専門家を交え、百数万年を視野に入れた影響評価をやり直すべきではないか。本委員会としてもそれを政府にお願いしてもらいたい。
土屋復興大臣 この件に関しては規制委員会が対応しているので、規制委員会の方にお任せする。