自民党57→23の大惨敗
2日に投開票を迎えた東京都議選は安倍自民党が歴史的な大惨敗を喫し、次期衆院選に先駆けて有権者の怒りの世論を叩きつける結果となった。
自民党は改選前に57議席だったのから23議席へとガタ減りし、前代未聞ともいえる見事なまでの負けっぷりを披露した。選挙はあくまで東京都政のチェック機能たる都議会議員を選出するもので、国政選挙ではない。しかし、一昨年の安保関連法案や今年の共謀罪の強行採決、さらにモリ&カケ問題をはじめとした国有財産や国家そのものの私物化など、目に余る「安倍一強」体制の暴走に批判世論が強まるなかで、奢り高ぶった権力者に鉄槌を下し、にわかに登場した小池百合子率いる都民ファーストに持って行き場のない票が雪崩を打った。
自民党としては安倍体制を延命すればするほど傷口が広がる関係で、内閣総辞職なり首相辞任と引き替えに党の体面を保つか、なおも粘って安倍界隈もろとも滅びるかが問われている。内閣支持率の化けの皮が剥がされ、名実ともに安倍政府が泥船状態に陥っていることを選挙結果は示した。
次期衆院選影響は必至 奢れる者は久しからず
今回の都議選は、安倍政府による国有財産と公的権限の私物化への疑惑が深まる森友・加計学園問題にはフタをして、共謀罪法案の強行可決で幕を閉じた国会直後におこなわれた。有権者の関心は、豊洲問題やオリンピックなどの問題にとどまらず、衆・参両院で過半数を占め、「高支持率」というマスコミの世論調査にあぐらをかいて暴走を続けてきた自民党政府への審判が最大の争点となった。野党との泥仕合を演じて有権者を白けさせ、低投票率に持ち込み、組織票で逃げ切るという自民党の常套手段を覆すように、期日前投票者数は前回から45万7753人(約1・51倍)増え、投票率は51・27%と前回(43・5%)を大きく上回った。
選挙前の勢力(全126)は、自民党が57で第一党を握り、公明22、「日共」17、民進7、都民ファースト6、生活ネット3、維新1、無所属(都民)9、その他が4議席だった。今回の選挙結果は、定員127議席のうち、自民は23となり、選挙前から34議席減。第一党からは完全に陥落し、過去最低の38議席(昭和40年、平成21年)をさらに下回る結果となった。その受け皿となった都民ファーストが49と躍進する一方で、「日共」は19、民進は5となった。長年、自民党の牙城とされてきた7つの「1人区」は、島部を除いて全敗した。
いわば自民党に鉄槌を下す選挙になったことを示した。多くの有権者が相談したり示し合わせたわけでもないのに共通の投票行動をとったことは、ダムが決壊するように自民党を見限っていく流れが主流となったことをあらわした。有権者の怒りは、国会で「一強」といわれる体制を築き上げた安倍政府の振る舞いが直接に影響したといえる。
安倍昭恵が名誉校長に就き、大阪維新も絡んで国有財産を無償譲渡していた森友問題に始まり、「腹心の友」である加計学園への特例的な規制緩和を認めていた問題でも、疑惑が深まるたびに、「印象操作」「私を貶(おとし)めようとする誹謗中傷」と居直っていたのが安倍晋三だった。ところが内閣支持率は落ち込み、選挙戦になると、有権者からの風当たりを恐れて引きこもりを決め込んだ。応援演説に出てくるのは屋内での支持者の集まりだけで、街頭演説をしたのは投票日前日の1回だけ。前回(2013年)では20回以上やっていたのと比べ、口先の勇ましさとは反対に足が前に出なかった。支持者の集まりでも「印象操作のような質問があるとつい強い口調でいい返す私の姿勢に問題があった。反省しなければならない」と野党を揶揄する安倍首相の発言に、「印象操作ではないでしょう!」と野次が飛び、気色ばむ光景もみられた。
最初で最後の街頭演説となった1日の秋葉原駅前では、集まった聴衆から「安倍は辞めろ!」コールが鳴り止まず、「安倍やめろ」と大書された横断幕を掲げられるなど、この選挙を象徴するような出来事もあった。「安倍は辞めろ!」コールに反応した安倍首相は、「人の演説を邪魔するような行為を私たち自民党は絶対にしない! 憎悪からは何も生まれない! 誹謗中傷したって何も生まれない!」と激昂し、「新しい政党(都民ファーストの会)には、4年前は民主党や自民党だった人がたくさんいる。看板を書き換えても中身は変わらない。中身が変わっていたらそんな人は信用するわけにはいかない!」と支離滅裂な主張を展開した。ついには、「安倍辞めろ」コールをする群衆を指差して「こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない! 都政を任せるわけにはいかない!」と国会で野党を挑発するのと同じ調子でまくし立てた。だがそれが火に油を注ぎ、「安倍やめろ」コールはますます高まり、演説が終わるまでの15分間鳴り止まなかった。
また、選挙戦途上では、安倍「一強」体制のもとで不正も嘘も擁護され続けてきた自民党幹部が「応援」すればするほど、世論の怒りに火を付けて自爆するという現象が連続した。選対を指揮する自民党東京都連会長の下村博文元文科大臣が、加計学園から200万円のヤミ献金を受けていたことを『文春』が暴露し、下村は「パーティー券の購入代金を加計学園の秘書室長が集めて渡してくれたもの」であり、「加計学園からの献金ではない」と釈明したが、世論を納得させるものではなかった。
さらに、森友学園の顧問弁護士の経歴も、南スーダンの日報の存在も「ない」と虚偽答弁をしてきた稲田防衛大臣が自党候補の応援演説で「防衛省・自衛隊、防衛大臣としても(投票を)お願いしたい」と放言。「政治の中立性」で公務員の政治活動を処罰対象にしながら、防衛省トップが自衛隊を私物化する行為に批判が集まると、「誤解を与えた」といい訳をくり返したこともこれまでの「前科」と合わせて世論の怒りを集めた。
さらには、「魔の2回生」と呼ばれる若手議員の常軌を逸した破廉恥な実態も続続と続いた。務台俊介・元復興大臣政務官は、台風被害の視察にいった岩手で職員に自分を抱えさせて水たまりを渡り、「おかげで政府が長靴を整備するようになり、長靴業界は儲かった」と発言して辞任。不倫で辞職した宮崎謙介に続いてその妻である金子恵美は公用車で子どもの迎えに行っていたことが暴露された。さらに、秘書に暴言を吐いていたことが暴露された豊田真由子等等、政治権力の私物化が横行するなかで「安倍チルドレン」たちの度を超えた素行が暴露された。
選挙結果は都民ファーストが強かったといえるものではなく、自民党を徹底的に懲らしめろ!の世論が吹き荒れたことを示した。
都民ファーストについては、かつてのみんなの党や維新の会と同じように、自民党がダメになると必ずワンポイントリリーフをするように「自民党とは違う」雰囲気を装った政治グループが登場し、数年単位で目先をそらしていく役割を果たしてきたのと同類といえる。自民党都連との対決を劇場型でメディアがとりあげ、小池百合子を客寄せパンダにしてにわか仕立てで作り上げたものにほかならない。元民主党や安倍自民の末路を見切った自民党出身者、あるいは日本会議幹部などが入り込み、次なるトレンドへの投機的な野心の結合体ともいえる。これが潰れる自民党に成り代わって公明党と手を握り、都政を安定的に引き継いでいくことを経済界なり背後勢力が願望している。
自民党に鉄槌を下した力は、躍進した小池新党(都民ファースト)も縛る力となり、その動向には厳しい視線が向けられることになる。小池知事は、知事選では自民党に籍を入れたまま「反自民」を唱え、自民票と反自民票を両方集めて自分を勝たせるという芸当を演じ、その後も「二足のわらじ」をはき続けた。都議選直前に離党届を提出したのは、玉虫色の態度を許さないほど有権者の批判世論が厳しさを増していたこと、安倍自民への忖度が通用しなかったことを物語っている。選挙結果が示している本質は、小池新党の大勝ではなく、自民党の大敗北にほかならない。
対米従属構造のもとで政治の度外れた腐敗が進み、為政者が一握りの富裕層やお友達のために権力や金力を行使することを是とし、批判にまるで聞く耳がない姿をさらしてきた。国家の私物化が横行するなかで、社会的機能の再建と崩壊したモラルをとり戻し、まともな社会運営を求める有権者の思いが強まっていること、政治体制そのものへの問題意識が強まり、世論の地殻変動が始まっていることを示している。
自民党は選挙結果にうろたえながら「引き続き経済最優先で安倍首相のもと政権運営にあたる」としている。疫病神を担いだまま「安倍とともに去りぬ」で党を消滅させるのか、はたまた目先を変えて立て直しに動くのか、党存亡の危機を迎えているといえる。
こうなったら、思い上がったまま意地を貫いて次期衆院選を迎え、各選挙区で「辞めろ!」コールを浴びるなり、丁丁発止の喧嘩腰選挙に挑むなり好きにして、「幾千万といえどわれ行かん」の精神で、「三代目が自民党を潰す」を真顔で実行することが切望されている。