れいわ新選組・山本太郎代表は、12日の福岡を皮切りに、日本列島を北上しながら全国各地で「政治的のど自慢大会」と称して街宣やおしゃべり会をおこなっている。山本代表が全国を回りながら、来年春におこなわれる統一地方選挙に向けたれいわ新選組の本腰を入れたとりくみが各地で始まろうとしている。14日には山口県下関市の下関大丸前で街宣、海峡メッセ下関でおしゃべり会を実施し、来年2月におこなわれる下関市議選のれいわ新選組予定候補者として竹村かつし氏もマイクを握った。街宣やおしゃべり会では、25年の不況やコロナ、戦争の影響でますます深刻化する不景気に対する経済政策や、日本の外交問題、れいわ新選組としての地方組織の位置づけなどについての質問があがった。
来年春に控える統一地方選をたたかうにあたり、れいわ新選組としての考えや地方組織のあり方などをめぐって山本代表は「もともとれいわ新選組は地方組織を作らず、市民のみなさんが勝手連として動いていくという方針だった。そこには私たちの考え方もあったが、経済的な面でも地方組織化していく余裕がなかった。だが、私が東京都知事選に立候補したときから状況が変わってきた。代表自身が地方自治に対して立候補したのだから、その後も地方自治に対して候補者を出していく方向に転換していくべきだと考え方が変わっていった。東京都議選にも3人が立候補したが、1人も当選しなかった。国政選挙とは違い、地域に根ざして活動していかなければ当選は難しい。そこから、次の統一地方選でしっかりとりくんでいくことにした。その後、国会で議席が増え、最初の頃よりも経済的に力が付いてきて、統一地方選でも1億円をこえるお金を投資できるということで準備を進めている」と経緯を説明した。
そして、統一地方選に向けたたたかいについて「足腰を強くしていくのは今からだ。れいわ新選組として、これまでのような事実上の空中戦に近いたたかい方ではさすがにもう無理だ。地方に対してれいわ新選組組織を広げていくためには、ただ単に党がお金を出して部屋を借りて専従を置くというやり方では話にならない。まずはれいわ新選組を広めていきたいという下関の人々と一緒にたたかい、選挙で議席を獲得して地方組織を作っていく。れいわ新選組が頑張るのは当然だが、“れいわを使って世の中を変えていこう”という人たちのとりくみでもある。下関は来年2月、その他の地域の多くは4月に勝負がつく。支部ができ、みんなの意見を集約しながら拡大していくうえで、来年の統一地方選は非常に重要だ」と訴えた。
続いて、来年2月に投開票予定の下関市議選に、れいわ新選組から立候補を予定している竹村かつし氏が登壇し、「下関の街で一軒一軒家を回るなかで、“これからが勝負だ”“竹村頑張れ”といわれる。困っている人はこの街にたくさんいる。みんなこの街が大好きなのに、なんだか荒んでしまって胸が詰まり、いいたいこともいえない。私は昨年10月にれいわ新選組から衆議院選挙に立候補して大惨敗した。だがそこで諦められるわけがなかった。この街を変えたいと思って政治に目覚め活動してきた。地方自治体で野党議員をもっと増やさないといけない」とのべた。
また「年金を下げられて悔しい思いをしている人、生活保護をもうすぐ切られそうな人、どんどん切り捨てようとしている。介護保険も10月に変わる。1・1%を国からではなく、利用者さんからもらうことになる。制度をコロコロ変えて、書類を毎回書き換えさせられて、大変な思いをするのは働いている従業員だ。こんなに苦しい思いをして、もう我慢できない。変えるには今がチャンスだ」と呼びかけた。
山本代表は「私は下関には何度も来ている。ご飯を食べたり、ご挨拶に行った先で“昔は商店街では人と人の肩が触れあうほどの人出があった”という話をよく聞くが、まったく想像できないほど今は人がいない。私は決して下関の悪口をいっているのではなく、政治が反省すべきだといいたい。衰退させるようなことをやり続けてきた国の責任だ。しっかりと地方自治体にお金を回し、景気対策をして、都会に一極集中せず地方が少子化にならないような政策ができたはずだ。国を変えるには少し時間が必要だが、その前にあなたの街を守る気概を持った人をあなたの街の議会に送り込んでほしい」「先日、沖縄県の宜野湾市議会議員選挙で“プリティ宮城ちえ”が当選し、初めて選挙でれいわ新選組の地方議員が生まれた。国を変えるためには、その足下である地方自治体を変えていくことが重要だ。この先3年間は国政選挙がないが、ここ下関では2月に市議選があるので、投票率を上げてみんなで議会に送り込む人を吟味してほしい」と呼びかけた。
直撃する物価高 切実な経済対策の要求
街宣やおしゃべり会は、聴衆がマイクを握って直接問題意識をぶつけ、それに山本代表が答える対話形式でおこなわれた。とくに財政・経済面の課題や政策をめぐっていくつもの意見があがり、濃密な論議が交わされた。参加者と代表のやりとりの要旨を紹介する。
男性 下関市ではこの3年くらいで道路端や中央分離帯の草が生い茂っている。以前はこのような光景はなかったと思うが、政治の貧困の一つのあらわれだと思う。地方交付税が削られて自治体もそこまで手が回らないのだろう。下関に限ったことではなく、九州でも同じだ。外遊して海外に支援することもいいが、その前に自国でのお金の使い方を、もっと国民のためになるように考え直すべきだと思う。
山本 先進国が海外で必要な支援をおこなうことに異存はない。ただ、日本は現在先進国とは呼べない状況にまで陥っている。非正規労働者が四割、生活が苦しいという人は国民の53%、子持ち家庭では約6割だ。海外支援もいいが、国内をおろそかにするなという当たり前の話だ。
道路の雑草が増えたり、白線が消えかかったりという状況は非常に危険だ。全国を回るなかでとくにひどいと感じるのが大阪だ。道路だけでなく、結局社会保障などいろいろな「ムダ」とされるものから予算を切っていく一方で、みなさんの負担はどんどん増えている。
地方自治体は自分たちでお金を刷れない。日本円を増やすことができるのは政府だ。25年不況が続いているなかで、コロナ禍に加え戦争による物価高でみんなが大変な思いをしている。今年7月の総務省による消費者物価指数を見てみると、対前年比で食料4・4%増、電気19・6%増、都市ガス24・3%増、灯油19・6%増、ガソリン8・3%増、照明器具9・0%増、パン11・2%増、小麦粉16・8%増、食用油40・3%増など、さまざまなものが値上がりしている。
今の状況は政治家たちの責任であり、それは与党も野党も一緒だ。みなさんの給料は上がらず物価だけ上がれば苦しくなるのは当たり前だ。ならば物価を下げるしかない。そのためにもっとも効果があるのは消費税負担を減らすことだ。上がった物価を消費税減税で国が吸収すれば、みなさんの生活も、事業者の経営も助かる。今が緊急時だという意識が政治の中になく、秘策があるのにやらない。自己責任でいいという空気に支配されている。
このコロナ禍において100カ国近くが消費税を減税している。不景気のときに消費税を上げる国は世界中どこにもない。私たちれいわ新選組は消費税の廃止を訴えている。他の党と足並みを揃えて実現していくならば、まずは5%への減税も視野に入れている。先の国会では5%への減税を求める法案を提出した。
今の日本でも1年間の予算プラス100兆円レベルのお金を国は作ることができる。社会にお金が足りていないときにはお金を増やし、社会からお金があふれそうなときには間引くために徴税をする。こうやって社会のお金のバランスを管理するのが政府の仕事でもある。その仕事をちゃんとやらせようといっているのがれいわ新選組だ。
男性 今、円の価値が下がっており、これ以上円安が進めば海外から食料や燃料を輸入できなくなるのではないか。それでもまだ財政出動は必要なのか。日銀が続けているマイナス金利も限界だ。やめた方がいいのではないか。
山本 円安に対して不安に思っている人は多いと思う。国債発行でお金(円)の量を増やすことによって、さらに円安が進んでしまうことを懸念する人がいるかもしれない。だが、必ずしもそうなるとはいえない。
アメリカはコロナ禍の3年間で1070兆円以上、国が通貨を発行している。そうすれば当然、賃金も上昇する。最近のニュースで、アメリカではマクドナルドの賃金が時給2000円に届いたことも報じられた。今、アメリカでは賃金の上昇をともないながら社会にお金がしっかり回ってあふれそうな状態になっている。アメリカでは金利が上がる一方で、日本はずっと金利が低いまま推移している。この日米の金利の差が円安をあらわしているし、為替にも見てとれる。投資家なら価値の低い物よりも高い物を買う。価値の低い物は売り飛ばして価値の高い物を買う人が増える。つまり、それが円とドルの関係だ。円安が問題だと思うなら、日米の金利差を縮める施策が必要だ。
ただ、円安にはメリットとデメリットの両面がある。みなさん生活者にとってはデメリットだろう。一方、国内で生産をおこなう側にとってはメリットでもある。円安を利用して国内に生産拠点を回帰させることもできる。つまり、円安という状況を利用しつつ、円安によって悪い影響を受けている人たちに対しては消費税減税や現金給付などの手当をおこなう必要がある。これは円安と円高のどちらがいいかという幼稚な議論ではない。日本の企業が海外に出て行って景気が後退したのは円高の時期だった。円安と円高どちらにもメリットとデメリットがあるならば、現在の円安という局面で必要なことを考えなければならない。今必要なのは、物価上昇分を補うために生活者や事業者に対して国が大胆な投資をおこなうことだ。
マイナス金利についても、そこまで金利を下げないとお金を借りてもらえないような世の中を変えるために、まずは景気回復を進めるしかない。景気が良くなれば金利が上がったとしてもお金を借りる所は増える。今は土台が崩れている状態であり、その土台をまずは積極財政で立て直す政策が先決だ。それ以外に方法はない。
女性 最低賃金が上がって人件費が上がったため物価高になった一面もあると思う。しかし年金は上がっていない。貧富の差が広がった。
山本 たしかに最低賃金は上がったかもしれないが、10円や20円上がったところでなんにもならない。もっと大胆に上げる必要がある。ただ、「最低賃金を上げるので対応お願いします」というのでは中小事業者が困るだけだ。少なくとも賃金上昇分を国が補填することが必要だ。最低賃金を全国一律にすれば、大都会一極集中も軽減するはずだし、もう一度地方にしっかりとした経済圏をつくっていくための基礎ができる。今、日本は「3大都市圏」といわれているが、安全保障上の観点から見てもこれを全国に分散させていくことが絶対に必要だ。「東京でなければ動かせない」という国ではだめだ。
一方で、年金を減らしたり生活保護の基準を下げることは絶対にしてはいけない。お金がない人ほど入ってきたお金は右から左に流れていく。社会にお金を回すには、当然年金も上げなければならない。それ以外の「中流」といわれる人たちにも現金給付や消費税減税という形で消費への負担を減らす必要がある。
緊張高まる米中関係 対立激化させぬ外交を
男性 不景気や戦争などによって、社会不安に陥っていると思う。ウクライナ戦争が現実に起きて「日本はこれからどうなるのか」と不安に感じている人は多い。日本とアメリカが結託して中国と戦争をしていくことに繋がるような動きもある。社会不安を利用していく勢力についてどう思うか。
山本 ウクライナの状況を見ていてわかるのは、核を持っている国に対してはどの国も対峙しないということだ。アメリカもロシアに対して威勢の良いことをいうが、米軍は決して主体的にウクライナの土地に足を踏み入れない。そして武器を供与し、より戦争が長引き、軍需産業も特需を迎えている。
日本もウクライナと同様のケースが当てはまる。最悪なのはアメリカと中国の緊張が高まって日本が間に挟まれるということだ。中国も核を持っており、日本を守るためにアメリカが中国に直接攻撃することは考えにくい。そんななかで、日本の「タカ派」と呼ばれる人たちは「台湾有事は日本の有事だ」などというが、そんなことは絶対にいってはだめだ。
米中の衝突をめぐって様々なシミュレーションがおこなわれているが、結果はほとんど米国が負けている。2020年に米空軍がおこなった台湾有事をめぐるシミュレーションでは、中国軍が台湾を占領するには至らなかったが、その戦場には自衛隊の航空部隊や艦船が先頭に立って向かっている。米軍側もたくさんの機材が破壊され死傷者も出て、「これは勝利といえない」という状況だった。
つまり米中の緊張の間に日本が足を踏み入れてはいけないし、この件に関してはアメリカ側に与してはいけない。むしろアメリカに対して「アジアに迷惑をかけないでくれ」といわなければならない立場だ。
ASEANの国々も「アメリカと中国どちらかを選ばせるようなことはやめてくれ」ということをいっている。これこそが「外交」だ。米中の緊張が高まって戦争になっても誰も得をしない。とくに被害が大きいのが日本だ。好戦的な態度をとり、防衛を強化して敵基地攻撃能力を持つようなことをしていては、さらに緊張が高まるし軍拡競争にしかならない。
中国は世界トップクラスの経済力がある。一方日本は三流国家に転落しかけているような衰退国家だ。そんな国がハリボテだけの防衛を強化しても脅威にならない。東アジアの緊張に対する軍拡は大した抑止力にならない。もしも日本に核があったとしても中国の国土、軍事力に対抗できるか? 日本は東京1カ所やられたら国が止まる。
本当の強さは経済力だ。「ジャパンアズナンバーワン」といわれ、世界のトップ企業の多くを日本企業が占めるほど徹底的な経済力で世界を凌駕し席巻してきたのが日本だ。それだけのポテンシャルがあるなら、人々のための政治とセットで経済成長していける方法を追求していった方がよっぽど強い国になるはずだ。「経済を基礎とした安全保障」を進めていかなければならない。
ウクライナ戦争をめぐっては、戦争を仕掛けた側のロシアを批判しながら、必要な天然ガスはもらわないといけない。それくらいバランスをとった外交が必要だ。世界の国々と一緒にロシアを追い込むようなことをしていては、ウクライナの次のラウンドが日本対ロシアになる。中国・ロシア・北朝鮮というグループと、日本・韓国・アメリカというグループによる対峙において、一番損をするのは日本だ。そうならないためにもバランスをとって渡り歩いていかなければならない。
日本は昔に大きな戦争をおこなった過去があり、本来なら「私たちには憲法があるから、あなたたちの争いに足を踏み入れて戦争することはできない」と主張することができる立場だった。しかし、お断りできる理由があったのにそれを集団的自衛権でわざわざ参戦できるようにしている。
国のコロナ対策 自己責任対応の転換を
女性 8月初旬にコロナに夫婦で感染した。下関市では食料支援は一切なく、そのまま10日間自宅療養だった。夫がリウマチを持っているため、私は病院かホテル療養を希望したが、そっけなく断られた。私も咳ぜんそくを持っており、倦怠感や疲労があるなかで、必死で夫の介助をしながら10日間が過ぎた。国民の16%くらいがコロナに感染しているといわれるなかで、もっと支援を拡充することはできないのか。
山本 コロナに感染しても、食料支援がないまま「自分で調達してください」というのでは、感染症を広げることになる。医療が崩壊している状況のなかで「自己責任でよろしく」というような放置状況がスタンダードになっている。国の施策が十分でない。一方で、下関市でも使えるお金はあるはずだ。コロナに対して国がそれぞれの自治体に使えるお金を準備しているし、食料支援も本来は使えるはずなのになかったのは不思議だ。感染症にかかってできる限り他人との接触を避けなければいけないときに、家に隔離できない状況は非常にマズい。国の手当が足りていないし、感染症に対するそもそもの考え方も間違い続けていることについて、国会に身を置く者として申し訳ない思いだ。
感染症はコロナだけで終わらず、今後も出てくるだろう。徹底的な検査をして全人口のうちの一握りの感染者をしっかりと保護・捕捉し、それ以外は通常の社会生活を営むことができるようにしなければならない。
男性 野党はみんなバラバラで、どうしても選挙で勝てない。今後の野党の連携についてどう思っているか。
山本 小選挙区では基本的に1人しか当選しないことを考えると、野党が塊になって全国で一騎打ちという状況を作っていくのは大前提だ。しかし選挙が近づいた時点で野党連携しても正直どうにもならない。一番わかりやすい例が2021年10月の衆議院選挙だ。れいわ新選組は3議席を得て躍進となったが、少し増えたところで社会は大きく変わらない。
また、野党が塊になったところで勝てるわけではない。現時点では野党側に「政権をとったときに自分たちがどうするか」というものがまったく見えないからだ。これでは頼ろうと思えない。有権者はちゃんと見ている。
一番の中心政策を何にするかがもっとも重要だ。有権者が選挙で重視する政策は何か。先の衆議院選では「景気・雇用対策」への関心が全体でもっとも多い25%を占めていた。つまりは経済。目の前の生活が一番大事だ。一方、原発や教育、憲法改正などはすべて、わずか六%の「その他」に含まれている。もっとも重視すべき政策はやはり経済政策だ。
これまでの野党に比べ、自民党の方が経済政策をうち出してお金を回すことを約束してきたから支持が繋がった。実際に大学の先生たちも民主党政権時代よりも自民党政権で雇用が増えたと話していた。当時の学生世代や親、教員も違いを感じている。「自民党だから」「安倍政権だから」ではなく、良かった部分も見なければならない。そして野党側に足りない「経済」の部分を見つめ直さなければならない。25年の不況は自民党だけの責任ではなく、野党側も経済に弱かったからこうした状況になっている。
野党側が信頼を得るためには、25年の不況やコロナ、戦争による物価高という三重苦に対する底上げ策を出し、徹底的に訴えていかなければならない。それは、野党の人気を得るために必要だからではなく、この国に生きる人々のために必要だからだ。